金融論 教室 2021年 説明ノート 

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                                  更新日 2021年12月6日

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1回目 2021913

はじめに

 本教室の目的は、『金融論2021年テキスト』の補足説明です。2020年度前半の資産形成論教室において、「今週のイベントと市場への影響度」を予想するとき、経済学の知識がある方が、イベントの方向性を間違えにくい。特に、開放マクロ経済モデルの短期・中期変動経路は、理論的推論ができる方が、大筋を読み間違えなくてよい。
 2019年から、開放マクロ経済モデルの短期・中期モデルは、マンデル=フレミング・EX線形システムを基礎に置いています。長期モデルは、MFEX対数連続システムを提案しています。前者は、通常の計量経済学の手法で3年予想を目指しています。後者は、連続システムの推計であり、研究中です。

 次の各章を15回で補足説明をします。
目次の内、2.家計の金融行動、7.金融市場と利子率決定、8.金融派生商品市場は、『資産形成論』の内容とダブっています。

『金融論2021年テキスト』宇空和研究所20219

             目次

     3.企業の金融行動
    4.金融機関の行動
    5.日本銀行と金融政策
    6.政府の活動と財政政策
    9.マクロ貨幣経済モデルと経済政策
    10.開放マクロ経済モデルと経済政策

『金融論2021年テキスト』は、特に、2章について、2021年度『資産形成論』説明ノート、10章について、2020年金融論説明ノートの結果を反映しています。

 私の理論的立場は、追手門学院大学在職中から、スタッフで同じ立場を共有しにくいので、海外の論者の研究を勉強しつつ、自問自答し、『金融論』を毎年、研究した結果を反映し、改訂してきました。研究所を開設しても、その研究仕法は変わりありません。すなわち、モデルを論証するか、数理的なモデルを仮定し、数学的方法で均衡値を求めるか、経路を決定するか、それらのモデルを時系列データで、統計学的、計量経済学的方法で、推定するかです。
 私の学生・院生時代は世界イデオロギ―戦争の最中でした。神戸大学経済学部を選んだのは、マルクス経済学が主流でない大学だと立命館大学の学生たちが言っていたからです。入学し、大学紛争時代に入りました。大学の教学は一時、機能停止になり、自学自習が2年、続きました。紛争学生による大学封鎖が解除され、教学が開始されましたが、どこの大学でも教官、教員と学生の意識の断絶は大きなものがありました。自学自習の時代、マルクス、エンゲルス、ゲバラ選集、マルクス経済学を読みましたが、紛争学生ほど、共感、感化される思想ではなかった。それは、私が、高校時代、明治・大正・昭和文学全集を読み、古典文学を読み、特に、世界史を熱心に、教科書以外の通史を図書館で借り出して、東洋と西洋で発展を分けて、勉強していたせいです。入試に必要とされる以上の知識を貯め込み、諸文明の発生から変遷を記憶しました。
 日本の私小説は、体験文学です。特に、昭和時代は、敗戦までの、共産主義・社会主義の信奉者の私小説をかいていました。倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』1969年辺りで、日本文学は、私小説から離脱し出したので、面白くなく、卒業しました。
 紛争時代は、大学は封鎖中で、世界文学、世界思想の本を丹念に読んでいきました。紛争時代、料理旅館で、アルバイトをしていましたが、年配の板長さんが、京都の紛争学生と機動隊、セクト同士が、ヘルメット、角材でデモ、衝突をして、市民生活に影響を与えていたのをみて、『学生君、あの運動をしない方がいい』と言いました。51日のメーデーが京都市内で、盛大に、行列が旗をもって、行進していた時代です。労働者、既成革新政党は、醒めた目でみていました。
 学生時代は、イデオロギーや政治は、マルクス経済学で取り扱う政治経済学であり、経済学が、1900年から、推進して来た研究仕法では、取り扱うことはできないと考えていました。また、シベリア鉄道、ヨーロッパ鉄道で、ナホトカからベネチアまで、ユーラシア大陸を往復し、東西の各国民の実情を見聞して、イデオロギー戦争の負荷は、東側の方が大きく、消費財の慢性的な不足があると思いました。私は、東側と同じ、食うや食わずで、暮らしていたので、東側と違和感は全くありませんでした。シベリア鉄道の食事も、立命館大学や同志社大学の学食のようなもので、京都市内で、質素、倹約生活に慣れていました。資本主義経済下の日本で、私の贅沢は、本ばっかり、毎月、あれこれ、古本屋、書店、ときに、丸善で買って読んでいました。
 大学院に入り、林治一教授のゼミで、ArrowHahnを研究する先輩がいて、Debreuの“Theory of Value”を図書館で見つけ、だれかの書き込みがあるので(斎藤光雄教授にその書評があるので、斎藤先生かなと思いましたが)、コピーして、読みました。また、丸谷助教授の講義で、ArrowSocial Choice and Individual Values”を知り、購入し、読みました。
 当時、政治学を数理的に取り扱う立場があり、もともと、資本主義経済には、民主主義の決定方式の一つである、満場一致原則があります。1985年、政治的決定に際して、この満場一致原則を取れば、租税を負担しつつ、相手のことを思いやる主観的集団効用を最大化して、公共サービスを決定できるという理論を考えました。経済は、個人的価値観で、財サービスの最大効用が得られ、政治は、集団的価値観で、公共サービスの最大効用が得られるということです。これは、1981年から、私が東西問題で行動を開始した、キリスト教の個人的愛と普遍的愛の関係が大きく影響していると思います。ともに、愛は同じ源泉です。学生時代のキルケゴール、オルテガが影響しているかもしれません。EUが誕生してからは、政治的決定は、スイスの直接民主主義を想定すると、満場一致で、一意的にできると考えて、1995年以来、公共サービス決定、経済統合の論文を書いてきました。
 経済学の立場は、大学・大学院時代で、数学、確率論、確率微分方程式、常微分方程式、数理統計学、計量経済学、数理経済学、数理計画法を学び、最適投資決定、分布ラグモデルの推定量の論文を書き、神戸大学の計算センターで日本の投資関数の推定を開始、19801月、2変数von Neumann-Morgenstern の英文論文を六高台論集に載せ、多変数の論文をJETに投稿、198012月査読後、採用されました。
 19814月就職後は、異時間一時的一般均衡論を確率微分方程式で、確率動学化するつもりでした。要するに、Hicks, Value and Capital, p126, an Economics of Risk on beyond the Dynamic Economics’を具体化することをめざしてきたわけです。1986年、西ドイツ、ビーレフェルト大学数理経済学研究所で、研究する機会を与えられ、ヨーロッパの数理経済学の文献を調べ、多期間一時的一般均衡論に、確率分布の価格予想を導入し、市場均衡の存在を示すところまで、モデルを表現することができました。同研究所のRosenmueller教授の移転可能効用から、貨幣を資産でとらえれば、貨幣を移転可能効用で評価、和に分離できることを知りました。20183月、Hicksの目標にたどり着いた著書を発行し、同時に、公私混合経済の一般均衡理論を論文に書いて、追手門学院大学経済学部を退職しました。

2021年度前半に引き続き、「今週のイベントと市場への影響度」を予想したいと考えています。

今週(2021913日~917)のイベントと市場への影響度

 今週のイベントは、日本の政界は、17日自民党総裁選挙が告示され、29日新総裁が選出されます。14日国連総会が開幕、16日から17日まで、ドシャマンべで上海協力機構の首脳会議が開かれます。
 経済統計は、次の発表があります。
                  予想値
14日 米8月消費者物価指数      5.3
15日 中8月社会消費商品小売総額   7
16日 日貿易収支         -527億円
    8月米小売売上高     -0.8


2回目 2021920

3章 企業の金融行動
ポイント
・企業の短期資金需要は、取引需要で決まる。
・長期資金需要は投資需要によって、決まる。
2つの投資決定論を理解する。

 企業の生産活動を、図式化すると以下の表になる。企業の生産活動は、生産要素(労働)を購入し、生産物を生産し、販売する。左下の流れは、企業の労働需要量を決める。右下は、企業経営者の立場から、貨幣で評価した利潤=収益-費用を最適化して、供給量を決める。結果は同じであるが、後者は、損益分岐点と休業するかどうかの操業停止点を決めることができる。

3.2
 短期の生産活動と資金需要

 短期は四半期の3ヵ月以内が実務的な期間である。会計学、金融論では、1年未満である。短期を3カ月以内とすると、企業が生産活動をすれば、労働者への賃金、調達した原材料の費用、光熱費、水道、ガソリン等の経費費用を1カ月以内で支払う。企業は取引銀行と当座預金契約を交わしているので、当座預金口座を通じて、当事者間で決められた日に、決済される。銀行は当座残高が不足する場合に備えて、当座貸越を企業と契約している。
 企業間信用の買掛金、売掛金は、現金で回収する場合もあるが、当座預金によって決済する。2000年までの金融危機で、以降、日本では、約束手形は、企業間で振り出す場合が少なくなった。コマーシャルペイパーCPは、大企業で主に発行される約束手形である。中小企業では、銀行の貸付が手形貸付で短期間融資される。
 このように、企業の生産活動では、間接金融の銀行を通じて、費用の支払いと売上の受取りを、当座預金から、主に、行っている。短期の借入は、手形貸付により、元金と利息を分割して、毎月元金と利息を返済する。たとえば、10月末満期、11月末満期、12月末満期の銀行宛支払手形で返済する。期間が長いほど、利息が増える仕組みである。
 一方、設備投資の借入金は、元金と利息を分割して返済する場合と、利息を定期的に支払い、満期に元金を一括して支払う場合がある。後者は、事業債の償還方法と同じである。投資期間が1年以上ある場合は、操業して収益で返済するのが遅れるので、銀行側も返済可能か審査して、融資する。大企業であれば、1年以上の資金調達方法は、銀行の借入金以外、事業債の発行、増資による調達方法の選択肢が増える。
 銀行に短期融資を申し込む場合、書類審査がある。企業は、1ヵ月の原価計算によって、材料費、労務費、経費の出金の実績と借入期間の予定表、収益の実績と借入期間の収益予定表で、日々の資金繰り表が計算する。資金不足は、特定の期日に、発生する。予定外の資金不足は、当座貸越で対応できる。銀行は当座貸越に担保を取っているから、当座預金不足は、担保価値額の換金可能値が限界である。追加の担保を必要としなければ、書類審査で融資が承認される。
 コロナ不況では、特に、飲食店や芸能等サービス業は、休業状態に追い込まれている。コロナ以前、有名な芸能関係企業では、興行収入が消失している。芸能プロダクションに所属する演者は、長引く緊急事態宣言で、収入がなくなり、生活が困窮している。零細企業では、休業は、公共料金の基本料金、銀行の借入金返済、担保の家賃等の固定費が、資金不足になる。政府金融機関、自治体では、緊急事態宣言下、営業時間の短縮を要請した場合、固定費を補てんしてくれる。銀行は、貸付金の利息を政府から補てん、貸付金返済猶予によって、休業期間中、固定費を補てんしてくれる仕組みをとっている。
 行政命令が解除された場合、営業に入るので、材料費、労務費、経費、販売費等の可変費が営業再開に必要になる。ただし、現在、人出は回復していないし、売上、半減以下の中、コロナ対応改装、マスク、消毒液等の衛生経費がかかるので、銀行に融資を申し込んでいるだろう。
 このように、短期では、企業は、支払いと受け取りの差額を現金か当座預金で準備しなければならない。短期資金管理は、資金繰りと呼ばれ、当座預金に、いくら準備すれば、費用を最小に出来るかという、現金残高モデルがある。テキストに、その公式を導いている。問題32から、企業の短期資金需要関数は、C2bT iである。

3.3 投資の決定

 生産物市場で、生産物価格が上昇すれば、企業は、設備稼働に余力をもっているから、製品在庫を増加させて対応する。これを在庫投資という。消費税が上がるとき、消費者が買いだめするのに対応する場合が在庫投資である。
 この最適在庫投資理論は、3.2節の公式C2bT iを使う。見積在庫量T、倉庫・管理費用b、経過利子iとする。
 生産物価格が継続して上昇する見込みがあれば、企業は固定設備を増強するために、投資をする。固定設備は耐用年数が来ると、陳腐化するが、減価償却費を積立てているから、その資金で固定設備を買い替えることができる。これを置換投資という。総投資は、純投資+置換投資からなる。ただし、企業規模が小さいほど、固定設備の減価償却期間は税法上、機械的に決まっているが、実際は、使用頻度が少なければ、期間を延長して使用している。しかし、延長した場合、商品の販売から、その設備の減価償却費は回収できないし、税法上償却が完了しているため、税法上の費用控除はなく、残存価値が未処分の状態になっている。
 新設備にすると、技術進歩が導入されていることが多いから、旧設備よりは、生産高は上がり、労務費、動力費等経費は減少する。つまり、図3. 4のように、生産関数の形状が変わり、生産曲線が上にシフトする。
 経済学で投資決定を考えるとき、投資は純投資をいう。投資決定論は、企業価値を最大にする設備量(台数)または稼働時間を求める。問題3. 3(テキスト40ページ)がその例である。生産関数は、機械設備に、材料(㎏、kl)、労働(労働時間)、動力(kw)を投入すると、製品がその工場で最も効率よく生産される量を対応させた物量的関係式である。次期の製品価格が上昇し、賃金率、レンタル率をそのままにして(所与)、次期の利潤を計算し、市場利子率で割り引いて、企業総価値を定義する。耐用年数までで、計算できるし、賃金率、レンタル率も変えることができる。
 問題を解くと、最適資本量K1*が求められ、現在の固定資本量K0と差K1*K0が正であれば、投資IK1*K0をする。例題32において、生産関数をコブ・ダグラスにすると、K1*=αp1Y1r1 となる。投資関数Iは、IK1*K0(αp1Y1r1)K0となる。
 企業は、この投資を投資財産業に発注する。その代金は、今期支払われる。その資金を、株式の増資または自己資金で資金調達する場合と、銀行からの借り入れや債券発行では、前者は返済しなくてよいが、後者は返済しなければならないが、投資前の企業総価値V0と投資後の企業総価値V1V1uIV0の関係にあれば、投資額は返済できると債権者から判断される。
 企業の自己資本と他人資本の構成は、企業設立からのいきさつの歴史を表している。それは、表343 企業の継続性と資金の源泉にある。
 企業は、大企業ほど、償却に510年かかる設備投資をする際、資金調達方法が多様化でき、資本コストが低下する。資本構成は、資金調達するとき、資本コストが最小となる最適構成があるとする理論と、資本構成と資本コストは無関係であるとする理論がある。表343から,一般的に、企業は、資金調達の履歴から、資本構成が決まっており、資本コストが大きい銀行融資に依存し、大企業になるにつれて、債券、増資の選択ができる王になるので、資本コストは低下する。大企業は、株主に、配当するが、株主が要求する配当と留保を決める配当政策を実施する。日本では、2000年以降、大銀行の再編、中小零細銀行の再編があり、つまり、提携・吸収・合併があって、より規模が大きくなり、銀行との顧客関係が、過去の履歴と関係なく、温情融資がなくなって、ドライに返済を迫られることを経験した。再編銀行は、もとの銀行と融資企業の債務履歴の経緯を知らないから、新基準にもとづき、貸し渋り、貸しはがしを迫るので、怖いと認識したようだ。中小企業は、データで表面化しているように、自己資本比率を上昇させ、間接金融に頼らず、その高資本コストを低下させる傾向が進展している。
 利害関係者から見ると、株主、投資家、銀行は、企業が開示する投資計画を精査して、実現可能であれば、投資、融資を実行する。通常、企業が開示する投資計画を精査する能力は、企業の利害関係者間で差がある。
 不確実性下の投資決定は、問題3.3の所与の価格p1r1、利子率iが確率変数である。この問題は、テキストでは取り上げていないが、新古典派のアプローチでは、定式化できる。さらに、企業総価値Vは、離散期間で定義すると、VV0V1iであるが、連続モデルではVV0+∫V1itdψ(p1r1)dtとなる。

今週(2021920日~924)のイベントと市場への影響度
 先週は、日本の政界は、17日自民党総裁選挙が告示され、4名の候補者が立候補を表明しました。14日国連総会が開幕、アフガニスタン情勢、気候変動、ワクチンの分配が議論される見通しです。16日から17日まで、ドシャマンべで上海協力機構の首脳会議が開かれ、新安保同盟AKUSの発足とイランの加盟手続きがはじまることが決まりました。
 経済統計は、次の発表がありました。
                 予想値      実現値
14日 米8月消費者物価指数     5.3%       5.3
15日 中8月社会消費商品小売総額  7%        2.5
      鉱工業生産       5.8%       5.3
16日 日貿易収支         29億円     -6,354億円
    8月米小売売上高     -0.7%       0.7
 今週は、19日ロシア下院選投開票が行われました。与党が過半数300議席を確保した模様です。21日日銀政策委・臨時金融政策決定会合が22日まで開かれます。中小企業の資金繰りが、緊急事態宣言の延長で悪化しているのを受けて、新たな資金繰り制度を発表すると言われています。国交省の2021年基準地価が公表されます。米連邦公開市場委員会が22日まで開かれます。14日発表の米8CPI5.3%上昇で、一時的と認識しているが、911月で、CPIが毎月2%を越えて推移すれば、11月の委員会で、資産購入のペースを縮小すると予想されています。
 経済統計は、次の発表があります。

                                                     予想値     実現値
21日 日8月の全国コンビニエンスストア売上高  ―
   米経常収支               -1,910USD
24日 日8月の全国消費者物価指数            -0.3
    8月全国スーパー売上高         ―
    8月の全国百貨店売上高         ―


3回目 2020927

34 モジリアーニ=ミラー理論

3.4.1 伝統的財務理論とM=M理論

 貸借対照表勘定で、右側(貸方)の負債(他人資本)および純資産(自己資本)を企業総価値といい、他人資本比率または自己資本比率を資本構成という。伝統的財務理論とは、企業には、固有の資本構成があることを主張する。企業は、資本構成にしたがい、他人資本の債権者と自己資本の所有者である株主に対して、資本コストである利息と配当をそれぞれ毎期支払う。支払利息は確定しているが、配当は、当期の利潤から支払われるから、不確実であり確率変数である。
 企業には、資本コストを最小にする資本構成があると主張するのが、伝統的財務理論である。同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益は同じであるから、金融市場が効率的であれば、資本構成は、企業価値に影響をされないとするのが、モジリアーニ=ミラー理論(M=M理論)である。

 伝統理論を紹介する。
 企業総価値Vは負債Dおよび株式価値Sからなる。負債コストrは負債比率DVの増加関数r(DV)である。自己資本コストρは負債比率DVの増加関数ρ(DV)である。平均資本コストreは、両者の加重平均reD r(DV)(1D r(DV))である。
                            V       V
35のように、負債比率が増加すると、平均資本コストreは、低下し、やがて、上昇するので、その底が、最適資本構成である。
 モジリアーニ=ミラーは「負債コストの利子率は貸付資金市場および債券市場で決まり、負債比率に依存しない。自己資本コストの株式収益率は、株式市場で決まる。平均資本コストは、reD r(1D )ρとなる。」と主張する。re VrD+ρS
                      V     V
同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益Xは同じであるから、XrD+ρS 。ゆえに、re VXとなり、平均資本コストは、資本構成に依存しない。

3.4.2 金融市場におけるM=M理論
 モジリアーニ=ミラーは、企業総価値は金融市場によって評価されるとして、企業が同じリスク・クラスにあり、期待収益が同じであれば、企業総価値は、資本構成に依存しない(命題Ⅰ)ことを理論的に証明した。企業が投資して、資金調達方法を、自己資金、借入金、社債および増資の形をとっても、同じ期待収益をあげるので、資本構成の変化に依存しない(命題Ⅲ)。
 経営者の行動、投資家の行動を仮定し、金融市場、とくに、貸付資金市場、債券市場および株式市場は、完全競争を仮定している。テキストでは、命題I、命題Ⅱおよび命題Ⅲを取り上げている。証明は、命題I、命題Ⅱをのせている。論法は、
「2企業が同じリスク・クラスにあり、資産構成が異なるとする。期待収益が同じであれば、投資家の投資収益は同じである。資本構成の違いで、企業総価値の違いを仮定する。企業総価値の低い企業に、ポートフォリオ(混合投資)を組んで、株式市場おいて、高い企業総価値の企業の株式を売却し、低い企業の株式を購入する。裁定取引の結果は、企業総価値は同じになる。」
 投資家が、価格形成の関与ができる株式市場を、同じリスク・クラスにたいして、裁定取引に使用している。この論法は、ブラック・ショールズのオプション理論(1973)においても、金融市場に同様な仮定と、2市場の資産のポートフォリを作成し、裁定取引の市場メカニズムをオプション価格形成に取り入れている。金融市場の価格形成は、所与としている。
株式市場価格理論の未発達について
 金融市場の価格、債券価格、株式価格、それらの先物価格は、当時の経済学では、金融市場均衡の存在は証明できなかったためでもあるし、期待形成をもつ投資家が、株式市場において、株式を交換する理論はなかった。ただし、資産市場のマクロ一般均衡論は、トービンTobin1969)に枠組みがある。
 ヒックスHicks1939)の著作に、『価値と資本』があるが、ミクロ一時一般均衡論であり、動学と資本蓄積は、課題となっている。ヒックスは、『景気循環論』(1950)、『資本と成長』(1965)、『資本と時間』によって、動学と資本蓄積の課題に答えている。フランスの一般均衡の存在を証明したドブリューDebreu1954)は、資産市場の一般均衡には、立ち入らなかった。『価値の理論』は確立したが、「資本の理論」は、ふれなかった。フランスでは、マルクスの『資本論』やヒルファーディングの『金融資本論』の影響のせいで、株式市場の経済学的効能や意義は、社会主義政治勢力に支持されない。反面、株価の変動がBrown運動すると唱えたのは、フランス人バシャリエBachelier1900)である。当時、Brown運動を理論的に定式化することが物理学上最先端の課題であった。
 さて、私は、冷戦時代、オーストリア、西ドイツ、スペイン、イギリスには、長期間、滞在したが、パリに数日滞在しただけで、通過した。当時、フランスの政治は、社会主義者主導で、公務員がはばを利かし、金融界は国有銀行システムがあり、実業界は規模が小さい、米国や日本のように、株式会社が発展していない。『資本論』および『金融資本論』の影響で、ヨーロッパの経済学者にとって、ブルジョアジー階級の株式交換市場である資産市場の均衡論を研究する理論的重要性が低かったのだろう。政治が社会主義優位である場合、ブルジョアジー階級への課税強化、所得再分配、最低所得保障、年金制度、医療、教育負担軽減が政策優位となり、経済成長、産業の競争力を強化する政策は二の次になる傾向がある。中小企業や個人業に対して、行政としては、税制面で緩くはできるが、その産業の競争力を強化するための税金投入は、公平性の観点からできない。かくして、国や地方自治体で、政治が社会主義政党優位である場合、南イタリア、ギリシャ、フランス南欧のように、経済活動は旧態依然で、発展することはなく、国税を頼ることになる。日本でも、いわゆる旧革新自治体は、そういう傾向があった。
 その結果、社会主義政治の怖いところは、企業の本社流出、海外流出、それが経済地盤の劣化を招き、地方交付金に依存する赤字財政が慢性化し、地域格差を招き、若年人口流出がおきてしまうのである。
 一方、大衆株主のいるアメリカは、株式交換市場は発展したが、経済学における「株式市場価格の理論」はないまま、株式市場価格を所与とした、デリバティブ商品開発が盛んになった。理論的に価格形成がよくわからない現在株式価格を所与として、投資信託やオプションの商品が生成されると、それらの商品も理論的に説明できないはずである。
 リーマン・ショックのサブ・プライムの信用しかない住宅購入者に、証券を合成して,銀行信用で、発行したために、FRBが金利を戻したら、証券バブルははじけてしまった。日本のメガバンクで、この証券に手をだし、7,000億円損失を出したのは1行だけだったと記憶する。
 習氏が、香港資本の不動産会社に、つぶす気なのか、中国不動産業界を根治するすきになったのかは、不明であるが、国民を借金づけにして、強制貯蓄を吸い上げ、中国経済成長を続けるのは、人口減少の症状が出てきて、マルチ商法のようなことは、だれが考えても無理がある。中国ショックは、海外投資家は、バイデン氏の息子さんのように、中国ファンドには、5年間、手を出さない方が賢明だろう。中国研究が1983年春、西安・北京・上海ツアーから始まり、1999年から、中国留学生と中国研究を休みなく研究したので、38年間になる。中国共産党と中国国民の考えは、よく理解できる。
 東京に本社が集中し、関西の企業すら、東京本社をもつようになり、大阪経済に地盤低下の末、歴史ある大阪証券取引所は、日本証券取引所に統合された。株式市場の経済学的効能や意義は、企業価値を公正価値にし、上場企業の財務諸表は公認会計士により、監査されているが、世界経済のグローバル化に伴い、各国別会計基準から、国際会計基準への収れんに向かい、各国別企業価値は国際公正価値に収れんすることになっている。
 一般の日本人は、株式市場はリスクが大きく、すなわち、株価変動が大きいため、株式を買うより、資産の半分以上は、預金、保険で保有している。金やダイヤモンドの取引は、経済学的に需要と供給で価格が決まると理解できるが、「任天堂の株価がなぜ、(2019104万円台、202095万円台)なのか、わけがわからん」と思う。人気投票のように、思っている人も多い。
 本講88.6先物価格の決定理論のように、株式市場の現物・先物市場を同時決定する一般均衡理論では、株式の現物・先物均衡価格を決定することができることは、わかっている。
 現実問題として、株式市場だけでなく、債券市場を加えた、資産市場に拡大すると、現預金の管理をする日本銀行が、株式市場に介入する安倍ノミックス時代になると、債券、株式の買い手に回り、債券価格、株式価格形成をゆがめる事態を招いている。
 日本銀行のマイナス金利政策により、日本国債は流動性を失い、日本の国債発行は、ゼロ近傍発行となり、強制的に、日本銀行が投資家から徴税するようになってきた。つまり預金と同じである。配当のある株式は、1~2年で限れば、国債より利回りがよい。ヨーロッパは別として、米国をはじめアジア諸国では、マイナス金利政策はとらないから、日本の投資家は、国際分散投資に踏み切りだしている。企業も、手持ち資金は潤沢なので、間接金融から資金調達しなくなっている。
 株式市場に日銀資金が流れていて、株式価格を支えているし、日本銀行が、直接金融市場に長期介入し、国債を発行高の半分を買い取り、毎年6兆円、株式をETFで買い取っていくと、かつて、台湾や韓国で言われた株価PKOPrise Keeping Operation)に近い、管理相場になってしまうことを示している。
 今年になって、菅政権は終わっても、日本銀行の金融政策は変更ないが、株式相場は、経済活動が半減したことに伴い、株価がその分、下落した。現在は、徐々に、経済・社会活動が回復しつつあるので、営業度・操業度に応じて、株価が昨年の水準にもどりつつある。

3.4.3 中小企業金融
 日本では、金融市場は、銀行システムをもちいた間接金融が主流であったから、メインバンク制に象徴されるように、銀行が企業財務を支配した。また、日銀の低金利政策がつづくので、社債発行や増資による資金調達よりは、銀行融資の方が、資本コストが低かった。負債比率は50以上であった。しかし、大企業では、高度成長後、オイルショック後、米国との自動車・半導体摩擦で、円高もあり、海外進出せざるを得ず、資金調達を海外の金融市場で調達するようになった。その結果、大企業では、国内での資金調達は減少し、間接金融が縮小する。そして、貸付先を失い、40歳台団塊世代の住宅取得時代に入り、不動産バブルが発生し、過剰融資の末、バブルは破裂した。
 その不良債権処理が1995年から、信用組合の取り付けに始まり、大手銀行の不良債権処理が終わるのは、2003年である。中小企業の不良債権処理が残され、中小企業の淘汰が始まる。リーマン・ショック後、民主党政権下、金融庁の政策で、一時、中小企業の不良債権処理が中断された。安倍政権となり、日銀が超金融緩和政策を取るので、倒産件数は減少し、中小企業の不良債権処理はうやむやになっている。中小企業にとっては、資金調達の方法は、間接金融に依存せざるをえない。その間、東北震災等、自然災害による中小企業の損失もあり、中小企業は、大企業と同じく、負債比率を50%以下に減少させてきている。中小企業がやむを得ず、手持ち資金を増やしているのは、災害倒産リスクのためであると言われてきた。
 しかし、資金調達の方法も、多様化されてきている。その間、中小企業金融をテーマに、演習で学生を指導してきたが、クラウド・ファンディグなど、銀行を通さず、直接融資相手をインターネットで公募するIT金融が流行ってきたことにも注目するようになった。
 日銀が超金融緩和政策を取っても、政策効果が発揮できないのは、日本の伝統的銀行システムが、資金供給の役目をはたさなくなりつつあるからだろう。銀行が過剰準備金を日銀に残さないように、マイナス金利の発行税を徴収しても、実物経済にはさっぱり効果がない。大企業が設備投資しなければ、中小企業はなおさらしないから、資金調達の必要がない。銀行が借り手を探してもいないのであるから、銀行の採算が悪化するばかりである。政府が、消費税対策と称して、キャッシュ・レスを推奨しているが、キャッシュ・レス時代がくれば、現金の象徴たる日本銀行券は現金決済に必要がない。人々が銀行に預金をしなくなれば、銀行業は廃業である。

今週(2021927日~101)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、19日ロシア下院選投開票が行われました。与党が300議席を確保した。21日日銀政策委・臨時金融政策決定会合が22日まで開かれました。国交省の2021年基準地価が公表されました。米連邦公開市場委員会が22日まで開かれました。
 今週のイベントは、26日に、ドイツ連邦議会選挙があります。29日に自民党総裁遷喬投開票があります。河野氏が優勢ですが、親族企業の中国事業に懸念をもち、自民党の古株議員には、父親が新自由クラブを結成した経緯、中国共産党結党100周年に祝電を送っていることもあり、信用していない派閥もいます。石破氏と同じく、議員投票ではしごを引かれるかもしれません。ちなみに、バイデン大統領は、選挙期間中に、息子の中国ファンド取締役を退任させています。現在、習氏は、脱・鄧型資本主義体制のため、毛氏の民族資本共産化戦略を段階的に実施していることから、中国企業の配当政策は、国家管理に入る。海外の投資家が手を出す金融商品ではなくなることを意味します。バイデン大統領の息子さんの判断は、中国株に見切りをつける正しい判断です。
 101日、IR申請受け付けが開始されます。たばこなど一部値上げされます。9月の日銀短観が発表されます。

 経済統計は、次の発表がありました。
                                                         予想値     実現値
21日 日8月の全国コンビニエンスストア売上高  ―      -0.1
   米経常収支               -1,910USD -1,903USD
24日 日8月の全国消費者物価指数          -0.3%     -0.4
    8月全国スーパー売上高         ―         1.2
    8月の全国百貨店売上高         ―       11.7

 経済統計は、次の発表があります。
                       予測値     実現値 
30日 米46GDP確定値           6.1
   中 9月中国PMI               _ 
1日  9月短観     大企業設備投資    9.3
              製造業先行き     14
                 業況判断    13
             非製造業先行き      5
                 業況判断     1
   日8月有効求人倍率             2.9
    8月完全失業率             1.14
       米個人支出                 0.7


4回目 2021104
要点 4.金融機関の行動
  4.1 わが国の金融機構と業務
   4.2 金融機関への諸規制
   4.5 市場のルールに基づく市場均衡
    4.5.1 完全競争市場のルール

4.1 わが国の金融機構と業務

 わが国の金融機構と業務について、一覧表にしている。これは、預金取扱機関、すなわち、銀行を中心として、分類し、主な資金調達業務、資金運用業務および資金仲介業務を番号順に、取り上げている。表にある金融機構の形態は、(『<新版>わが国の金融制度』日本銀行金融研究所、1986年)にしたがったものである。1986年以来、金融制度史は変遷をし、バブル、金融再編があったことは、末尾の「日本金融制度史」第7期に記録している。明治以来、日本の金融制度が大きく変動する契機は、戦争が多い。西南戦争、日清戦争、日露戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦である。1986年まで、戦後の預金取扱機関中心の金融機構は、大蔵省、日本銀行も通貨の供給、金融の調節が円滑に機能していたと評価されている。
 しかし、土地神話にもとづく、土地担保価値上昇率トレンドと都市土地価格の上昇率にかい離が生じ、バブルが発生、崩壊した。その結果、2003年まで、間接金融機構は、中小金融機関の統合が進み、大手都市銀行も3行に統合された。金融行政の流れでは、合併・吸収、資本金増強、大口規制など、これまでの日本金融史上激変期にとられた手法である。
 その間、1997年日本銀行法が改正された。1882年日本銀行条例、1942年日本銀行法公布、1949年日本銀行法一部改正(政策委員会設置)に次ぐ大改正であり、人生50年ではないが、金融行政においても、日本銀行という金融根幹制度も50年周期で、制度改正する必要があると、どこかに記述してあったと思う。金融制度は、与信期間が10年単位であり、制度の見直しは、10年周期で実情に合わせる必要がある。国の行政制度も同様の省庁再編50年、省庁管轄の諸制度は10年以上経過すると提供する行政サービスが実情に合わなくなって、予算不足、予算の余剰がはなはだしくなっているはずである。金融行政では、通貨の供給、金融の調整が制度由来の目詰まりになると、信用崩壊になるので、定期的に、見直ししている。
 従来、日本銀行役員会が、企業で言う取締役会に相当し、GHQにより設置された政策委員会は、金融政策を発案、実施できるのであるが、実質、大蔵省で金融政策を主導され、役員会で実行案になおし、実施されていて、政策委員会は、有名無実であったといわれている。政策委員会制度の取扱いは、小中学校のホームルームみたいなアメリカお仕着せ学級自治であったと、学生には、話していたが。日本銀行に議事録は存在するのか、さだかではない。1997年以前は、金融政策の実施について、立案の経過が公表されないので、外部の専門家は、事後的な推測しかできない。日本金融学会では、金融政策の決定過程が公表されないとこぼすコメントもあった。また、外部の専門家の指摘は、反映されることはない。たとえば、バブル前後の金融政策は、大蔵省、日本銀行に、バブルの認知が遅く、銀行の不動産担保貸し出しに異常事態が見られたはずだし、最悪な事態では、地上げ屋が、住民をド―ベルマンで、追い払うテレビレポートもあった。山口県に住んでいた私の父が珍しく、「地上げに、暴力団が活動している。」と私に注意した。私は、普段は、経済活動には、注意を払うのが仕事であるが、新婚で、住宅は購入する気がなかったので、関心が薄れていた。東京の地価は、土地ころがしで、2年間で2倍以上になった。
 大蔵省は地価税を課税し、日本銀行は、金融引き締めで、公定歩合の2倍以上引き上げした。これでは、すぐさま銀行の貸し出し余力は失われて、「夢の住宅街」「夢のリゾート」実家近くの「ゴルフ場建設計画」は中断される。当時、私は、親類の兄に勧められ、ゴルフを練習しようかと思っていた。実際、1988年のゼミ旅行は白浜で、ゴルフ部の学生とテニスとミニチュア・ゴルフをした。夜は、学生を連れて、ヌードスタジオにホテルのバスでいったら、踊り子にこすりつけられるし、相当、快楽に流されていた時代だった。当方も、バブッて、いたかもしれない。
 現行の日本銀行法は、政策委員会が、政府から独立して金融政策を立案、実施し、国会、金融業界、国民に対して、金融政策の実施説明責任を果たしているし、議事録の公表もある。

4.2 金融機関への諸規制

 金融機関は、株式会社、信用金庫、相互会社、信用組合等の組織形態と目的、業務、監督官庁との係わりを個別に定めている。例えば、銀行は株式会社であるから、会社法にしたがうが、銀行法にしたがう。証券会社は株式会社であるが、金融商品取引法にしたがう。株式会社は、会社法により、その目的を定款で定められるが、株式会社である銀行は、銀行法によって目的が定められている。
 金融機関は、各業法によって、縦割りの組織が、監督機関である金融庁に、ぶら下がっている。ただし、日本銀行は、財務省に監督されている。
 戦後、GHQは軍を廃止、財閥に戦争責任を取らせる形で、財閥解体をした。しかし、金融業界の財閥解体はしなかった。旧日本銀行法もナチスのライヒスバンクが法源なのだが、現代文調の政策委員会を追加するだけで、漢文調カタカナ混じりの法律だった。金融は米国でもユダヤ人が強いし、ライヒスバンクをまねていることは、米国の専門家は認識していただろう。GHQは、法文としては問題ないとしたのか、それが、1997年改正まで続いた。
 法規制では、金融業界は、縦割りであるが、金融業界も財閥系、新興企業系および銀行系に分かれ、金融業界は系列企業をしたがえていて、系列融資が行われていた。地方金融機関は、戦間期の銀行合同で、1件1行主義により、軍から強制合併させられた。県外に、支店はなかなか認可がおりないので、県内の企業は各府県の地方銀行1行と取引するしかない。
 バブル後の金融再編は、信用組合、信用金庫の破たんが始まり、1997年山一證券の自主廃業、1998年北海道拓殖銀行破たんに連鎖し、終わると、都市銀行は13行から、3行に、中小金融機関の456信用金庫、448信用組合が現在、それぞれ、257金庫、146組合に合併・吸収されている。
 3メガバンクに、今も系列融資は存在するのか、メインバンク制自体も風化しているので、系列企業は、間接金融より、直接金融、海外資金調達の選択肢中から、資本コストの低い方を選択していると思われる。
 保険会社および証券会社も財閥系を主要な取引相手とする場合がある。その商品開発も運用も、取引相手の企業を組み入れる場合がある。外国の証券会社は、そのような考慮はないから、たとえば、投資信託であれば、自由に選択しているので、運用成績がよい。
 金融行政は、大蔵省銀行局から金融庁になって、銀行の業務のユニバーサル化がみられ、金融持ち株会社も認められる。ユニバーサル銀行経営が、うまくいっているのか、疑問だが。ユニバーサル銀行は、多角化しても、それに伴う商品開発ができる人材はいないし、専業の保険会社および証券会社から、商品を仕入れて、小売りしているだけであろう。日本銀行の超金融緩和は、現在も続いているが、ゼロ金利政策のため、預金取扱金融機関は、貸し出しが減少し、地方金融機関から、じわじわと経営が圧迫されてきている。その分、信用収縮し、地方経済も収縮している。ゼロ金利政策を撤廃する時期が遅ければ、支店の廃止が進み、ネット・バンキングに、顧客は頼らざるを得なくなる。

4.5 市場のルールに基づく市場均衡

 4.5.1 完全競争市場のルール
 完全競争市場下における銀行行動は、4.5.1において、銀行の利潤最大化で求めている。銀行にとって、利潤は、収益マイナス費用である。フローである収益は、手形割引料、取引手数料および保有する債権からの収益からなる。費用は、経費、労務費および債務である預金利息からなる。
 バランス・シート制約式は、準備預金制度から強制される。貸付債権のリスク管理は、貸倒引当金であり、5段階に分類される。貸付債権は、正常、利息延滞、元金返済延滞、破産懸念、破産であり、3%、20%、50%、80%、100%を引き当てると仮定する。
 融資後の債務履行はコベナンツ条件といわれ、既存貸付債権の契約に適用され、銀行にはモニタリングコスト(監視費用)が掛かる。時間通じて、リスク管理により、5段階のランクが変わるので、引当金も変化する。
  銀行の投資は、新規貸付債権と新規国債購入である。前者は、審査により、リスク管理で評価される。貸付先の情報提供により、①期間返済可能、②貸付利子率と債券利回り(リスク・アプローチ)、③余力=預金+返済金+償還金(バランス・シート制約式)から、融資実行可能か判定する。
 銀行は、市場、自己制約条件を与件とし、収益の割引将来価値を最大化する投資を決定する。
以上を定式化すると、次のようになる。
 完全競争下の銀行モデルで、企業の貸付資金需要と銀行の貸付資金供給の均衡で、貸付利子率が決定されることを示す。
銀行のバランス・シートの制約式
   RLBD+εLE                         412
   債券投資:B還流率:ε、派生預金:εL 
法定準備預金の条件式
   R=α(D+εL)                            413
   法定準備率:α
貸付量Lの収益P (L)は手数料および利息収入である。債券投資B0B0=(1-α)D+(ε-αε-1)LE、債券利子率rbとする。投資Lの増大とともに貸倒引当金が増大するから、P (L)は、貸付量の増大に逓減する。経常費用Cは預金利息と固定費用である。
CrdDεL)+C0,預金利子率:rd,固定費用:C0
利潤は、収益から経常費用を差し引いたものである。
利潤関数 π P(L)rbB0C
       P(L)rb1-α)D+(ε-αε-1)LE{rdDεL)+C0 }
銀行の利潤最大化
 銀行の利潤最大化は、π=P(L) rbB0CLDで偏微分し、0とおく。
∂π =PLrb(ε-αε-1)- rd ε0
L
すなわち、 PL rb(αε-ε+1)+rd ε                          414
∂π =(1 α) rbrd0、すなわち、(1 α) rbrd                       415
D
 PL =rb(αε-ε+1)+ε(1 α) rbrb
限界収益=限界費用 となる。

今週(2021104日~108)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、26日に、ドイツ連邦議会選挙がありました。社会民主党が久しぶりに、得票数1位になりました。第2位のCDUと差がなく、連立を組むのに、時間がかかる見込みです。29日に自民党総裁選挙投開票があり、岸田氏が総裁に選ばれました。
 今週のイベントは、104日岸田内閣が発足し、臨時国会が召集され、新首相を選出します。会期は1014日までです。衆議院解散します。4日から、ノーベル生理学・医学賞、物理学賞、化学賞、文学賞、平和賞の発表が、9日まで、順に発表があります。
 経済統計は、次の発表がありました。
                        予測値     実現値 
 30日 米46GDP確定値           6.1%     6.7
1日  9月短観     大企業設備投資    9.3%     10.1%
              製造業先行き     14      14
                 業況判断    13      18
              非製造業先行き      5      3
                 業況判断     1      2
   日8月有効求人倍率             2.9%     2.8
    8月完全失業率             1.14倍    1.14
       米個人支出                 0.7%     0.8
 経済統計は、次の発表があります。
                        予測値     実現値
5日 米87貿易収支                                705億ドル
8日 日8月の家計調査             -1.2
    8月の国際収支(経常収支)        14,860億円
          (貿易収支)        3,750億円
   米9月の雇用統計              5.1% 


5回目 20201011

要点 4.金融機関の行動
     4.5.2 完全競争市場条件の変更 2)
     4.6  金融取引における情報

2) 独占的競争下における差別金利の決定
 財の独占企業の理論を、完全競争下の銀行行動に適用する。独占競争下にある銀行は、大企業の優遇貸付利子率(プライム・レート)rBと中小企業の貸付利子率rM(サブ・プライム・レート)の差別利子率をつける。
大企業の資金需要をDBで表し、中小企業の資金需要をDMで表す。簡単化のため、それぞれの需要曲線は直線で、raBDBbBraMDMbMとする。大企業の需要の利子率弾力性はεB、中小企業需要の利子率弾力性はεMとする。εBεMである。
 銀行の総費用Cは、
CrdDC0預金利子率:rd固定費用:C0と表す。
銀行の収益Rは、RrLBrLMF0、大企業向け貸出利子率:rB中小企業向け貸出利子率:rMで表す。
銀行の利潤はπ=RCrLBrLMF0Cである。限界費用は,両市場共通で一定であるとする。
独占理論から、利潤関数を貸出量で偏微分すると,
πr1- 1 )MC0πr1- 1 )MC0
LB      εB         LM     εM
それぞれの限界収益が限界費用に等しい貸出量において、需要曲線上の プライム・レートrBrd1- 1/εB とサブ・プライム・レートrMrd1- 1/εM 2つの市場で決まる。εBεMと仮定しているから、rMrBである。

4.6  金融取引における情報

 日本の間接金融市場のように、借り手が弱く、貸し手の要求する情報提供をする貸付資金市場は、米国のそれではない。米国の中小企業の起業率は、日本より高く、逆に、倒産率も高い。米国銀行にとって、貸し倒れリスクが高い。その原因は、企業側の情報提供が銀行を説得するほどでもないためであろう。銀行の規模も小さく支店網はない。
 明治維新以前は、日本の金融機関は、関東と関西で金本位制と銀本位制を取っていたため、両替商が存在し、庶民金融の講、町内のいわゆる10日で1割の高利貸しがあり、各藩内では藩札が流通していた。あの忠臣蔵で有名な浅野家の断絶では、藩の財務担当重役は、塩の専売を藩の財政にしていて、藩札・信用が藩外に流通していたため、藩の債権債務処理に、苦労したようだ。敵討ちも、大石ら藩士に清算した軍資金があればこそ、本懐を果たせたのである。塩製造販売事業で、もうけているのに、吉良に、その塩田技術を教えないから、いやがらせを受けたのである。浅野藩を意図的につぶされ、藩士を路頭に迷わされて、藩が攻撃されたと同じことだ。大石でなくとも、浅野藩の組織力では、完全に吉良はとれる相手だった。ここは、幕藩体制を揺るがす大問題にして、いつでもとれる爺さんを、敵討ち予告をしつつ、逆に、いじめ倒して、逃げ隠れさせていたのである。双方、ご苦労様でした。
 大阪の北摂地域の明治以来の金融史を教えたことがある。最初は、神戸灘の銀行が、酒米である山田錦を買い付け代金と次年度の栽培貸付を農地担保でしたのがはじまりで、茨木市の安威郵便局が、唯一の庶民貯蓄銀行であった。1890年から、金融恐慌があり、銀行が破たんする。後は、欧米と同じように、大戦後、軍需が落ち、企業が倒産、貸付金が焦げ付けるで、銀行破たんが起きた。その屑債権を買って、その銀行の本店・支店を吸収するから、支店網は充実していった。政府は、太平洋戦争後に生じるであろう、反動恐慌を怖れたのか、戦間期に、銀行合同政策を取る。そして、敗戦後、台湾銀行、朝鮮銀行、満州中央銀行の行員を、長期信用銀行に吸収し、中小企業対策の信用金庫、信用組合を設立させた。
 銀行行動の理論は、従来、ヨーロッパ留学だった流れが、戦勝国米国に変更された。金融論は、エール大学に留学した学生が、ト―ビンの理論を日本の現実に適用したのが、教科書で取り上げられていた。それが、都市銀行と地方銀行のコール市場で、それぞれの利潤最大となる最適貸出が決まるという理論で、本論に紹介している。日本では、金利水準は、大蔵省が決定しているのであって、日本銀行の政策委員会は決定を承認しているにすぎなかった。したがって、自由金利市場は、インターバンク市場しかなかった。
 現在では、企業が投資する場合、借入金は2期間以上で返済する。銀行は返済可能性を審査して、条件をみたせば、貸出すが、利息と元金は2期以上で回収される。企業の債権は、債券と性質がよく似ている。そうすると銀行は、過去の債権の元利金と1期間の割引料、手数料で通常の利益を上げていることになる。この債権を貸付資金市場において、標準化すると、2期間以上の貸付利子率が決まる。
 当然、2期以降の不確実性は、両者にあるので、不確実性下の期待利潤最大化になる。しかし、金融論の貸付資金市場は、資金需要者は、確実性下のもとで、現在、必要な財・サービスに支出をするために、資金を借りる。銀行側から見れば、資金需要曲線は、確実性下にあるとみる。合理的期待論のMuthも、企業の需要曲線は確実性下にある。財の供給は第2期の予想価格に依存するので、不確実性下である。不確実性下、米国発祥のミクロ市場理論は、この設定で、学会にコンセンサスあるようだ。
 資金供給者は、担保をとり、その企業の貸出極度額を決め、不確実性下の2期以降の借り手の返済能力を精査して、期待利潤を最大化する設定が多い。
 すなわち、資金需要者は、右下がりの直線を仮定するのは、独占競争理論も逆選択理論も同じである。テキスト図4.7のように,銀行の供給曲線が、高金利になると供給量が減少する、つの字型になる。つまり、高金利で借りる需要者の返済リスクに対する貸倒引当金が増加するので、銀行の貸出余力が減少する。また、高金利では、リスクの高いプロジェクトをもつ企業ばかりになるので、逆選択が発生する。
 情報の経済学で取り上げられる事象は、非常にリスクのある借り手を問題にしているので、日本の銀行優位の貸付市場では、相手にされないだろう。消費者金融市場や、スコアリングの統計手法を使った、顧客情報の評点化によって、貸出するネットローンでは、そのような顧客もいるであろう。実際、日本の消費者金融業者が、スコアリングの統計手法を実務で利用している事例はないだろう。
 本論で、金融理論における情報の取扱いをまとめた。ITを使った金融手法は、仮想空間で決済口座が当座預金口座にあたり、電子商取引が発生すると、その口座を通じて決済する。人的な記帳の流れが全くない。記帳は、個人のスマホ口座と銀行にある双方の口座になる。融資の審査も、IT化されると、銀行に店舗は必要なくなる。金融機関にとって、情報管理と情報加工技術が、営業になるような時代になりつつある。

今週(20211011日~1015)のイベントと市場への影響度

 
先週のイベントは、104日岸田内閣が発足し、臨時国会が召集され、岸田首相を選出しました。会期は1014日までです。衆議院解散します。4日から、ノーベル生理学・医学賞、物理学賞、化学賞、文学賞、平和賞の発表が、9日まで、順に発表がありました。
 今週のイベントは、11日にIMF・世界銀行総会が17日まであります.12IMF世界経済見通しがあります。経済再開が、コロナのワクチン接種が、途上国で思わしくなく、遅れが出ています。13G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)が開かれます。14日衆議院が解散されます。
〈中国経済の変調〉
 中国政治情勢も、内向きに、習体制固めにとりかかっているように、報道されています。今秋は、中国経済の変調が気になる季節かもしれません。
中国を取り巻く、国際情勢は、中国孤立化に、着々と、軍事情勢から先に、進捗しています。今年は、極東の自然環境も、人間界の軍事騒乱を反映して、南沙諸島周辺海域、台湾海峡周辺、東シナ海に、向かって、絶え間なく、台風が襲来、日本でいう、神風になって、中国本土を攻撃しています。春から秋まで、中国軍首脳部は、作戦海域に、200隻の海兵漁船団を出撃させられず、戦闘機100機も飛ばせず、台湾侵攻には、ノルマンディー上陸作戦と同様、大規模作戦の成否は、自然環境、古来から言われる「天が味方せずば、謀は成就しない。」に左右されるという結果に終わりました。
 その中で、習氏は、中国全土に、不動産および関連住設、交通網、エネルギー関連施設のインフラ投資の成長を抑制し、国内向けの鉄鋼、非鉄金属の生産を絞り始めだしたようです。これで、中小零細の非効率な生産を打ち切り、大気、河川、地下水に汚染物質を垂れ流すことは減少に向かう。
 中国の高度成長は、日本高度成長とメカニズムは同じで、どの国も同じことを実行できる産業構造と生産人口構成をもてば、年10%以上、少なくとも10年間、ターンパイク(ハイウエー)成長率が働くことは、中国経済は実証しました。韓国経済、台湾経済も同様な成長しました。大国の規模として、中国を超える米国、ロシア、インドでそのような成長が働かないのは、産業構造および人口構造に、条件が整っていないからです。
 中国共産党は、それを終わらせると、低成長時代が来て、野放しの公害を除去する社会的費用が発生した日本の「宴の終わり」を知っていると思われます。
 不動産および関連住設の成長を抑制することにしたのは、香港の直接統治をにらんでの英国との協定破棄をし、早めに、香港不動産資本家と国内地方幹部との癒着を断ち切ることにある。香港不動産資本家が、地方幹部と「よいしょ」するビジネスは絶たれるので、香港資本は必要なくなり、香港市場で、外国資本家を誘うこともなくなる。地方幹部も中央幹部に頼らなければ、地方経済はまわせなくなる。地方幹部も、外国と香港をつないで、資金逃避できなくなる。
 中国の低成長と社会費用の支払いで、「中国の円卓宴・彼女・理財商品」(中国共産党統治下では、中国の消費文化が育たないので、宴会を取り巻きと毎晩し、彼女をもち、理財商品を買うぐらいしか中国国内で浮いた人民元の使い道がないと報道されていた。中国留学生に話すと、笑っていた。以外と社会主義者は男女関係がもつれる傾向があるなぁと、日本の左翼週刊誌記者は思わないかなぁ?)が再来することは、ターンパイクを降りると未だに砂利道に、ベンツが走ることはないことから、期待できない。中国の脱資本主義・再来社会主義時代で、海外資本家も「よいしょ」するうまみは中国経済には残らない。

 経済統計は、次の発表がありました。
                        予測値     実現値
5日 米8貿易収支                                 705億ドル  -733億ドル
8日 日8月の家計調査             -1.2%    -3.0
   日8月の国際収支(経常収支)        14,736億円   16,656億円
          (貿易収支)        3,750億円   -3724億円
   米9月の雇用統計              5.1%      4.0
 経済統計は、次の発表があります。
                        予測値     実現値
13日 IMF世界経済見通し 
  
 米9月消費者物価指数(前年比)        5.3   
    
  中9月貿易統計              3,228億元
   
14日 中9月消費者物価指数         0.9
15日 米9月小売売上高              0.6


6回目 20211018
要点 5章 日本銀行と金融政策
   5.3  金融政策の枠組み
   5.4 金融政策の運営

5.3  金融政策の枠組み

金融政策の波及過程を図式化すると、次のようになる。
       
               52 金融政策の波及過程の図式
 政策手段   手段の数値       中間目標       最終目標(目標数値)
 貸出政策    ハイパワード・マネー マネーサプライ  ①物価水準の安定(消費者物価指数)
           H         M2CD 
 公定歩合操作  公定歩合                ②経済成長の持続GDP成長率)
 準備率操作   準備率                 ③雇用の維持(完全失業率)
 債券・手形  
 売買操作    債券売買量

 為替市場    外為資金特別会計  純輸出 資金流出入 ④為替市場の安定(為替レート)
 介入操作

この表では、金融政策手段は、日本銀行の重視する政策手段の順に、最終目標は同様に、①から、④まで重視する目標の順に、掲げている。それぞれ数値で公表することができる。
 20211019日現在では、日本銀行は、最終目標を①物価水準の2%を目標にしている。これは、従来の物価水準の安定という目標ではない。物価水準の安定でいえば、安倍政権になってから、20154月消費税率3%の引き上げ、2019102%引き上げた。このとき、物価水準は、上昇した。それ以外は、2%を超えるときはなく、1%以下で納まっている。日本銀行が消費者物価指数を政策目標にしているのか、企業側の生産者物価指数、輸入物価指数を目標にしているのか、はっきりしない。金融論テキストでは、消費者物価指数である。
  コロナ禍2020年では、基準改定が行われ、2020基準年平均0.0%、20215月-0.86月-0.57月-0.38月-0.4(前年同月比)(総務省統計局HP)であるから,デフレ傾向が続いている。米国のFRBは、政策目標はコア消費者物価指数であり、202153.864.574.385.3(前年同月比)で、夏から、ガソリン価格が上昇しているためである。日本より深刻なコロナ禍にある米国で、継続した物価上昇が続いているのは、継続した物価下落が続く日本と対照的である。
 日本の物価は、生産者側の寡占価格支配力が需要者側より強い傾向があり、中小零細業者の生産物・サービスは、競争的市場価格形成がある。総合スーパー・コンビニエンスストア、宅配HP・スマホ通販ストアに、コロナ禍で消費者が集まっていると、寡占価格が効き、企業者物価指数と輸入物価指数が、消費者物価指数を左右しやすくなる。日本経済では、生産者物価指数は、円高もあり、消費者物価指数とは逆に、低下傾向がある。日本は、北海道から鹿児島まで、1500km以上、高速道路が整備されているから、運輸コストは、米国ほど高くない。今年になって、デフレ傾向が続くのは、日本の経済構造からすれば、当然の結果である。
 このような日本経済構造で、一般物価水準が決定される。その下で、ゼロ金利政策と金融市場の独占的買い手となっても、2%を超えるインフレは不可能であることを示している。白川総裁の時代のデフレ脱却で、黒田総裁が0%目標より高い1%目標を取ったとすれば、確かに、8年間、1%水準をコントロールの目標としてその上下0.5%の幅では、完全に日銀コントロールに入っていて、成功したと評価されただろう。ちなみに、2015年基準で,20150.0、-0.10.41.31.820201.8である。
 従来のISLMADASモデルで、目標のGDPを計算するモデルにおいて、目標のα%の物価水準を決定する貨幣供給量と利子率を求めることは、教科書では示されていない。理論の想定外のことを、『異次元緩和』で日本銀行がやろうとしたが、2%目標は未達であった。しかし、コロナ期に入る前まで、デフレは脱却したといえる。
 今年度の『金融論2021年』では、マンデル・フレミング・為替・線形モデルで、金融政策で、貨幣供給量をΔM増加させ、目標物価水準ΔPPを仮定し、逆算すると、貨幣供給量が十分緩和されているのか、計算できるところまで求めている。
 物価水準は、日本経済構造のもとで、国内内外生産物・金融市場において決定されている。金融政策によって、貨幣供給量と利子率をコントロール変数として、物価水準を決定できるのだろうか。マンデル・フレミング・為替・線形モデルで、パラメターを推計し、金融政策で、制御可能なのか、研究する。

5.4 金融政策の運営

 日本銀行が政策目標をデフレ脱却として、期間連続して、2%の物価上昇率を目標とすれば、公定歩合を限りなく0%とし、銀行の日銀当座預金に、マイナス利子率をつけ、国債を市場から規則的に買い取り、ETF投資信託を毎年一定額購入してきた。公定歩合操作、貸出政策、債券・(ETF投資信託)売買操作を総動員して、最終目標を達成しようとしたが、不可能だった。このように、金融政策が有効でない経済状態もある。
 それでは、経済成長の持続に最終目標をとり、GDP成長率2%を数値目標にしたらどうだろうか。これは、官民挙げて、国家プロジェクトを立ち上げ、日本経済の世界先進性を促進するプロジェクトに政策融資、投資するようにしたら、GDP成長率2%は、持続的に可能であろう。アベノミクスはそれをめざしたのであるが、根本が戦前の国家社会主義を岸元総理から受け継いでおり、資本主義的成長より、資本主義経済の稼ぎを社会主義的政策である社会保障、育児・教育無償化、働き方改革等に回すから、成長するわけがない。米国流覇権資本主義、つまり、米国は過去がないから未来を実現することで軍事・経済をリードする成長を目指しているタイプと、中国、ロシアのような国家資本主義(主要な国有企業が支援するプロジェクトで、世界覇権をねらう)と比較すると、爺むさく、番茶でお茶を濁すようなものであり、成果はでてこない。結局、日本銀行が、銀行、企業を激励しても、爺むさいプロジェクトが莫大な利益を生むわけもないから、バブルらない。
 黒田総裁は、バブル時代の経験を持っているので、バブルんじゃないかと期待して、超緩和したのだろうが、現在の銀行システムは、2003年までドジな銀行がすべて淘汰され、競争相手が減少し、規模の収益で、そこそこ、生きられるのである。それが証拠に、リーマン・ショックが銀行システムに与えた効果はない。むしろ、米系金融業(シティコープ等外銀、証券、保険)は、本国に帰還し、競争相手がいなくなった。製造業が中国に流出し、非製造業が主流の日本経済では、この産業では、ほとんど、生産効率性で評価されることはなく、人間関係・上下関係によって給料が出ているので、その間に、モノ、カネが介在しないから、インフレにならない。たとえば、美容院のカリスマ職人は、1顧客当り、1時間で、100万円稼ぐことはできない。銀座のクラブでは、そのような事例はあるかもしれないが。また、稼ぎ頭の40台~50台が、金融再編で、貸しはがし、貸し渋りで、中小企業を淘汰され、製造業の中国流出に、転職を余儀なくされ、「高卒ですか、前社の経歴は0査定で、17万でお願いします。」と言われた人が多い。人間関係でフラット化しているから、給与は上がらず、みんな余力のカネはない。結局、モノのインフレは生じなかった。最悪なことに、サービスの時給が上がるわけがなく、サービス・インフレもなかった。2回の消費税値上げで、賃金が、10%上昇しなかった。消費税5%上げるなら、強制賃上げ5%させるよう、最低賃金を同時に上げるべきであったが、企業は財サービスに転嫁はさけ、労働者の「安倍さん・山口さん、最低賃金の硬直化、非製造業のサービス残業常態化を何とかしてくれ」との声は届かなかった。
 黒田総裁が想定する、1989年のバブルと違って、金融市場と不動産市場の2倍資産リバブルは、生じなかった。しかし、株価は、リーマン・ショック以前を回復した。ゼロ金利政策で、債券価格は、高騰(利回りのゼロ化)したが、日本銀行が国債の発行高の半分買い上げているから、玉がない。株式市場で、投機を仕掛けようにも、業務用の当座預金に、マイナス金利をつけるから、投機マネーの一時預かりができない。東京株式市場は、米国と違って、投機的な変動が少なかったのは、代替安全資産がなかったからである。
 不動産は、東京オリンピック会場のように、もとの競技場の地上げでしかない。東京都全域は、不動産の地上げは出来なくなっているほど、立て込めている。当然、土地売買の事例が少ないから、地価は2倍にはならない。
 結局、黒田超金融緩和では、物価のインフレーションは、賃上げ不足、寡占支配統制価格(年間りんごは158円、解凍刺身盛り合わせは598円などをいう)の横行で、歯止めがかかり、資産のインフレーションもマイナス金利で投機が働かず、停滞し、同じ状況であった。超金融緩和では、日本経済の構造に金融ショックを当てられないということである。

今週(20211018日~1022)のイベントと市場への影響度
 
先週のイベントは、11日にIMF・世界銀行総会が17日までありました.12IMF世界経済見通しがありました。13G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)が開かれました。14日衆議院が解散されました。
 今週のイベントは、19日衆議院選挙公示があります。19日中国の全国人民代表大会常務委員会が23日まで開かれます。

 経済統計は、次の発表がありました。
                       予測値2021年 2022
13日 IMF世界経済見通し             世界5.9     4.9%
                        米国5.2     4.5%
                        中国8.0     5.6%
                        日本2.4     3.2%
   米9月消費者物価指数(前年比)          5.3      5.4
   中9月貿易統計              3,228億元 4,332億元
14日 中9月消費者物価指数           0.9%    0.7
15日 米9月の小売売上高            0.6%    0.7

 経済統計は、次の発表があります。
18日 中79月国内総生産            5.0
20日 日9月貿易収支             -4,984億円
     9月全国コンビニエンスストア売上高    -
21日 日9月全国スーパー売上高          -
22日 日9月全国消費者物価指数          0.2


7回目 20201025

要点 5章 日本銀行と金融政策
    5.5 金融政策の理論

5.5 金融政策の理論

 前回は、日本銀行の金融政策の運営を、現在、執られている最終目標物価上昇率2%、それに誘導できる政策手段を講じ、半分も達成できないことを述べた。今回は、金融政策の理論を述べる。大きく、2種類の両極端の認識がある。一つは、ケインジアンであり、もう一つは、マネタリストである。マクロ・モデルをもっているのは、前者であり、後者は、貨幣需要関数が中心であり、マクロ・モデルは提案されていない。マネタリストは、ミクロ一般均衡理論を想定しているのかもしれないが、断定はできない。
 私の立場である新古典派理論では、経済主体が合理的な最適化をするという立場から、最適化の集計によって、各市場が形成され、均衡価格が決まり、最適成長も、均衡価格が変動していくことを想定している。したがって、新古典派には、ケインズがいうようなマクロ変数が存在し、それらの関係式が成立して、マクロ・モデルを形成するという考えはない。
中央銀行の金融政策決定と政府から独立まで
 日本の学界では、近代経済学とマルクス主義政治経済学が併存していたソ連崩壊まで、政治経済学の立場から、近代経済学批判を批判する立場で、大学で講義されていたはずである。要するに、世界恐慌や金融恐慌は資本主義経済の本質的な矛盾であり、それらが発生すると、大量の失業が発生し、疲弊する人民が革命を起こし、社会主義政府を樹立すると結論づける。したがって、自由資本主義政府が、資本主義経済体制を制御できることは、マルクス主義政治経済学が歴史的発展段階説を取っているため、歴史的必然である革命が発生しないことは困るわけである。
 近代経済学では、市場の失敗や政府の失敗が資本主義経済には発生し、独占企業が超過利潤を稼いでいくから、公共財の供給を代替し、民主主義で政権交代をさせ、独占禁止法で競争を促進する、混合経済を主張するようになってきた。
 高校の『政治経済』の国定教科書では、資本主義経済は混合経済を主張するケインズと、第1次世界大戦後、社会主義革命がロシアで発生し、敗戦国ドイツ、オーストリアは、オーストリア革命、ドイツ革命が起き、帝政が倒れ、社会民主党等が指導する共和国に移行している。『資本蓄積論』のユダヤ人ローザ・ルクセンブルクはドイツ革命当時、ドイツ共産党を創設し、1月蜂起後、逮捕虐殺されている。ドイツ社会民主党の理論指導者は、ウイーン大学卒、『金融資本論』のユダヤ人ヒルファーディングであり、ナチスに追われ、やはり、フランスで拘束され死亡している。ともに、マルクス経済学者である。
 シュンペーターは、オーストリアが社会民主党政権になり、資本主義の本質の研究は、ヨーロッパでは不可能な時代になったし、1927年、ハーバード大学の客員教授で渡米し、1929年の米国発世界大恐慌を目のあたりにして、自説の研究のため、米国に残ったのかもしれない。今年2020年リマインダーを書いて、ウイーン大学のカール・メンガーをハーバード大学に呼び寄せたのは、シュンペーターだろうと思う。西ドイツ、ビーレフェルト大学のR. Rosenmueller教授が、私が行く前に、ハーバード大学に出張中だった。ウイーン大学から、ビーレフェルト大学の数理経済研究所をH. Dierker教授が来られたとき、研究会で会ったことも、妙な縁で、私の米国で採用された論文がつながっていたのかもしれない。私的な因縁でいえば、オーストリアの家族と関係して、オーストリア学派の数理経済学に係わることはどうかなぁ、そこまですることはないが、と思ったことは、当時、何度か思ったことはある。しかし、ユダヤ人von Neumannは、量子力学、コンピューター、ゲーム理論、一般均衡理論、成長論等に係わっているため、避けては通れなかった。
社会主義の台頭と修正資本主義
 2次大戦後、ヨーロッパ諸国において、社会主義政党が支持された。特に、社会民主党が躍進した。中国は1949年、社会主義国として、建国した。しかし、共産党の計画経済はうまくいかず、1978年、経済開放に踏み切った。中国は天安門事件後、1993年、社会主義市場経済へ移行、ソ連の崩壊で社会主義体制の記述は終わっている。日本経済は、大企業の不祥事で経済倫理が欠如する経営者が頭を下げている写真がのせてあり、公共財の供給を重視する公共経済の記述が多い。資本主義の特徴である市場経済の需要曲線と供給曲線が交差したところで均衡価格が決まることは、コラムで載せてあるだけだ。半官半民の日本銀行の機能と金融政策の実施については、金融論の教科書どおりである。高校教科書著者の認識では、日本銀行は政府の歳出と歳入、短期融資、国債発行の実務、外国為替の実務を担当しているから、準政府機関なのだろう。
 毎年、新入生に、経済学を教えるのに、高校政治経済の教科書を取り寄せ、以上の記述を、大学の経済学と連携するように、資料配布とパワーポイントで、1時間教えた。毎年、調べると、新入生が『政治経済』を履修したのは3分の1以下であった。実業界の取締役が「学生時代はマルクス経済学を勉強したが、就職後は自由資本主義経済だ。特に、労働組合はマルクス主義だ。」と話すのはよく聞いた。戦前の社会主義者の勉強会の話がある小説では、「マルクスの資本論は、理解しがたい。」とある。私は、『資本論』がユダヤ人特有の歴史叙述があるのと、ドイツ哲学を組み込んで、古典派経済学を批判しているので、よほどのヨーロッパの学問の素養がないと、戦前の労働者には、理解できないのは当然だ。しかも、19世紀以来、キリスト教批判が出て、無神論者、唯物論者が社会運動に加わってくるからややこしい。金融論で言えば、私の大学院時代に流行った、ユダヤ人DPatinkinの『貨幣・利子および価格』は、ミクロ理論が期待効用を使って独特であるのと貨幣の学史が独特であるが、ミクロ・マクロの整合性がついていないので、難しい。
 戦後世界の政治の世界では、労働者階級の立場から、資本家を擁護する自由主義政党を攻撃する社会主義政党が勢いを得た。
 追手門学院大学では、経済原論を担当するようになって、全く触れないわけではないが、ソ連崩壊後、1994年、日本社会党が自民党と連立すると、社会党の公務員政治勢力が、共産党対策の受け皿だったようで、日本共産党が政権を取る可能性はなくなったと考える国民が多くなったのか、1996年日本社会党は分解した。経済学会でも、1990年代は、社会主義的な資本主義経済批判の報告は少なくなっていった。私が1980年代、ヨーロッパの東西冷戦問題で特に、東側のバルト3国以外の各国を研究視察している間、ゴルバチョフ書記長時代によって、最後はブッシュ米大統領と核軍縮をし、冷戦は終結した。東欧革命はソ連の内部問題であり、米国は東欧革命には関与していない。ソ連と米国の核軍縮によって、ヨーロッパから、東西向けの核ミサイルが撤去され、ソ連の西側都市へのミサイル照準がはずされた。プーチン大統領は、ウクライナ問題のとき、また、照準を付けようかと言ったぐらいだから、現在も外されているのだろう。
 日本は、日米同盟により、米国の傘に入っているため、現在も、ロシア連邦の地下サイロには、日本向けの核ミサイルは存在する。ソ連解体よって、日本外交上のポジションは、影響なく、平和条約は締結されない。ロシア連邦になって、4島返還しないのは、中国が尖閣諸島をしつこくねらっているのと同じ理由で、ロシア海軍の艦船の出口を確保、米国艦船の侵入を阻止するためである。
 日本では、ソ連崩壊後、ケインズが生き残こり、大学では、ケインズマクロ経済学が主流となった。アメリカでは、ケインズの主張は、公共財の供給を景気対策に使い、失業を解消するととらえているが、できるだけ、公共財は最適供給にし、民営化を主張する市場主義者の主張が通る。新古典派経済学の流れも、ウイーン大学から、アメリカに亡命、あるいは移民した学者を中心に活躍したので、ケインズ経済学がアメリカ経済学の典型的な経済学ではなくなっている。イギリスは、サッチャー時代から、公共企業が非効率性で慢性赤字化するので、民活を主張するようになった。民間でできることは民営化することで、公共経済の肥大化を適正化する政策である。日本も国鉄民営化、電電公社民営化、郵政民営化、国立法人化で、準企業、教育・医療機関を国営から切り離してきているのが同様な流れである。
 したがって、政府は、市場が成立する条件を整理し、市場の失敗が生じないように、法規制、行政指導することが任務となっている。市場機能が発揮できる財・サービスは、民間に権限を委譲し、市場が競争機能を発揮できるように促すことである。
日本銀行法の1997年改正 政府から独立して金融政策を実施できる
 日本銀行は、1997年以前では、政策委員会に、政策を説明する義務はないから、政策の変更は、新聞に発表する程度でしかなかったろう。政策金利は、大蔵省の審議会で決定されるのであるから、日銀の役員会が、実務を粛々とつかさどっていたのであり、メディア、学会や業界で、米連邦準備制度理事会のような説明を期待しても、無理であった。したがって、大蔵省が3権限(予算、租税、金融・国際金融)を掌握して、公共経済を運営している間は、官界はケインズであったから、大蔵省は、ケインジアンだったのであろう。1997年日本銀行法改正以降、検査情報の漏えい等で、大蔵省は金融行政をはずされ、金融庁に移管され、省庁改革により、財務省と改称、権限として予算、租税(国際金融)が残された。ただし、日本銀行の監督権限は、財務省に残されている。
 私が、日本金融学会に入会したのは、阪神大震災以降、1995年頃だった。実は、1982年頃、上智大学で開催されたころ、見学に行ったのだが、歴史学派のセッションでは、特別な言い回しの報告があり、近代経済学とマルクス主義政治経済学が併存できた「いい時代」であった。その頃から1989年まで、社会主義諸国を回る研究旅行を、ソ連、東欧、ユーゴスラビアの各国のご好意で、ビザを出してもらい、社会主義経済を研究視察することができた。その反面、西ヨーロッパも見聞することができた。また、中国、インド、東南アジア諸国も同様である。
 しかし、パキスタンはインドで敵対的な雰囲気を感じたし、イラクは第1次湾岸戦争後、アーメダバードから観測するだけで、行くどころではなく、イランは、退職前、ペルシャじゅうたんを研究室に敷こうと思い、旅行手配を頼み、ドバイ経由で行けるようにしたが、米国とイランが緊迫して、中断した。イスラム乾燥ベルトは、砂漠と禿山しかないのに、自由に通行できないイスラム統治の伝統がある。これが、スペイン・ポルトガルが大航海時代を開いた原因でもある。日本の藩政時代、関所があり、一般人は通行不可能だったが、それに似たイスラム封建統治が今も各国政府に残っているのだろう。
 日本銀行の金融政策の基本は、バックが大蔵省の財政政策の立場がケインジアンであることを踏まえ、公共経済による景気対策が継続してあること、対米貿易黒字による為替レート増価対応、大蔵省の決めた金利のもとで、貸付、国債発行をすることになる。したがって、日本銀行は、行き過ぎた円高にならない日米の金利差を維持、景気対策のための低金利、大手銀行に対する貸付、国債発行利回りを低く設定により、大蔵省のケインジアン財政金融政策を中央銀行として実行していたのであろう。公共経済による景気対策が補正予算のように継続すると、いわゆる、インフラ投資であるから、それが税収増となって、国債を償還できるわけではない。国債発行残高1000兆円となっている。
 1997年改正法から、日本銀行は、政策委員会による金融政策決定会合の決定事項は、説明するようになり、財務省の財政政策を考慮に入れつつ、2%のインフレ・ターゲットを最終目標にして、超金融緩和を継続している。2018年では、テーラー・ルールを紹介しているが、すでに、実施している国々とは、理論的なルールが公表されているわけではない。
日本銀行の金融政策とマクロ開放貨幣経済モデル
 従来のISLMADASモデルで、目標のGDPを計算するモデルにおいて、目標の100ε%の物価水準を決定する貨幣供給量と利子率を求めることは、教科書では示されていない。比較静学モデルであるから、中央銀行が金融政策で、貨幣供給量をΔM増加させ、1回で、目標物価水準ΔPP=εとなるΔMを求める。テキスト第10章から、為替市場の均衡を所与とする。
 IS曲線は、財市場の均衡式から導く。
YC0c(YT0)I0i G0mwYwe Pw(mY) P                         10. 1
LM曲線は、貨幣市場の均衡式から導く。
MPkYi                                                                        10. 2
投資関数と流動性選好関数を線形化した10.1式と10. 2式から、iを消去すると、YPの関数が得られる
YC0c(YT0) I0MPkYG0mwYwe Pw(mY) P    (1)
これは,AD曲線である。
 不完全雇用の場合をCase Iとすると、労働市場の均衡式は、第9章の結果から、0PFNである。AS曲線は、線形化すると、P=αYとすることができる。新古典派の完全雇用の状態をCaseⅡとするとAS曲線は、PYAと表すことができる。したがって、CaseICaseⅡとを一致させると、不完全雇用が長期的に解消する物価水準と完全雇用国民所得が決まる。すなわち、Y=√A/α。
 このマクロ貨幣経済モデルにおいて、中央銀行が金融政策で、貨幣供給量をΔM増加させ、目標物価水準ΔPPを仮定し、逆算できる。
まず、現行均衡価格と均衡国民所得を求める。(1)式に、P=αYを代入し、整理する。
α(1ck) Y2-(αUe PwmYM0
これは、異なる正負2根をもつ。正根を均衡国民所得Yとする。均衡価格はP=αYである。目標物価水準ΔPPεであるから、ΔPPPεP。すなわち、P(1ε)Pとなればよい。AS曲線に代入すると、P=αYより、Y1(1ε)P/α。
 貨幣供給量をΔM増加させる。α(1ck) Y2-(αUe PwmY(MΔM)0を上と同様にして、解く。正根を均衡国民所得Y**とする。均衡価格はP**=αY**である。この均衡価格と目標物価水準P(1ε)Pと一致させるP**(1ε)Pから、ΔMを求める。為替市場は所与としているから、解はある。日銀の目標は、理論的には、比較静学ではなく、比較動学で、継続して、物価が上昇し、2%上昇になると想定している動学的目標になるである。
 物価水準は、日本経済構造のもとで、国内内外生産物・金融市場において決定されている。日本銀行は、為替市場は変動相場で決まるとし、為替介入は出来ない。マイナス金利のもとで、貨幣供給量をコントロール変数として、継続して、物価が上昇し、2%上昇にすることは、日銀は現在できないでいる。
 
 今年は、コロナ禍からの経済・社会活動の回復が9月から始まり、半導体不足で家電・自動車等の生産が遅れている。OPEC+のコロナ禍の減産を3月まで継続するので、これも供給不足になり、現在、インフレが続いている。投機的な在庫需要を抑制するには、マイナス金利をやめ、在庫投資を積み増さないように、金利負担をかぶせるべきであるが、FRB、ECBには、その投機的在庫投資が膨らんでいることには、警戒感がないだろう。インフレは、供給制約下、在庫投資をきっかけに始まるのである。企業は、需要が膨らんでいるから、遠慮なく、販売価格を上昇させる。

今週(20211025日~1029)の影響度
 先週のイベントは、19日衆議院選挙公示があります。19日中国の全国人民代表大会常務委員会が23日まで開かれ、主な法案は、「家庭教育促進法」で、家庭教育の保護者責任を厳しく問う罰則規定があります。
 党、国および社会主義を愛し、国家統一および民族団結を子供のときから守る意識を確立することが定められた。キリスト教の根本精神である「愛」が国の法律で使われるのも、中国史上初めてである。ヨーロッパ共産党は、組織の首謀者がユダヤ人であり、ヨーロッパでは殺害されたが、ユダヤ人に律法はあっても、律法を運用する核心に「愛」はない。インド共産党および中国共産党もソ連共産党指導に違和感あり、同じには出来ない根本は、組織を動かす共通の原動力が欠けていたのである。ソ連では、墓は十字架ではなく、赤い星が墓標の上に乗っていた。
 共産党自体が、ヨーロッパの政治状況から生まれた政治政党であり、議会制民主主義の中の社会民主党とは、共産党が議会制を否定する点以外は、理念的に、国の政治経済社会に求めるものに、差は少ない。しかし、「愛国」とは、ヨーロッパでは、誰も言わない。日本でも、一時、自民党の右派から、「愛国教育」という教育理念が発生したが、憲法を始め、すべての法に「愛」は見当たらない。確かに、演歌では、「恋」「好き」「惚れる」などが主流であり、たまに、「愛」がある。戦後世代のポップスでは、「愛」が多い。日本人作詞・作曲だが、テレサテンのヒット曲に「愛人」がある。
 中国で鄧小平時代は、「愛」は、実利的な住宅購入手段として「愛人」が使われた。日本流では、「愛人」は、社会規範から呼べば「妾」である。
 習氏は、「党、国、社会主義を愛せよ」と規定しているから、まず、本来の語法である「自分を愛するように、人を愛しなさい」とは、使われ方が違う。普通の中国人も、日本人と同じく、「愛」とは、男女間の「好」としか、思っていないだろう。この「愛国教育法」は、教える側も困難を極めるだろう。魂がこもった言葉は、それにしたがって人を動かす言霊(ことだま)と日本ではいうが、「愛国教育」に言霊が宿るだろうか?

 アフガニスタン崩壊で、カブールの20年で、現在、報道される市民は、戦争して来た精悍な兵士と、援助で、栄養状態のいい市民が映されている。欧米軍の占領下の統治といえども、西洋文化があの砂漠同様の土地に、注ぎ込まれ、その生活から、スラム暮らしにもどるのはつらかろう。同様な事例は、ミャンマーでもある。現在、ヤンゴンでは、軍政下にあり、民主勢力統治下の市民生活は、軍政下よりは、格段に増しな生活だったが、それを軍司令官は、元に戻そうとする。これは、もう元には、戻らないだろう。カブール市民がタリバン統治下で、飢餓生活に耐えていくのか、主流派パシュート人も、ミャンマー人と同様、考えるだろう。同様なことは、中国の鄧小平時代からの転換は、うまく軟着陸するのか、自由主義的中国が存在したのは確かであるから、これも、むつかしいのではないだろうか。議会制民主主義は、カブール市民、ミャンマー市民は経験しているから、経験していない中国とは、同様に論じられないが、党と国家の意思決定が2重にある権力基盤は、長続きしがたいだろう。

 今週のイベントは、27日に日銀政策委員会金融政策決定会合が28日まであります。28日に、欧州中央銀行理事会が開かれます。30日に、G20首脳会議がローマで開かれます。7月~9月期決算が発表されます。29日が統計集中日です。

 経済統計は、次の発表がありました。
                        予測値      実現値
19日 中79月国内総生産            5.0%       4.9
20日 日9月貿易収支             -5,304億円   -6,228億円
    9月全国コンビニエンスストア売上高    -          0.6
21日 日9月全国スーパー売上高          -        3.2%
22日 日9月全国消費者物価指数          0.2%       0.2

 経済統計は、次の発表があります。今週は、4月~9月の四半期決算発表があります。
                   予想値     実現値
28日 米7月~9月期GDP前年比     2.5
     GDPデフレータ       5.5
   日百貨店・スーパー売上高    -3.2
29日 日有効求人倍率             1.14
   日完全失業率               2.8
   日鉱工業生産指数速報前年比       0.2
   日東京消費者物価指数       0.3
   米PCPコアデフレータ       3.7


8回目 2021111

要点 6章 政府の活動と財政政策
 この章は、財政学のテキストに沿った構成になっている。すなわち、
 ・政府の活動は、日本国憲法にもとづいて行われる。政府の活動の3つの機能と予算過程・租税過程・決算の経過を説明する。
 ・マクロ経済3部門モデル財・サービス市場において、均衡国民所得を求める。
 ・政府は、財・サービス市場において、政府支出と租税を政策手段に用いて、最終目標を定め、財政政策を行うことができる。

6.1 政府の活動

 貝塚啓明・館 龍一郎の『財政』岩波書店、1973年を読んで、流れを考えたが、日本政府の最終目標は経済成長であり、短期的には、マクロ経済3部門モデルで均衡所得を求める。長期的には、新古典派成長論が根底にあった。しかし、バブル以降、公共投資が削減され、全国的に、建設業の600万人産業は、半減して行き、小泉内閣から、地方への公共投資を中心としたいわゆる景気対策は減少し、都市開発に重点投資されるようになった。公共投資による景気対策を主張する政治家は力を失った。その結果、国債の発行残高が積み上がったまま、国債管理はどうするのかという議論は、貝塚啓明『財政学』第32003年ではない。
 この問題に答えるために、長期的モデルである新古典派成長論から発展させるにも、新古典派経済は実質変数で解を求めるから、ストックである国債資産残高は、導入できない。したがって、国債残高による財政圧迫と経済成長の目標を達成する財政政策は、日本経済の試算可能な長期モデルから公共サービスの供給量を決定することが望まれる。
 ここで、公共サービスの供給は、議会制度で選出された内閣が原則的に政府支出を算出、国会で審議され、修正された予算案が承認されれば、毎年、実施される。その際、日本国憲法において、財源は、租税法の改正案が国会で決議される。米国憲法では、予算も租税も法律であり、決議が必要である。
 新古典派では、基本は市場原則で、私的財の取引が決まる。以上の財政学では、政府がどのような政治過程から選ばれたかは、問題にされない。財政学は、選出された政府から議論が始まり、定められた租税法にしたがい強制的に徴税し、公共サービスの供給は、政府が独占的に決めるとしている。議会制度に基づいて、4年間という中期に国民が選出し、負託した政府が、国民の公共サービスの満足度を満たすように、公共サービスを供給するという最適政府理論はある。
 J. Tinbergen et al “Optimal Social Welfare and Productivity,” 1972にある、自由・資本主義体制と共産主義政治経済体制を比較し、冷戦下、両体制の今後を論じたものである。
 東西冷戦が1989年終結し、ソ連・ユーゴスラビア連邦は、1993年、解体し、共産主義政治経済体制は終わった。EU、ロシア連邦、旧ソ連加盟国、旧ユーゴスラビア連邦加盟国では、それぞれの議会制民主主義制下で、共産党、社会主義政党は支持を残している。経済・社会活動の仕組みは、資本主義体制に移行し、冷戦体制時代よりは、相互間の民間取引は、はるかに、取引量は増加している。
 新古典派にある最適政府論は、最適租税論のもとに、国民の社会的厚生を最大にする最適公共サービス供給論にまとめられるかもしれない。社会的厚生関数の存在をうさん臭く思う経済学者は、多く存在する。1年間、経済・社会活動の成果は、階級に従って分配されると考える社会主義者は、公共サービス供給も、階級的分配になる。しかし、最適租税論では、公共サービスの財源は、最下層の階級は、サービスの恩恵は受けるが、課税さえることはない。また、最上層の階級は、サービスの提供をは受けないことで、満足している。公共サービスの財源負担は、所得を稼ぐか、働く労働者が累進的に負担し、公平に、公共サービスの提供を受けている。公共サービスを累進的負担金で、公平に享受する仕組みを運営する主体が、議会制民主主義で選出された政党・政府である。
 この理論を、東西冷戦終結後、書いたのだが、いまだに、日の目を見ることはない。現在、政府部門の経済・社会活動規模が、大きくなりすぎている。マクロ経済モデルの最適化理論を研究している中で、長期モデルでは、政府部門の経済・社会活動の最適決定過程を導入する必要がある。例えば、地球温暖化対策で、各国政府が実質ゼロを30年間で達成するという経済・社会活動は、機械的な計画では、達成できない。
 日本の人口構造の長寿化で、社会保障費の増大に、消費税を充てる議論が進み、10%になった。新古典派成長論は、人口構造を仮定し、長期的には、経済成長の内容に、新製品、新産業など需要の創造を伴う技術革新があれば、経済平衡点に、早く収束することを主張している。最適な、「小さな政府」で、社会保障サービスの需要者に最適な提供をし、市場経済に新製品、それらを供給する新産業など需要の創造を伴う技術革新を支援する制度、投融資をするのが、その理論に沿った財政になり、国債残高は減少する最適経路が存在するということを示すのが、『財政学』の役割である。

6.3  財政政策の有効性

 前回、日本銀行の金融政策は、改正法まで、役員会の金融政策の運営責任を自覚して、政策目標を決定し、政策手段を実施していたようには思えないとのべた。近年の日本銀行の失敗は、バブルを放置したことであるが、バブル後、学界では、マネタリストの発言が大きくなり、急激に利子率を上昇させ、銀行を貸付金の回収に追い込むべきではなく、ソフトランディングさせるべきだと、1929年以降の米連邦準備制度理事会の政策と重ね合わせた議論が多かった。これは、リーマン・ショックの際、米連邦準備制度理事会は、日本の経験を参考にしたようだ。世界の金融界は、米金融機関のサブ・プライム・ローンの証券化で大迷惑したわけだが、中国、ロシアも、新興国も景気後退に対して、財政政策がとれる国は、内需を支え、中国は南欧の国債暴落を買い支えた。日本は、財政政策で内需を支え、米国のサブ・プライム証券を買った銀行は少なく、金融システムにダメージがなかったことは幸いだった。米銀行、米証券、米保険は日本から撤退していった。
 今考えると、中国が南欧の国債暴落を買い支えたことは、当時、問題視されなかったが、ギリシャや南欧などを債務漬けにし、それを、てこに「一帯一路」の戦略構想を実現する布石だったようだ。その証拠に、ギリシャは、すでに、中国に港湾を与えている。ロシアにキプロスを与えてトルコに対抗しているギリシャは、すでに海運資本が資本逃避しているから、主要産業は観光と農林漁業で、公的企業と公務員が巾を利かす社会主義国家であり、中国には、ギリシャ政府の窓口で話しやすいのだろう。
 2010年以降、中国経済が膨張し、EUへの終点地港湾と契約し、「一帯」の拠点攻略に入っていたわけで、日米豪は対抗上、従来の軍事、経済関係を維持するように要請する展開になっている。そこに、トランプ大統領が登場し、中国経済が膨張に、米国が利用されることに反対し、米中貿易戦争の最中である。
 中国が債権国を盾に、使用権を確保し「一帯」の拠点攻略することは、中国の自己中的な戦略であり、従来の関係が築かれている国々から批判が高まっている。
 従来の関係が築かれているアジアとヨーロッパと間の自由経済回廊と、中国の主張する「一帯」は、中国の製造業の製品を輸出することが目的ではなかろうか。それらの国々に中国製品を供給していくのである。日本はそこまで厚かましく売り込んではいかないが。米国も悩むが、日本も、技術ただ取り、知的財産権を無視して、偽ブランドを新興国に売り込まれると困る。2019年は、以上で終わっている。
 2020年に入って、2月から、中国武漢発の新型コロナウイルスの流行が始まり、緊急事態宣言下、経済・社会活動は、部分的に停止し、財政の緊急支援が必要になった。日本銀行も、企業、個人業に資金繰りを支援することになった。緊急事態宣言が開城されると、その反動で、第2波が発生し、小康状態になると、冬季に入り、再び、流行都道府県で感染者の増加がみられた。その後、第4波と第5波が流行し、2021年、11月では、第5波は小康状態になった。以上のような、緊急事態に対する財政・金融政策が実施中であり、政府・日銀は、経済・社会活動が2019年の活動水準に復旧するまで、国民を支えるしかない。
 財政政策の有効性については、経済理論では、財政支出の経済的効果は、即時的効果があっても、経済全体に波及する効果は弱いという見解が多数です。特に、国際貿易に依存度が高い開放経済国では、財政政策は、経済成長や、雇用には、効果はありません。日本では、自公政府が、景気対策と称して、補正予算を組むということを毎年、実施していますが、日本経済を押し上げる効果はありません。かつて、全国土木事業がある時代のイメージを政治家がもっていて、補正の知恵を絞りだそうとするのですが、地方人口減少で、土木事業の対象がないのです。反対に、人口が集中する都市は、土地が密集建物で埋め尽くされ、やはり、公共用地がなくなり、無料の最深度地下30メートルを利用するか、サービス業しかありませんから、ここには、バラ撒けないのです。メインテナンスの時代になっているかもしれません。たとえば、決壊した千曲川の河川敷を利用したりんご畑を、掘りあげて、千曲川の流量を底上げする、ダムの蓄積した土を排出する、それは、建材に利用して、利益を上げる。かつて、京都左京区上高野にもどったとき、鴨川に三条まで中州ができて、見苦しかったが、国土交通省が、中州をダンプを入れて、撤去した。当時の民主党代議士への忖度かと思った。全国的に、河川敷利用を禁止するほうが、100年に一度の洪水災害に対する防災効果が上がる。首都圏で言えば、相模川、多摩川の河川敷利用は禁止するということである。地震、津波等の大規模災害には、その河川敷を利用するに決まっている。
 デジタル政府機構を、中央・地方政府をつないで、中期的に、構築するデジタル庁が開設された。公共サービスの提供と徴税システムが、中長期的に、稼働し、進捗状況も、リアルタイムで、政府中央コントロール室で「見える化」されるだろう。サービスの需給バランスは、リアルタイムで把握でき、弾力的に、供給できるようになる。コロナ禍で例を取れば、感染者の発生から2週間の観察期間中、サービスの供給は、命にかかわる問題であるから、最優先で、サービスが余剰な地域から、その感染者に、観察期間中に、症状の段階が上がれば、医療サービスを提供できる。

今週(2021111日~115)の影響度
 先週のイベントは、27日に日銀政策委員会金融政策決定会合が28日までありました。日銀の政策変更はなく、欧米の物価上昇と日本の物価上昇は、リンクせず、目下、進行中の円安は、輸入物価を上昇させるが、ガソリン・軽油以外は、企業内で負担され、消費者物価上昇要因にならない。物価の見通しは0%としています。28日に、欧州中央銀行理事会が開かれました。物価が想定以上に上昇中のなかで、一時的と見て、量的緩和は続行するが、12月の会議で、物価上昇を見極めて、政策を変更するか、議論するようです。30日に、G20首脳会議がローマで開かれました。最低課税のための国際課税のルールを採択しました。企業の7月~9月期決算が発表されました。29日が統計集中日でした。
 今週のイベントは、31日は、衆議院議員選挙でした。自民党が過半数を獲得しました。31日に、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議COP26がイギリスグラスゴーで開かれます。2日米連邦公開市場委員会が3日まで開かれます。4日にOPECプラスの閣僚協議があります。
 経済統計は、次の発表がありました。
                          予想値     実現値
28日 米7月~9月期GDP前年比    2.5%     2.0
    GDPデフレータ       5.5%      5.7
   日百貨店・スーパー売上高  -3.2%    -1.3
29日 日有効求人倍率          1.14             1.16
   日完全失業率             2.8%     2.8
   日鉱工業生産指数速報前年比    0.2%    -2.3
   日東京消費者物価指数     0.3              0.1
   米PCPコアデフレータ     3.7%     3.6
 経済統計は、次の発表があります。
                  予想値     実現値
5日 日9月家計調査        -3.0
    10月雇用統計        4.7


9回目 2020119

要点 9章 マクロ貨幣経済モデルと経済政策
ポイント
・古典派マクロ経済モデルの均衡を理解する.
・金融政策の効果を調べる.貨幣数量説と貨幣の中立性が成立することを理解する.
・ケインズ・マクロ経済モデルの均衡を理解する.
・財政政策と金融政策の効果を調べる.
・物価水準の決定を示し,財政政策と金融政策の効果と合わせる.貨幣数量説と貨幣の中立性は成立しないことを理解する.

9.1 古典派マクロ経済モデルの市場均衡および金融政策

古典派マクロ経済モデルの枠組み
 完全雇用モデルに対応して、CASE にしたがうことにする。
政府部門がない場合,古典派マクロ経済モデルの各市場均衡式は次のように表せる.
古典派モデルの各市場均衡式

                                   
 
      財市場    Y = C(wP) + I(i )
フロー   労働市場    NS(wP) = ND(wP)
      債券市場  S(iY) = I(i)

ストック   貨幣市場  M =kPY

未知数:実質賃金率wP,実質利子率 i,物価水準 P

各関数の定義

      実質生産関数     Y  = F(K0N)
       実質消費関数    C  = C(wP)
       実質投資関数     I   I(i)
      実質貯蓄関数       S   = S(iY)
       実質労働供給関数   NS = NS(wP) 
               実質労働需要関数   ND = ND(wP)
      名目貨幣供給関数  MS  = M
      名目貨幣需要関数  MD  = kPY

 図をもちいて, 古典派マクロ経済モデルの3つの変数wPi,物価水準Pがどのように決まるかを説明する.
 古典派では,家計の主体的均衡から,家計の消費需要関数,労働供給関数、貯蓄関数が導かれる.古典派では,政府は均衡財政を取る.すなわち,政府支出G0,租税T0 とすると,均衡財政はG0T0である.
消費財と余暇時間の選好

 期間は2期間とする.第1期に貯蓄できるが,第2期では,遺産を残さない.消費者は,消費財を束として,余暇時間との間の選好関係を考える.家計の効用関数をu = c1 c2 l1 l2とする.家計は,労働することによって,所得を得るが,来期のために、貨幣で貯蓄する.それを消費財の束(c1c2)にすべて支出する.消費財の束の価格は,(p1p2)とする.一方,市場が開かれている短期において,各期間の総時間を同じTとし,家計が,労働に費やす時間はTl1,余暇時間(l1l2)とする.労働は,時間によって測られるとする.家計の初期貨幣保有高は,m0,期間1の貨幣保有高m1をとする.これが貯蓄である.
 家計は,消費財の量(c1c2)と余暇時間(l1l2)に対して,序数的効用を持つとする.効用関数であらわせば,uu(c1c2l1l2) である.さらに、コブ・ダグラス型の効用関数uc1 l1c2l2を仮定する.予算制約式は,p1c1m1w1Tl1)+m0p2c2w2Tl2)+(1i)m1,ただし,0 l1 T0 l2 Tである.予算制約式の右辺の各w1, w2は,名目賃金率である.金融市場において,貨幣m1は利子率iで資産運用できるとする.
 家計は,予算制約式のもとで,効用関数を最大にするよう,消費量と余暇時間の組み合わせを選好する.

問題I 消費量(c1c2),余暇時間(l1l2),総時間(T1T2),時間給w1, w2,貨幣保有高m0m1,労働量N1Tl1N2Tl2とする.p1c1m1wTl1)+m0p2c2w2Tl2)+(1i)m1

    max       uc1 l1c2l2 subject to p1c1m1w1Tl1)+m0
{ c1c2l1l2 }           p2c2w2Tl2)+(1i)m1
 2期間の予算制約式は, (1i)p1c1p2c2(1i)w1Tl1)+m0}+w2Tl2)である.ラグランジュの未定乗数法によって,最適解を求める.
Lc1 l1c2l2-λ[(1i)p1c1p2c2(1i)w1Tl1)+m0}-w2Tl2)]とおく.
L  l1λ1p10L  c1-λ1w10
c1                     l1  
L  l2λ2p20L  c2-λ2w20
c2                     l2 
L (1i)p1c1p2c2(1i)w1Tl1)+m0}-w2Tl20
∂λ
ゆえに, c1=λw1c2=λw2l1λp1l2λp2c1(w1p1) l1 c2(w2p2) l2
c2=(w2w1c1
l1=(p1w1c1
l2=(p2w2c1
(1i)p1c1p2c2(1i)w1Tl1)+m0}-w2Tl20
(1i)p1c1p2w2w1c1(1i)w1T-(p1w1c1)+m0}-w2T-(p2w2c10
(1i)p1p2w2w1)+(1i) p1p2c1(1i)w1Tm0)+w2T
(1i)p1p2w2w1)+(1i) p1p2)}c1={(1i)w1w2T(1i)m0
c1=[{(1i)w1w2T(1i)m0]/2 (1i)p1p2p2w2w1)}
l1=(p1w1c1
最適貨幣保有高m1は,次のようになり,これが最適貯蓄である.
p1c1m1w1Tl1)+m0
m1w1Tl1)+m0p1c1w1T-(p1w1c1)+m0p1c1
w1Tm02p1c1w1Tm02p1[{(1i)w1w2T(1i)m0]/2 (1i)p1p2p2w2w1)}
最適余暇時間l1から,労働供給量N1が決まる.
N1Tl1Tp1w1c1Tp1w1[{(1i)w1w2T(1i)m0]/2 (1i)p1p2p2w2w1)}.
以上の結果から,古典派の消費関数c1は,実質賃金率w1p12期間の所得(1i)w1w2T,貨幣保有高m0,利子率iに依存する.貯蓄関数m1および労働供給関数N1は,消費関数と同様である.
 債券市場では,企業の投資関数が,p. 47-48のように,I=(αp1i1Y1K0で決まる.
 効用関数,生産関数にコブ・ダグラス型を仮定すれば,計算式の表示は,複雑になるが,財市場,労働市場,債券市場,貨幣市場で,3つの変数wPi,物価水準Pの均衡値が求められる.
 古典派の財政政策は,均衡財政が原則であるから,政府支出の増加は,増税で賄う.増税の分だけ,民間の貯蓄は減るから,民間の投資は減り,利子率が上昇する効果が出る.古典派の金融政策は,貨幣市場の均衡式MkPYから,貨幣数量説「貨幣供給量を増加させれば,物価がその分上昇する」が成立するので,通貨の価値が下落する.貨幣の価格は,均衡式を変形し(1PMkYから,1Pで計る.Pが上昇するならば,逆数は下落する.貨幣の中立性は,「実質所得Y1が,実質賃金率wPで決まるので,貨幣の増加に影響されない.」ことをいう.
 貨幣を導入した問題Iによって,家計の3市場の需要関数,供給関数を求める場合,貨幣数量説および貨幣の中立性は,計算中である.
以上,古典派モデルでは,財政政策は,利子率を上昇させ,民間投資を減少させる.金融政策は,物価を上昇させる.実質所得は変化しない.労働市場は,均衡労働供給量は,完全雇用である.

今週(2021118日~1112)の影響度
 先週のイベントは、31日は、衆議院議員選挙でした。自民党が過半数を獲得しました。31日に、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議COP26がイギリスグラスゴーで開かれました。各国首脳は、温暖化の危機感は共有したが、各国の削減目標を30年まで、上乗せするだけで、気温上昇15度以内目標には、削減総量が少ない。2日岸田首相が選挙後、記者会見をし、成長・分配のために、数十兆円を投入し、賃上げをする企業に給付金、非正規労働者等、低所得者に給付金、今冬のコロナ対策を表明しました。2日米連邦公開市場委員会が3日まで開かれました。FRBは、11月から量的緩和の縮小に踏み切りました。226月まで、月1200億ドルの債券購入を月150億ドルずつ8回減らしていく計画です。4日にOPECプラスの閣僚協議がありました。原油追加増産は見送りました。次回は、122日です。
 今週のイベントは、8日中国共産党の第19期中央員会第6回全体会議が11日まで開かれます。10日特別国会召集、会期は12日までで、第2次岸田内閣が発足します。11日に中国で「独身の日」通販セールがあります。12日アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれます。
 
 経済統計は、次の発表がありました。
                   予想値     実現値
4日 米貿易収支           -802億ドル -809億ドル
5日 日9月家計調査         -3.0       -1.9
    10月雇用統計          4.7        4.6
7日 中貿易統計                3,859億元   845億ドル(5407億元)1$=6.3993元5日17時

 
経済統計は、次の発表があります。
                   予想値     実現値
8日 日9月景気動向調査景気一致指数  87.5
           景気先行指数  
97.5
9日 日9月の国際収支経常収支    10,963億円
          貿易収支    -3,572億円
10日 米消費者物価指数         5.8
   中10月の消費者物価指数              1.1


10回目 20211115

要点 9. 2 ケインズ・マクロ経済モデル市場均衡および金融政策
ポイント 線形化したモデルで、均衡を求める
・各関数の定義
・市場均衡式
・均衡解を求める
・財政・金融政策の比較静学効果を求める

 ケインズ・マクロ経済モデルは、財・サービス市場、労働市場の2つのフロー市場とストック市場である貨幣市場、合わせて3の市場で構成される。政府部門が導入される。輸出・輸入は省く。不完全雇用モデルに対応して、CASE にしたがう。

ケインズ・閉じたマクロ経済モデルの各市場均衡式
      財市場 Y C(YT0)I(i)G0         45度線による均衡図示) 91
フロー      または S(YT0)T0= I(i)G0 (貯蓄・投資の均等図示)  92
         
        92式の導き方 

        貯蓄の定義SYT0CからYCST0を財市場の91式左辺に代入し,
        CST0CIG0よりST0IG0
      労働市場 NS(0)ND(0P)
ストック 貨幣市場 MP kYL2 (i)

未知数YiP       政府支出Gおよび租税Tは外生変数である.

各関数の定義                    線形化の定義
 生産関数         Y  = K0αNⅠ-α
 消費関数       C   C(YT0)     CC0 c(YT0) 
 投資関数       I = I(i)               II0bi
 労働供給関数     NS = NS(w0)          NSw0
 労働需要関数      ND = ND(w0P)      NDP(1-α)YN
 実質貨幣供給関数    MS = MP
 実質投機的貨幣需要関数 L2  = L2 (i)       L2=-hi
 実質貨幣需要関数    LD  = kYL2 (i)     LDkYhi
ここで,w0は協定貨幣賃金率P物価水準である.

 古典派とケインズモデルとの違いは、
・消費関数が、実質可処分所得YT0に依存する。
・労働供給巻子が、使用者側との協定賃金率w0に依存する。組合に所属しない労働者は、考量されない。
・貨幣需要関数について、新古典派のマーシャルは、マーシャルkの分ほど、名目所得PYを、次期の取引のために保蔵するとして、貨幣市場均衡式をMk P Yとした。ケインズは、貨幣保有の動機として、取引動機、予想される支出、たとえば、冠婚葬祭、旅行、耐久消費財の購入などのための予備的動機および資産の一種としてゼロ収益率貨幣を投機的動機に挙げた。取引動機および予備的動機は、マーシャルの設定と同じ、実質需要kYで表され、実質投機的需要は、債券利回りiに依存し、L2 (i)であらわす。これらの貨幣需要を加えた貨幣の実質需要関数LD kYL2 (i)を流動性選好関数という。貯蓄Sのうち、取引需要および予備的需要は、kYで決まり、残りは、蓄積された貸借対照表勘定にある貨幣残高に追加され、他の資産と何らかの基準で資産選択される。ケインズの貨幣市場は、取引需要は利子率に反応しないが、投機的需要は利子率に反応するので、縦軸を利子率にとり、横軸を貨幣量にとる図で、貨幣市場の均衡が成立する。債券利回りiは、物価上昇率pの影響を除去した実質利子率riを表す。フィッシャーの関係式を用いると、実質利子率はri= ipである。

 テキストでは、9.3節において、図をもちいて、ケインズ・マクロ経済モデルの3つの変数YiPがどのように決まるかを説明している。IS曲線とLM曲線を導いて、実質所得と利子率を決定することを示す。AD曲線とAS曲線を導いて、物価水準を決定することを示す。
 線形モデルでない場合は、図で示すしか、方法はない。線形化した場合、以下のように、解が求められる。さらに、政策変更による効果も計算できる。
IS曲線は、財市場の均衡式YC(YT0)I(i)G0に、線形化した関数を代入する。
YC0 c(YT0) I0biG0
bi=-(1cYC0I0G0cT0 は、IS曲線である。
LM曲線は、貨幣市場均衡式MP kYL2 (i)に、線形化した流動性選好関数を代入した
MP kYhiは、すなわち
hi kY MP LM曲線である。
AD曲線は、IS曲線に、i (1h(kY MP)を代入する。
(bh(kY MP)=-(1cYC0I0G0cT0
(bh(k1c) Y(C0I0G0cT0)PMAD曲線である。
AS曲線は、労働市場均衡式w0P(1-α)YNから、NP(1-α)Yw0を生産関数に代入する。YK0α{N1α}K0α{ P(1-α)Yw0}Ⅰ-α
P{w0(1-α)} K0-α/(1-α) Yα/(1-α) AS曲線である。α=12のとき、
P2w0 K01Yとなる。簡単化のため、これをAS曲線とする。総需要=総供給で、
(bh(k1c) Y(C0I0G0cT0))2w0 K01Y M         (1)
(bh(k1c) 2w0 K01 Y2 (C0I0G0cT0)2w0 K01YM 0     (2)
これは、二次関数で、正負2正根がある。正根YAS関数に代入すると、均衡物価水準Pが求められ、LM関数に、これらを代入すると、均衡利子率iが得られる。
 財政政策は、均衡式(2)において外生変数G0T0Mを内生変数とみて、全微分する。
(bh(k1c) 4w0 K01YdY(C0I0G0cT0)2w0 K01dY2w0 K01Yd G0
c2w0 K01YdT0dM=0
dY   =             2w0 K01Y
dG0     (bh(k1c) 4w0 K01Y(C0I0G0cT0)2w0 K01
dY   =             -2 c w0 K01Y
dT0     (bh(k1c) 4w0 K01Y(C0I0G0cT0)2w0 K01
dY   =             1                
dM     (bh(k1c) 4w0 K01Y(C0I0G0cT0)2w0 K01
 金融政策は、均衡式(2)AS曲線YP2w0 K01を代入、PMについて全微分する。
{(bh(k1c)2P dPw0 K01 (C0I0G0cT0) dPdM 0 
dP =            w0 K01   
dM   (bh(k1c) 2P(C0I0G0cT0) w0 K01
 これらの乗数は、GDP:Yと物価水準Pが入って、定数ではなく、変動乗数である。金融政策は、乗数の分子は定数なので、財政政策と違って、分母のGDP:Yと物価水準Pが増加すれば、乗数が減少する.

今週(20211115日~1119)の影響度
 先週のイベントは、8日中国共産党の第19期中央員会第6回全体会議が11日まで開かれました。10日特別国会召集、会期は12日までで、第2次岸田内閣が発足しました。11日に中国で「独身の日」通販セールがありました。12日アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれました。31日に、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議COP26が開かれ、13日合意文書が採択されました。
 今週のイベントは、レモンド米商務長官とタイ米通商代表部が来日、トランプ氏の置き土産である追加関税品目協議、日米で先端技術の機密情報・試作実物が産官学部門から対中ロへ漏出するのを遮断するシステムを共同で構築、先端技術を装備した製品輸出規制、台湾を含めたサプライチェーンと、台湾侵攻事後バッファー・サプライチェーンを構築する協議をします。
 対中台リスクと対ロサイバー攻撃リスクを入れた日米協議をしないと、中国は台湾侵攻演習を誇示しているので、2022北京オリンピックが終わり、全大中後、中国軍の戦法から、夜襲奇襲攻撃をかけ、防衛網を破壊する可能性は非常に高い。中国が、ロシアと軍事協力を結んでいることは、日本周辺海域で、10月、中ロ軍艦10隻と潜水艦が日本周海演習を誇示したことで明らかです。欧米軍のアフガニスタン撤退で、8月、ロシア連邦は中国軍と中国国内で軍事演習をしています。ベラルーシの反体制派幹部を、強制着陸で逮捕し、東京オリンピックでベラルーシ選手がポーランドに難民になると、ベラルーシ国内の反大統領派に移民する傾向が出たのかもしれません。強制着陸にしても、ロシアの諜報部しか得られない搭乗情報で、ベラルーシ情報部では不可能です。ロシアは、ルカシェンコ大統領を虜にし、ロシア連邦に帰属させる戦略を取っている。シリアのアサド大統領とロシアが虜にした手法とよく似ている。ともに、国民に人気はない。性格に弱い。ウクライナのクリミア半島奪取時や過去のソ連軍東欧侵攻と方法は、同じだろう。プーチン大統領の終身制を決定する国内戦略は、コロナ禍で、ロシア製ワクチンに不信感があり、東欧諸国でも、ロシア製ワクチンを接種した国では、今秋から、感染者が増加して、経済・社会活動が低下している。政府に対する不満は、高まる一方だろう。プーチン大統領は、ベラルーシを分捕ってくるとアピールすれば、国民の不満を紛らわすことができると考えているのでないか。プーチン大統領が自身の終身制を最大の目的にしている限り、取りうる手段は何でもすると思われます。習主席が終身主席を取るためには、台湾奇襲作戦は、第一段階としてありうる。香港の自治権を奪取、香港経済を中国の国富に追加し、中国共産党員は、香港の財産を中国に追加でき、お宝、税金・予算をいただいたと、習氏を讃えています。台湾も同じことで、資産国を軍事進攻で、ガメ取っていいものなのか、歴史的にそういう蛮行が数え切れなくあったものか、考えさせられる。台湾侵攻が政こすれば、戦利品は、膨大な額になるので、中国共産党としては、ペイする戦争である。日米韓がボーと見過ごすわけには、いかない。日本国民は、アフガニスタンの協力者撤退作戦のような失敗は許さないだろう。
 NATOが、ロシアのベラルーシ侵攻に対応すれば、中国の台湾奇襲作戦に、EUNATOを台湾防衛に関与できない。当面、対中経済制裁しかない。自由貿易圏防衛網に参加する各国も、対中国経済封鎖しかできない。中国に進出している世界の企業は、生産を中止、従業員を引き揚げさせることになる。実質的な対応規制と台湾侵攻対中リスク対応が早急に求められると思います。それによって、中国進出日本企業や中国人の理系留学生に対する対応が決まり、米国の関与の程度を決定してもらえれば、その行動基準に従って、対中台ビジネス・研究活動が続けられます。米国が規制やサプライチェーンに要請するものが、その都度、変更され、日本政府が規制してくるのであれば、これまでの対中企業活動にコストがかかりすぎ、利益が減少します。
 経済統計は、次の発表がありました。
                   予想値     実現値
8日 日9月景気動向調査景気一致指数   87.5     87.5
           景気先行指数   97.5     99.7
9日 日9月の国際収支経常収支    10,963億円   10,337億円
          貿易収支   -3,572億円   -2,299億円
10日 米消費者物価          5.8%    6.2
   中10月の消費者物価指数             1.1%    1.5
 経済統計は、次の発表があります。
                   予想値     実現値
15日 日79GDP速報値     -0.7
   中10月の社会消費品小売総額   1.1
           鉱工業生産      10.8
16日 米10月の小売売上高       1.1
17日 日10月の貿易収支      -3,200億円
19日 日10月チェーンストア売上高   
    10月の消費者物価指数     0.1


11回目 20211122
要点 10章 開放マクロ経済モデルと経済政策
101 開放マクロ経済モデルにおける労働市場と為替市場
   1 労働市場の均衡
   2 為替理論と為替市場

101  マンデル・フレミング開放マクロ経済モデル
 従来のマンデル・フレミング・開放マクロ経済モデルでは、総供給線と総需要線で一般物価水準が決まることは、書かれていなかった。総供給線は労働市場の均衡式である。資本の移動は自由であるが、労働移動の自由はない。労働市場は、国内市場で閉じている。もう一つ、為替市場で購買力平価説か金利平価説かは、書かれていなかった。2019年テキストでは、労働市場と為替市場を陽表的に導入した。
10.1.1 労働市場の均衡
 労働市場の均衡から、総供給曲線を導く。労働市場は、ケインズの協定賃金の場合と新古典派の完全雇用の場合と2つある。前者をCASE I、後者をCASE Ⅱとする。労働の需要関数はともに同じだが、労働供給関数の理論が異なる。
CASE I
  ケインズの労働市場では、協定賃金で働ける労働者が雇用される。いわゆる、非正規労働者は、時間給で働く。完全雇用は、労働力人口で計り、労働組合員であるとする。日本の労使協議の慣行では、春の労使協議で、協定賃金のベースアップ率およびボーナスの月数を決定する。非正規労働者は、最低賃金が政府の審議会で決定され、各都道府県でその額の格差はある。非正規労働市場は、完全競争市場メカニズムが働いているが、ケインズモデルでは、協定賃金で働く労働者と最低賃金以上の働く非正規労働者を合わせて、2つの労働市場を総労働市場とすべきであるが、教科書では、前者だけを取り扱う。労働者が求職活動中である場合を摩擦的失業という。その国に発生した経済ショックで、構造的に失業が発生した場合、労働力人口を「働く意思のある労働者がすべて雇用される労働者人口」と定義すると、完全失業者は、構造的失業者をいう。協定賃金下、完全競争賃金を決定する労働市場均衡を図示できる(西村和志『金融論』晃洋書房、2005年、pp254-257)、ここでは、協定賃金下の労働市場を考える。
 摩擦的失業以外の協定賃金w1で働く意思のある労働者数Nとする。労働者の労働供給関数は、ww1である。企業の労働需要は、利潤最大化で決まる。労働需要関数は、利潤最大化の必要条件から、wPFNである。労働市場の均衡式はw 1PFNとなる。
 生産関数に、コブ・ダグラス生産関数YK0 αN 1-αを仮定し、労働市場の均衡式から、一次関数の総供給線ASを求める。
FN(1-α) K0 αN -αを労働市場の均衡式w 1PFNの右辺に代入し、
w 1PFNP (1-α) K0 αN -αP (1-α) K0 αN 1-αNP (1-α)YN
NP (1-α)Yw 1を生産関数YK0 αN 1-αに代入し、総供給関数AS
P={w 1 (1-α)K0Yとなる。物価水準Pは、国民所得Yに正比例する。
CASE
 新古典派の労働市場では、労働者は時間給で働く。働きたい労働者はすべて雇用される状態を完全雇用と定義する。ケインズの協定賃金と時間給の労働者の二分はない。労働の需要関数は、ケインズと同じである。
 第9回目の問題Iでは、2期間、貨幣を資産市場で運用した。ここでは、1期間で、貨幣を保有するだけで、資産市場で運用しない。貨幣保有量は、最適問題の前に、保有量mが決められている。労働の供給関数は、消費者の消費財と余暇時間の効用関数を予算制約式のもとで、最大化し、最適消費量と余暇時間を求め、総労働時間から最適余暇時間を差し引き、最適労働量を求める。消費者は次の問題を解く。

問題Ⅱ 消費量c、余暇時間l、総時間T、時間給w、貨幣保有高m労働量NTlとする。
max  u(c, l )  subject to pc w (Tl )m
{c, l }
解 u  =λp u  =λw より、-dc w およびpc w (Tl)mで求める。
  c            ∂l         dl    p                 □

効用関数u(c, l)が特定化されれば、次のように、最適余暇時間が求められ、最適消費量、最適労働供給量が決まる。

例題 u(c, l)cl とする。l=λpc=λwだから、c=λw=(wpl。これを予算制約式pc w (Tl ) mに代入して、pwpl w (Tl ) ml(1/2)(Tm/w)が最適余暇時間である。最適労働供給量はNTlT(1/2)(Tm/w)(1/2)( Tm/w)である。最適消費量はc=(wpl=(w2p(Tm/w)である。                                     □

訂正: l(1/2)(Tm/w)は、l(1/2)(Tm/w)でした。

労働の需要関数wP (1-α)YNから、NP (1-α)Ywである。新古典派労働市場の均衡は、(1/2)( Tm/w)P (1-α)Ywとなる。したがって、総供給関数は、P Y(1/2)( Tm/w) w(1-α)と表せ、双曲線である。
CASE IおよびCASE Ⅱは、前者の総供給曲線は原点を通る直線であり、後者は原点に対して凸の直角双曲線であるから、交点が一意に決まる。すなわち、P={w (1-α)K0YPAYとおき、P Y(1/2)( Tm/w) w(1-α)P YBとおくと、P 2A BP =√A B

10.1.2 為替レートの決定理論と為替市場
1) 購買力平価説
 国際取引される財で、物価指数を作ると日本の物価指数をP、世界の物価指数をPwとし、
名目為替レートをeとすれば、PePw 表せる。これを購買力平価という。購買力平価説は
長期的に成立するといわれる。PePw の両辺に対数をとると
log P = log e + log Pw
plog P pwlog Pw s = log eと表してppwsとも表される
2)金利平価説
 円金利i、ドル金利iw、直物為替レート(/ドル)es、先物為替レートefとする。

現在の円        円資金市場        将来の円  
1円                      (1i)円
直物為替市場es (/ドル)            先物為替市場ef (/ドル)
1/ esドル                    (1iw/ esドル
1$                       (1iw)$
現在のドル       ドル資金市場       将来のドル

現在の1円は、円市場で運用すると将来では(1iJ)円となる。取引コストがないと
すれば、現在の1円でドルを直物為替市場で買うと、1/ esドルとなり、ドル資金市場で
運用すれば、将来では(
1iA/ es ドルとなる。先物市場でこのドルで円を買えば、
将来では(
1iAef / es円となる。どちらの市場も、円価値は、同じであるから、
裁定取引が働き、(
1iJ)=1iAef / es 。したがって、
先物カバー付き金利裁定条件は、efes(1iJ)(1iA)である。両辺から1を引くと
 (efes)es =(iJ iA)(1iA)
近似的には、
(efes)es  iJ iA 。
先物カバーがない場合は、(efes)es為替レートの変化率e^=(ees)es
置き換
える。すなわち、e­ iJ iA 
3)合理的期待仮説
合理的期待仮説では、為替レートの変化率の主観的期待値Ee^]が、モデル内で決定
される為替レートの変化率の客観的期待値Es˙]に一致する。すなわち、Ee^]=Es˙]。
 合理的期待仮説を先物為替市場に適用すると、市場参加者の主観的先物為替レートが、
市場で決定される為替レートに等しくなる。したがって、先物為替市場がある場合は、
先物為替レート
efを、金利平価説に代入すれば、直物為替レートが決まる。
 近似的には、金利平価説は(efes)es  iJ iAであるから、直物為替レートes
es =   ef     。
    1iJ iA

変動相場制下の為替市場
 実質貿易収支NXNXExImmwYwe Pw(mY ) P資本収支CFCF=ΔBie ΔBwiwとおく。mmwは、限界輸入性向とし、国際収支BPBPNXCFPとする。世界通貨W 1単位当たりの円表示¥の為替レート(¥/W)を自国通貨建という。世界通貨がドルの場合、自国通貨建為替レートは円/ドルで計る。日本債券Bは円表示、世界債券Bwは世界通貨表示とする。期間内の債券量をΔB、ΔBwとする。それぞれの債券価格は、永久債価格の公式PB1iPBw1iwで表す。自国通貨建為替市場は円需要をD¥ で表し、円供給をSで表す。
 円供給は、日本の貿易財を輸入する海外輸入業者がその輸入代金P (mwYw)を、ドルを売って円で支払う。国内証券会社が国内債の注文ΔBiを海外証券会社から受け、ドルを売って円で支払う。為替市場の円供給は、S¥ P(mwYw)+ΔBiである。
円需要は、海外の貿易財を輸入する国内輸入業者がその代金e Pw(mY )を、円でドルを買って支払う。国内証券会社が外債の注文e ΔBwiwを海外証券会社に発注し、円でドルを買って支払う。為替市場の円需要はD¥ e Pw(mY )e ΔBwiwである。したがって、自国通貨建為替市場の均衡は、SD、すなわち、
P(mwYw)+ΔBie Pw(mY ) P e ΔBwiw
によって、均衡為替レートが決まる。
 2020年の金融論ノートでは、101図と違って、教科書的部分市場均衡図のように、外国為替需要曲線は、右下がり、外国為替供給曲線は右上がりに描いていた。縦軸は為替レートであり、為替レートは、相対価格表示であり、自国建て為替レートの場合、¥/$である。このレートが上昇すると、1ドル買いの円貨は増加する。横軸は、1ドルの外国為替を買うための円貨を表している。為替レートの市場均衡図を表す際、縦軸の通過相対交換比率と横軸の為替手形という証券を買う円貨を表していることに留意しなければならない。筆者は、教科書にない図を描いている。つまり、自国通貨建ての為替レートを縦軸に、為替手形の円貨高を横軸に取って、ドル為替需要を外国為替需要関数とし、円為替供給を外国為替供給関数とした。
 自国通貨建為替市場の均衡は、SD、すなわち、
P(mwYw)+ΔBie Pw(mY ) P e ΔBwiw
によって、均衡為替レートが決まる。この均衡式をそのまま図示すると、De {Pw(mY ) P +ΔBwiw}は、図101において、原点を通る直線になり、傾きのPw(mY ) P +ΔBwiwが、世界債券購入量ΔBwの増加で右に回転する。外国為替供給関数は、SP(mwYw)+ΔBiであり、為替レートには反応しない。海外投資家が円債券ΔBを購入すれば、右へシフトする。
 資本移動は、(1) i iwの場合、日本人が世界債券を購入するため、資本流出e ΔBwiwが生じる。資本流入ΔBi0である。(2) i iwの場合、資本流出は0であり、資本流入ΔBiが生じる。
(1) i iwの場合、D1D2、本文154ページ、図101、均衡点Aにおいて、世界利子率が国内利子率より高いとする。資本移動が自由であるから、資本流出e ΔBwiwが生じる。図101において、ドル買いの円需要はD2 e Pw(mY )e ΔBwiwで、右上に回転する。ドル売りの円供給はS1P(mwYw)である。国内利子率iが世界利子率iwに等しくなるまで、資本流出する。均衡はB点である。
(2) i iwの場合、S1S2、図1011、均衡点Bにおいて、世界利子率iwが国内利子率iより低いとする。資本移動が自由であるから、資本流入 ΔBiが生じる。図101において、ドル売りの円供給はS2 P(mwYw)+ΔBiで、右にシフトする。円供給はS1P(mwYw) +ΔBiである。国内利子率iが世界利子率iwに等しくなるまで、資本流入する。均衡はC点である。

今週(20211122日~1126)の影響度
 先週のイベントは、レモンド米商務長官とタイ米通商代表部が来日、トランプ氏の置き土産である追加関税品目協議、日米で先端技術の機密情報・試作実物が産官学部門から対中ロへ漏出するのを遮断するシステムを共同で構築、先端技術を装備した製品輸出規制、台湾を含めたサプライチェーンと、台湾侵攻事後バッファー・サプライチェーンを構築する協議をした。
 今週のイベントは、先週の主要なイベントが終わったため、統計の発表が主にあります。

 欧米で、感染者が増加士、ロックダウンや、接種率上げる義務化をとる国が多くなりました。つまり、日本で予想されている第6波の流行に入ったとみられます。そのため、再び、経済活動が低下するでしょう。日本と同じく、変異株はデルタ株の特徴をもっています。つまり、感染力は当初のウイルスより、強いが、不完全コピーなので、患者臓器内部での増殖力は弱くなっていて、重篤になりにくい、若年者の鼻のど、気管支に付着し、増殖し、拡散するから、感染者は急増するようです。当初のワクチンは、この場合、細胞への付着を阻止する目的で作成されているので、若年者に接種すれば、有効性が高いという結果になっています。米国・ロシアは別として、若年者に接種を進めれば、日本のような、沈静化効果がでる。デルタ株から、原種株へ先祖がえりは遺伝子を失っているので無理で、さらに変異する可能性は、遺伝子を創造しなければならない。デルタ株で、変異は最後になることを期待します。日本は、春先のシーズンにかけて、全世代第3回目を必ず、接種すると、海外からのウイルス持ち帰り対策にもなります。欧米で第6波を迎える国々で、20歳~30歳台がマスクをせず、デモをしています。
 3回目接種もしないし、彼らが、全員とことん集団感染をして、若年者に後遺症がのこるという報告もある。風邪には飲酒・喫煙・大麻・覚せい剤は大敵であるが、この世代では、すべて、やっていると思う。自由放任で、マスクもせず、無防備に、リスクと対決する無接種者に集団免疫を付けてもらうしかない。国としては、彼らは、無料の接種をしないし、デルタの毒性から見れば、急性肺炎で死亡リスクはあるが、入院しないから、強制しようとしても逃げるだろう。日本より早く接種をした国民は、8カ月と言われる効果切れ期限が来ているので、粛々と第3回目を無料でしてあげるべきである。

 22日、中国・ASEAN首脳会議(オンライン)が開かれます。25日アジア欧州会議首脳会議{オンライン26日まで}が開かれます。
 
 経済統計は、次の発表がありました。
                   予想値     実現値
15日 日79GDP速報値     -0.7%     -0.8
   中10月の社会消費品小売総額   3.7%      4.9
          鉱工業生産       3.0%      3.5
16日 米10月の小売売上高       1.1           1.4
17日 日10月の貿易収支      -3,200億円   -674億円
19日 日10月チェーンストア売上高   ―       0.6
    10月の消費者物価指数     0.2%      0.1
 経済統計は、次の発表があります。
                   予想値     実現値
24日 米10月の個人消費支出       1.6
    79月期の米国内総生産改定値  2.2
25日 日10月の全国百貨店売上高      
    10の全国スーパー売上高
   日11月の月例経済報告


12回目 20211129
要点
102 マンデル・フレミング開放マクロ経済モデルの枠組み(線形モデル)
    現行均衡点から長期均衡点への移行
10.2.1 マンデル・フレミング・モデルCASE I
 9章における不完全雇用モデルに対応して、マンデル・フレミング・モデルの不完全雇用CASE Iにしたがうことにする。ドーンブッシュ・フィッシャー『マクロ経済学上・下改訂第4版日本版』1989にしたがった線形化をしている。投資関数、流動性選好関数は、債券価格表示の方法もあるが、一次関数で線形化している。

 RDornbusch氏は、2002725日にガンで亡くなっていることを、最近調べて知りました。R. A. Mundell氏は、202144日に亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。

1021 マンデル・フレミング・モデルCASE I
 不完全雇用モデルに対応して、CASE にしたがう。
各関数の定義       線形化の定義
 生産関数         Y K0αNⅠ-α
 消費関数        C C0 c(YT0)
 投資関数        I I0bi
 労働供給関数       NS w0 (CASE Iケインズの場合)
 労働需要関数      ND P (1-α)YN
 実質貨幣供給関数    MS  MP
 実質投機的貨幣需要関数 L2  hi
 実質貨幣需要関数    LD  kYhi
 貿易・サービス収支関数  NX mwYwe Pw(mY ) P
 自国通貨建為替供給関数 S¥ P(mwYw)+ΔBi
 自国通貨建為替需要関数 D¥ e Pw(mY )e ΔBwiw
w0:協定貨幣賃金率 P:物価水準、i:国内利子率、iw:世界利子率、e:為替レート、
Y:国民所得、Yw:世界国民所得

マンデル・フレミング・モデルCASE Iの各市場均衡式
財市場       YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwePw(mY ) P
労働市場      w0P (1-α)YN
貨幣市場      MPkYhi
自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔBiePw(mY ) eΔBwiw

(1)i iwの場合,資本流入ΔBi0(2) i iwの場合,資本流出eΔBwiw0とする.

未知数YiP e      政府支出G0および租税T0は外生変数である.
貿易収支NXNX ExImmwYwePw(mY ) P資本収支CFCF =ΔBieΔBwiwとおく.国際収支BPBPNXCFPとする.

 (1)i iwの場合,資本流入ΔBi0(2) i iwの場合,資本流出eΔBwiw0とする.

均衡の決定
 財市場均衡式はYC0 c(YT0) I0bi G0mwYwe Pw(mY ) Pであり、IS曲線という。
貨幣市場均衡式はMPkYhi であり、LM曲線という
IS曲線に、LM曲線の利子率i(1/h)(MPkY )を代入すると、次の総需要曲線ADが求められる。
(1ce PwmP)Y C0 cT0I0G0mwYw(b/h)(MPkY )
 労働市場均衡式からP={w 0 (1-α)K0Yとなる。総供給曲線ASという。
ASから、Y A P A(1-α)K0w 0 ADに代入すると3市場が均衡する価格と為替レートの組み合わせであるQQが導かれる。
(1ce PwmP) A P C0 cT0I0G0mwYw(b/h) (MPk A P )
(1c) A Pe PwmAU(b/h) (MPk A P )、ここで、UC0 cT0I0G0mwYwとする。

e PwmAU (1ckb/h) A P(b/h)MP。これをQQという。         (1)
最後に、為替市場からi iwの場合、P(mwYw)ePw(mY )eΔBwiw
Y A Pを代入すると、P(mwYw)ePw(m A P)eΔBwiw
eP(mwYw){ Pwm A P+ΔBwiw }これをEEという。          (2)

現在均衡点の求め方
 方程式は次の4本で,未知数は,YPieであるから,この線形モデルでは,P2次方程式となり,正負の実根がある.i iwの場合,
e PwmAU (1ckb/h) A P(b/h)MP  (1)
MPkYhi
Y AP
P(mwYw)ePwm A P eΔBwiw (2)
ここでは,(1)(2)の式から,解(P1 *e1 *)がえられ,図10.1に図示する.QQ線とEE1線との交点は、図10. 1において、P2負根と1正根で、3交点がある。QQ線とEE1線との交点Aが均衡点P1 *e1 *である.

長期均衡点への移行
 10. 1において、資本流出eΔBwiw0が生じ、資本移動の完全性によって、i iwとなるまで続く。ΔBwiw0になり、利子率の長期均衡はi iwである。EE1線の縦軸は、e軸方向に移動し、EE2線になる。
資本流出が止ったときの均衡為替レートは、ΔBwiw 0となり、eP **  (mwYw)Pw(m A P** ) mwYwPwm A である。これは、購買力平価説の表現になる。
資本流出が止ったとき, CASE Iでは、不完全雇用を仮定しているから、労働市場では、不完全雇用の状態にあるかもしれない。Y **A P **である。
 労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P f が長期均衡値である。P={w 0 (1-α)K0YP Y(1/2)( Tm/w0) w0(1-α)から、
P f =√{w 0 (1-α)K0(1/2)( Tm/w0) w0(1-α)
Y f =√(1/2)( Tm/w0) w0(1-α)/{w 0 (1-α)K0}。
完全雇用均衡為替レートは、資本流出が止っているから、ΔBwiw 0となり、eP f (mwYw)Pw(m A P f ) P f (mwYw)Pw(m Y f )である。これは、購買力平価説の表現になる。
貿易収支はNXmwYwe Pw(mY ) PmwYw-{P f (mwYw)Pw(mY f )Pw(mY )P f mwYwmwYw0であるから、このとき、NX0となり、資本収支CFP0であるから、国際収支は0となり国際均衡する。
 EE線は、EE1からEE2に移行する。現在均衡点Aは均衡点Bに移行する。資本流出で、完全雇用均衡点Cに移行することはできない。
その結果、1)国民所得は減少する。
     2)利子率は世界利子率になる。
     3)物価は下落する。
     4)為替レートは減価する。ただし、この線形モデルでは、オーバーシュートは
      比較静学なので発生しない。

今週(20211129日~123)の影響度
 先週のイベントは、22日、中国・ASEAN首脳会議(オンライン)が開かれました。
習氏は、中国はASEANに対して、包括的戦略パートナーシップに格上げし、ASEAN地域に覇権を行使せず、大国中国が小国連合ASEANを虐めることはしないと述べています。さらに、ワクチン1.5億回分を追加提供、おそらく、貸し込んでいるラオス・カンボジア・ミャンマー・インドネシア経済に対するテコ入れのため、3年で、15億ドルの経済支援をします。さらに、カナダ・米国・オーストラリアの農産物に依存している現在、中国食糧安保の観点から外交力を拘束されるため、5年間で1500億ドルの農産物購入をASEANで確保すると約束しています。また、ASEANの技術者を中国に招き、中国製品を普及するための要員を育成し、中国科学技術を供与すると言っています。
 25日アジア欧州会議首脳会議{オンライン26日まで}が開かれました。議長声明では、航行と空路の自由を確保し、国際法の完全順守を確認し、民主主義国との協力を表明した。
 今週のイベントは、121日新型コロナウイルスワクチン3回目接種が開始になります。2日に、OPECプラスの閣僚会合が開かれます。
 経済統計は、次の発表がありました。
25日内閣府11月の月例報告において、個人消費が「持ち直しの動きがみられる」、輸出は「おおむね横ばい」の判断をしました。
                    予想値     実現値
24日 米10月の個人消費支出       1.6         1.7%
    79月期の米国内総生産改定値  2.2         2.1%
25日 日10月の全国百貨店売上高              2.9%
    10の全国スーパー売上高            3.7
 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値     実現値
30日 日10月の有効求人倍率        1.17
    10月の完全失業率         2.8
    10月の鉱工業生産指数      -4.4
   中11PMI             49.8
2日  米11月のISM製造業景況指数     61.0
3日  米11月のISM非製造業景況指数    65.0
     11月雇用統計           4.5


13回目 2020126

要点
10.2.3 変動為替相場制下、財政政策の無効性・金融政策の有効性
10.3 マンデル・フレミング・モデルCASE
10.3.1 CASE Ⅱ現行均衡点から長期均衡点への移行
10.3.2  CASE Ⅱ・金融政策の有効性

10.2.3 変動為替相場制下、財政政策の無効性・金融政策の有効性
2)金融政策は有効である
 現在均衡点Aにおいて、世界利子率iwと国内利子率iは一致しているとする。金融当局は、金融政策によって、ΔM増加させる。QQ線は、QQ1からQQ2に移行する。EE1線は、当局の為替介入政策がないから、そのままである。国内利子率iは、金融緩和によって、低下するから、iiwとなる。資本流出が始まるから、EE線は、EE1からEE2に移行し、均衡点は、QQ2線との交点Bとなる。iiwとなれば、資本流出が止まり、EE3線とQQ2線との交点Cとなる。点Cは、完全雇用水準とは限らない。金融政策の最終目標が、完全雇用であれば、当局は、政策手段を取って、完全雇用均衡価格水準P fになるまで、さらに、貨幣供給量を増加させる。QQ線が、EE3線と完全雇用均衡価格水準P fで交わる交点Dまで、貨幣供給量を増加させる。QQ線が、右へシフトし、国内利子率は、再び、世界利子率より下がり、為替レートは増価する。資本流出が始まり、為替レートはオーバーシュートして、e3にもどる。
その結果、1)国民所得は増加する。
     2)利子率は世界利子率になる。
     3)物価は上昇する。
     4)為替レートは現在均衡点Aから点Bに移り、均衡点Cに移行するとき、減価する。均衡点Cから完全雇用均衡点Dに移行するとき、為替レートは       オーバーシュートして、もどる。

103 マンデル・フレミング・モデルCASE
10.3.1 CASE Ⅱ現行均衡点から長期均衡点への移行
 テキスト第9章において、次の古典派モデルを図解した。

      財市場    Y = C(wP) + I(i)
フロー   労働市場    NS(wP) = ND(wP)
      債券市場  S(iY) = I(i)

ストック   貨幣市場  M =kPY 

未知数:実質賃金率wP,実質利子率 i,物価水準 P

 9回において、2期間モデルで、家計部門における、消費、労働、貨幣の最適化を求めている。貨幣は利子率iで運用される。第10回は、貨幣は持ち越されない、老人世帯の最適化をしている。
 2期間モデルが新古典派の場合になる。財市場の国民総生産Yは、生産関数に労働需要量を代入すると決まる。消費支出Cは、実質賃金率wP、貯蓄残高、利子率、租税の関数になる。投資関数は新古典派に変える。政府支出は、外生変数である。輸出・輸入は、ケインズをそのまま使う。労働市場において、企業の労働需要はケインズと同じく、新古典派の利潤最大化で求められる。新古典派の労働供給は、2期間モデルから求められる。CASEの場合、労働市場は、完全雇用となる。労働の需要関数wP (1-α)YNから、NP (1-α)Ywである。新古典派労働市場の均衡は、(1/2)( Tm/w)P (1-α)Ywとなる。したがって、総供給関数ASは、P Y(1/2)( Tm/w) w(1-α)と表せ、双曲線である。
 債券市場は、家計は、国内債券と外国債券を需要する。家計は、Tobinが示したように、国内債券と外国債券に、収益率0の貨幣を加えた資産選好をする。流動選好関数は、一部は貨幣で保有され、家計の取引需要および予備的需要に、資産としての貨幣需要を加えたkPYPhiになる。新古典派マクロ・モデルは、一般均衡理論のように、需要関数、供給関数が、価格と利子率の関数となる。

CASE Ⅱの各市場均衡式
財市場       YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwePw(mY ) P
労働市場      (1/2)( Tm/w)P (1-α)Yw

貨幣市場      MPkYhi
自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔBiePw(mY ) eΔBwiw

(1)i iwの場合、資本流入ΔBi0(2) i iwの場合、資本流出ΔBwiw0とする。
総需要曲線ADは、
(1ce PwmP)Y C0 cT0I0G0mwYw(b/h)(MPkY )
総供給曲線ASは、労働市場均衡式から(1/2)( Tm/w)P (1-α)Ywとなる。
ASから、Y BP B(1/2)( wTm) (1-α)を、ADに代入すると3市場が均衡する価格と為替レートの組み合わせであるQQが導かれる。
e{ U P(b/h)(MkB)(1c) B }Pwm P =UPwm+{(b/h)M-〔(b/h)k1cB }/Pwm P(5)
EEは、為替市場からi iwの場合、P(mwYw)ePw(mY )eΔBwiw
Y BPを代入すると、P(mwYw)ePw(m BP)eΔBwiw
eP(mwYw){ Pw(m BP )+ΔBwiw }P 2 (mwYw){Pwm B(ΔBwiw) P }(6)

現行均衡点の求め方
 方程式は、次の4本で、未知数は、YPieである。
YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwePw(mY ) P
(1/2)( Tm0/w)P (1-α)Yw
MPkYh
P (mwYw)ePw(mY ) eΔBwiw
(5)式と(6)式から、eを消去すると、P3次方程式になる。
P 3 (mwYw) Pwm(ΔBwiw) U P 2[Pwm B U(ΔBwiw) {(b/h)(MkB)(1c) B }]PPwm B {(b/h)(MkB)(1c) B }0
この方程式には、1正根と2負根がある、この1正根をP *とする。
現行均衡点は、Y *BP *i*(kY *MP *)he*= P * (mwYw){ Pw(m BP *)+ΔBwiw }

長期均衡への調整方法
 国内利子率が、世界利子率と乖離していると、資本移動の完全性によって、資本移動が生じ、国内利子率が、世界利子率に近づく。図10.13において、軸P=-(Pwm B)(ΔBwiw)が、資本流出ΔBwiwが止まるまで、右に移動する。極限では,縦P0になり、(6)式はeP 2 (mwYw)Pwm Bとなり、原点を通る2次曲線になる、これをE3E3とする。長期的には、交点B(P **mwYwPwmA)に収束する。
P **は、3次方程式P 3 (mwYw) PwmPwm B UPPwm B {(b/h)(MkB)(1c) B }0の正根である。

長期均衡点
 利子率の長期均衡はi iwである。資本流出が始まると、縦軸の境界線が右に移動し、P0なる。均衡点は、点Aより、為替レートは減価し、価格は下落する。最終的に、EE線は、E1E1から原点を通る二次曲線E3E3に移行する。現在均衡点Aは長期均衡点Bに移行する。
 労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P **が長期均衡値である。 P ** Y(1/2)( Tm 0/w 0) w 0(1-α)から、Y f (1/2)( Tm 0/w 0) w 0(1-α) P **
 長期均衡為替レートe**は、資本流出が止まるとき、ΔBwiw 0となり、eP ** 2 (mwYw)Pwm Bである。

図解  10. 2節のQQ線およびEE線は、変更された。解の存在と金融政策の効果は、変更はないが、直感的な判断では、CASE Iよりは、物価、為替レートに対する金融政策の効果は小さく見える。総供給曲線ASは、P Y(1/2)( Tm0/w) w(1-α)と表せ、双曲線であるから、物価と国民総生産はトレード・オフの関係がある。QQ線は、
eUPwm+{(b/h)M-〔(b/h)k1cB }/Pwm P。            (5)
10. 15に示すように、縦軸がP0、横軸がeUPwm双曲線である。
EEは、
eP 2 (mwYw){Pwm B(ΔBwiw) P }。                   (6)
10. 15において、縦軸P=-(Pwm B)(ΔBwiw)および横軸e0双曲線と直線e=(mwYw iwΔBw ) PPwm BmwYwiwΔBw ) 2を合成した曲線になる。
10. 15において、QQ線とE1E1線が、3つの交点で交わっている。第1象限の交点が現行解である。資本流出が0に向かうにつれて、縦軸P=-(Pwm B)(ΔBwiw)は右へ平行移動する。直線は傾きが大きくなる。
10. 16において、資本流出が終わるとき、原点を通る2次曲線E2E2線とQQ線の交点Bで均衡し、点Aより、物価が下落、為替レートが減価する。
その結果、1)国民所得は減少する。
     2)利子率は世界利子率になる。
     3)物価は下落する。
     4)為替レートは減価する。
CASE Iと違って、労働市場は、完全雇用が維持される。経済は、資本移動により、縮小した。

10.3.2 CASEの金融政策の有効性
 金融当局が金融政策を実施すると、貨幣供給がΔM増加する。(5)式は、
eUPwm+{(b/h)M+ΔM-〔(b/h)k1cB }/Pwm P              (5)
となる。
i iwの場合、次の為替市場均衡式は変化しない。
eP(mwYw){ Pw(m BP )+ΔBwiw }                    (6)
(5)′および(6)から、eを消去すると次の3次方程式になる。
P 3 (mwYw) Pwm(ΔBwiw) U P 2[Pwm B U(ΔBwiw) {(b/h)(M+ΔMkB)(1c) B }]PPwm B {(b/h)(M+ΔMkB)(1c) B }0
この方程式は、1正根と2負根がある。

現行均衡点
 正根をP *とする。他の現行均衡点は、Y *BP *i*(kY *(M+ΔM)P *)he*= P * (mwYw){ Pw(m BP *)+ΔBwiw }となる。

長期均衡点
 利子率の長期均衡はi iwである。金融政策を実施したので、資本流出が始まると、縦軸の境界線が右に移動し、二次曲線E3E3線となる。図10.16において、QQ線は、Q1Q1からQ2Q2にシフトする。現在均衡点Aは長期均衡点Bに移行する。
 労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P **が長期均衡値である。 P ** Y(1/2)( Tm 0/w 0) w 0(1-α)から、Y f (1/2)( Tm 0/w 0) w 0(1-α) P **
 長期均衡為替レートe **は、資本流出が止まるとき、ΔBwiw 0となり、e **P ** 2 (mwYw)Pwm Bである。

図解 EEQQ線によって均衡点(pe)を示す図10. 17において、金融政策により、ΔM増加させるとする。QQ線は、Q1Q1からQ2Q2に移行する。現行均衡点Aは均衡点Cに移行、二次曲線との交点、長期均衡点Dに移行する。
その結果、1)国民所得は増加する。
     2)利子率は世界利子率になる。
     3)物価は上昇する。
     4)為替レートは現在均衡点Aから均衡点Cに移行するとき、減価する。さらに、均衡点Cから長期均衡点Dに移行するとき、
      為替レートは減価する。

CASE Iと違って、労働市場は、完全雇用が維持される。経済は、金融政策により、物価のオーバーシュートを生じ、物価が現行点Aと比較すると
長期均衡点
Dでは、物価が上昇し、国民所得は拡張する。

今週(2021126日~1210)のイベントと市場への影響度
 週のイベントは、121日新型コロナウイルスワクチン3回目接種が開始になりました。オミクロン株が南アフリカから、拡散して、その対応に、世界各国がふりまわされました。ギリシャ文字では、オミクロンの前は、クサイ(英語: xi)ですが、習(英語:xi)であるから、WHOは気を使ったのだと、メディアではささやかれている。(命名ルールがあるなら、粛々と、クサイ株と命名すべきだった。ウイルスが自然界で変異してきて、クサイ(英語: xi)の順番になる宿命になっていたのを、事務局の「裁量飛ばし」をしてはいけない。台風の命名と同じく、国際機関は、「個別国の政治、事情を反映してはならない」中立性原則に従って、迅速に、命名業務をする。それをして来なかったから、WHO勧告は世界各国で無視されるのである。
 中国でPtoP感染が、武漢の医者によって公表された段階で、WHOが、中国に人流遮断を勧告すれば、すでに、500万人の死者数をこえた人類史上最悪の惨事は、SARSMERSのように、発生国で封じ込められたはずだ。世界の感染者26千万人の中には、新型コロナウイルスで、特に肺臓を空洞にされ、味覚・嗅覚神経細胞を破壊された人もいる。それが、再生できない人は、酸素不足による疲労感・倦怠感がのこり、食事の楽しみを奪われているから、ウツにおちいる可能性がある。コロナウイルスで、細胞を破壊されたのであるから、細胞を再生できない場合、一生、そのような後遺症に悩まされる。感染したトランプ氏、ボルソナ大統領、ジョンソン首相は、後遺症ではないだろうが、調子悪いようだ。米国、ブラジル、英国の感染はおさまらない。日本は、菅前首相が感染対策に専念し、辞任したが、デルタ株を現在、終息に持ち込んでいる。
 オミクロン株の情報は、WHOより、南アフリカ医者の公表が早く、世界に最速で伝播し、最高の警戒態勢を取ることにつながっている。後追いの勧告をするWHOでは、世界各国の政府、公衆衛生当局が、WHOの寝言を聞く耳をもっていないことを物語っている。
 中国人が幹部になっている国際機関では、中国政府の意向が反映されるとみるから、その国際機関に、協力し、情報を提供、資金を援助する欧米諸国はなくなる。例えば、現在まで、WHO の途上国ワクチン配分要請に従っていない、3回目ワクチンは、途上国に配分という要請も無視している。FAO事務局長が中国人であり、欧米は、サバクバッタ駆除のため、資金・殺虫剤・器材援助はせず、空気を読んだ中国がしている。
 武漢の医師の情報が流出したことに、危機感をもつ中国は個人情報の海外流出を取り締まる政策を取っている。今回、インターポールに、中国公安幹部が執行役員に選出されたことにより、彼が、特に、反中国政治犯情報の海外情報がその幹部に閲覧可能になることを、中国以外の警察では、警戒している。今後、反中国政治犯の人権擁護のため、世界各国から、インターポールに通報される情報は、すべて、消滅する。
 2日に、OPECプラスの閣僚会合が開かれました。12月、日量40万バレル増産を決めました。原油・天然ガスは、日本では、家庭向けの灯油について、秋口までに、生産を終え、冬季は、ガソリン・軽油の生産をするようになっています。家庭では、北日本の厳寒地域での冬の燃料は、十分在庫があり、おそらく、北海道では、灯油タンクがすでに満タンになっいる。昔は、田舎では、雪が降る前、薪割りをし、軒下に、積んでいたのが、タンクに替わったのでしょう。秋口から、上昇に転じた原油・天然ガス価格は、発電所・産業・運輸関係向け燃料に生産されているため、原価が上がれば、上がります。日本全国、一般家庭では、ガソリン、電力・ガス料金が上昇します。OPECプラスの閣僚会合は、日量40万バレル増産を1月以降も、続けそうです。欧米も、オミクロン株の流行で、外出制限がかかるので、日本の厳冬地域のように、冬場の燃料確保を正常にしていれば、ガソリン・軽油需要は、大きくはない。

 今週のイベントは、5日に、世界石油会議が9日まで、ヒューストンで開かれます。6日臨時国会が召集されます。9日バイデン大統領主催の民主主義サミットが10日まで、開かれます。
 経済統計は、次の発表がありました。
                      予想値     実現値
30日 日10月の有効求人倍率         1.17倍     1.15
    10月の完全失業率           2.8%     2.7
    10月の鉱工業生産指数       -4.4%     4.7
   中11PMI              49.7       50.1
2日  米11月のISM製造業景況指数      61.2      61.1
3日 米11月のISM非製造業景況指数      65.6      69.1
   11月雇用統計             4.5%      4.2
 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値     実現値
 日10月家計調査 全世帯家計調査    ―
   中11月中国貿易統計          ―
8日 日79月期の国内総生産改定値(年率)  -3.2
    11月景気ウオチャー調査       ―
    10月国際収支  経常収支     12,832億円
            貿易収支      1,288億円
9日 日1012月期法人企業景気予測調査    ―
    中消費者物価指数(前年比)        2.5
11日 米CPI(前年比)             6.7


14回目 20211213

要点 10. 4  ドーンブッシュ・連続モデルと金融政策
      10.4.1 ドーンブッシュ・連続モデルCASEⅡと金融政策
      10.4.2 ドーンブッシュ・連続モデルCASEⅠと金融政策

10. 4  ドーンブッシュ・連続モデルと金融政策

 マンデル・フレミング・モデルにおいては、為替レートの決定論は示されていない。本章のモデルは、為替市場において、為替レートに対応した、自国通貨建て外国為替取引量に対する需要と供給が一致するところで決まる。金利平価説と購買力平価説が短期では、同時化され、長期的には、購買力平価説となる。マンデル・フレミング・モデルにおいては、期待形成が静学的であり、現在の市場条件が将来も変化しないことを意味する。
 マンデル・フレミング・モデルの対数線形化をしたDornbush1976]論文の本文モデルは、完全雇用のCASEⅡとGDPギャップがあるCASEⅠ[VShortun-Run Adjustment in OutputAppendix]とに分けて、動学調整モデルが示されている。天野「マクロ計量モデルにおける為替レートの決定:展望」『国民経済雑誌』147(4)68-96ページ(1983)新古典派の完全雇用CASEⅡの要約,植田『国際マクロ経済学と日本経済』東洋経済新報社(1983)および浜田『国際金融』岩波書店(1996)不完全雇用のCASE Iの要約を紹介している。
 Dornbush1976]では、労働市場と為替市場の陽表化はない。また、貿易収支均衡していなければ、貿易赤字または貿易黒字が発生し、為替レート決定に作用するが、陽表化されていない。Dornbushのマネタリー・アプローチでは、貿易収支均衡を想定しているように見える。為替レート決定は、金利平価説にしたがい、為替レートの変動率の予想は、「合理的期待説が、短期、中期、長期で成立する」ことを仮定している。

10.4.1 ドーンブッシュ・連続モデルCASEⅡと金融政策
ドーンブッシュ・連続モデルCASEⅡの枠組み
 ドーンブッシュが、 Expectations and Exchange Rate Dynamics, Journal of Political Economy, 1976, vol. no.6, pp. 1161-1176)”の本文において完全雇用を仮定した連続モデルCASEを取り上げる。線形モデルと違って、変数は対数変換される。そのため、マンデル・フレミング・線形モデルにおける各需要および供給関数は、積で表される。ドーンブッシュ・連続モデルの枠組みを示す。ここでは、マンデル・フレミング・線形モデルと各変数の定義を対照的に表す。
各市場均衡式
     ドーンブッシュ・連続モデルCASEⅡ  M=F線形モデル
貨幣市場の均衡式    MPYφexp(-λr)    MPkYhi
両辺、対数を取る。  mp=-λr+φy  
貨幣供給量mは、期間中、一定である。したがって、現行価格水準はpm+λr-φyと表せる。
ドーンブッシュは、為替レート決定論に金利平価説を取るから、現行利子率rは為替変動率xと世界利子率r *とで、rr *xという関係がある。また、為替変動率xは、合理的期待仮説にもとづきにx=θ(e⁻-e)によって予想される。e⁻は長期為替レートであり、与えられている。金利平価説と合理的期待仮説を合わせると
rr *xr *+θ(e⁻-e)となる。
貨幣市場の均衡式に金利平価説と合理的期待仮説の関係式を代入すると
pm+λr-φym+λr *+λθ(e⁻-e) -φy                 (1)
長期でもmr *yは、所与であるから、現行為替レートeが長期為替レートeに収束する。すなわち、ee⁻ならば、長期均衡価格p⁻は
p⁻=m+λr *-φyである。                            
                              M=F線形モデル
                                 YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwe Pw(mY ) /P
                               {C0T0I0bi G0}mwYwe Pw(mY ) /PcYb
               
                =UmwYwe Pw(mY ) /PcYb
ドーンブッシュ連続モデルCASEⅡ
総需要DU (e Pw/P ) δYwmw Ym YγUexp(-σr)
両辺、対数を取る。du+δ(epwp)mwyw m y+γy-σr
ドーンブッシュ・モデルでは純輸出(e Pw/P ) δYwmw Y mは、独立支出uに含められ、世界物価水準Pwと国内物価水準PPw1に基準化され、対数を取るとpw 0となる。したがって、総需要はdu+δ(ep)+γy-σrである。
総供給Y対数をとると、対数表示の総供給はyである。
財市場の均衡式   yd
財市場は完全雇用が仮定されるから、完全雇用国民所得は短期、中期、長期でyである。しかも、所与である。
ドーンブッシュの本文モデルでは、財市場は均衡しない。超過需要が発生し、ケインズ・モデルのように、財市場の超過需要dyが調整係数πで調整されると仮定する。完全雇用国民所得yに収束する。
dp/ dt=π(dy)

以上をまとめると、ドーンブッシュ・連続モデルの枠組みは、
貨幣市場均衡式               mp=-λr+φy
金利平価説                 rr *x
合理的期待仮説により、xを次式で予測する。
de/ dtx=θ(e⁻-e)
為替レート調整微分方程式          de/ dt=θ(e⁻-e)
財市場均衡式                yu+δ(ep)+γy-σr    (2)
財市場価格調整微分方程式          dp/ dt=π(dy)
現行均衡点
現行外生変数がmy r *であり、長期均衡為替レート eが所与である。現行内生変数は
perである。長期均衡価格p⁻はp⁻=m+λr *-φyと表されるから、
pm+λr *+λθ(e⁻-e) -φyp⁻+λθ(e⁻-e) (1)
yu+δ(ep)+γy-σr            (2)
rr *+θ(e⁻-e)                 (3)
市場均衡方程式は貨幣市場の均衡式(1)と財市場の均衡式(2)2本であり、通常のISML分析ではyrが決定されるが、ドーンブッシュ・モデルでは、為替レートが市場ではなく、市場裁定式である金利平価式に合理的期待仮説を結合させた予測式(3)で決まる。為替レートの購買力平価説は考慮されない。未知数はperであり、方程式は3本であるから、複雑な式になるが、現行解が求められる。(3)式を(2)式に代入、
yu+δ(ep)+γy-σ{ r *+θ(e⁻-e)}
(δ+σθ) e(1-γ) yu+δp+σ( r *+θe)
e{1/(δ+σθ)}{ (1-γ) yu+δp+σ( r *+θe)}
これを(1)式に代入、
pp⁻+λθ[e⁻-{1/(δ+σθ)}{ (1-γ) yu+δp+σ( r *+θe)}
1+λθδ/(δ+σθ)pp⁻+λθ[e⁻-{1/(δ+σθ)}{ (1-γ) yu+σ( r *+θe)}
p[1/{1+λθδ/(δ+σθ)]×〔p⁻+λθ[e⁻-{1/(δ+σθ)}{ (1-γ) yuσ( r *+θe)}]〕。
e{1/(δ+σθ)}{ (1-γ) yu+δp+σ( r *+θe)}
この解e(3)式に代入するとrが求められる。
rr *+θ(e⁻-e)
それぞれの長期均衡点は、e⁻、p⁻=m+λr *-φyr *である。
図解
 10.18に、ドーンブッシュ・モデルを表すと、貨幣市場均衡線(1)式は
pp⁻+λθ(e⁻-e)    (1)
ee⁻-(1/λθ)( pp)  (1)
であり、右下がりのQQ線である。財市場価格調整微分方程式dp/ dt0は、長期財市場均衡線である。dp/ dt=π(dy)0を図に描く。図中、45°線は、単位を適当に取ることによって、財価格と為替レートが、初期に等しいという仮定を示す。点Adp/ dt0線と45°線との交点である。
 下記の調整過程の計算から分かるように、
dyδ{(ee)(pp)}-σ(1/λ)( pp) と表せるから、δ{(ee)(pp)}-σ(1/λ)( pp)=0。ee⁻+{δ+σ(1/λ)( pp)である。δ+σ(1/λ)1であるから、長期財市場均衡線は、点Aを通り、45°線より傾きが小さい。その線より、左上は、価格の方が為替レートより小であるから、dy>0であり、超過需要状態にある。
現在均衡は、貨幣均衡線QQ上を動き、点Bが現行財・貨幣均衡点であれば、財市場は超過需要にあるから、一方的に価格上昇して、長期均衡点Aへ調整され、為替レートは一方的に増価で調整される。
ドーンブッシュ・連続モデルCASEⅡにおける調整過程
財市場価格調整微分方程式dp/ dt=π(dy)は、財市場の超過需要dyが、一定の係数πで調整される。この方程式は、dp/ dt0となる均衡点に収束する。一般均衡理論の立場からみると、市場均衡価格と均衡量は、超過需要が正のときは価格が下がり、負のときは価格が上がるという市場ルールを現す模索過程の微分方程式と同じタイプである。
dp/ dt0を、均衡点(e, p)で表すと次式になる。
δ(e⁻-p)u(γ-1)y-σr* 0。       (4)
また、ドーンブッシュの枠組みから、
pp⁻+λθ(e⁻-e)               (1)
yu+δ(ep)+γy-σr            (2)
rr *+θ(e⁻-e)                 (3)
超過需要dyは、(3)式:rr *+θ(e⁻-e)(4)式:δ(e⁻-p)=-{ u(γ-1) y-σr * }および(1)式:θ(e⁻-e)(1/λ)( pp)をもちいて、次式で表される。
dy=δ(ep)u(γ-1)y-σr
  δ(ep )u(γ-1) y-σ{r *+θ(e⁻-e) } (3)式を代入
  =δ(ep )-δ(e⁻-p)-σθ(e⁻-e)     (4)式を代入
  =δ{(ee)(pp)}-σ(1/λ)( pp)    (1)式を代入
  =-{δ/(λθ)+δ+σ/λ} ( pp) =-{(δ+σλ)/ (λθ)+δ} ( pp)
したがって、財市場価格調整微分方程式dp/ dt=π(dy)は、次式になる。
dp/ dt=π(dy)=-π{(δ+σλ)/ (λθ)+δ} ( pp) =-v ( pp)
ここで、vπ{(δ+σλ)/ (λθ)+δ}
この微分方程式の解は
p(t)p⁻+( p0p)exp(vt)。                        (5)
(1)式からpp⁻=-λθ(ee)p0p⁻=-λθ(e0e)を、(5)に代入すると、為替レート調整微分方程式de/ dt=-1/(λθ)(ee)の解は、
e(t)e⁻+( e0e)exp(vt)。                        (6)
金融緩和の効果
 金融緩和の調整過程を調べる。金融緩和政策は、Δm増加させる。(1)pm+λr *+λθ(e⁻-e) -φyp⁻+λθ(e⁻-e)QQ線であり、QQからQ Q (1) pmΔm+λr *+λθ(e′-e) -φyに移行する。図10.19において、均衡点Aは均衡点Cに移行する。ドーンブッシュは、ここで、点Bに瞬時に移行し、点Bから点Cへ移行する調整過程を想定する。点Aから、点Bへの移行は、資産市場では、資金移動が財の移動より迅速であるから、物価が変動する前に、為替レートだけが新均衡線Q Q に調整されて、減価する。その後、財は超過需要であるから、物価が上昇して点Cに到達する。
 金融政策実施後、外生変数がmΔmy r *であり、長期均衡為替レート e ′が所与である。
現行内生変数は
perである。長期均衡価格p′はp′=mΔm+λr *-φと表されるから、
pmΔm+λr *+λθ(e′-e) -φyp′+λθ(e′-e)。         (1)
新均衡点Cは、(pe)である。財の均衡線dp/ dt0は点Cを通る。

ドーンブッシュ連続モデルCASE の問題点
 13回目のマンデル・フレミング・線形モデルは、3市場と為替市場を枠組みであるが、ドーンブッシュ・モデルは2市場と為替裁定・予想式の枠組みで、違いが明らかに分かる。金融市場では、裁定式は、市場均衡式より、有用性があるという伝統があるようだ。経済理論家にとって、金融市場では、連続的(瞬時)均衡するから、均衡式を想定する手間を省略しているのかとも思う。
①ドーンブッシュ・連続モデルCASE において、現行外生変数がmy r *であり、長期均衡為替レート eが所与である。長期均衡価格p⁻はp⁻=m+λr *-φyと表される。生変数はperである。完全雇用国民所得yは、所与である。長期完全雇用国民所得はyのままである。したがって、長期完全雇用国民所得y長期均衡為替レート eおよび長期均衡価格p⁻は、モデル内では決定できない。現在市場においても、現行解が、それらに依存している。マンデル・フレミング・為替モデルでは、現行解が、長期値に依存しない。
ドーンブッシュの論文では合理的期待仮説を適用していない。合理的期待仮説は、為替レートの変化率の主観的期待値Ee^]が、モデル内で決定される為替レートの変化率の客観的期待値Es˙]に一致する。すなわち、Ee^]=Es˙]。x=θ(e⁻-e)は、Muth批判した回帰的予想モデルである。金利平価説の原点に戻り、先物為替レートを予想レートとし、調整方式は同じにするならば、x=θ(Es˙e)となる。他に、合理的期待仮説の為替直物・先物レートの決定に持ち込む方法は、河合正弘『国際金融と開放マクロ経済学』東洋経済新報社(1986)、第5章付論Ⅰがある。

結論:ドーンブッシュ・連続モデルは、再考を要するモデルである。

10.4.2 ドーンブッシュ・連続モデルCASEI
 CASEにおいて、完全雇用産出がyであったが、総需要とともに短期調整が可能な産出とし、財市場均衡式から、ylogDu+δ(ep)+γy-σr (2)と定義する。ドーンブッシュ・連続モデルCASEにおいて、財市場の調整は、dp/ dt=π(yy)であり、y⁻は完全雇用水準の産出である。これは、ドーンブッシュ論文の付論で展開されるが、ドーンブッシュは、金融緩和の効果の分析と結果はCASE変わりがないとのべている。植田『国際マクロ経済学と日本経済』東洋経済新報社(1983)および浜田『国際金融』岩波書店(1996)は、この付論の立場を分析している。
 2019年テキストでは不完全雇用のCASEを取り扱っているが、調整方程式はCASEドーンブッシュ論文のdp/ dt=π(dy)で計算していた。
ドーンブッシュ・連続モデルCASEI
 ドーンブッシュ論文のV節産出の短期調整および付論で取り上げてある、ケインズ的な不完全雇用がある場合、前回のドーンブッシュ・連続モデルCASEと比較する。式の番号はドーンブッシュ論文の付論にしたがう。
貨幣均衡式                 mp=-λr+φy
金利平価説                 rr *x
合理的期待仮説により、xを次式で予測する。
                                de/ dtx=θ(e⁻-e)
為替レート調整微分方程式          de/ dt=θ(e⁻-e)
財市場均衡式                yu+δ(ep)+γy-σr 
  
                             y=μ[u+δ(ep)-σr     (A1)
財市場価格調整微分方程式          dp/ dt=π(yy)        A2
この価格調整方程式は、現実の産出が完全雇用水準産出y⁻に調整されることを仮定する。
 貨幣市場と為替レート期待の特定化は変わらないとする。したがって、13回目のままである。貨幣市場均衡式mp=-λr+φyから、r*r=θ(ee)を使って、
pm+φy=λr*+θλ(e⁻-e)                        (A3
 長期為替レートおよび長期価格水準をそれぞれ、e およびp⁻とする。(A1)式から、完全雇用水準産出y⁻は
y⁻=μ[u+δ(e⁻-p)-σr*]、μ1(1-γ)                (A4
をみたす。
現行均衡点
 現行外生変数がmy r *であり、長期均衡為替レート eが所与である。現行内生変数はperyである。長期均衡価格p⁻はp⁻=m+λr *-φy⁻と表されるから、
pm+λr *+λθ(e⁻-e) -φyp⁻+λθ(e⁻-e)     (1)
yu+δ(ep)+γy-σr                 (2)
rr *+θ(e⁻-e)                      (3)
CASEでは、現行産出は、完全雇用産出に等しいから、yy⁻であり、もう1本、方程式があった。労働市場および為替市場を導入すれば、現行均衡点が求められる。
調整過程
財市場均衡方程式(A1)から(A4)を引いて、現行産出から完全雇用水準産出の偏差で表す。
yy⁻=μ(δ+σθ)(ee)+μδ(p⁻-p)                  (A5
貨幣市場均衡方程式から、
φ(yy)(p⁻-p)=λθ(e⁻-e)                     (A6
A5)とA6を偏差yy⁻、e⁻-eで解いて、pp⁻で表す。
yy⁻=-w(pp)                             (A7)
ここで、w[μ(δ+σθ)+μδλθ]/Δ; Δ≡φμ(δ+σθ)+θλとする。
ee⁻=-[(1-φμδ)/Δ(pp)。                    (A8)
 (A2)(A7)を代入すると,価格水準の関数として、価格調整方程式が
dpdt=-πw(pp)                           (A9
で表せる。
 予想係数θは,為替レートが現実にπwを調整するレートに等しいこと
θ=πw                                  (A10)
を要する。 すなわち、(A9)から、(A8)をもちいると、dedt=-πw(pp)であり、
予測式dedtx=θ(e⁻-e)=-θ(ee)と一致する条件である。為替レート変動と価格変動の調整係数は同じであると仮定することになる。
図解
 10.20において、(A8)式ee⁻=-[(1-φμδ)/Δ(pp)は、右下がりのQQ線である。(完全雇用の場合のQQ線は、ee⁻=-(1/λθ)(pp)である。)
dpdt0線は、A5)式から、 ee⁻={δ/(δ+σθ)}(pp)であり、45°線より、傾きが低い、右上がりの直線である。(完全雇用の場合のdpdt0線は、ee⁻= (1/δ) (σ/δλ)( pp) である。)
金融緩和
 金融緩和政策は、Δm増加させる。(1)pm+λr *+λθ(e⁻-e) -φyp⁻+λθ(e⁻-e)QQ線であり、QQからQ Q (1) pmΔm+λr *+λθ(e′-e) -φyに移行する。均衡点Aは均衡点Cに移行する。
貨幣均衡式mp=-λr+φy に、(A1)y=μ[u+δ(ep)-σr]、rr*-θ(ee)代入し、
mp=-λ{ r*-θ(ee)}+φμ[u+δ(ep)-σ{ r*-θ(ee)}]。
p+φμσp=-m+{λθ+φμ(δ+σθ) (ee)}-λr*-φμσ r*+φμu
不完全雇用の場合のQQ線は、
p[1/(1-φμσ)][-{λθ+φμ(δ+σθ) (ee)}+m(λ+φμσ)-φμu]
となる。金融緩和政策は、貨幣供給量の増加Δmのため、図10.21のように、QQからQ Q ′へ上にシフトする。

ドーンブッシュ連続モデルCASE Iの問題点
①ドーンブッシュ・連続モデルCASE Iにおいて、現行外生変数がmy r *であり、長期均衡為替レート eが所与である。長期均衡価格p⁻はp⁻=m+λr *-φy⁻と表される。内生変数はperである。完全雇用国民所得y⁻は、所与である。したがって、長期完全雇用国民所得y長期均衡為替レート eおよび長期均衡価格p⁻は、モデル内では決定できない。現在市場においても、現行産出yを外生変数と仮定しなければならない。
ドーンブッシュの論文では合理的期待仮説を適用していない。
結論:ドーンブッシュ・連続モデルCASE Iは、CASEⅡより、yy⁻の代わりになる方程式が足りない。

今週(20211213日~1217)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、5日に、世界石油会議が9日まで、ヒューストンで開かれました。6日臨時国会が召集されました。7日行われた米ロ首脳会談の内容が明らかになりました。プーチン大統領は、ウクライナがEUに加盟することは、阻止したいために、ロシア側が取れる範囲内の強硬措置を実施する。ウクライナをEUに加盟させれば、ロシアを攻撃するNATO軍および兵器体系を常駐させることになり、ロシアの安全保障が著しく損なわれるという主張のようです。

【クリミア半島併合、ウクライナ・ロシア国境のロシア系住民の軍事支援は、ウクライナがEU加盟することがないように、国境問題を故意に発生させ、同民族・宗教・言語・文化のロシアとウクライナ両国の分断を、武力を使っても阻止する。ベラルーシに肩入れしているのも、ベラルーシがロシアと不可分の民族共同体であるという主張である。他方、ベラルーシ大統領が宮殿を建設し、ソチのプーチン別荘と独裁者のすることは、全く同じことをしていると野党が暴露している。ベラルーシ国民は、現在、国を停滞させている大統領独裁に反対しているだけであるが、ウクライナ国民は、EU加盟の道を選択したということは、プーチン独裁のロシアに従っても、ロシア自体が資源に依存しているだけで、ロシア自体、将来の発展はない。ウクライナ人は、ロシアの強硬策によって人的被害があっても、EU加盟をして、ウクライナの将来の発展を選択している。
 EUにおいて、代替エネルギー融通システムが進展する中で、自動運転移動手段に適合した運輸・双方向通信・全経済社会の各設備インフラが相互依存的IoTにつながるように、産業革命が進展し、EU内で、競合していくことになる。なぜなら、化石燃料に依存したまま、世界の経済・社会活動を拡張しては、地球温暖化ガスは増加する。それに伴い、地球の大気圏内において、生物の存続が困難である事例が多くなったからである。
 新型コロナで、現在のところ、感染者・死者数が少ないと報告されているのは、中国であり、日本も、新型コロナの変異が最終段階に入っているようで、ダメージが少なかったが、米国・ロシア・ブラジルなど、比較的人口密度が低いところで、甚大な人的被害が出ている。新型コロナ経済的損害も、来年が終われば、計算が確定するだろう。こういう生物的災害が、現在の経済・社会システムでは、防止できない。
 その間、相互依存的IoTオンライン経済・社会活動、オンライン会議・学習も、代替的に、流行して来た。無人配送ドローンなど、輸送の無人化も進んできた。最小コストの地域的代替エネルギー選択が決まれば、それらのエネルギーに最適なIoT carrierが、無人で輸送・設備を稼働する時代になる方向性が出て来た。
「ロシアの原野で、ロシア民族の発展を語ろう」というような古典的な、プーチン大統領は、ソチの別荘で引退してもらった方がいいのではないかと、ロシア人も考えるようになる。ロシアでは、一般家庭は、郊外の別荘で家庭菜園を楽しむ慣習があるから、大統領が、その権力にふさわしい別荘を建てても、私的財産でなければ、問題は少ない。
 プーチン氏と同じ理屈で、台湾の民主制に対して、習近平氏が、台湾侵攻で、共産党独裁体制に統一を急ぐのは、中国の共産党独裁政権で、「共同富裕」政策目標が達成できなければ、同じ漢民族の台湾民主義体制の方が、経済成長をし、「共同富裕」政策目標が達成すれば、やはり、共産党独裁制では「中進国の罠」におちいることを証明してしまう。
 一人当たり国民総所得で言えば、ロシア・中国は、1万ドルクラスであり、ベラルーシ、ウクライナはさらに、低い。2004年以降、東欧諸国がEUに加盟して、それらの国は、ロシア・中国を引き離している。東アジアでは、韓国・香港・台湾は、先進国の仲間入りにランクが入っている。1980年代、NIES新興国だった時代から、中国、北朝鮮より、はるかに経済発展したのは、韓国・香港・台湾が民主主義政体を選択したからであり、ロシア・中国のような独占政体では、汚職や縁故、地位の優越など、政体の腐敗要因、国家予算の国家分配分が国民分配を超えることによる経済非効率性のために、一人当たりの分配が1万ドル以下なのである。
 今後、ロシア・中国が周辺国に対して、軍事的圧力を使い続けるならば、西側では、国際的相互依存的IoT経済・社会が発展していく中で、自らが国際交流を断絶する方向の政策を取っているから、国民が、国際相互依存的情報社会にアクセスできなくなる。】
 
 9日バイデン大統領主催の民主主義サミットが10日まで、開かれました。招かれなかった中国は、反発しました。G7外相会議が、11日から12日、リバプールで開かれました。ロシアのウクライナ国境軍事演習と中国の台湾侵攻計画への対応などが議論されました。

 今週のイベントは、日本銀行から12月短観が発表されます。14日米連邦公開市場委員会が15日まで開かれます。16日日銀・金融政策決定会合が17日まで開かれます。欧州中央銀行理事会が開かれます。
 経済統計は、次の発表がありました。
                      予想値     実現値
7 日10月家計調査 全世帯家計調査    -0.5%    -0.6
  中11月中国貿易統計          5,845億元   4,607億元
8日 日79月期の国内総生産改定値(年率)  -3.1%    -3.6
    11月景気ウオチャー調査  現状DI          56.3
                 先行きDI         53.4
    10月国際収支  経常収支      12,749億円  11,801億円
            貿易収支       1,288億円  1,667億円
9日 日1012月期法人企業景気予測調査
                        大企業現状             9.6(%ポイント)
               13月期見通し        7.2(%ポイント)
    中消費者物価指数(前年比)        2.5%     2.3
11日 米CPI(前年比)             6.8%     6.8
 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値     実現値
13日 日銀短観 大企業製造業先行き     19
              業況判断     19
        大企業非製造業先行き     9
                       業況判断     5
    日鉱工業生産
             

15日 中11月小売売上高  前年比      4.8
      鉱工業生産高          3.8
   米小売売上高     前月比     0.8
16日 日11月貿易統計          -5,952億円


15回目 20211220

要点
10.5  M=FEX連続モデルと金融政策
10.5.1 M=FEX連続モデルCASE Iの枠組み
     現行均衡点から長期均衡点への収束
     金融緩和政策
10.5.2 M=FEX連続モデルCASE の枠組み
     現行均衡点から長期均衡点への収
   
金融緩和政策

10.5  M=FEX連続モデルと金融政策

 103節のM=FEX線形モデルをドーンブッシュ連続モデルにならって、連続モデルにする。第14回目、ドーンブッシュ連続モデルCASECASE I問題点①一般均衡論に従い、「未知数は現在も将来も市場均衡式によって決定される。」は改善される。問題点②「為替レート予想形成は、本来の合理的期待仮説に、切り替える。」ことは、先物為替市場における先物為替レート決定論を用意する必要があるため、来年のテキストで準備する。

10.5.1 M=FEX連続モデルCASE Iの枠組み
      現行均衡点から長期均衡点への収束
 M=FEX連続モデルの枠組みは、線形モデルと対照させると次のようになる。
M=FEX連続モデルの枠組み   

貨幣市場の均衡   (対数モデル)         (線形モデル)
            MPYkexp(hi)      MPkYhi
両辺、対数を取るmp=-hiky 
財市場の均衡                  (線形モデル)
                           YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwe Pw(mJY ) /P
                        {C0T0I0bi G0}mwYwe Pw(mJY ) /PcYbi
                        =UmwYwe Pw(mJY ) /PcYbi
              (対数モデル)
YU (E Pw/P ) δYwmw YmJ Ycexp(bi)
両辺、対数を取る。y=δ(epwp)mwyw mJycybiu
労働市場の均衡 (不完全雇用CASE Iの場合)
              (対数モデル)     (線形モデル)
P={W 0 1/2K0Y           W0P (1-α)YN
コブ・ダグラス生産関数で、α=1/2のとき、両辺、対数を取る。
pay aw 0k0log(1/2)
自国通貨建為替市場の均衡 
(1)i iwの場合、資本流入は0、ΔBi0
(線形モデル)P (mwYw)e Pw(mJY ) e ΔBwiw
(対数モデル)Pδ YwmwE δPwδYmJ E εexp(iw)ΔBw
両辺、対数を取る。δpmwywδ(epw ) mJy+εeiwΔbw
M=FEX・連続モデルCASE Iの枠組みは、以上、対数変換した式をまとめると次のようになる。
貨幣市場均衡式      mp=-hiky
金利平価説          iiwx
適合的期待により、xを次式で予測する。
                   x=θ(e⁻-e
財市場均衡式         y=δ(epwp)mwyw mJ ycybiu
労働市場均衡式CASE I    pay
(1)i iwの場合
 ドーンブッシュ・連続モデルCASE Iでは、世界利子率と現行利子率との場合分けは、明示していなかった。M=FEX・連続モデルでは、次の為替市場均衡式が成立するので、場合分けが必要である。
為替市場均衡式    δpmwywδ(epw ) mJy+εeiwΔbw
財市場価格調整微分方程式
                 dp
/ dt=π(dy 
               =π{δ(epwp ) (cmJ) ymwywbiu y}
為替市場為替レート調整微分方程式
                 de/ dt=-σ(d\s\)
                     =-σ[{δ(epw )mJy+εeiwΔbw}(δpmwyw)
                            =-σ[{δ(epwp )mJymwyw}(εeiwΔbw)
現行均衡点
 現行外生変数がmywiwであり、長期均衡為替レート eが所与である。現行内生変数yipeである。長期均衡価格p⁻はp⁻=mhiwky⁻と表される。
mp=-hiky                 (6)
y=δ(epwp)mwywmJ ycybiu    (7)
pay                    (8)
δpmwywδ(epw )mJy+εeiwΔbw  (9)
iiw+θ(e⁻-e)                 (10)
 市場均衡方程式は貨幣市場均衡式、財市場均衡式、労働市場均衡式および為替市場均衡式4本あり、未知数はyipeであり、方程式は4本であるから、現行解が求められる。(6)(7)(8)式から、QQ線を導き、(8)(9)式から、EE線を導く。peの連立方定式を解く。
 (8)ypa(6)式に代入する。
mp=-hik(pa)。変形して、i(1/h){(1k) pmka}
このi(9)式に代入する。
δ(epwp) mwyw (1cmJ)( pa )(b /h){(1k) pmka}u
δe{δ-(1cmJ)(b /h)(1k)} p-δpwmwyw(1cmJ)a(b /h)( mka)u   (11)
この結果、(11)式のQQ線は右下がりの直線である。
 次に、(8)ypa(9)式に代入する。
δpmwywδ(epw )mJ(pa)+εeiwΔbw
(δ+ε)e(δmJ) pδpwmwywmJaiw-Δbw                                         (12)
この結果、(12)式のEE線は右上がりの直線である。 (11)式と(12)式を解くと、解epが求められる。
(11)式において、A=δ-(1cmJ)(b /h)(1k)B-δpwmwyw(1cmJ)a(b /h)( mka)uとおく。(11)式は、δeApBと表される。(12)式において、CδmJD=-δpwmwywmJaiw-Δbwとおく。(12)式は、 (δ+ε)eCpDと表される。解は、p*={δD(δ+ε)B}/{(δ+ε)A-δC}、e*=(Ap*B)/δである。p*およびe*は、正でなければならない。
e*p* (6)式および(8)式に代入すると、i*およびy*が求められる。
長期均衡点
 現行解が4市場の均衡式から求められたように、長期解も市場で決定される。未知数はyi⁻、pe⁻である。(6)式から、(10)式まで、長期値に替えて、長期解を求める。長期では、(10)式より、長期利子率はi⁻=iwとなる。p⁻は(6)式より、p⁻=mhiwky⁻となる。y⁻は完全雇用産出量ではない。
長期値は、y⁻=(mhiwa)/(1k)p⁻=(mhiwak)(1k)
e⁻={(δmJ) p⁻-δpwmwywmJaiw-Δbw}/(δ+ε)である。
 労働市場は、不完全雇用状態にある。長期的に、完全雇用に近づくかは、モデルから言えない。もし、労働市場が完全雇用状態になれば、労働市場の均衡式は、payから完全雇用労働市場均衡式pybに変わる。paypybに代入して、完全雇用産出量y*は、y*(ba)2となる。payに代入すると、完全雇用均衡価格p*
 p*ay*a(ba)2(ab)2。完全雇用均衡為替レートe*は、
 e*={(δmJ) (ab)2δpwmwywmJaiw-Δbw}/(δ+ε)である。
完全雇用均衡利子率
i*は、i*(1/h){(1k) (ab)2mka}となる。
この利子率
i*i*iwとなるか、i*iwとなるかは、モデルから言えない。
 CASE Iでは、4市場は、金利平価説の外的要因を資本移動で、長期不完全雇用状態yに近づくことしか示せない。金融政策で、長期完全雇用状態y*に近づかせることは可能である。
CASEIにおける調整過程
 財市場価格調整微分方程式は、財市場のGDPギャップdyが、一定の係数πで調整される。最終的には、dp/ dt0となる均衡点に収束する。
財市場価格調整微分方程式dp/ dt=π(dy)は、次式になる。
dp/ dt=π(dy)=-π[δ(1k )/ hθ+δ(1cmJ) b(1k) /h(pp)=-ν( pp)
ここで、ν
π[δ(1k )/ hθ+δ(1cmJ) b (1k) /h ]。
この微分方程式の解は
p(t)p⁻+( p0p)exp(-νt)。           
同様に、為替市場の長期均衡は、de/ dt0となるから、長期均衡解は
δ(e⁻+pwp ) mJy⁻-mwyw+εe⁻-iwΔbw0を満たす。変形して
mwyw iw-Δbwδ(e⁻+pwp ) mJy+εe
(6)式に(10)式を代入し、p⁻=mhiwky⁻をもちいて、
pmhikymh{ iw+θ(e⁻-e)} ky p⁻-k(yy) hθ(e⁻-e)
pp⁻=-{hθ/(1+k) } (ee) となる。
これらの関係をもちいて、i iwの場合、為替市場の超過需要d\s\は、以下のように変形される。
d\s\δ(epwp ) mJymwyw+εeiwΔbw
   δ(epwp ) mJy+εe{δ(e⁻+pwp ) mJy+εe
   =(δ+ε)(ee)δ( pp)mJ(yy)
 (8)ypaからyypp
   =(δ+ε)(ee) {δhθ/(1+k)} (ee){mJ hθ/(1+k)} (ee)
   =[(δ+ε) (δmJ )hθ/(1+k)(ee)
ここで、η(δ+ε) (δmJ )hθ/(1+k)とする。
為替レート調整微分方程式de/ dt=-σ(d\s\)=-ση(ee)の解は、
e(t)e⁻+( e0e)exp(-σηt)
図解
 テキストでは、図解を、図10.22に示している。さらに、長期解Aの安定性を調べている。
金融緩和の効果
  金融当局は、金融緩和政策の手段を用いて、通貨供給量をΔm増加させる。金融緩和の調整過程を分析するために、Q Q ′式、EE式、dp/ dt0およびde/ dt0、新長期均衡点の順で、再計算する。これらの結果を図10.23に示している。

 以上で、不完全雇用CASEⅠの場合、ドーンブッシュ連続モデルCASEⅠに対照させたM=FEX・連続モデルCASEの概要を説明した。労働市場と為替市場を陽表化した。労働市場は、不完全雇用である。外生変数の政策変数が動かなければ、完全雇用に近づけるのは難しい。

10.5.2  M=FEX連続モデルCASEと金融政策
 103節のM=FEX線形モデルをドーンブッシュ連続モデルCASE にならって、完全雇用を仮定する。
M=FEX連続モデルの枠組みは、線形モデルと対照させると次のようになる。
M=FEX連続モデルCASEの枠組み 
貨幣市場の均衡 
(線形モデル)   MPkYhi
(対数モデル)   MPYkexp(hi)
両辺、対数を取る。mp=-hiky
財市場の均衡      
(線形モデル)       YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwe Pw(mJY ) /P
           {C0T0I0bi G0}mwYwe Pw(mJY ) /PcYbi
           UmwYwe Pw(mJY ) /PcYbi
(対数モデル)    YU (E Pw/P ) δYwmw YmJ Ycexp(bi)
両辺、対数を取る。y=δ(epwp)mwyw mJycybiu
労働市場の均衡 (CASE 完全雇用の場合)
(線形モデル)   (1/2)( Tm/w)P (1-α)Yw
(対数モデル)両辺、対数を取るpy=β 、β=(1/2)( Tm/w) w(1-α)とおく。
自国通貨建為替市場の均衡 
(1)i iwの場合、資本流入は0、ΔBi0
(線形モデル)P (mwYw)e Pw(mJY ) e ΔBwiw
(対数モデル)Pδ YwmwE δPwδYmJ E εexp(iw)ΔBw
両辺、対数を取る。δpmwywδ(epw ) mJy+εeiwΔbw

 M=FEX・連続モデルCASE Ⅱ(完全雇用の場合)の枠組みは、以上、対数変換した式をまとめると次のようになる。
貨幣市場均衡式      mp=-hiky
金利平価説          iiwx
適合的期待により、xを次式で予測する。
            x=θ(e⁻-e)
財市場均衡式         y=δ(epwp)mwyw mJ ycybiu
労働市場均衡式       py=β
(1)i iwの場合
為替市場均衡式    δpmwywδ(epw ) mJy+εeiwΔbw
財市場価格調整微分方程式 
                  dp/ dt=π(dy)
                =π{δ(epwp ) (1cmJ) ymwywbiu }
為替市場為替レート調整微分方程式
                  de/ dt=-σ(d\s\
                      
=-σ[{δ(epw )mJy+εeiwΔbw}(δpmwyw)
                            =-σ[{δ(epwp )mJymwyw}(εeiwΔbw)
現行均衡点
 現行外生変数がmywiwであり、長期均衡為替レート eが所与である。現行内生変数yipeである。長期均衡価格p⁻はp⁻=mhiwky⁻と表される。
mp=-hiky                (6)
y=δ(epwp)mwywmJ ycybiu    (7)
py=β                   (8)
δpmwywδ(epw )mJy+εeiwΔbw    (9)
iiw+θ(e⁻-e)                 (10)
市場均衡方程式は貨幣市場均衡式、財市場均衡式、労働市場均衡式および為替市場均衡式4本であり、未知数はyipeであり、方程式は4本であるから、現行解が求められる。(6)(7)および(8) ′式から、QQ線を導き、(8) ′および(9)式から、EE線を導く。peの連立方式を解く。
 (8) ′式y=βp(6)式に代入する。mp=-hik(βp)。変形して、i(1/h){(1k) pmkβ}このi(7)式に代入する。
βpδ(epwp)mwyw(mJc) (βp)b(1/h){(1k) pmkβ}u
δe=βpδ(pwp)mwyw(mJc)(βp) b(1/h){(1k) pmkβ}u 
   {δ-(1cmJ) (b /h) (1k)} p(1cmJb k/h)β-δpwmwyw (b /h)m u 。   (18)
この結果、
(15)式のQQ線はδ-(1cmJ) (b /h) (1k)0であれば、右下がりの直線である。
 
 次に、(8) ′式y=βp(9)式に代入する。
δpmwywδ(epw )mJ(βp)+εeiwΔbw
(δ+ε)e(δmJ) pδpwmwywmJβ+iw-Δbw                                         (19)
この結果、(18)式のEE線は、δ+ε0およびδmJ0であるから、右上がりの直線である。(18)式と(19)式を解くと、解epが求められる。次に、解ep (6)式および(8) ′式に代入すると、iおよびyが求められる。
長期均衡点
 現行解が4市場の均衡式から求められたように、長期解も市場で決定される。未知数はyi⁻、pe⁻である。長期では、(10)式より、長期利子率はi⁻=iwとなる。p⁻は(6)式より、p⁻=mhiwky⁻となる。これを(8) ′式に代入する。y=βp=β(mhiwky)。ゆえに、y=(βmhiw)/(1k)
p⁻=β-y=β-(βmhiw)/(1k)(mhiwk)(1k)
(18)式より、
e⁻=[{δ-(1cmJ)(b /h)(1k)} (mhiwk)(1k) δpwmwyw(1mJc)β (b /h)(mkβ) u]/δ。
 (19)式より、
e⁻={(δmJ) (mhiwk)(1k) δpwmwywmJβ+iw-Δbw }(δ+ε) 両者は一致なければならないから、定数の関係式が生じる。
長期均衡点は、y=(βmhiw)/(1k)i⁻=iwp⁻=(mhiwk)(1k)e である。
CASEⅡにおける調整過程
 財市場価格調整微分方程式は、財市場の超過需要dyが、一定の係数πで調整される。最終的には、dp/ dt0となる均衡点に収束する。dp/ dt0を偏差pp⁻、yy⁻、ee⁻で表す。財市場価格調整微分方程式dp/ dt=π(dy)は、次式になる。
dp/ dt=π(dy)=-π[(δ/ hθ) (k/hθ) δ(1cmJ) b {(1/h) (k/h)}(pp)=-ν( pp)
ここで、νπ[(δ+k )/ (hθ)δ(1cmJ) b (1k) /h ]とおく。この微分方程式の解は
p(t)p⁻+( p0p)exp(-νt)。           
同様に、為替市場の長期均衡は、de/ dt0となるから、長期均衡解は
δ(e⁻+pwp ) mJy⁻-mwyw+εe⁻-iwΔbw0を満たす。
i iwの場合、為替市場の超過需要d\s\は、以下のように変形される。
d\s\δ(epwp ) mJymwyw+εeiwΔbw
   δ(epwp ) mJy+εe{δ(e⁻+pwp ) mJy+εe}
   =(δ+ε)(ee)δ( pp)mJ(yy)
   =[(δ+ε) (δmJ )hθ/(1+k)(ee)
ここで、η=(δ+ε) (δmJ )hθ/(1+k)とする。
為替レート調整微分方程式de/ dt=-σ(d\s\)=-ση(ee)の解は、
e(t)e⁻+( e0e)exp(-σηt)。           
図解 
 10. 24において,QQ線とEE線の交点Bは,現行解(ep)を表し,財市場が均衡している直線dp/ dt0および為替市場が均衡している直線de/ dt0の交点Aは,均衡解(e⁻,p)を表す.図中の矢印は,財市場が超過需要および為替市場が超過需要にある点Bから,財市場の均衡線QQ上を,両市場の長期均衡点Aへ向かって,市場が調整されることを示している.
長期均衡点の安定性
 長期均衡点Aのまわりで、安定であることを示した。
金融緩和の効果
 金融当局は、金融緩和政策の手段を用いて、通貨供給量をΔm増加させる。金融緩和の調整過程を分析するために、Q Q ′式、EE式、dp/ dt0および
de
/ dt0、新長期均衡点の順で、再計算する。これらの結果を図10.25に示す金融緩和の調整過程を調べた。
 テキストでは、新現行解は、再計算で求められる。新長期均衡点は、求めている。10. 25において、点Aから、EE線上を、Q Q ′線とEE線の交点Bに移行する。EE線の点Bから、Q Q ′線上をdp/ dt0およびde/ dt0の交点Cに収束する。Cは、金融緩和後の新均衡点(ep)である。価格は上昇し、為替レートは、点Bまで、減価オーバーシュートし、点Cに増価する。
 以上で、ドーンブッシュ連続モデルに対照させたM=FEX・連続モデルの概要の説明を終わる。

M=FEX・連続モデルのまとめ
 10.4節において、ドーンブッシュ連続モデルの問題点で指摘した通り、ドーンブッシュ連続モデルは方程式の本数が未知数より少ないので、現在均衡値が長期均衡値に依存してしまう欠点がある。M=FEX・連続モデルは、その点が改善されている。
 ドーンブッシュ連続モデルは、為替変動予測をモデルに入れている。金利平価説に先物市場の均衡値を代入すれば、予測式を仮定しなくてもよくなる。先物為替市場を設定し、先物為替レートを決定する理論を導入する必要がある。
 M=FEX・連続モデルは、M=FEX・線形モデルより、線形なので、現行解および長期解が容易に求められる。M=FEX・線形モデルより、取り扱いが容易である。

教室の最後に
 線形モデルは、短期分析、連続モデルは中・長期モデルの実証分析に応用できる。M=FEX・連続モデルは、開放モデルの中長期の推計にもちいれば、予測精度があがるだろう。連続モデルの実証は、統計学的にむつかしいが、短期モデルと合わせて、経験を積み重ねていきたい。
 モデルでは、貨幣市場だけが、資産市場になっているが、貸付資金、債券、株式、外債のストック資産市場の均衡を定式化する研究をしている。
 ドーンブッシュの時代と現在では、マクロ・モデルは、労働市場、為替市場を市場化する設定になっている。貨幣市場は、フロー市場の取引需要でとらえ、資産運用分すなわち流動性選好分は、3資産市場のストック資産市場での余力分とする。余力分をストック資産市場に流入させる方法はSNAベースモデルと矛盾しない。また、実証できる設定も、実践面で求められている。MFEX線形モデルに、3資産市場を明示化する方向で、来年、後半準備したい。

 日本経済のバブル崩壊で、伝統的な間接金融システムが主流だったが、それも、1997年から崩壊し、再構築(Restructuring)に、2003年までかかった。その結果、非金融部門も、再構築し、経済が構造的に長期停滞に陥った。しかも、戦後、進めて来た日本国土の主要な交通網の総合計画もほぼ完成し、公共投資を要する事業が全国的に縮小する時期と重なってしまった。2000年から、全国建設業界に従事する労働者が減少に転じた。新卒の採用が半減し、新卒の「氷河期」となった。そして、リーマン・ショックが2008年夏、世界経済を収縮させた。日本の製造業の中国工場移転が本格化し、製造業の空洞化が促進された。米国も、リーマン・ショック後、製造業が中国に移転し、米中の貿易赤字が解消できないので、トランプ大統領の完全戦争と安全保障関連産業の囲い込みが始まった。現在は、新型コロナ・ショック中である。
 このように、不動産バブル、不良債権処理をした金融システム再構築、リーマン・ショック、米中貿易戦争・関税強化によって、国内要因および国際要因で、10年ごとに、日本経済に負荷がかかりすぎる世界経済になっている。その間、構造的失業が長期間持続すると、MFEX モデルCASE Iの場合になるが、財政政策と金融政策を同時に使わなければ、国内の構造的失業は、解消しないことを示している。本テキストの理論的研究から、開放経済では、完全雇用のMFEX モデルCASE Ⅱより、経済政策の最終目標である完全雇用にするには、時間がかかる。
 
 アジア市場も、中国の台頭、ASEAN経済共同体が対米シフトで、中国の米国輸出代替生産が期待されている。そのため、直接投資と資産投資がアジアで変化し、アジアの経済構造が変革期を迎えている。当研究所の課題として、ASEAN経済共同体を中核に、世界生産2位、日本3位、韓国、台湾、南アジアを組み込んだ、東アジア経済共同体を将来の東アジア共同体目標として、実現可能にすることを提案した。これは、経済で言う多国間経済の相互依存関係が中国経済規模の拡大とともに、著しく増大したことによる。2021年バイデン政権が誕生し、トランプ氏と同様に、米中の相互依存関係の歯止めを望んでいるため、東アジア経済共同体内での、生産シフトが生じている。東アジア経済共同体外との関係で生産シフトが起きているのであり、依然、多国間経済の相互依存関係は、増大している。そのため、当研究所では、理論的に、MFEXモデルを実証可能な多国間市場一般均衡モデルに拡張したい。

今週(20211220日~1224)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、13日に日銀の短観の発表がありました。15日は、米連邦公開市場委員会が16日まで開かれました。15FRBは、量的緩和縮小に着手しました。20223月で終わり、その後、年内に3回の利上げを見込んでいます。同様に、ECBは、20223月で資産購入を打ち切ることを決定しました。英イングランド銀行は利上げに踏み切りました。17日に日銀政策委員会、金融政策決定会合がありました。日銀は、欧米のインフレ抑制の態度はまだとっていません。円安プラス燃料・農産物に対して、輸入インフレが顕著になっています。そのため、日本の企業物価指数は欧米と同じくインフレ危険水準に入っていますが、日本企業は企業物価指数10%を越えると吸収できず、消費者物価は年末にかけて、転嫁効果が出る。
 日銀は、次回1月の金融政策決定会合まで、量的緩和については、欧米に追随せず、現状維持としました。22日、政府が来年度の予算を決めるので、国債発行に、長期金利は影響する。企業物価指数が久しぶりに、上昇中で、量的緩和で、物的担保のある在庫増に金融リスクなしで、融資がつくので、欧米の量的緩和は、理論的にも整合性があり、インフレ抑制効果があります。黒田総裁の口癖である、「躊躇なく果敢に」、欧米に合わせて、市場に、量的緩和終了のシグナルは出しにくい事情があるようです。日銀の次回会合から、消費者物価指数次第で、日本銀行の量的緩和政策も転機を迎える。
 今週のイベントは、20日中国・全国人民代表大会常務委員会が24日まであります。21日臨時国会が閉会します。12月の月例経済報告が内閣府からあります。24日に、22年度予算案を閣議決定します。

 経済統計は、次の発表がありました。
                      予想値     実現値
13日 日銀短観 大企業製造業先行き     19       13
              業況判断     19       18
        大企業非製造業先行き     9        8
                       業況判断     5        9
13  日鉱工業生産                            4.1
15日 中11月小売売上高  前年比      13.8%    13.9
       鉱工業生産高          3.7%     3.8
   米小売売上高     前月比      0.8             0.3
16日 日11月貿易統計          -6,003億円  -9,548億円

 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値     実現値
21日 日11月全国スーパー売上高
23日 日11月全国百貨店売上高
24日 日11月消費者物価指数         0.5


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