資産形成論説明ノート2021年
ホームへもどる
資産形成論2021年テキスト21sisankeisei.pdf へのリンク
第1回目 2021年4月12日
1 はじめに
2020年に引き続き、資産形成教室を4月12日から、7月19日まで15回の予定で、『資産形成論 2021年テキスト』を解説するために、このノートを掲載します。テキストは、昨年度のテキストに、2020年説明ノートを反映して、改訂中です。完成したら、ホームページに掲載します。
2021年の教室の方針は、
①貨幣一時的一般均衡論を確実性下および不確実性下2期間モデルで、説明する
②資産形成計画、運用・管理を充実させる
③政策、景気等の変動予想するコメントを入れる
④四半期統計国民総支出発表によって、簡易的に、次の四半期の国民総支出を試算します。
①について、昨年度のノートでは、確実性下で、教科書で定番の実質モデルと比較する2期間貨幣一時的一般均衡論を、さらに、それを応用した、不確実性下で債券・株式の2資産現物・先物市場均衡論をテキストに入れました。違いは、貨幣一時的一般均衡論は予想価格がモデルに入ります。
②について、海原氏を例にとると、
海原家イベント表
年齢 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32
28 29 30
収入 300 312 324 336 348 360 372 384 396 408
消費支出 240 249.6 259.2 268.8 278.4 288 297.6 307.2
316.8 326.4
住宅頭金 50 50 50 50 50 50 50 50
50
50
合計 290
299.6 309.2 318.8
328.4 338 347.6 357.2
366.8 376.4
収支差額 10 12.4 14.8 17.2 19.6 22 24.4
26.8 29.2 31.6
収支差額表 期末貸借対照表
年齢 収支差額 資産 (財形 iDeCo 預金) 負債 純資産
23
10 50 10 0
0 60
24 12.4 100 22 0.4 0
122.4
25 14.8 150 34 3.2 0
187.2
26 17.2 200 46 8.4 0 254.4
27 19.6 250 58 16
0 324
28 22 300 70 26
0 396
29 24.4 350 82 38.4
0 470.4
30 26.8 400 94 53.2
0 547.2
31 29.2 450 106 70.4
0 626.4
32 31.6 500 118 90
0 708
合計 208
500 118 90 0 708
海原家の計画は夏冬ボーナスそれぞれ25万円を積立て、財形は、250万円ある。iDecoは、月1万円で、これらは、天引き貯蓄だから、運用計画が残る。財形および取り崩しはできない。預金は、予備的動機にもとづく。
2019年、この教室の始まる前、SBI証券のサイトにおいて、選んだのが、次の2本である。選択に理由は、信託報酬率が1%以下、投資総額が多い、長期間の実績がある。
日興-DCインデックスバランス(株式60)
SBI-EXE-iグローバルREITファンド
基準価格データ
2019年1月~2020年5月まで,半年の基準価格データを毎月27日(翌営業日)に記録する。
SBI証券のホームページの[iDeco 確定拠出年金]に、軽くポインターを当てると
商品リストが出るので。クリックすると、投資信託のデータを調べられる。お気に入りに登録する。証券会社のサイトは、宣伝が多いので、どこに、データがあるのかわかりにくいので、いつでも、確認できるようにしておく。
日興-DCインデックスバランス(株式60)
日興-DCインデックスバランス(株式40)
日興-DCインデックスバランス(株式20)
SBI-EXE-iグローバルREITファンド
ニッセイ-DCニッセイJ-REITインデックスファンドA
SBI-EXE-i先進国債券ファンド
海原氏が27歳の場合、2019年7月から、2020年3月まで、財形に、日興-DCインデックスバランス(株式60)を当てる。iDecoは、SBI-EXE-iグローバルREITファンドにする。預金は、16万円あるので、NISAで運用すると、総合食品スーパーなどで、株主優待制度と配当が1~2%を超える株式を購入できる。その期間中、商品割引の特典がつく最小の株数以上を購入する。今回、チャンスは、コロナ暴落で、16万円で買える。
基準価格
2019 1/27 2/27 3/27 4/26 5/27
6/27 信託報酬 トータルリターン
日興60 20,949 21,582 21,683
21,884 21,291 21454 0.2052 +5.33%(6ヵ月)
SBIREIT13,557 14,170 14,535 14,576 14,415
14,092 0.3464 +11.65%(6ヵ月)
7/29 8/27 9/27 10/28 11/27
12/27
日興60 21,677 21,021 22,004
22,348 22,850 23,090
日興40 18,905 18,595 19,144
19,307 19,596 19,699
日興20 15,874 15,832 16,025
16,049 16,168 16,167
SBIREIT 14,432 14,082 14,822 15,195
15149 15,129
ニッセイ 12,399 12,815 13,556 13,932
13,908 13,470
SBI債券11,642 11,623 11,743
11,816 11,862 11,903
(2020/5/31時点)
2020/1/27 2/27 3/27 4/26 5/27
信託報酬 トータルリターン
日興DC 22,980 22,094 20,763 20,939
21,796 0.154% 年3.12%
日興40 19,665 19,193 18,375 18,485 18,980 0.154% 年3.12%
日興20 16,188 16,037 15,627 15,684 15,884 0.154% 年1.71%
SBIREIT 15,403 15,034 10,917 10,918 11,490 0.343% 年-17.77%
ニッセイ 13,653 13,487 9,782 10,084 10,677 0.275% 年-7.94%
SBI債券11,931 12,167 11,858 11,927 11,997 0.417% 年4.35%
戦略長期投資で途中引き出しができない。ドルコスト平均法で、9月まで、同じ商品を買う。SBIを買う。
昨年度のノートでは、この戦略を選んでいます。2020年9月から、コロナの規制が一時的に解除され、米国連邦準備理事会は、超金融緩和に戻しました。再び、過剰な資金が金融市場に流れ、現在も、米株式市場は過熱しています。海原氏のNISAで運用する、日本の個人投資家の手始めの株式優待券と配当ねらいを勧めています。
これは、株式売買の初歩段階の人の戦略です。たとえば、年寄り向き食品製造会社フジッコがありますが、株価は2000円で張り付き、コロナ禍でも、株価変動がない、配当と自社食品の配布を期待する老年株主が多い。100株、200,000円で買うと、2021年3月の予想配当は、一株40円です。自社食品を1,000円相当分いただいて、配当は4,000円です。2%の配当収益であり、銀行預金では、0.02%ですから、40円の利息になります。預金利息には、20%課税されるので、32円が最終利益です。今年、12月下旬まで、売却を考えるならば、2000円を超える株価のとき、売却益が、非課税でもらえます。
株式市場では、1個人では、相場に影響力は全くありません。現在、世界の株式市場の相場は、今年は、コロナ回復と政府の財政支出投入、超金融緩和で、インフレ懸念が発生しない限り、暴落は想定しにくい。
NISAの枠120万円を株式市場で運用する場合、保守的な戦略では、フジッコのように、現在の預金金利の水準より稼ぐことができます。海原氏は27歳で、まだ、十分に若いので、NISAの枠120万円を利用すれば、配当と売却益を銀行金利よりは稼ぐことができます。今年度は、NISAで、金融投資をして、収益を上げる場合を考えてみたいと思います。
③について、資産形成計画、運用・管理には、政策、景気等の変動を予想することが重要な視点であるので、今年、9月13日から12月20日まで15回の予定で、財政・金融政策とマクロ金融経済について、『金融論2021年テキスト』を解説します。
新型コロナウイルスは、今冬、日本において、猛威を振るいました。緊急事態宣言もあり、経済・社会活動に制約がかっています。ワクチンの接種は、6月末まで、第1回目が全国で終了するようです。風邪の流行シーズンオフに入りますが、9月からの流行には、ワクチン効果が期待できそうです。それとともに、経済・社会活動が本格復旧します。
コロナ禍において、日本政府の長期政策方針が転換されました。
①地球温暖化対策には、各国経済が、持続して、成長を続けながら、温暖化ガス排出ゼロの経済・社会を実現できるかどうかが問題であり、そのための技術革新の方向付けをし、投資しつつ、経済・社会を誘導しなければなりません。政府は、昨年秋、2050年実質ゼロの目標を取りました。今年度から、実際に、行動計画が実施される見込みです。
②実質ゼロ目標年次計画にしたがう、国際技術革新のための投資計画、中国の一帯一路世界戦略に対抗して、自由開放貿易圏防衛協力計画が、新たに策定され、民生用車両、航空機、船舶、陸上軍車両、軍艦船、軍用機、ミサイルのCO2排出ゼロ化のため、新燃料、新型エンジン装備によって、輸送CO2排出ゼロ化を実現する方向性が出てきました。
③デジタル庁の設置により、経済活動および社会活動によって、送受信される情報量が多い情報社会が、日本の仮想情報社会で、実現する方向性で、政府が活動するようになりました。世界の情報社会に、接続され、情報の送受信が盛んになります。
第15週までに、景気,政策,海外の景気,政策等の変動を、市場関係者が予測するように理解することはむつかしい。
そこで、毎週、日本経済新聞日曜版「今週の予定」から、イベントの「今週の市場」に与える影響を推測します。保有資産や購入予定の資産は、その結果を反映します。なぜそうなるかは、今年後半の『金融論2019』によって、理論的な方向性を説明します。
変動要因の発表は,各証券会社のHPに,スケジュールが公表されています.重大発表は,情報が必ず漏れ伝わってくるので,市場の商品は,発表前に,反応し,価格が上昇するか,下落してきます.理論にしたがった各商品と変動要因を表にすると次のようになります。
変動要因 海外
債券 日銀の政策会合 日銀短観 米国準備制度理事会 EU中央銀行
消費者物価 為替レート 消費者物価指数 失業率
株式 政府予算 政策の変更 政府予算 政策の変更
四半期GDP 四半期GDP
企業業績 企業業績
リート 長期金利 都市の地価発表 長期金利 都市の地価発表
為替 貿易収支 資本収支 日米の金利差 戦略商品(原油、金)
バランス 株式30 50 70の構成要素に対して,上記の変動要因按分
インデックス 債券の構成要素,株式の構成要素に対して,上記の変動要因
ETF 債券の構成要素,株式の構成要素に対して,上記の変動要因
今週(2021年4月12日~4月16日)のイベントと市場への影響度
今週のイベントは、統計調査の発表と、16日、日米首脳会談があります。統計調査の発表は、各証券会社のサイトに、掲載されているものもありますが、教室で使うのは、マネックス証券のホームページ「投資情報『経済指標カレンダー』」が指標の予想、結果が出ていて、参考になります。首脳会談、政策機関の会議の予想、結果は、新聞各紙に観測記事が載るので、参考になります。
国内総生産GDPは、総供給=総需要の等式では、GDP=GDE+統計誤差です。国内総支出GDE=C+Iv+I+G+Ex-Imと定義すれば、GDPの速報値では、左辺の数値が確定するのは2年後ですから、右辺のGDEに従って、各需要の構成要素が発表されます。昨年のノートでは、最後の回、2020年7月13日に、マンデルフレミング開放経済モデル(MFEXモデル)に従って、各需要変動を予想すると書いています。今年度は、国内総生産GDPの速報が、発表されれば、簡易予想をしてみるつもりです。
1月~3月期は、米国、ユーロ圏は4月末、中国は4月中旬、日本は5月中旬です。日本は、半月遅れで、世界的に恥ずかしい行政のスピードです。デジタル情報社会に移行し、スピードは世界水準になると期待されます。
第2回目 2021年4月19日
テキスト『資産形成論2021年』は改訂中です。前年度のテキストを参照してください。改訂が済めば、本ページの冒頭に、PDFファイルでリンクします。
2 公的保険および公的年金制度、企業年金および個人資産形成制度
就職した場合、公的保険制度および公的年金制度に、就職先を通じて加入することになります。さらに、退職後の公的年金を補う企業年金制度および個人資産形成制度が、就職先の制度によって、選択可能です。前者は、就職先としては、できれば、定年まで勤めてもらいたいため、企業年金制度によって、退職金をつみたて、退職時に、一時金あるいは年金として受け取ることができるようにした制度です。
個人資産形成制度は、人生100年の長寿社会を政府が認識し出し、そのために、公的年金、企業年金を補充して、個人が老後の蓄えを保有する場合、制度的優遇措置を取るための制度です。これは、老年世代が、人生平均寿命85歳を目標にすると、70歳を過ぎれば、リスクレスの定期預金で貯蓄しがちですが、昨今の長期ゼロ金利政策では、利息は、蚊の涙でしかありません。それでは、人生100年とすると、実は、介護老人のリスクが増大し、そのための出費が増加するのです。いわゆる、長生きリスクが高くなるので、元気なうちは、リスクオンで老後の蓄えを成長させなければならない事例が増えてきました。
他方、公的年金について、2004年頃の年金問題では、新聞記事に、「団塊世代より若い世代は、次第に、保険料総額に支給総額が等しくなる」と試算されていました。それゆえ、65歳支給開始になりました。この話を当時の学生にすると、講義のあと、「私は、国民年金は払いません」と言いに来たほどです。
私が勤めていた関西では、2019年から、新入生人口が10年間減少する大学淘汰の時代に入り、4年後から新入社員が減少していきます。日本は、人口減少時代に入り、高齢年金支給者の割合が3割を超えだすと年金財政が悪化し、いずれ、70歳支給開始もありうるかもしれません。
資産形成を開始する若年世代、住宅ローンがあり、教育資金と老後の安心を貯蓄する壮年世代は、制度金融を利用すれば、利息、配当に課税されません。現役世代を15歳から64歳までの労働力人口とし、65歳から退職世代をします。2世代の利用可能な制度金融を表にすると次のようになります。
世代別の制度金融
世代別 制度金融
1) 現役世代 公的保険 医療保険, 労働保険, 雇用保険, 介護保険(40歳から)
公的年金 国民年金, 厚生年金
企業年金 国民年金基金, 確定拠出年金(DC,iDeCo)
確定給付企業年金, 厚生年金基金, 年金払い退職給付
NISA、つみたてNISA
ジュニアNISA(18歳まで)
財形住宅貯蓄
財形持家融資制度
2)退職世代
年金収入=公的年金(-控除) 公的保険(国保,介護)
DC,iDeCo,財形年金,NISA,つみたてNISA等の取り崩し
自宅, 不動産担保ローン契約,老人ハウスに終身契約
2.1 公的保険制度と民間保険
2021年テキストでは、制度の概要を厚生労働省のHPより、要約しました。
医療保険では、保険の事象が生じた場合、かかる費用に、自己負担金があります。介護保険の対象者に認定されると、介護保険サービスが提供されますが自己負担金は、1割か2割です。
私は、退職世代に属します。その立場から、公的保険と民間保険を資産形成の立場から、どうかけたらよいのかを考えます。
退職世代の公的保険は、国民健康保険および介護保険であり、所得に応じて、保険料がランクづけられています。健康診断は毎年、基本的な項目で無料、有料の案内が市役所から送られてきます。介護保険により、各種サービスを受けるのであれば、要介護認定を判定委員会にしてもらいます。介護認定に至った事由で診療した医者から、診断書を委員会に提出してもらいます。
現職世代時に掛けていた民間保険があります。現役世代に掛ける理由は、死亡保険金を年収の3倍以下で、掛けて置き、残された家族の生活保障を担保することです。退職に近づくと、退職後の終身医療保障に掛ける理由が切り替わります。成人病等の疾患を現役世代中に患った場合は、特に、入院、手術する場合があるので、国民健康保険でカバーできない自己負担金が発生し、要介護に認定され、介護施設を利用すると自己負担金が発生します。疾病と介護を民間保険金で補うようにすると、年金や資産形成資金から、自己負担金を支出しなくてもよいことになります。終身医療保険の死亡保険金は葬式ができますという程度、100万円にします。葬式は、最近は、家族葬が多く、身内だけで、葬儀会館で行う場合が増えてきました。
民間保険は、現役世代で、所得階層の内、余裕階層に属すれば、税制上、社会保険控除できますから、民間保険の実質負担は減ります。医療・介護で、自己負担金が発生した場合は、確定申告で負担を還付されます。
今週(2021年4月19日~4月23日)のイベントと市場への影響度
先週は、日米首脳会談がありました。対中国安全保障対策で日米協調すること、先端産業について、中国シフトをすること、米国産コロナワクチンの世界供給に協力すること、温暖化対策の協力、米国のパリ協定復帰で、米中温暖化対策の協力が確認されました。
今週のイベントは、20日米アップル社新製品発表会、22日~23日米国主催の「気候変動サミット」、欧州中央銀行理事会が開かれます。22日内閣府から、4月の月例経済報告があります。
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本、米国、中国、EUの発表があれば、マネックスの統計情報等から、掲載します。
先週の統計は、15日1~3月期中国国内総生産が発表されました。
予測値 実績値
15日 中3月貿易統計 18.5% 18.3%
経済統計は、次の発表があります。
予測値
19日 日3月貿易統計 5,036億円
20日 日3月全国コンビニエンストア売上高
21日 日3月全国スーパー売上高前年比
23日 日3月全国百貨店売上高前年比
23日 日3月の消費者物価指数前年比 -0.2%
第3回目 2021年4月26日
個人資産形成制度の見取り図
2.2 公的年金制度、2.3 企業年金、2.5 NISA制度
要点・公的年金制度の概要
・企業年金の概要
確定給付企業年金、確定拠出企業年金、個人確定拠出年金(iDeCo)
・NISA制度
個人資産形成制度の見取り図
テキスト5章において、ライフ・サイクル・プランの例として、海原さん、山川家、高原家のイベント表を載せています。山川氏の個人資産を制度支援の資産形成制度を当てはめてみます。
海原さんは、大学を卒業して、23歳とします。65歳で、現在の会社を退職します。海原さんのイベント表は、30歳で結婚し、31歳で1子をもちます。家族ができると、山川家のライフル・サイクル・プランに移ります。したがって、海原さんは、30歳までのシングル・プランです。
海原さんイベント表
年齢 23 30 35
60 65
確定拠出年金(iDeCo)
財形住宅貯蓄 財形持家融資制度(フラット25) 住宅ローン完済 年金生活
つみたてNISA
山川氏は大学を卒業して、23歳とします。65歳で、現在の会社を退職します。山川氏のイベント表は、28歳で結婚し、30歳で1子をもちます。妻は共稼ぎです。結婚後の資産形成は、所有権は半分ずつです。基礎年金は、個別保有の権利ですが、共稼ぎの2人の厚生年金は、半分ずつに分割されます。その他の資産は、結婚期間の共同財産ですから、離婚すれば、半分ずつです。同様に、遺族年金は、半分です。
山川家イベント表
年齢夫 23 28 30 35 48 52 60 65
確定拠出年金(iDeCo)
財形住宅貯蓄 財形持家融資制度(フラット25) 住宅ローン完済 年金生活
つみたてNISA
NISA
妻 28 30 48 52 60 65
確定拠出年金(iDeCo)
年金生活
つみたてNISA
NISA
子
0
18 22 28
ジュニアNISA(18歳まで)(教育資金)
高原家イベント表
年齢夫 65
85
公的年金受給
確定拠出年金(iDeCo)受給
NISA
妻 65
85
公的年金受給
確定拠出年金(iDeCo)受給
NISA
2.2 公的年金制度
年金制度は、3階立ての構造をしており(本文の図)、1階は、20歳以上60歳までの国民が加入する老齢基礎年金です。2階は、勤労者であれば、雇用主の条件以上は強制加入である厚生年金です。3階は、企業年金です。
年金の保険料および給付は、賦課方式と積立方式があります。賦課方式は、毎年の保険料収入を年金受給者に配分する方法であり、国民年金、厚生年金が賦課方式です。積立方式は、加入者個人に対して、所定の期間、定期的に一定額の掛金を払込期間まで積立て、受給開始期以降、給付する方式です。掛金は全額、事業主負担の場合、自営業者等が負担する場合、企業年金等に加入していない従業員が負担する場合があります。
本文では、国民年金、厚生年金の以下の項目をまとめています。
受給資格
受給開始年齢
保険料
年金額
国民年金の保険料と年金給付額算定方式について、将来の受給額については、日本年金機構のHP「ねんきんネット」で、保険料の支払い記録と年金受け取り見込み額を知ることができます。国民年金、厚生年金に、保険料とあるのは、年金に保険機能が付与されているためです。5年ごとに、国勢調査結果、人口統計等から、年金財政の均衡を再計算し、保険料を改訂します。厚生年金は保険料額表が公表されていて、給与明細書を保存していれば、簡易計算できます。厚生年金は、一元化されましたが、厚生年金機構に、一元化されていないので、もとの制度にしたがうしかありません。それゆえ、「厚生ねんきんネット」はないので、保険料の支払い記録と年金受け取り見込み額は、いろいろな金融機関等の簡易計算で、推測するしかありません。
いわゆる年金財政の危機は、国庫負担が50%となった国民年金の方で、厚生年金ではない。受給開始年齢を70歳にする、保険料支払いを65歳までにする、保険料を上げない代わりに、消費税を20%以上にし、消費税から直接徴収するとか、政官民学が主張する議論があります。
年金額が、年金数理計算で決まると、物価変動に対しては、物価スライド制があり、経済変動に対しては、マクロ経済スライド制があります。年金額の改訂は、物価上昇および経済成長率に依存する計算が決められています。アベノミクス政策において、2%物価上昇、経済成長率?%の目標を5年間、前者は日本銀行が、後者は経済諮問委員会が政策を実施しました。いまだに、目標は達成できず、日銀は、地方銀行の経営悪化を招き、借り手不足というか、地方は、高齢少子が進み、企業の廃業が進んでいます。両スライド制で改訂される見込みはなさそうです。
国民年金財政には、過去の余剰金があり、保険料総額>給付総額の状況にあり、日本年金機構が、余剰金を運用していて、昨年からの米国の金融正常化政策により、株式市場が引き締まってきました。そのあおりで、日本の株式市場も下落しています。日本年金機構の運用状況は、公表されるので、株式に損失が出たようです。2019年9月から、日本株式市場に海外投資家の資金が流入し、米国の金融緩和回帰があり、米国の株式市場も上昇しましたが、中国の新型コロナウイルスの世界拡散が発生し、ダウは3分の1消滅しました。2020年7月から、規制は緩和されました。コロナショックから、財政支出で持ち直し、米FRBは、金融緩和に戻しました。2021年、コロナワクチンの接種率が上がるとともに、世界経済は、緩やかに、回復過程に入っています。
運用について、リスク資産は、民間運用会社に競争運用を委託する国もあります。日本の年金財政の危機は、高齢者の増加で、受給者が増加し、保険料総額<給付総額の状況となり、余剰金で差額が賄われので、余剰金が減少することです。
2.3 企業年金
企業年金は、確定給付企業年金、確定拠出企業年金、個人確定拠出年金(iDeCo)に分けられます。確定給付企業年金が、企業の従業員からの負債となり、企業の事業業績が落ちると、企業は利潤から積立不足を補てんしなければなりません。株主の配当がその分減少するので、株価の減少要因になります。確定拠出企業年金に移行し、企業は一定額を拠出し、その運用は、従業員に委ねられます。確定給付企業年金と比較すると、退職給付引当金に入らないので、大企業も、この制度に移行するようになってきました。本教室は、従業員が、その場合の運用管理をどうするのかに答えるのが、大きな目的です。
大企業が確定給付企業年金制度をもっていますので、概要は省略しました。テキストでは、確定拠出年金と個人型確定拠出年金の概要は、詳しく、載せています。
2.5 NISA制度
NISA制度は、NISA、ジュニアNISA、つみたてNISAがあります。ジュニアNISA、つみたてNISAは長期運用が目的です。それらの目的にかなった商品を積立てていくべきですが、NISAは、120万円枠で、五年間、保有できます。個別株式の割合を50%以上にする方が、値上がり益を期待でき、投資額は回収できるので、株式投資で、非課税の収益を稼ぐことができます。例えば、電気機器の太陽誘電は、2年前、2000円台でしたが、現在、5000円台です。差額3000円が非課税の収益になります。そんな株はどう見つけるのかは、成長力のある会社は、株価は上昇します。ただし、個別株も、経済全体の景気変動を受けます。年間、そのショックが株式市場を襲いますので、そのときが、購入するタイミングでしょう。過去の高値で購入しないようにしましょう。収益は、元金共に、次年に再投資します。会社員・職員では、毎年、真水の120万円は、用意するのは、むつかしいからです。
今週(2020年4月26日~4月30日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、20日、米アップル社新製品、パープルiPhone12等の発表会があり、iPhoneに配信されました。22日~23日米国主催の「気候変動サミット」があり、米国は2005年比50%、日本は2013年度比46%削減すること、中国は2026年から2030年までに排出量を徐々に減少することを発表しました。欧州中央銀行理事会が開かれました。22日内閣府から、4月の月例経済報告がありました。
今週のイベントは、日銀政策委・金融政策決定会合が26日、27日に開かれます。27日米連邦公開市場委員会が28日まで開かれます。29日、バイデン大統領が米議会で施政方針演説をします。3月期決算の発表が目白押しです。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実現値
19日 日3月貿易統計 5,036億円 6,637億円
20日 日3月全国コンビニエンストア売上高 1.9%
21日 日3月全国スーパー売上高前年比 1.3%
23日 日3月全国百貨店売上高前年比 21.8%
23日 日3月の消費者物価指数前年比 -0.2% -0.2%
経済統計は、次の発表があります。
予測値 実現値
29日 米3月期GDP速報値 6.5%
30日 日3月有効求人倍率 1.09倍
完全失業率 2.9%
鉱工業生産指数
-0.8%
EU1~3月期ユーロ圏GDP速報値
第4回目 2021年5月3日
2.4 個人資産形成制度
要点・個人確定拠出年金(iDeCo)
・勤労者少額貯蓄制度と財形持家融資制度
・NISA制度
前回、ライフ・サイクル・プランの例として、山川家のイベント表を載せています。ここでは、山川氏の個人資産を制度支援の資産形成制度を当てはめてみます。
山川氏は大学を卒業して、23歳とします。65歳で、現在の会社を退職します。山川氏のイベント表は、同じ年の妻と28歳で結婚し、30歳で1子をもちます。妻は共稼ぎです。
山川家イベント表
年齢夫 23 28 30 35 48 52 60 65
確定拠出年金(iDeCo)
財形住宅貯蓄 財形持家融資制度(フラット25) 住宅ローン完済 年金生活
つみたてNISA NISA
妻 28 30 48 52 60 65
確定拠出年金(iDeCo) 年金生活
つみたてNISA NISA
子
0
18 22 28
ジュニアNISA(18歳まで)(教育資金)
テキスト第5章では、資産形成の期間(フロー)表である収支差額表と資産の時価評価表(ストック)である期末貸借対照表をモデル計算しています。経済社会活動の結果は、活動した期間の財・サービスの変動量の収支を合計するフロー表と、活動期間の期末時、資産/負債・正味資産を評価したストック表で記録することになっています。家計部門である山川家に、ライフ・プラン計画期間において、各年のフロー表とストック表を作成しています。
現役世代である海原さんと山川家は、各年、各年の収入の見通しが決まっていないとライフ・プラン計画表は作成できません。各年、各年の収入の見通しは、日本経済と世界経済の見通しが必要です。世界経済の見通しは、OECDとIMFの毎年の予測が発表されます。日本経済の見通しは、内閣府から、1月発表されていますが、令和2年度であり、長期見通しは、権威がある見通しの定期的公表はないと思います。
ライフ・プラン計画期間において、現役世代の給与見通しをどう計算すればよいのでしょうか。私は、教職員組合に、就職と同時に全員加入で、退職まで、組合員でした。他の業界と同様に、組合員は、1998年日本金融危機以後、雇用不安、新卒の超氷河期とつづき、全国的に、組合員は減少していきました。私の勤めていた大学もそうでした。教授は、管理職ですが、大学行政の管理職にはなりにくい傾向があると思いました。現在でも、労務担当重役になれても、管理職はむつかしいのではないでしょうか。
私には、そういう行政管理職に野心は全くありませんから、学務、教務、研究に集中する一方、地方経済の国際競争力向上、アジアの経済発展に貢献したいと、国内、アジアを視察して、現場で考えていきました。社会主義者ではありませんが、組合員であれば、大学行政の労務情報は、非組合員より、得ることはできますので、満足していました。
金融危機以前は、組合の団体交渉にも参加したし、そこで、関西の大学教職員のモデル賃金を知ることができました。普通の会社員では、その資料は配布されませんので、自分の会社のモデル賃金は、サイトで、知るしか方法はありません。大阪市では、モデル賃金統計表がありましたが、維新の会が府政、市政を統合する段階で、発行しなくなったようです。もちろん、公務員は、調べることができます。特に、年齢別に、各業界の平均賃金を知ることができれば、ライフ・プラン計画期間の給与所得を推計できます。簡便な方法が見つかれば、次年度のテキストに掲載します。
さて、日本経済は、人口減少が始まっていますので、労働力不足になる一方、日本経済は、第3次産業が主要産業となり、中小零細企業が多数を占める労働集約的産業です。女性労働が必要とされる産業でもあります。第3次産業は、製造業と違って、寡占的ではないので、いわゆる大企業の賃金水準は支払えません。したがって、男性の給与水準は、35歳以上では、昇給が頭打ちになる傾向があります。女性は、男女格差があり、大卒女子は、35歳になると、平均賃金が大卒初任給に戻る傾向があります。
このようなモデル賃金曲線は、サイトでシミュレーションしています。大学では、学生に、必ず、モデル賃金曲線を説明しました。「波乗り3波乗り」と言って、終身雇用・年功序列職階級制(公務員的ですが)においては、入社10年後、社員一斉、係長波に乗り(1年の評価で、平波の場合もあるそうで)、次は課長波、部長波がモデル賃金曲線にあります。課長波、部長波に乗れるのは、かなり高度な能力がないと乗れないと、説明していました。
業界および業界内でも、モデル賃金曲線は格差があります。在職者は退職までの予想所得の参考になります。
かつての日本では、このような終身雇用・年功序列職階級制のもとで、男性社員は、妻を専業主婦で、家族を養えましたが、現在は、係長波は消滅しないにしても、残り2波は、能力主義が能力しつつあります。夫婦、共稼ぎしないと、家族を養うのは、かなり難しくなります。東京では、3人核家族が多いのも、生活水準を維持しつつ、子を二人以上持つのは、経済的に苦しいのでしょう。地方では、都会生活が身近にありませんので、子供は2人以上、所得水準が東京ほどありませんから、共稼ぎの方が専業より多い傾向があります。
海原さんイベント表で、各年の収支差額表が計算できると、勤労者少額貯蓄制度の内、勤労者財産形成住宅貯蓄によって、毎年、ボーナスを入れて、住宅取得頭金を550万円貯蓄することが、主要な資産形成の目的になります。結婚が難しくとも、退職後、老後の安心による、退職後の生活資金資産形成より、住居の手当はライフ・サイクル・プランでは最も重要です。それを控除した差額が、退職後の生活資金資産形成になり、個人確定拠出年金(iDeCo)を事業主の負担を利用しつつ、運用します。海原さんの場合は、毎月、最大1万円、残りは、中期目的の自己資産形成でNISA制度を利用します。海原さんの収入では、NISA制度の上限を超えることありません。
海原さんイベント表
年齢 23 30 35
60 65
確定拠出年金(iDeCo)
財形住宅貯蓄 財形持家融資制度(フラット25) 住宅ローン完済 年金生活
つみたてNISA
資産家と違い、勤労者は、毎月の月給から、少額積み立てをします。日本銀行のマイナス金利政策が、4年続いているため、長期積立には、預金は損失がでます。制度金融では、預金以外の金融商品を、選択できますから、例えば、住宅資金の目標550万円は、10年より早く達成できます。預金利子率0.02%では、10年かかります。教育資金でも、預金以外の金融商品で、長期積立をすれば、目標期間を短縮できます。
個人確定拠出年金(iDeCo)制度
山川氏イベント表で、妻の個人型確定拠出年金(iDeCo)が可能になっています。女性の資産形成について、山川氏と同様に、会社勤めで、同様に、ライフ・サイクル・プランを運用管理しているとする場合は、結婚後の共同資産形成になります。これは、昨年では想定していませんでした。しかし、私の身の回りを見ると、死亡率は男性の方が高く、女性は低いのが普通のようです。山川氏が平均寿命で亡くなった場合、妻は余命があり、共同財産を相続することになります。老後の安心には、このことも、ライフ・サイクル・プランでは、考慮すべきイベントです。自民党が「人生百年」時代と言いますが、それを可能とする退職後のモデル生活は何も政策導入しませんから、男性の平均寿命が80歳から、20年延びる「稼ぎと体力」、社会保障があるわけない。むしろ、「失われた20年間」で、所得が失われたので、栄養不足による体力の減退により、80歳台にとどまると予想するのが普通でしょう。女性もやはり、80歳台に、「失われた20年間」の「稼ぎと体力」の減少効果が効いてくると思われます。
私の『金融論2018年テキスト』では、山川氏は33歳であり、妻は専業主婦です。私自身は、妻に対して、資産形成を実行してきましたが、これは普通なのか、そうでもないのか。夫婦で、妻には、ライフ・サイクル・プランをどう考えて、実行しているのか、実態調査があるのでしょうか。
勤労者少額貯蓄制度と財形持家融資制度
勤労者少額貯蓄制度は、厚生労働省の所管で、勤労者財産形成貯蓄、勤労者財産形成年金貯蓄および財形持家融資制度があります。年金と住宅に対しては、利子等非課税措置があります。従業員の定着性効果を期待する企業では、従業員が金融機関と契約し、運用指示は本人であり、事業主は給与天引き、金融機関からの運用状況連絡を仲介するだけの負担です。
勤労者財産形成住宅貯蓄は、住宅所有をライフ・サイクル・プランに入れている場合、財形持家融資制度を利用する、初期資金を貯蓄する制度として有用です。元金利子を含めて、550万円まで非課税ですから、その次の制度は、財形持家融資制度があります。
550万円の頭金が貯蓄できるまで、10年はかかると思われます。係長波が近づいてくるので、どこに、住宅を所有するかは、夢があり、楽しい計画でもあると思います。
各市の都市計画の用途地域を調べていると、昨今、農地は消滅し、都市計画は完成している市が多くなっていると思います。その中での選択ですから、家族で住みたくても、物件が少ないかもしれません。
不動産の将来価値は、公示価格、売買例、利便性評価等で決まりますから、少なくとも、建物の耐用年数が来るまでに、土地の著しい減価が生じなければ、住宅投資は成功したことになるでしょう。
NISA制度
NISA制度は、金融庁所管で、2014年から始まった少額投資非課税制度(Nippon
Individual Savings Account)です。2016年から、ジュニアNISA、2018年からつみたてNISAが始まりました。ジュニアNISAは18歳まで原則、払出しができませんから、大学の教育資金に向いていますが、さらに、高校進学時に、特別払出しができれば、学資資金の性格がでて、よいかもしれません。つみたてNISAは20歳以上、20年間非課税ですが、制度の延長は定められていません。
以上、個人確定拠出年金(iDeCo)、勤労者少額貯蓄制度と財形持家融資制度およびNISA制度によって、家族全体のライフ・サイクル・イベントを設定し、資産を非課税で形成できるようになってきました。
日本銀行のゼロ金利政策は、継続される中、日本の金融商品だけの資産選択は、収益率目標を達成できそうもありません。本教室では、長期の資産運用を想定しますが、日本債券、日本株式、そのバランス、上場投資信託、不動産投資信託等の国産商品では、資産運用コスト以上の成績を上げるのは、難しそうです。
今週(2021年5月6日~5月7日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、日銀政策委・金融政策決定会合が26日、27日に開かれました。2%物価上昇率の目標は依然未達であり、デフレ傾向は続くと見ている。金融政策は、金利調整は現状維持、長期国債以外の資産買い入れも現状を維持する。27日米連邦公開市場委員会が28日まで開かれました。米国の物価上昇率(PCEコアデフレータ前期比)は2.3%であるが、一時的であり、金融緩和策は続行する。29日、バイデン大統領が米議会で施政方針演説をしました。通商関係は、米国産品の購入を促進する。対中政策は未定である。企業と富裕層に公正な負担をすべきである。3月期決算の発表がありました。
今週のイベントは、国内は連休と主要都市の緊急事態宣言で、ありません。1~3月期決算と3月期決算があります。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実現値
29日 米3月期GDP速報値 6.5% 6.4%
米GDPデフレータ前期比 2.6% 4.1%
米PCEコアデフレータ前期比 2.4% 2.3%
30日 日3月有効求人倍率
1.09倍 1.10倍
完全失業率 2.9% 2.6%
鉱工業生産指数
-0.8%
4.0%
EU1~3月期ユーロ圏GDP速報値 -2.0% -1.8%
ユーロ圏失業率速報値 8.3% 8.1%
ユーロ圏消費者物価指数速報値 0.8% 0.8%
経済統計は、次の発表があります。
予測値 実現値
5月3日 米貿易収支 -734億USD
6日 中貿易収支 ―
7日 米失業率 5.8%
第5回目 2021年5月10日
3.金融商品と金融市場
第3章では、金融商品の定義と特徴を、分類基準にしたがって、のべています。それらを取り扱う金融市場を、分類しています。いずれも、個人投資家が選択できる商品とアクセスできる市場を中心に、紹介しています。最後に、金融商品の貨幣価値、すなわち、商品価格表示の表し方を示しています。金融市場において、商品1単位が、貨幣でいくらするのかが、取引者間で決定できれば、取引が成立します。
金融商品の評価は、数列、級数の知識があれば、容易に理解できます。数学ができなくとも、2期間か、3期間、変化を追うことができれば、経済学・経営学では問題ありません。
要点・金融商品の定義と特徴分類
・金融市場の特徴
金融商品の定義と特徴分類
日本国内で取引できる金融商品は、それらの商品の金融市場で取引されます。小口投資家が取引できる金融商品を主に取り上げます。金融商品の特徴は、満期期間、最終利回り、制限条件、取引単位(1口)および発行の方法で分けられます。
預貯金 債券 株式
消費者ローンクレジットカード住宅ローン債券株式投資信託ETF (上場投資信託) Jリート[日本版不動産投資信託]
外貨 外貨預金 外国債券 外国株式 外国投資信託
国内金融市場における金融派生商品は、次のようなものがあります。外国と比較すると、機関投資家が取り扱う商品です。個別株式オプションはないので、個別株式にオプションをかけることは、日本ではできません。株式指数を保有、あるいは購入予定がある場合、日経平均株価、TOPIX等に、オプション取引をすることができます。投資信託商品は、リスクヘッジを金融派生商品で掛けている場合があります。仕組みを理解するのも、むつかしいですが、個人投資家が利用することも、使い勝手が悪い商品です。
金融商品 限月 権利行使価格(刻み) 取引単位(1口) 証拠金
債券先物 2限月 1円 額面1億円 あり
債券オプション 最長1年 任意 任意(額面1億円以上) なし
金利先物 3限月 0.25ポイント 元本1億円 なし
株式指数オプション 直近連続4カ月 500円(日経) 原資産の1,000倍 あり
Jリート先物
金融市場の特徴
相対(あいたい)取引は、顧客と金融仲介者が1対1で金融仲介者の窓口において金融商品を取引することをいいます。取引所は、顧客が金融仲介者を通して金融商品を取引し、金融仲介者自身が自己資金で取引します。金融市場の内、預貯金、外貨預金、貸付金市場は、金融仲介者が銀行であり、銀行だけが預貯金を取り扱えます。銀行は、預金を貸付、預金金利と貸付金利との利ザヤを収益とします。
銀行が預金者と借入者とを資金で仲介することを間接金融といいます。債券および株式は、資金供給者と資金需要者が、直接、資金と金融請求権(債券および株式)を取引することを直接金融といいます。
金融派生(デリバティブ)商品の内、先物、先渡し商品は、投資家の予想を反映して、契約価格が決まります。オプションは、オプション価格が確率過程から導かれるため、同じ満期期間であっても、先物、先渡しとは、違う値動きをします。オプションは、顧客が取引所の設定するオプション価格帯から選択し、原資産の損失を前払いで確定できる、保険的商品です。投機的に、利用することもできますが、オプション商品は、業界では、保険的認識で運用しているようです。
本教室対象の個人投資家は、保有する原資産額が小さく、それに対してリスク・ヘッジするほどでもありませんが、海外を投資対象にしている投資信託の中には、為替変動のリスクをデリバティブ商品で、価値の下落に対して、保険をかけている商品がありますから、その方法を理解する必要があります。
特徴
金融市場 取引方法 取引期間 金融仲介者
預貯金 相対(あいたい) 1日~10年 銀行
外貨預金 相対 1日~3年 銀行
貸付金 相対
1日~35年 銀行
債券 相対・取引所 3ヵ月~30年 銀行・証券会社
株式 相対・取引所 無期限 証券会社
投資信託 証券会社 ~無期限 銀行・証券会社
Jリート 取引所 ~無期限 銀行・証券会社
デリバティブ 相対・取引所 ~1年 証券会社
先物
先渡
オプション
スワップ
今週(2021年5月10日~5月14日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、国内は連休と主要都市の緊急事態宣言で、ありませんでした。1~3月期決算と3月期決算がありました。
今週のイベントは、日米仏3カ国離島防衛訓練があります。日本は、イギリス変異株が流行中で、主要都市の緊急事態宣言は、拡大し、5月末まで、継続されます。高齢者ワクチン接種も始まりました。しかし、変異株が若年者をターゲットにしているため、65歳未満の接種が6月に始まらないと、日本では、変異株流行の鎮静化はむつかしいかもしれません。
3月期の主要企業の決算があります。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実現値
5月3日 米貿易収支 -734億USD -744億USD
6日 中貿易収支 1,295億元 2,765億元
7日 米失業率 5.8% 6.1%
経済統計は、次の発表があります。
予測値 実現値
5月11日 日全国家計調査 1.6%
中CPI 1%
12日 米CPI 3.6%
13日 日3月国際収支
8,111億円
第6回目 2021年5月17日
日本の金融商品の取引と現状をのべます。金融商品の貨幣価値、すなわち、金融商品1単位が、貨幣でいくらするのかという評価方法が、他の商品と違います。
要点・日本の金融商品の取引と現状
・金融商品の評価
日本の金融商品の取引と現状
日本の預金、債券、株式の取引と現状
預金:預金取扱金融機関において、本人名義で1円から入金すると、預金口座を開設できる。普通預金は、公共料金等の自動振り込み、消費者ローンおよび住宅ローンの返済資金決済に利用される。貯蓄手段としては、原則満期期間2年まで、3年以上は自動更新の定期預金口座があり、普通預金から、定期的に積み立てることができる。本人が死亡するまで、預金口座は存続するが、10年以上使用しなければ、休眠口座となり、その預金は公益事業に活用され、ふたたび、使用すれば、利用できる。預金が没収されるのではない。
預金口座は、本人名義の金融請求権であり、本人の委託なしに、口座を利用できない。10万円以上の振り込みには、本人確認書類を要求され、その手続きが不便である。
インターネット銀行や流通業者の銀行が設立され、銀行の窓口に行かないで、決済ができる。
2年前からは、仮想通貨が流行しだし、取引所も増えた。通貨というが、本来の通貨との交換レートが変動する。中央銀行が発行している通貨ではないから、交換レートが仮想通貨取引所で毎日成立する。仮想通貨は、銀行で金預金、外貨預金と同様、仮想通貨預金できるようになるのか、模索が続くだろう。
ポイントが流通業者間で共通化されて、物品、サービスと交換できるようになっている。共通ポイントの場合、物品、サービスの購入の都度、例えば200円につき1ポイントを店側のメモリーに付与してくれる。1ポイントは1円に交換して、物品の購入に使える。これも電子マネーのようで、決済手段に使われるので、業者間では共通通貨である。ポイントを貯める人も多いが、失効期日があり、貯めても、利息は付かない。小銭のおつり分にポイントを使用するのではないかと思う。
債券:満期期日に元本を返済する割引債と満期期間に半年か1年ごとに利息(確定利息)を支払う利息付債がある。割引債は、かつて、長期信用銀行および東京銀行において、国内に支店網が少ないため、資金調達のために、割引債を発行し、郵便局から購入できた。普通銀行は、地域に支店網が多く、預金によって、資金調達可能であったため、発行は認められなかった。しかし、1998年のバブル破たん処理が本格化して、預金金融機関の再編が起こり、長期信用銀行および東京銀行は、普通銀行となった。リーマン・ショックまで、割引債は存続したが、ゼロ金利時代となり、割引債は発行されない。
利息付債は、国債を中心として、発行額は増大している。かつては、インフラストラクチャー計画のため、建設国債が発行され、「失われた時代」は、税収減から、赤字国債が発行され、雪だるま式に増大した。リーマン・ショック以降は、社会保障予算が増大して、今後、高齢者医療費が増大する時代が30年間つづくだろう。
封建時代であれば、藩の人口減少は、領民の逃亡であり、すなわち、領主の統治能力の欠如であり、幕府により領地お取り上げとなり、近隣の藩に統合されるのは当然であった。さしずめ、市であれば、3万人未満になれば、原則的に市政返上となる。地方交付税は、かなりの部分は人口割であるから、人口が減少すれば、地方交付税が減少し、市は近隣の市に合併され、国の財政健全化に寄与するし、地方債の発行は、国より健全財政均衡が求められているので、今後は、減少するだろう。
全国的に、地方自治体の平成大合併時代があったが、近畿では、大阪府が不作為であった。維新の会ができて、大阪市を再編しようとか、府と市の行政機関が同じような業務をしているということで、統合が実現した行政事業もある。また、道州制などの議論があり、「地方自治体消滅」の研究が発表されたこともある。しかし、維新の会では、大阪都は実現できなかった。大阪市、堺市は、今もって、行政区域は変更なしである。
日本では、社債は、1970年の資本の自由化、1974年以降の変動相場制により、大企業は、銀行による借入金より、外債発行による、国内金利より低い利息で資金調達をし、海外進出を図った。海外投資家は、変動相場制により、360円から200円台と、ドル安を見込んでいるから、為替差益がほぼ確実に期待できた。つまり、1億円、1%で5年債を発行すると毎年、100万円利息が払われるが、発行時、1ドル280円、次の年260円に円高になると100万円はドル換算すると、3,571ドルが3,846ドルであるから、差益は7.7%になる。これが、日本の銀行システムが縮小する原因であり、日本銀行の金融政策が効きにくくなる原因でもあった。また、企業の投資案件は、企業成長に欠かせないが、資金調達の段階で、銀行の借入金より、社債発行の方が、資本調達コストは低い。しかし、戦後の産業成長期に、社債市場は育成されず、社債発行費用が高かった。1970年代、変動為替制に移行し、大企業は、海外市場で資金調達に出る。日本独特のメインバンク制(銀行が大株主の地位をもちい、財務取締役に銀行員を派遣し、財務管理をする。)による、銀行の直接財務管理がきらわれ、企業独自の財務管理へ移行する。海外市場をもたない中小企業では、社債を発行しても、買い手が限られる。株式の増資となるとさらに引き受けてはいないから、依然、間接金融優位であり、メインバンク制は残っている。
日本では、債券は、国債と地方債が大半であり、地方債は、人口減少のため、発行が減少する。社債は、海外市場消化を想定した伝統を引き継ぐだろう。
株式:新古典派経済学やケインズ経済学では、株式市場の典型的なモデルはほとんど開発されていない。債券市場は、新古典派経済学では「投資・貯蓄説」がある。ケインズ経済学では、貨幣市場という現実にはない市場で、「流動性選好説」があり、債券市場は、流動性選好説で決まる利回りが債券市場の利回りである。貨幣市場の均衡で、債券市場の利回りが決まることになっている。ケインズ経済学はマクロ経済学であり、新古典派経済学はミクロ経済学もマクロ経済学もある。しかし、両学派のモデルには、株式市場の株価はどう決まるのかは、はっきりしない。株式市場は、資本主義経済の中核の市場なのだが、モデルはない。
本資産形成論では、4章において、株式市場は、交換経済市場であり、不確実性下のミクロ経済学によって、株式価格の市場均衡価格が決まることを論じる。
金融商品の評価
・預金、債券の現在価値と将来価値、最終利回りと市場価格との関係
・住宅ローンの元利均等払いと元金均等払い
・株式の評価
・投資信託の評価
・練習問題
預金、債券は,利息の支払いと元本の償還がある金融商品である。ともに、満期までに、利払いがあり、利息と元本を足した額を元利合計という。預金は、1口1億円の譲渡性預金以外は、預金の名義人以外に、途中、譲渡できない。
預金の価値
現在0,将来1、2で表す.現在、銀行に年利子率iでA0円預金する。1年後の元金A0円と利息i×A0円を合わせた額A1=A0+i×A0=(1+i) A0円を元利合計という。
2年定期預金の元利合計A2 は、元金 A0 、利子率iと表すと単利と複利の2種類がある。
単利 A2 =i×A0 +(1+i) A0 =(1+2i) A0
1年目の利息 + 2年目の利息+元本
複利 A2 =(1+i) ×i×A0
+(1+i) A0 =(1+i) 2A0
1年目利息iA0の + 2年目の利息+元本
再投資
元金A0を現在価値、1年満期の預金の元利合計を将来価値A1とよぶ。
金融商品の市場価値を現時点で評価する方法は、割引現在価値がある。預金の場合、
現在価値A0の将来価値A1 (1年満期の預金の元利合計) A1 =(1+i) A0
将来価値A1の割引現在価値A0 A0 = A1/(1+i)
ということにする。割引現在価値A0は、預金A1という元利合計の金融商品の現在市場価格を表す。A0 = A1/(1+i)から、分かるように、利子率iと市場価格A0は反比例の関係がある。
さらに、従来、利子率は確定利息であるが、期間平均利子率の変動金利もある。預金は相対取引であるが、預金金利は自由化されていて、各銀行で、顧客との関係で、預金利子率は違う。現在、日本銀行のマイナス金利政策で、金利差がほとんど目立たない。
外貨の価値
外貨交換所で、1万円でドルを購入する場合、為替レートは、午前11時過ぎに、当日の銀区間為替レートが決まり、そのレートに、手数料が追加された為替レートで、購入できる。
2021年5月14日中心相場は、109.6円/ドルであった。対顧客電信売相場は、110.63円/ドルであった。1万円で、90.39ドルと交換される。例えば、9月に、ロサンジェルスに旅行する予定であれば、旅行期間中のクーポン以外の現金保有ドルを20万円とすれば、現在、対顧客電信売相場が円高で、108円/ドルになったとき、銀行で1851.85ドル購入する。帰国後、300ドル使い残した場合、買い相場110円/ドルで円安になったとき、33,000円に交換する。
外貨預金の価値
外貨の現金保有は、利子がつかないが、外貨預金は利子がつく。現在、米国は、金融緩和中で、定期預金利子率は、年0.01%、日本の銀行で、スーパー定期(300万未満)年0.002%である。現在、世界の先進国の利子率は年0.01%である。世界は、金融緩和時代でも、日銀の金利政策は、飛びぬけて、低金利である。
外貨預金は、現金保有より、利子がつく。方法は、銀行で外貨預金口座を開き、現金か、円預金から振り返れば、定期預金となり、自動更新できる。引出は、外貨ではできない。海外旅行中、外貨で引き出しできる場合もある。
1ヵ月定期に、200万円を1年定期預金すると、110.63円/ドルで、18,078.27ドル預金する。1か月後、買相場112円/ドルで、18,078.27ドルを引き出すと、2,024,766.24×(1+0.0001)=2,024,968円である。為替差益と利息が稼げる。収益の主な成分は、為替差益であり、売りtimingが悪ければ、1ヵ月定期を自動更新すると、複利が効き、売りtiming好時に、満期解約損を少なくし、差益を機動的に稼げることが分かる。ただし、国内で外貨預金をした場合、利息は20%、課税され、満期・解約時に発生する為替差損益は、雑所得として、分離課税ではなく、総合課税される。
住宅ローンの元利均等払いと元金均等払い
家計が住宅を取得するために、住宅金融支援機構や銀行から融資を受ける書類審査の要件を満たせば、融資の手続きに入る。そのとき、返済方法は、元利均等払いと元金均等払いがある。
元利均等払い(固定返済型)年固定返済額FR、満期期間 n年,利子率 iとする。借入金 L0は、銀行側は元利合計L0×(1+i)n+1円を返済してもらい、借入者は毎年FR円を返済する。FR円を利子率iでつみたて運用すれば、元利合計はFR{(1+i)n+ … +(1+i)2+(1+i)}となる。
L0×(1+i)n+1=FR{(1+i)n+ … +(1+i)2+1+i}
と表せる。両辺を(1+i)n+1で割れば、借入金と固定返済額の現在価値とが等しくなることを意味する。
L0= FR +FR + … + FR
1+i (1+i)2 (1+i)n
固定返済額 FRは,公式1(金融数学1)を使って
FR = L0÷{ 1 + 1 + …
+ 1 }
1+i (1+i)2 (1+i)n
= L0×i(1+i)n / {(1+i)n -1}
元金均等払い
元金均等払いは、毎回の元金返済を均等にする返済方式である。t回目の返済額をRtとする。毎回元金均等分L0/nを残存年数間、単利で運用する。
Rt= L0×{1+(n-t+1)×i}
n
総返済額は、R=Σt=1n L0×{1+(n-t+1)×i}=L0+L0×i×n(n+1)
n n 2
このように、元金均等払いは、元金と利払いが分離する。
元利均等払いと元金均等払いの違い
元利均等払いは、利払い額が先行し、元本返済が後半に多くなる。銀行では、元利均等払いの方が、複利計算により、返済利息にも利息がとられるので利息収入が多い。また、たとえば、貸付初期5年で借入者が返済不能になっても、借入者には元本分がほとんどないので、住宅債権は銀行側に落ちる。銀行側優位の返済方法である。
元金均等払いは、最初から、L0/n円、元本返済が進むので、住宅債権は、最初から借入者に移っていく。しかも、利息は単利計算なので、元利均等払いと比較しても、支払利息は少ない。しかし、最初から、L0/n円という返済額は、負担が大きい。住宅ローンは、借入者の方が、銀行より債務者として、立場が弱いので、銀行の言いなりで、元利均等払いの返済契約が多いはずである。子供の教育イベントが済めば、退職まで早めに、繰り上げ返済することが望ましい。
債券の評価
債券は、譲渡可能であるから、証券会社で売却可能である。途中で、売却することは証券会社では勧めていない。その売却価格が、そのときの市場利子率で評価される。
満期期間、最終利回りの計算法、発行の方法、1口の金額、取引単位で分けられる。
債券を特徴付ける項目は次の通りである。
満期利回り Rn
債券市場価格 P
1期間当りのクーポン C
償還価値 F
残存期間 n
1) 単利の最終利回りをRnとする。各期間のクーポンはその債券に再投資されない。
Rn = C+(F-P)/n
P
2) 複利の最終利回りをRnとする。クーポンCは再投資される。ただし,日本では発行されることは少ない。
P(1+Rn)n=C(1+Rn)n-1+C(1+Rn)n-2 +…+C(1+Rn)+C+F
これをRnについて解く。
割引債式の評価 額面 F、利子率i、満期期間 1年とし、市場価格は現在価値Pであり、満期時に額面 Fが償還される。
P= A1 / (1+i )
額面 F,利子率i,残存期間 n年とし,市場価格Pである割引債は
P=F/ (1+i )n
国債の評価 額面 F、クーポン C、満期期間 n年、市場利子率iとし、発行時の市場価格P は、
P = C + C + … + C+F
1+i (1+i)2 (1+i)n
債券の最終利回りと市場価格との関係は、割引債、国債ともに反比例である。
証券取引所では、10年国債の場合、額面100円、クーポン6円、満期期間10年で標準化される。
実際に発行されている国債は、クーポンは、市場利子率の実勢に応じて、発行されるから、10年国債は存在しない。現物を購入したい顧客は、10年国債を基準に、クーポン、残存期間に応じて、交換比率(conversion factor)が計算される。
株式の評価 1株あたり年配当Dを将来無限に受け取ることができるとする。配当割引モデルにおいて、株式収益率(安全資産利子率+危険負担率)をρとし、市場株式価格をPとすると
P= D + D + D + … = D
1+ρ (1+ρ)2 (1+ρ)3 ρ
1期間だけで、現在価格P、株式収益率s、1株当たりの今期配当Dと株式の期末予想株式価値Peとすれば、
s= D +(Pe -P)
P
と定義する。変形すると、
P= D +Pe
1+s
と表される。このとき、Peは、清算価値にあたる。
投資信託の評価
投資信託受益証券は、投資信託会社が、投資方針で、投資家から資金を募集し、資産を購入、当初10,000口、10,000円を当初の基準価格とする。総資産の各時点での評価額を投資口数で割って、時価の基準価格が新聞に公表される。償還期間が無期限から、1年未満まである。購入時に買付手数料がかかり、商品保管のための信託報酬料がかかる。投資信託は、利息や配当が定期的に確定するが、それらは、口数に応じて分配され、追加投資されるか、税引き後、払い出される。
投資方針は、株式、債券、REIT、バランス等がある。それぞれ、国内資産と国際資産がある。国際地域別がある。商品は、目論見書の閲覧確認が義務化されているので、必ず、投資方針の確認はしなければならない。
格付け(レーティング) 各商品は、モーニングスター社等の格付け会社によって、格付け(レーティング)してある。
買付手数料がかかるが、手数料0円もある。
信託報酬料は、商品ごとで、違いがある。
練習問題
1.1年満期の定期預金に、年利子率0.25%で10,000円預金すると、1年後の元利合計は、( )円である。
2.利子率が、年1%のとき、1年後の1万円を現在価値に割り引くと、( )円である。(少数以下は切り捨てること、分数で答えてよい。)
3.茨木太郎が自動車事故の示談金10万円を貸金業者から、満期期間2年、利子18%、固定返済型で借り入れるとき、1年分の固定返済額は( )円となる。
4.1年満期期間で、額面100円の割引債が、現在、98円で販売されていれば、その利回りは、( )%である。(少数以下は切り捨てること)
解答
1. A1 =(1+i) A0から、 A1 =(1+0.0025)×10,000=10,025
答え(10,025円)
2. A0 = A1/(1+i)から、A0 = 10,000÷(1+0.01)=9,900.99
答え(9,900円または10,000/1.01)
3. FR =L0×i(1+i)n / {(1+i)n -1}から、
FR =100,000×0.18×(1+0.18)2/ {(1+0.18)2-1}=100,000×0.250632/ 0.3924
=63,871
答え (63,871円)
4. A0 = A1/(1+i)から、98=100/(1+i)
98(1+i) =100
98i=2
i=2÷98≑0.0204
答え ( 2 )%
今週(2020年5月17日~5月21日)のイベントと市場への影響度
世界がコロナ禍で、対策に翻弄された2020年でした。根深いトランプ支持層の厚さありましたが、コロナ対策で、感情的なアメリカ有権者の集会が封じられ、バイデン氏に負けてしまいました。こういう世界の主要国がコロナ対策で動きが取れない時、中国の感染が統制され、経済活動を平常化しました。中国が、世界政治経済で、工作していく心配がありました。その通りの展開になったと思います。2020年後半、安倍晋太郎氏と同様に、安倍晋三首相は、内臓疾患で辞任しました。トランプ大統領と親しい、世界唯一人の首相でした。バイデン氏が当選して、日米関係は、菅首相と再構成することになりました。
昨年の世界政治の見通しは、トランプ氏対世界の対立時代であり、さらに、コロナ禍から回復した中国の動向が焦点になっています。
2020年資産形成論ノート 第6回目 コロナ禍、世界政治の見通し 再掲
コロナ禍が世界に広がり、各国政府は、陸空海国境封鎖をしているので、国も巣籠し、コロナ対策に集中しているから、それらの対策に、違いはあっても、国際間で対策を協力する段階に至っていない。
WHOは、情報が対策を支援しているわけでもなく、ウイルスの最初の検体を武漢研究所から収集して、「WHO疾病研究所」に持ち帰り、各国から、順次、検体をもらって、ウイルスの時系列で、研究が進んでいるわけでもない。中国は、世界共産主義工作で、アジア、アフリカ、旧東欧、中南米の共産党に政治工作することを、コロナ禍に乗じて、コロナ対策支援をし、積極的に進めているしか、思えない行動を取っている。
2010年代は、北アフリカのサハラ犯罪集団、リビア・カダフィ集団、IS忠誠集団が、シリア、北アフリカ、西アフリカに、出撃し、住民を難民化して、EUに追い込み、EUを分断しようとしてきた。
2000年から中国経済は、成長著しく、中国の国際政治目的は、アフリカ諸国とアジアの独裁政権に、経済テコ入れをし、EUの旧植民地国の政治的影響力をそいで、中国の天安門にある『世界人民団結』をスローガンに、共産党独裁統治を末永く、世界的に支持してもらうことであろう。また、それらの国に、インフラを供給し、民主主義でなくとも、経済成長することを実証し、共産党独裁統治は、EUや米国が主張する民主主義と人権を守る統治でなくとも、結果は同じだということを、支援国に周知させたいのであろう。
独善的『一帯一路』は、強権、独裁志向のある国々を赤い星でつなぎ、強権、独裁統治を、民主主義と人権を守る統治を要求する輩を監視、排除するため10Gで監視し、東ベルリンの中国大使館が『一帯一路』終点のような気もする。終点に到着するころには、中国の矛盾を克服できず、中国統治形態も変革しているかもしれない。
ASEANでも、中国は相対交渉が基本であり、集団交渉は、対中国でまとめられることを分断して、満場一致の邪魔をし、一貫した外交方針が決まっている。
今回のコロナ禍は、英国がEUから離脱し、バルカン半島、ウクライナのEU加盟をにらみ、インフラ支援に、医療支援を行い、着々と、EUを分断し、中国に対する「内政干渉」を議題とするならば、中国の支援に落ちた国の否決票を確かなものにするのだろう。
2021年、世界政治の見通し
日本は、軍事・経済・金融・外交の各分野で、戦後、一貫して、軍事覇権を放棄し、軍事を伴う経済・金融・外交は慎んできた。21世紀に入り、地球上のすべての国家と自治区は、国連の主導するSDGs(持続可能開発目標 Sustainable Development Goals) 体制に組み込まれて行く方向性が決議採択された。日本は、SDGsの世界政治経済体制形成に、日本国憲法の改正はあるかもしれないが、軍事覇権を放棄する原則は維持し、SDGs体制育成に助力する存在になる。
昨年は、コロナ禍で、中国だけが、コロナ禍を回避し、2020年の見通しのように、中国は、国際政治を進めて来た。香港国内化、台湾海峡、尖閣諸島の軍事行動、インド国境紛争再燃、ラオス鉄道建設、スリランカ・ハンバントタン港湾施設99年間リース、パキスタン鉄道改修工事で行動をして来た。EUの東欧各国で、インフラ投資をし、先端技術を保有する企業を買収に乗り出した。
2020年後半、事の重大さに気づいた、米国、日本、豪州、インド、英国、最後にEUを刺激し、自由防衛圏を軍事的に形成する運びになった。中国軍が展開している各国国境の防衛に協力し、中国軍が、その国内を進軍できない障壁を設置して、中国軍の出口包囲網を敷き、連携して同時攻撃体制を維持する戦略にまとめていくだろう。旧ソビエトに対する、西側の出口包囲防衛網と同じ戦略である。
今年になって、ミャンマーでクーデターが勃発、やはり、中国拠点港がらみで、中国軍とロシア軍が、国軍と呼応しているフシがある。8カ国が国軍記念日に参加したが、インド、バングラデシュ、パキスタン、ラオス、タイ、およびべトナムで、ミャンマー国境に直接、間接的関係があり、国軍が周辺民族と戦闘に入れば、難民として入国してくるので、国軍の訓練度と装備を視察、今後の国軍の動きを牽制しに出席しているとみるのが正しい。日本の報道は、国軍を支持する8カ国と紹介する向きもあった。インド、バングラデシュ、ベトナムは、ソ連時代から、ロシア軍装備と関係が深い。中国は、出口を確保するのが、出席の主な理由だろうが、中国は、国境に接しているから、他の隣接国と同様に、難民問題が発生するリスクがある。
クーデター後、いまだに、デモもあるが、国民の「不服従運動」が定着し、内戦の寸止め状態にあり、無差別殺生をする国軍の経済社会運営、産軍共同体の生産活動に効果があるようだ。周辺国は、国民の「不服従運動」に呼応し、国軍の経済社会運営、産軍共同体の生産活動に協力しないことである。仏教国で、信徒を国軍が無差別殺傷することは、あってはならないことだ。ヤンゴンに行ったとき、ミャンマー人は、インドやタイほど、あいさつで、手を合わせないなぁと思った。国軍支配が長期にわたり、上に立つ国軍を尊敬するものはいない。その間、国軍は、国民を殺すぐらい平気な暴力装置になっていたから、そうなるのだろう。カンボジアのポルポトも敵対国民に残忍だったが、インドシナ半島では、政権次第では、歴史的に、こういうこともある。
ロシアのサイバー攻撃で、米国の石油会社が給油を中断した。ロシア政府は関与していないが、米国の石油価格を上昇させる効果があった。バイデン大統領の対ロシア戦略は、検討中なのかもしれない。最近、中国がワクチンをパレスチナに配ったというニュースが流れ、それを合図に、ガザから、ハマスは、ロケット弾をイスラエルに打ち出した。イスラエルは、現在、反撃中であり、国連安保では、その議決に反対するバイデン大統領に、トランプ後のイスラエル政策を値踏みしているようだ。作戦自体は、特定の個人の発想から、生まれた発想のように見える。バイデンを何とか攻略せねば、封じ込まれるロシア、イラン、中国の連携作戦のようだ。
世界経済は、夏以降、主要国で、ワクチン接種が終わり、人出が戻って、対策済みの環境で、経済社会活動は、復旧する。その中で、中国が支援する途上国は、一段と、政治経済が落ち込んだまま、復旧には、数年かかるだろう。その分、中国の支援は、中断せざるを得ないだろう。先進国は、財政支援で、大量国債発行しているから、中国の事業に支援する国は絶対ない。中国支援方式では、土地担保か資源返済で双喜(Win-Win)契約であるから、その国は予算を出さないといけない。IMFや世界銀行、ADBは、中国の事業に融資はしないし、それらの返済資金の中国債務返済転用は許されない。
コロナ禍の影響で、中国が、東アジアにある中国生存境界を越えて、国力を費やすことは、不良債権の山ができ、米国、ロシアと同じ衰退の道を歩むことになる。中国共産党は、「一帯一路」を自前で作るのは、結局、全額負担になる。
香港国内化、ウイグル族弾圧に、中国の周辺自治区に対する強制に、「一帯一路」関係国は、過度の北京中央集権主義を危険視し、昨年後半から、自由防衛網を立ち上げた。今年から、連合艦隊による軍事演習が始まり、中国軍の包囲網を形成することになってきた。
日本の明治維新政府は、外部の覇権国に邪魔されず、東アジア共栄圏を建設しようとする方向性をもち、ABCD包囲網に挑戦したが、国力差がありすぎ、悲惨な第一次世界大戦の総力戦を経験していないから、物量で劣る中国軍と、日本陸軍の本隊300万人が駐留する中国戦線では負けていないが、太平洋に展開する、物量で圧倒する米軍に、日本列島を空襲され、負けてしまった。
中国は、現在、第2位の経済大国になったら、強国がスローガンらしく、世界の覇権国に、追いつき追い越せをやり始め、中国主導で、ユーラシア大陸共栄圏を建設、ジンギスカンが歴史的に実現したように、東ヨーロッパまで侵攻、支配しようと考えているのかもしれない。
中国は、今年も、あれこれ、作戦を実行し、米国との対決は続行するだろう。また、ロシア、中国、イランの国家戦略が変化ないと仮定すると、トランプ戦略と比較した、バイデン大統領の、対ロシア、対イラン、対中国、対中東の戦略が明らかになって行くだろう。
先週は、日本企業の3月期決算発表11日から15日までありました。ソフトバンクの4.9兆円純収益とトヨタの2.2兆円収益の発表が目を引きました。
今週のイベントは、19日、北極評議会の閣僚級会合がレイキャビック、20日米ロ外相会談があります。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実現値
5月11日 日全国家計調査 1.6% 6.2%
中CPI 1% 0.9%
12日米CPI 3.6% 4.2%
13日 日3月国際収支
8,111億円 9,831億円
経済統計は、次の発表があります。
5月17日 中社会消費品小売総額前年比 25%
中鉱工業生産前年比 21.2%
18日 日1~3月期の国内総生産年率 -4.5%
20日 日4月の貿易統計 1,439億円
21日 日4月消費者物価指数 -0.5%
第7回目 2021年5月24日
4.資産市場における行動理論
要点
・ライフ・サイクル理論
・貨幣一時的一般均衡理論
・練習問題
今回は、伝統的実質ライフ・サイクル理論および貨幣一時的一般均衡理論による名目ライフ・サイクル理論を説明します。
練習問題にあるように、公務員試験問題等では、税金を貨幣で納付することになっていますから、所得、支出、貯蓄、税は、貨幣(円)で評価されています。経済理論のように、異時間の経済量の比較は、実質化しないと、比較できないという考えはありません。貨幣自体に資産価値があると認識される国債管理通貨制度の時代になり、「貨幣ベール観:貨幣自体に価値がない」という考えは、経済が崩壊している国以外は、取っていません。
現在、日本国内で、経済取引されるものは、貯蔵価値のある通貨単位(円)との交換比率で表示される相対価格です。りんご1個150円といいますが、通貨単位とりんごの相対価格は、円/個という比率で表されます。すべての経済財は単位量が円で評価されます。
かつては、金や銀の貨幣がありましたが、紙幣と金との交換比率を法律で定め、兌換紙幣を発行しました。現在は、すべての紙幣は、不換紙幣です。日本も、円が金という金属との公的交換性がなくなり、すべての経済財は円による絶対評価です。継続して、すべての経済財の円評価が増加すれば、インフレーションであり、逆は、デフレーションです。
現在、黒田日本銀行総裁が金融緩和により、株式や国債を買い上げ、それらの価格上昇を引き起こしていますが、財・サービス価格は、1%もインフレーションにならない状態が続いています。財は、中国製品を輸入していて、110円台の為替レートですから、輸入価格が低下します。サービス価格は、販売、運輸、建設で上昇していますが、財に転嫁されにくいので、1%もインフレーションにならないのでしょう。第3次産業では、労働が生産費のほとんどを占めますから、その産業の賃上げは期待できません。資産市場価格の高止まりには、金融緩和は貢献していますが、第3次産業のサービス市場には、店舗新築・改装等の投資がありません。昨年は、コロナ禍で、逆に、閉店や休業補償がありました。
本題に戻ると、個人がライフ・サイクル理論にしたがって、終生の消費・貯蓄計画を立てるとき、予想所得および個別の品物の予想貨幣価格で計算すれば、ラスパイレス型注)実質化をしていることになります。インフレ時代では、継続的に大幅な物価上昇があり、実質化して、異時間の経済量を比較して、経済成長を実質的に考察する意義があり、物価変数は実質的経済成長論に入りません。しかし、ほとんど1%以下の物価上昇率の日本では,物価をモデルに入れた名目的貨幣経済成長論も意義があるのではないでしょうか.実質ライフ・サイクル理論と比較して、貨幣一時一般均衡論にある、名目ライフ・サイクル理論を取り上げます。
注)ラスパイレス型価格指数(消費者物価指数CPI)は、比較時の数量は、2年後でなければ手に入らないので、基準時のままとし、比較時の価格は手に入るため、比較時価格×基準時数量で合計した比較時価値合計を作成し、CPI=比較時価値合計/基準時価値合計を計算したものです。比較時の価値の実質化は、比較時の価値をCPIで割ります。今回の終わりに、国内総生産GDPの実質化を載せています。
実質ライフ・サイクル理論
図4.1に、消費者の最適解が原点に凸の無差別曲線と北西から南東へ引かれた直線が、この消費者の予算線である。点Aは、(消費者の初期資産+現在所得a0+y0、将来所得y1)の組を表す。点Aをとおる予算線上で、消費者は最適消費量を選択する。選択する判断は、同じ効用を表す無差別曲線u1=c0c1(定数u1のとき、双曲線として描ける。)と予算線との交点を選ぶ。無差別曲線は、右上にいくほど、選好順位が高くなる。無差別曲線と予算線とが接する点が、消費者均衡点Eである。
図4.1および図4.5zu4.1.2021.pdf へのリンク
名目ライフ・サイクル理論
図4. 5に,最適解の点Eを示している.貨幣残高m0があるため,消費は期間1では,e1+m0/p1まで可能である.
ところが,消費者が,インフレーションp1<p2を予想していると,予算線の傾きはEAより,BA’のように傾斜が緩やかになる.需要は,いったん,左へ移動する実質残高効果で減少するが、次に、無差別効用線u2上に移動する異時間代替効果が働き,需要が増加する場合がある。デフレーションの場合は,傾きは急になる.均衡点は,右に移動する.
すべての消費者は,インフレーションp1<p2を予想し,初期の貨幣残高m0を保有しているとする.財市場において、p1が十分低いとき,競り価格p1を上げると、個別超過需要c1 -e1は,正である.財市場の総超過需要がゼロにならないので,市場は均衡しない.
しかし,少なくとも一人の消費者が予想価格p2を固定していると,その人の縦軸切片(p1/p2)e1+ e2+m0/p2は上昇し,横軸切片e1+m0/p1は減少して,BA’線が右上に回転移動し,異時間効果が働かなくなる.この人の個別超過需要は0になって行き,市場は均衡する.
貨幣をもつ一般均衡理論では,予想条件で,市場均衡しない場合がある.しかし,消費者の将来価格予想が取り扱える点で,実質ライフ・サイクル理論と異なり,将来価格予想を分析できるようになった.さらに,貨幣を公定歩合で各主体に供給できる中央銀行を導入すると,中央銀行は,金融政策の手段である公開市場操作および貸出政策を実施できる.
国内総生産GDPの実質
一国の1年間の経済主体の経済活動は,国民経済計算SNA(System of National Accounts)で測定・記録・公表される.経済基盤情報として,3カ月ごと,前四半期の国内総生産GDP(実際は,GDP確報は2年後公表なので,速報性のある国内総支出GDE,会計上GDP≡GDE)が,政府から公表される.これは,景気観測の情報として重要度が高い.
デフレーターの作成
基準時を0とし,比較時をtとする.商品は,りんごとみかんとする.
商品 基準時0 比較時t
価格P0 数量Q0 価格Pt 数量Qt
りんご 100円 20個 120円 30個
みかん 20円 100個 30円 80個
基準時および比較時のりんごおよびみかんの購入合計は,それぞれ,その時点での名目値といい,次の通りである.
ΣP0×Q0 = 100×20 + 20×100 =4,000
ΣPt×Qt = 120×30 + 30×80 =6,000
これら名目値同士で,購入額を比較するとき,りんごとみかんの価格が変化しているので比較できない.そこで,基準時から価格が不変だったとして,価値額ΣP0×Qt を計算する.これを比較時tの実質値という.上の例では
ΣP0×Qt = 100×30 + 20×80 =4,600
実質値 ΣP0×Qtは,変形すると
ΣP0×Qt = ΣPt×Qt
ΣPt×Qt
ΣP0×Qt
このとき,分母の比率(ΣPt×Qt)/(ΣP0×Qt)をパーシェ型価格指数(GDPデフレーター)という.この指数で,基準時の名目値を割れば,基準時の実質値がえられる.上の例では
パーシェ型価格指数=(ΣPt×Qt)/(ΣP0×Qt)=6,000/4,600≒1.3 .
しかし,比較時の数量Qtのデータは,すぐえられないので,(ΣPt×Q0)/(ΣP0×Q0)とした,ラスパイレス型価格指数を作成する.これは,消費者物価指数CPIとして用いられている.上の例では,
ΣPt×Q0=120×20 + 30×100 =5,400であるから
ラスパイレス型価格指数=(ΣPt×Q0)/(ΣP0×Q0)=5,400/4,000≒1.35.
これらの価格指数を,集計量を比較可能にするデフレーターとよび,公表されている.
資産形成論の本文4.1において,若年世代および壮年世代の消費・貯蓄の決定をそれぞれ2期間モデルで,示している.経済学教科書では,2期間モデルによって,ライフ・サイクル理論が説明される.本文の中で,実質所得,実質消費量,実質貯蓄量が使われている.これらは,パーシェ型価格指数またはラスパイレス型価格指数で実質化している.生涯所得の推計という実務(例えば,裁判所の生涯所得推計法)は,比較時の数量Qtのデータが,得られないので,価格Ptだけを予想し,基準時の数量データQ0を使うのは合理的である.
国民総生産GNP(Gross National Product)と国内総生産GDP(Gross Domestic Product)の概念の違い
「国内」とは,「ある国の政治的領土からその国に所在する外国政府の公館と外国軍隊を除き,領土外に所在する当該国の公館と軍隊を加えたもの」である.「国民」とは, 国内の居住者である.国内総生産GDPは,国内の要素所得Y(付加価値合計)に固定資本減耗Dおよび間接税-補助金を加えたものである.国民総生産GNPは,国内総生産に海外からの純要素所得ΔFYを加えたものである.
練習問題1は、効用関数がよく使われるタイプで、2期間の予算制約式のもとで、効用を最大化します。本文は記号ですが、数値を入れる方が分かりやすい、公務員試験では、所得税を入れています。練習問題2は、退職後も入れたライフ・サイクル理論です。この理論の特徴は、所得の変化を平準化して、毎期間の消費を同じにするということです。ライフスタイルは生涯、変動がないようにすることを意味しています。宵越しの金は持たないとか、老人になれば、節約志向の生活に変えるとかを計画するのではありません。
練習問題(地方上級試験平成7年度復元問題)
1.ある個人が第1期において得た100万円の所得を2期間にわたって全部支出する。個人の効用関数は,
u = C1C2 〔u:効用水準,Ci:第i期の支出額(i=1,2)〕
で示され,個人の第1期における貯蓄には5%の利子がつくものとする.個人は効用最大化を図るものとすると,個人の第1期の貯蓄額はいくらか.ただし,個人の第1期の所得と第2期の利子収入には10%の所得税が賦課されるものとする.
1 40万円
2 45万円
3 50万円
4 55万円
5 60万円
解答 第1期の予算制約式は,所得税100万円×0.1=10万円を控除し
C1+S1=1,000,000×(1-0.1)と表せ,C1+S1=900,000.
第2期の予算制約式は,利子収入S1×0.05万円から,税金S1×0.05×0.1万円を控除して
C2=S1×(1+0.05)-S1×0.05×0.1と表せ,C2=S1×(1.05-0.005)=1.045S1.
効用関数u =C1C2にC1=900,000-S1,C2=1.045S1を代入し,完全平方を作る.
u =(900,000-S1)×(1.045S1)=-1.045(S1-450,000)2+1.045×450,0002
S1=450,000のとき,効用は最大になる.貯蓄額は45万円である.
答え 2
2.(ERE02.3.3出題)ライフ・サイクル仮説にしたがって消費・貯蓄計画を立てている人がいるとする.今年31歳のこの人は,60歳で引退するまで毎年300万円の一定の所得があり,引退後の61歳からは所得がゼロとなるが,80歳まで寿命があると考えている. また,現在の貯蓄残高は,500万円である.この人が,生涯にわたって毎年の消費額を一定にするように計画しているとすると,今年の貯蓄額は次のうちいくらになるか.ただし,利子はなく,死後には資産も借金も遺さないものとする.
(1) 110万円 (3) 150万円
(2) 130万円 (4) 貯蓄しない
解答 毎年の消費額をC万円とする.総所得は300万円×(60-30)=9,000万円.
(貯蓄額+総所得)÷(30年+20年)=(500万円+9,000万円) ÷50年
=9,500÷50(万円/年)=190万円/年.
貯蓄額=300万円-190万円=110万円
答え ( 1 )
今週(2021年5月24日~5月28日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、19日、北極評議会の閣僚級会合がレイキャビックであり、米ロ外相会談がありました。両国は、「相違」は残しつつ、それ以外は協調することを確認しました。20日、閣僚級会合で、北極海の平和と安定に向けた建設的な協力をうたったレイキャビック宣言に署名しました。ただし、ロシアは、自国側の航路、資源、軍事の優位性を確保する行動を計画的に進めていることが、米国をはじめとした関係国の懸念となっています。
今週のイベントは、24日、欧州連合首脳会議が25日まで開かれます。26日に5月の月例経済報告があります。28日は、主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議がオンラインであります。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
5月17日 中社会消費品小売総額 25.0% 17.7%
中鉱工業生産 10% 9.8%
18日 日1~3月期の国内総生産 -4.5% -5.1% (前期比年率)
20日 日4月の貿易統計
1,477億円
2.553億円
21日 日4月消費者物価指数 -0.2% -0.1%
経済統計は、次の発表があります。
予測値 実績値
5月24日 日4月の全国百貨店売上高
26日 日4月の全国スーパー売上高
27日 米1~3月国内総生産 6.4% (前期比年率)
28日 日4月有効求人倍率
2.7%
日4月完全失業率 1.1倍
米4月の個人消費支出 0.5%
第8回目 2021年5月31日
資産市場における行動理論
要点
・債券現物・先物市場一般均衡論
・債券オプション理論
金融先物の最適化理論
前回の確実性下の貨幣一般均衡モデルを、不確実性下2期間貨幣一時的一般均衡モデルによって、債券・株式の2資産市場を考え、債券・株式の現物・先物価格を決定します。2資産がある現物・先物市場において、投資家は、価格不確実性に対して主観的確率分布をもち、確実性下の予算制約式と同様に,与えられた現物価格・先物価格に対して、2期間の最適化をし、市場均衡条件をみたす市場均衡解で、資産を交換し、期間2の先物契約をします。
例として、投資家の効用関数をコブ・ダグラス型として、前回の確実性下の問題と比べつつ、最適解を求めます。主観的確率分布も,例えば,一様分布を仮定すると,先物解も求められます。
次に、債券オプション理論を1期間モデルで、説明します。二項過程は多期間に拡張できます。しかし、発生確率は、オプション価格に関係がありません。これは、実現値をもとに、価格が計算されるためです。リスクを考慮するマーチンゲール確率を使った説明は、来年まで、準備します。7回の金融先物市場とオプション市場を関連付けることも、課題とします。
資産市場における消費者の行動と計画
消費者は,2期間の永久債の賦存量b0∈R+ をもつ.ここで,b0は確実に予見できるものとする.計画時の期首に,消費者は負債をもっていないとする. また,消費者は,市場が開かれる前,株式k0 ≧
0をもつ.
行動と計画
2期間の債券の流列を,b=(b1,b2)∈R+2,株式の流列を,k=(k1,k2)∈R+2とする.今期の先物市場における債券先物契約をcb2とする.消費者は,cb2>0であれば,期間2の期首に債券を受け取る.cb2<0であれば,その逆である.同様に,今期の先物市場における株式先物契約をck2とする.消費者は,ck2>0であれば,期間2の期首に株式を受け取る.ck2<0であれば,その逆である.
消費者は,期間1において,現物資産市場において,将来債券および株式保有計画を決定する.その後,資産先物市場において,債券および株式先物契約を結ぶ.期間1において,消費者が現物市場と先物市場での取引を決定することを行動(action)と呼び,a1=(b1,k1,cb2,ck2)∈R+2×R2で表す.次に,期間2の現物市場において,消費者が取引を決定することを計画(plans)と呼ぶ.期間2の計画をa2=(b2,k2)∈R+2で表す.
期間1において,市場価格ベクトルは,p1 =(pb1,pk1,qb1,qk1)∈ R+4/{0}であり,ここで,1は,貨幣の価格であり,p1は,債券・株式の現物価格であり, qは債券・株式の先物価格である. 期間2の市場価格ベクトルは,
p2=(pb2,pk2)∈R+2である.
効用関数
消費者が,資産流列(b1,b2,k1,k2)を選択する際に,期間1の資産選択行動の成果(b1,k1)は,確実性下にあり,期間2の資産選択行動の成果(b2,k2)は,不確実性下にあるとする.消費者の資産流列に対する選好は,von Neumann-Morgenstern の期待効用最大化の仮説をみたす.
予想形成
期間2の現物価格の予想は,先物市場価格qに対して,各期間の現物価格の確率分布ψ(q)を対応させる.これを将来価格の予想形成という.
仮定 4.4 ψ(q):R+2 /{0}→ M(R+ ).
(1)予想形成ψ(q)は,M(R+)が確率測度の弱収束の位相をもつとき連続である.
(2)すべての q ∈R+2 /{0}に対して, int co supp ψ(q)≠φ.
(3)すべてのq ∈R+2 /{0}に対して, ψ(q)(int R+2)=1.
(1)は,確率分布ψ(q)の連続性を,(2)は,投資家の主観的均衡のための必要十分条件を,(3)は,1点予想を排除する仮定である.
最適債券量を価格の関数で求め,von Neumann-Morgenstern効用関数uに代入し,予想価格分布ψ(q)による期待効用vを求める.
仮定 4.5 v= u1+∫R+ u2(b2*(p1),k2*(p1))dψ(q).
現物市場に対する予算制約式
消費者は, 現在においても将来においても,プライス・テーカーであるから, 期間1において, 価格ベクトルp1を所与として, pb1・b1+pk1・k1≦pb1・b0+pb1・k0に制約された行動(b1,k1)を選択しなければならない. 次に,期間2で不確実性下にあるため, 消費者は,期間2で実現する現物価格p2を所与として, 計画(b2,k2)を立てる. 期間2の予算制約集合は,pb2・b2+pk2・k2≦pb2・b1+pk2・k1と表す.
選好ルール
期待効用関数vは,市場価格p1 を所与として,任意の行動a1,a1′に対して,成果の空間で定義された選好関係≿cと次の関係があるとする.
p1を所与とし,任意の行動a1,a 1′∈β1(p1 )に対して,v(p1,a1)≧v(p1,a1′)であるならば,そのときにかぎり,a1 ≳p1c a1′とする.
現物・先物市場における消費者の最適化
消費者の最適化問題は,次のように設定される.価格ベクトルp1と賦存量(b0,k0)を所与として,予算制約式のもとで,期待効用関数vを最大にする行動(b1,k1)および計画(b2,k2)を決定する.以下,効用関数は,コブ・ダグラス型を仮定し,問題4. 4,問題4.
5,問題4. 6をそれぞれ,次の例題で計算する.
この最適化問題は,ダイナミック・プログラミングによって解く.ステップ1では,次の問題を解いて,行動(b1,k1)を決定する.
例題 4. 1 ( pb1,pk1),
(b0,k0) を所与として,
max
u1=b1・k1,subject to pb1・b1+pk1・k1=pb1・b0+pk1・k0.
{b1,k1}
解 u1=b1・k1=b1(pb1・b0+pk1・k0-pb1・b1)/pk1
=-pb1(bb1-pb1・bb0+pk1・bk0) 2+(pb1・bb0+pk1・bk0) 2
効用関数が最大になるb1,k1は,
b1=pb1・bb0+pk1・bk0 , k1 =pb1・bb0+pk1・bk0 .
□
先物市場における最適解は,2段階で求められる.第1段階は,例題4.
2のように,期間2の価格p2を所与とし,期間2の予算制約式の下で,効用関数u2を最大化することにより,期間2の計画(b2,k2)を決定する.そして,例題8. 2の解b2*,k2*を期待効用関数vに代入し,第2段階の例題8.
3に進む.
例題 4. 2 p2≫ 0, b1*,k1*≧0を所与として,
max
u2=b2・k2 ,subject to pb2 b2+pk2・k2=pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2).
{ b2,k2 }
解 u2=b2・k2=b2{pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2)-pb2・b2}/pk2
=-pb2{b2-pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2)} 2
+(pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2) )2
b2*=pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2), k2* =pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2) .
ステップ2では,次の問題を解いて,最適債券・株式の最適契約(cb2*,ck2*)を求める.
p2 を基準化すると,解が陽表化できる.
例題 4.3 債券・株式先物価格qを基準化して,q=(1,qk2)≫0のもとで
max ∫b2*・k2*d ψ(q),subject
to q・c= 0.
{ cb2,ck2}
解 L=∫b2*・k2*d ψ(q)-λq・c
=∫{(pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2))}2 d ψ(q) -λq・cとおく.
4 pb1 pk1
∫{pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2)}d ψ(q)=λ,
2pk1
∫{pb2(b1*+cb2)+pk2・(k1*+ck2)}d ψ(q)=λqk2,q・c=0.
さらに,債券・株式予想価格p2を基準化して,p2=(1,pk2)≫0とする.
例題 4.4 債券・株式予想価格p2を基準化して,p2=(1,pk2)≫0とし,債券・株式先物価格qを基準化して,q=(1,qk2)≫0のもとで
max ∫b2*・k2*d ψ(q),subject
to q・c= 0.
{ cb2,ck2}
解 (b1*+cb2)+(k1*+ck2) =λ,
2
(b1*+cb2)+(k1*+ck2)E[pk2]=λqk2,λを消去して,
2
(b1*+cb2)+(k1*+ck2)E[pk2]=qk2{(b1*+cb2)+(k1*+ck2)}.
(cb2,ck2)・(1,qk2)=0は,cb2=qk2 ck2であるから,上式に代入して,
(b1*+qk2 ck2)+(k1*+ck2)E[pk2]=qk2{(b1*+qk2 ck2)+(k1*+ck2)},
{qk2+E[pk2]-qk22}ck2=qk2(b1*+k1*)-(b1*+k1*E[pk2]).
ゆえに,最適先物解は,
ck2*={qk2(b1*+k1*)-(b1*+k1*E[pk2])}/{E[pk2]+qk2-qk22}.
cb2*=qk2 ck2*. □
株式オプション価格の二項過程モデル
Black-Scholes[1973,J.P.E.81,石村貞夫・石村園子『金融・証券のためのブラック・ショールズ微分方程式』東京図書,部分訳第11章190
-199頁]の評価公式は,株式市場およびオプション市場に対して, 7条件を仮定している.
Black-Scholes金融市場は効率的な完全競争市場である.しかし,オプション市場は,経済学の市場機構は設定されない.オプション理論は,「金融工学」の理論であるということが,強調される.したがって,貸付市場および債券・株式市場の市場均衡価格は,オプション理論では,所与とされる.市場で異なる株価が成立すると,裁定取引によって,現在の企業価値が同じになるという説明をもちいる.
Cox,J.C.,Ross,S.A.,Rubinstein,M.“OptionPricing:ASimplifiedApproach,”J.F.E7(1979)229-2631,による,二項過程モデルを紹介する.
二項過程の1期間モデル
株式を原資産とし、1期間後、株価S円が上昇するか、下落する二項分布にしたがうとする.
コピー(replicate)・ポートフォリオ:コールの収益と、資産市場で他の商品と組み合わせたポートフォリオの収益が一致するポートフォリオが生成できれば、コールの収益のコピー(replicate)・ポートフォリオという.
ヘッジド(hedged)・ポートフォリオ:「コール1単位の売りと株式x単位の買いを組み合せ」でポートフォリオを生成する.
デルタ・ヘッジ:満期時点で,どんな株価およびコール価格に対しても,ヘッジド・ポートフォリオの収益を同じにする.
数値例
原資産の価格をS円,コールの価格をC円とする.現在価格と権利行使価格はともに100円とする.2項分布の確率は,0.5とする.
現在 期間1 現在 期間1 コールの収益
0.5 120 u×S 20 Cu
u=1.2
100 C uは原資産が上昇したときの倍率
0.5 80 d×S 0 Cd d=0.8
dは原資産が下落したときの倍率
コール1単位を売ると,C円を得るから,投資額は-C円である.一方,株式x単位買い,100x円を投資する.合計で100x-C円投資する.満期に,株価が120円になれば,権利行使価格100円で渡すから,20円損失が出る.株式を売却すれば120x円得るから,収益は合わせて120x-20円である.80円の場合,権利行使価格100円より,安いので権利放棄し,株式は売却すると80x円収益が出る.
デルタ・ヘッジ:満期時点で,どんな株価およびコール価格に対しても(上述の例では80円でも120円でも),ヘッジド・ポートフォリオの収益を同じにする.
満期の株価
投資額 120 80
コール1単位の売り -C -20 0
株式x単位の買い 100x 120x 80x
合計 100x-C 120x-20 80x
収益 収益
上述の例で,xを決定する.満期では,デルタ・ヘッジしているから,いかなる株価でもヘッジド・ポートフォリオの収益は同じである.表から,
120x-20=80x
x=20÷40=0.5
xは0.5である.投資額は100x-C=100×0.5-C=50-Cである.満期の収益は120× 0.5-20=80×0.5=40である.
コール・プレミアム(価格)の決定
上の結果から,投資額50-Cを非危険利子率0.05で運用すると,ヘッジド・ポートフォリオの満期収益40に等しい.なぜなら,効率市場仮説より,投資収益に違いがあれば,裁定取引が働く.
非危険利子率で運用収益
= ヘッジド・ポートフォリオの満期収益
(50-C)×1.05 = 40
C = 11.9
ゆえに,コール・オプション価格は11.9である.
プットの場合は,ヘッジド・ポートフォリオは,「プット1単位の買いに対して,株式x単位の買い」である.ヘッジド・ポートフォリオの収益は次の表になる.
満期の株価
投資額 120 80
プット1単位の買い P 0 20
株式x単位の買い 100x 120x 80x
合計 100x+P
120x 80x+20
収益 収益
今週(2021年5月31日~6月4日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、24日、欧州連合首脳会議が25日まで開かれました。ベラルーシに対する制裁を決定しました。26日に5月の月例経済報告がありました。「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、依然として厳しい状況にあるなか、持ち直しの動きが続いているものの、一部で弱さが増している。」28日は、主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議がオンラインでありました。企業による気候変動影響開示に関する国際的なルールの策定を呼びかけました。中央銀行デジタル通貨について議論が行われました。
今週のイベントは、2日にCOVAXワクチンサミットがあります。4日にG7財務相会合が5日までロンドンであります。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
5月24日 日4月の全国百貨店売上高 3,178億円(前年同月比167%)
26日 日4月の全国スーパー売上高
1兆815億円(前年同月比6%)
27日 米1~3月国内総生産 6.4% 6.4% (前期比年率)
28日 日4月有効求人倍率
2.7% 2.8%
日4月完全失業率 1.1倍 1.09倍
米4月の個人消費支出 0.5% 0.5%
経済統計は、次の発表があります。
予測値 実績値
5月31日 日5月の消費動向調査
鉱工業生産(前年比) 17.2%
6月4日 日4月の家計調査 9.4%
米5月の雇用統計 5.9%
第9回目 2021年6月7日
債券の期間構造と株式の収益率
要点
・4.6債券の期間構造の理論
・4.7株式の収益率と株式市場価格
・金融商品の情報開示
ライフ・サイクル理論にもとづくならば、各年齢の消費者は、残りの生存期間に得る所得を平均化して、一定の消費額を決め、残りを貯蓄する。さらに、資産選択理論にもとづき、消費者は、貯蓄を安全資産と危険資産に分けて、資産運用を計画する。ただし、資産選択理論は、安全資産と危険資産の配分を決めるが、消費者が、その比率で、安全資産と危険資産を、それぞれの市場でどのようにして獲得できるかは示していない。本教室では、4.8で、各資産市場均衡を理論的に考察しているので、資産選択理論を資産市場の一般均衡とつなぐ。現実に、利用可能な需要関数を求める。
経済理論では、異時間の交換比率として、利子率がもちいられる。現実の資産市場では、債券と株式の金融商品が取引され、市場均衡債券価格および株式価格が決まる。債券価格と株式価格は、実際に受け払われる単位価格である。債券利子率および株式収益率と債券価格および株式価格との対応関係を定義する。すなわち、貨幣で取引される現実の資産市場を、経済理論市場で均衡を考察するために、変数を変換する。
第9回は、危険資産のうち、債券と株式の特性を経済理論で分かっている特性と、個別企業の株式価格および経営成績・財政状態の報告書から導く特性を説明する。
債券利回りと債券市場価格の関係
第6回目において、単利の最終利回りRnは
Rn = C+(F-P)/n
P
複利の最終利回りRn
P(1+Rn)n=C(1+Rn)n-1+C(1+Rn)n-2 +…+C(1+Rn)+C+F
によって、定義した。各期間の短期利子率は、通常異なるから、残存期間n、第i期間の予想利子率をri、長期利子率をRnとする。
金融理論において長期利子率Rnと各期間の短期利子率riとは、関係があるとする立場と関係はないとする立場がある。前者は、LutzおよびHicksが主張した利子率の期間構造論であり、後者はCulbertsonの主張したヘッジ(掛け繋ぎ)理論といわれる。
Lutzの要点は、市場関係者の完全予想を仮定し、Rnはriの平均であり、期間構造は利回り曲線によって決定される。
HicksはLutzの理論を引継ぎ、不確実性下、予想短期利子率を先物短期利子率に置き換えて、Lutz理論が成立すると主張した。現代の期間構造理論は、Hicksの流動性プレミアム理論にしたがっている。
HicksはLutzの予想理論を受け継ぎ,以下を仮定する.
・ 将来の債券価格は不確実であり,評価損を先物で回避する.
・ 長期貸付は期間1の直物貸付けと残りの期間の先物貸付からなる.
予想短期利子率は,先物短期利子率に代えられ,次のように定義される.
先物短期利子率 fi
= ri
+Li(i = 2, …, n)
予想短期利子率 ri
流動性プレミアム Li(L2<L3<…<L n)
単利の場合,長期利子率は
Rn=R1+(r2+ L2)+…+(rn+ Ln) = 1 ∑(R1+ri)+ 1 ∑Li (1)
n n
n
Lutzとの違いは,流動性プレミアムの平均が加わることである.
(1)式の左辺は、長期利子率であり、右辺は、長期利子率を先物短期利子率で表した平均利子率である。長期債券市場と各期の先物債券市場は、期間1の直物貸付けと残りの期間の先物貸付で構成された平均長期利子率とで裁定取引が行われ、市場均衡では、(1)式の裁定取引式が成立すると説明される。
ヘッジ理論は、自己の負債Bの満期時点が来るとき、その満期時点に資産Aを合わせて、B=Aとすれば、途中の短期利子率が変動しても、返済不能にならない。
本教室では、先物債券市場は、ヘッジ理論に従っている市場均衡論を説明している。オプション理論は、デルタ・ヘッジ戦略にしたがった裁定取引式が成立する。短期債券市場と長期債券市場において、市場均衡すれば、期間構造論の主張する(1)式の裁定取引式が成立するのかを理論的に示す試みはある。また、現実市場のデータから、期間構造論のイールド・カーブを推定する試みもある。
債券投資リスクの測定
イールド・カーブ(yield curve)の形状
期間構造理論では、利回り曲線は、債券市場の予想形成によって、イールド・カーブ(yield curve)の形状は、縦軸に利子率R、横軸に満期期間(残存期間)yearをとると、4種類(図4.5)ある。実際、債券の種類は、満期期間(残存期間)、クーポン、公社債の発行主体、発行方法によって、多種多様であり、イールド・カーブが専門誌で日々公表されるほど、期間構造が分析上、重視されているとはいえない。Hicksの理論で、国債先物短期利子率を代入して、イールド・カーブを図示すると、市場では、先行き何年で、利子率が上昇すると予想しているか、すなわち、水平から順イールドに転じるかが推測できる。その転換年が、2019年4月の消費税2%増税から、黒田日銀総裁2022年任期までの間にあるはずである。債券投資家の「お喜びの声」が、証券会社に寄せられるときでもある。
デュレーション
市場利子率が変化すると債券価格の変化はどの程度かを測る指標がデュレーションである。デュレーションDは、(1+R)がパーセント変化したときの債券価格Pのパーセント変化として、Pのパーセント変化/(1+R)のパーセント変化を計算する。この比を債券価格の(1+R)弾力性と定義する。(読み方が、分子の分母弾力性となることに注意)
D=- dP /P 。変形して、 dP =-D P (1)
d (1+R)/(1+R) d (1+R) 1+R
デュレーションの値が大きくなると、弾力性が大きい。利子率の変化に対して債券価格の変化が大きいことを意味する。
最終利回りの計算式P(1+Rn)n=C(1+Rn)n-1+C(1+Rn)n-2 +…+C(1+Rn)+C+F を市場利子率Rで置き換える。
P= C + C +…+ C + C+F (2)
1+R (1+R) 2 (1+R)n-1 (1+R)n
取引する債券のクーポンC、満期期間n、額面Fは、決まっているから、投資家の評価する利子率Rが、債券市場で決まる。(2)式を1+Rで微分すると
dP =-{ C +…+ (n-1) C + n(C+F)
d
(1+R) (1+R) 2 (1+R)n (1+R)n+1
=-1 { C +…+ (n-1) C + n
(C+F) } (3)
1+R 1+R (1+R)n-1 (1+R)n
(1) 式と(3)式を比較して
D={ C +…+ (n-1) C + n(C+F) }. (4)
(1+R)P (1+R)n-1P (1+R)n P
デュレーションDは,満期までの年数の加重平均であり、債券の平均回収期間を表している。デュレーションの特性は、(4)式から、
デュレーションの値
残存期間n 長い 項数が増えるから、大きい
クーポンC 大きい 分子の債券価格Pが大きくなるから、小さい
利子率R 大きい 分母の各項の1+Rが大きくなるから、小さい
債券投資戦略にデュレーションは応用することができる。コンベクシティ、信用リスクは、説明を省略する。投資信託を投資対象とするので、債券投資信託の目論見書を分析する場合は、さらに研究を要する。
株式の収益率と株式市場価格
各種の株式収益率を定義し、株式投資の指標としての役割をのべる。 企業の経営成績は損益計算書、企業の財政状態は貸借対照表で情報開示される。投資家は、これら財務諸表から、総資本事業利益率(ROA: Return On Asset)および自己資本利益率(ROE: Retun On Equity)投資判断の指標を導いている。ただし、会計期間が1年であり、四半期で仮計算される企業もある。国民経済計算と同様に、速報と確報がある。
財務指標と株価の関係
ROA
事業利益
ROE 資産
税引き後利益
EPS 自己資本 ×
税引き後利益 × 資産
株数 自己資本 自己資本
株価 × 株数 レバレッジ(てこ率)
株価 BPS
EPS
PER
株価
1株当たり純資産(BPS)
PBR
表において、上下の比率をかける(×)とその前の比率になる。株価=EPS×PER。
ROEおよびROAは、損益計算書と貸借対照表のデータによる比率である。PERとPBRはともに株価が分子であり、分母は1株当たり税引き後利益、1株当たり純資産をそれぞれあてる。株価は取引日ごとにデータが得られるが、分母は前期の損益計算書と貸借対照表のデータである。相場の変動により、営業日で変化するのはPERとPBRであり、これらは、株価の市場評価を表す比率として株式投資の参考指標に使われる。投資家は自己資本あるいは資産を期間内有効に使って、利益を上げる比率として、ROEおよびROAを意識するから、経営者が株主総会でそれらを経営目標として意識しているならば、決算でその結果を示す。
米国では、経営者は、利益至上主義であるから、ROEおよびROAは、株主に答える目標である。日本の経営者で利益至上主義は前ゴーン日産社長やソフトバンク社長であるが、少数である。それらの比率を経営目標として、意識する人はあまりいない。会社やっていますという社長は多い。
金融商品の情報開示(『金融論2019年 61頁~65頁』宇空和研究所、2020年)
情報は,個人情報と公的情報に分けられる.たとえば,氏名,年齢,現住所,電話番号,職業,勤務先等, 年収は,金融取引において,相手側に,事前情報として,文書あるいはデータで要求される.これらは,公文書等に記載される情報であり,相手側に,本人確認の情報を取引前に,渡すことになる.これらの情報に公的な証明書がある場合,公的情報ということにする.公的情報以外の情報を個人情報とする.同様に,他の主体,企業にも,公的情報以外に,企業内部情報がある.企業の場合,内部情報は,無形資産,技術情報,将来見込み情報など経済的価値が公正に評価できる内部公正評価情報と,そのほかの経営執行部の行動規範等,経済評価が困難な内部評価情報がある.上場企業ならば、有価証券報告書は、企業が公正に作成したか、公認会計士が監査する。
個人情報の内,債務履歴,家族関係,勤務先の地位,勤続年数,年収,資産等の情報は,相手側に必須の情報ではない場合もある.
金融商品の取引において、取引事前情報が必要な金融商品がある。
間接金融市場 取引方法 取引相手 事前情報
預貯金 相対(あいたい)
銀行 口座開設要件
外貨預金 相対 銀行 口座開設要件
借入金 相対
銀行 個人情報の内、バランス・シート(ストック)、年間銀行取引表(フロー)
企業の借り入れの場合、財務諸表、投資計画表、
投資に伴う3年間の損益計算書、資金繰り表、担保物件・ソフト
直接金融市場 取引方法 取引相手 事前情報
債券 相対・取引所 銀行・証券会社 格付け、
株式 相対・取引所 証券会社 有価証券報告書
投資信託 証券会社 銀行・証券会社 目論見書
Jリート 取引所 銀行・証券会社 目論見書
デリバティブ 相対・取引所 証券会社 目論見書
先物債券
先渡債券
オプション
スワップ
間接金融市場における貸出利子率の均衡は、米国において,理論化された代表的モデルがある.直接金融市場では、債券、株式ともに、市場均衡を示す理論は、教科書レベルでは、初歩的であり間接金融市場ほどではない。以下、いろんな金融論の教科書で取り上げてある理論を紹介する。
個人は,銀行の窓口において,預金口座を開設する場合,公的情報とそれらを証明する公文書のコピーを要求される.開設後,預金をする場合は,預金通帳かキャッシュカードがあれば,よいが,引き出す場合は,公的証明書による本人確認が求められる.
銀行が貸し出す場合,個人,法人では,さらに,詳細な情報が要求され,貸出額,与信期間が妥当か,審査され,貸出しが可能であれば,さらに,その銀行の貸出利子率の提示幅が決まる.
貸付資金市場は、銀行は、地域独占競争的な設置認可で、営業をしている。これは、通貨取引は、日本銀行券の公的決済手段を金融請求権と交換しているためである。たとえば、現金預金引出送金機ATMは、コンビニ店にあるが、少額消費者ローン以外の資金の借入は、銀行の支店で申し込むことになっている。そして、支店は、各市で、コンビニほどはない。財務省が設置認可をしないからである。酒類、たばこ販売店が地域で少ないのと同じことである。銀行の地域独占的行動を仮定した場合、貸付資金市場は、次のように説明される。
独占的競争下における差別金利の決定
企業は,銀行と顧客関係を結ぶが,銀行は,融資を通じて,顧客と独占的競争になりやすい.企業の規模も,銀行にとって,格差をつけやすい.大企業と中小企業とでは,信用力格差がある. 銀行は,大企業の優遇貸付金利(プライム・レート)と中小企業の貸付金利(サブ・プライム・レート)の差別利子率をつける.これは,大企業向け貸付市場と中小企業向け貸付市場が明確に市場分断できる場合,このような銀行行動が,説明できる.
大企業の資金需要をDBで表し,中小企業の資金需要をDMで表す.大企業は,直接金融市場からも資金調達できるため,その資金調達コストと銀行の貸出利子率を比較できるので,需要の利子率弾力性εBは1より大きい.需要直線の傾きが低くなっている.中小企業は,資金調達を銀行に依存しているので,需要の利子率弾力性εMが1より小さい.需要直線の傾きが大きい.εB>1>εMを仮定する.
銀行の総費用Cは,預金利息rdDと固定費用C0である.
C=rdD+C0 ,預金利子率: rd 固定費用: C0
と表す.銀行の収益Rは貸出金利息rBLB+rMLMと手数料F0である.
R=rBLB+rMLM+F0,大企業向け貸出利子率: rB,中小企業向け貸出利子率: rM
で表す.銀行の利潤はπ=R-C=rBLB+rMLM+F0-Cである.限界費用は,両市場共通で一定であるとする.利潤関数を貸出量で偏微分すると,
∂π=rB(1-1/εB)-MC,∂π=rM(1-1/εM)-MC. MC=rd,
∂LB ∂LM
MRB=rB(1-1/εB),MRM= rB(1-1/εM)とする.
MRB =MRM =MCがでる.それぞれの限界収益が限界費用に等しい貸出量において,需要曲線上の プライム・レートrBとサブ・プライム・レートrMが2つの市場で決まる.rB=rd/(1-1/εB),rM=rd/(1-1/εM).εB>εMを仮定しているから,rM>rBである.
個人や法人の経営者が,借りた後,与信期間内で,各期限に,返済してくれるかどうかは,彼らのモラル(道徳)に依存し,申請書類では,わからない.モラルや倫理は,注意力,用心深さ,誠実,怠慢など,その主体の性格や経営規範に属し,それらを判定する情報は,人格に係わるので,確実に判断できる情報はない.返済履歴によって,判断するしかない場合もある.このような個別情報の範囲に入る情報を,情報保有者が情報需要者に提供しない場合,情報の非対称性があるという.
資金の借り手(契約者)に,個人情報または内部情報があり,資金の貸し手(保険会社)に情報開示していない場合,市場価格に従って,需要と供給が一致するところで取引が成立する.ところが,返済等の遅延,借換え習慣などの個人情報が開示されないとき,情報を審査されれば,より高い利子率を要求される取引者は,市場利子率で借り入れできる.そのような取引者が,契約後,滞納をする傾向があるので,貸し手は,利子率を高める.
逆選択(adverse selection)情報の非対称下,返済が滞る取引者が増加すれば,貸し手は,市場価格に対する供給量を減らすから,貸出利子率は上昇し,健全な取引者は市場から退出する.不健全な取引者が市場に残ることを自然淘汰(natural selection)に対して,逆選択(adverse selection)という.
モラルハザード(道徳の欠如moral hazard)とは,契約期間中,返済等の遅延,事故を発生させる,生活規律を乱す等の履行義務,注意義務を果たさないことをいう.
(1)逆選択理論による,レモン(中古車)市場,保険市場,スティグリッツ=ワイツ理論(信用割当)などがある.原論文の紹介文献としては,西村 理(おさむ)(『ミクロエコノミクス』昭和堂、1989年,第11章)がある.以下は,結論と改善策のみ,紹介する.
レモン市場(中古車市場)
(G. A. Akerlof, “The Market for “Lemons,” : Quality Uncertaintu and the
Market Mechanism,” Q.J.E,Vol.84,1970)中古車の売り手が,中古車の質(性能,事故歴,修理歴)を開示しなければ,質の良い車と質の悪い車が同じ価格で取引される.質の良い車を持つ売り手は,市場に出さなくなるので,質の悪い車だけが市場で取引される.逆選択が生じる.
改善策は,買い手が要求する質情報を開示する,性能保証,買い戻し条件を付けるなどがある.
消費者金融市場では,小口で,その審査の条件は最小限であるが,利子率は,滞納リスクを含んだ利率であり,18%で高い.健全な借り手は,銀行を利用する.逆選択が起こりやすい市場である.
保険市場
(M. Spence,“Job Market Signaling,” Q.J.E,Vol.87,1973)市場均衡が生じなければ,借り手(契約者)が個人情報の提供する(シグナリング)を行い,債務履歴(病歴,事故歴,交通違反歴等)を貸し手(保険会社)に告知すると,個別に契約条件を付けることができ,市場均衡が存在する.
スティグリッツ=ワイス理論(信用割当)
(“Credit Rationing in Markets with Imperfect
Information,”A.E.R, Vol.71, 1981)企業の資金需要は,運転資金と設備投資資金があり,前者は短期返済が原則であり,貸し手は,企業の資金需要に対する内部情報は手に入れやすい.ところが,設備投資の場合,貸し手の側にも,その企業が設備投資をし,成功し返済できるかほど収益を上げるどうか判断は困難な場合が多い.
貸し手が貸出利子率を上げとき,企業は,貸出利子率を上回る内部収益率を実現するプロジェクトに資金を回す.そのようなプロジェクトがない企業は,資金を借りなくなり,返済不能リスクの高い借り手が市場に残る.貸し手が情報の非対称性でプロジェクトの評価ができない場合,貸し手が貸出利子率を上げると,企業の返済不能リスクが増加し,貸し手の期待利潤が減少する逆選択効果(adverse
selection effect)が生じる.期待利潤の増加より逆選択効果の利潤減少が大きい場合,貸出利子率を上げず,信用割当をする方が,最適貸出になる.
企業に複数以上のプロジェクトがあり,貸し手に企業のプロジェクト選択が判断できない場合,貸出利子率を上げれば,企業はよりリスクの高いプロジェクト着手するので,貸し手の期待利潤が減少する,この効果を誘因効果(incentive effect)という.期待利潤の増加より誘因効果の利潤減少が大きい場合,貸出利子率を上げず,信用割当をする方が,最適貸出になる.
モラルハザード 契約後生じるモラルハザードに対する改善策は,銀行が財政規律付けを契約条件(コベナンツ)にいれる,貸出後,銀行は,事業状況を監視(モニタリング)する.
(2)情報の非対称性を改善する方法として,より積極的に,顧客との関係を密接にする方法がある.アメリカのA.N.Berger・G.F.Udal(1998)のリレーションシップ・バンキング(長期的顧客関係)および日本のメインバンク制である.
リレーションシップ・バンキング(長期的顧客関係)
アメリカの中小企業金融において,顧客の情報履歴の蓄積により,情報の非対称性が減少するという主張がある.ただし,顧客は,主要な取引銀行数が1行など少ない場合に,有効である.日本中小企業は,取引銀行数が多く,各銀行の情報履歴の蓄積が少ない.また,担当銀行員の顧客数も,アメリカの銀行員と比較して,アンケートによると50社以上が多く,アメリカの10社以下,と比べると1カ月事業状況を監視する,巡回活動は時間が取れないできないのが現状である.
日本のメインバンク制
日本の独占禁止法では,企業の株式保有には5%ルールがあり,銀行は大株主として,企業に財務担当者を送り込み, 企業の資金調達方法によって,資金コストの高低があるが,情報の非対称性である内部情報である財務計画を知ることができ、銀行融資に有利に進めることができた.
1970年代,アメリカは,日本経済は先進国に入り,資本の自由化を要請した.国際金融は変動相場制に入り,日本企業は,資金調達を外債に切り替えた.銀行はメインバンク制を外され,1980年代,優良な貸出先を失い,プラザ合意以降,国内不動産バブルに貸出し,2000年に入り,間接優位の金融システムは再編された.現在,メインバンク制は,間接金融に依存する企業ではあるだろう.中小企業では,取引銀行数は多く,米国の1行のリレーションシップ・バンキングにはならない.情報の非対称性は中小企業と銀行ではある.
今週(2021年6月7日~6月11日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、2日にCOVAXワクチンサミットがありました。日本は余剰ワクチンを、変異株の流行に対して、ワクチン接種が手遅れの国に供給することにしました。4日にG7財務相会合が5日までロンドンでありました。最低法人税率を15%にすることで一致しました。
今週のイベントは、8日に国際オリンピック委員会理事会が開かれます。欧州中央銀行理事会が開かれます。11日に主要7カ国首脳会議が開かれます。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
5月31日 日5月の消費動向調査
鉱工業生産(前年比) 17.2% 15.4%
6月4日 日4月の家計調査 9.4% 13.0%
米5月の雇用統計 5.9% 5.8%
経済統計は、次の発表があります。
予測値 実績値
6月7日 日4月の景気動向調査 95.6
中5月中国貿易統計 2,765億元
6月8日 日1~3月期GDP改定値 -4.9%
5月の景気ウォチャー調査
4月国際収支 3,427億円
米4月貿易収支 -685億ドル
EU GDP(前年比) -1.8%
6月9日 中消費者物価指数 1.6%
6月10日 米消費者物価指数 4.6%
第10回目 2020年6月14日
資産選択理論
・各資産を収益率で比較し、ポートフォリオ(資産の一覧表)を作成する。
・各期待収益率に対し、リスク(分散)を最小にするポートフォリオ(有効フロンティア)を作成する。
・投資家は資産の収益率の確率分布を選び、収益率の実現値に対して効用をもつ。
・投資家は、有効フロンティア上で、期待効用を最大にするポートフォリオを選択する。
今回は、証券投資の教科書で看板の一つである、資産選択理論あるいは平均・分散分析を、もっとも簡単な貨幣・債券の2種類の資産がある場合、債券・株式の2危険資産および貨幣・債券・株式の3資産の場合を説明する。
消費者は、給与、賞与を定期的にえると、ライフ・サイクル理論で、毎月、貯蓄額を決める。第6回目の練習問題1では,ある個人が第1期において得た100万円の所得を2期間にわたって全部支出する。個人の効用関数は、u =C1C2〔u:効用水準,Ci:第i期の支出額(i=1,2)〕で示され,個人の第1期における貯蓄には5%の利子がつくものとする.個人は、2期間の予算制約式C1+S1=900,000、C2=1.045S1.のもとで、個人は効用最大化を図る。これが、ライフ・サイクル理論である。
ライフ・サイクル理論で決まった貯蓄額を他の資産に投資する際、将来価値変動しない特性のある貨幣と、確率的に価値変動する債券の分け方(割分)を決定する。これを資産選択理論という。
ライフ・サイクル理論は、予算制約式のもとで、消費者の効用関数を最大化する消費量を求めるが、資産選択理論は、「期待収益率に対して、ポートフォリオの分散を最小化する有効フロンティアのもとで、期待効用関数を最大にする最適な投資割分を選択する」。
ポートフォリオ(資産の一覧表)の作成
これまで、金融商品は、現預金、債券、株式の3資産の特性を数値で評価した。ここでは、現金(貨幣)、利付債、株式の3資産を取り上げる。1期間(月間、年間)の投資収益率を定義する。1年後の利息は確定しているが、1年後の配当、1年後の利付債単位価格および1年後の株式1株価格は予想値である。
貨幣の投資収益率m =1年後の現金1円-現在の1円 =0
現在の1円
利付債投資収益率b =1年後の利息+(1年後の利付債単位価格-現在の利付債単位価格)
現在の利付債単位価格
株式の投資収益率s=1年後の1株当りの配当+(1年後の株式価格-現在の株式価格)
現在の株式価格
貨幣・債券モデル
投資家は、貨幣と債券の2種類のポートフォリオを選択する。以下は、ポートフォリオの収益率Rを定義し、その期待値(平均値)μRと分散σR2(標準偏差σR)を求める。貨幣の収益率は0であり、利付債の利息(クーポン)率をr=利息/現在の債券価格、capital gain or loss率G=(1年後の利付債単位価格-現在の利付債単位価格)/現在の利付債単位価格とする。貨幣と債券の2種類のポートフォリオ(2資産の一覧表)の場合、予想値があるのは債券価格のみであり、それが含まれる値上がりまたは値下がり率Gは、確率変数とする。確率変数Gの性質は、期待値(平均値) μgおよび分散σg2(標準偏差σg)で表される。μg=0およびσgは一定である。
貨幣と債券のポートフォリオの収益率をRとする。2資産に投資した割合を、それぞれ、A1、A2≧0とする。A1+A2=1である。ポートフォリオ収益率R=A1×0+A2×(r+G)=A2×(r+G)の期待値と分散を計算する。
期待値μR=E[R]=E[A2×(r+G)]=A2 E[r+G]=A2 {E[r]+E[G]}
=A2 {r+0}=A2 r (1)
分散σR2=E[R-E[R]]2=E[A2×(r+G)-A2 r]2=E[A2G]2
=A22 E[G]2 =A22σg2 (2)
以上の計算は期待値Eの公式を使っている。
定数rのとき、E[r]=r。E[r+G]=E[r]+E[G]。
E[A2×(r+G)]=A2 E[r+G]。
有効フロンティアの作成
有効フロンティアとは、各期待収益率μRに対し、リスク(分散σR2)を最小にする債券の割合A2を求める。
(1)からA2=μR/ rであり、(2)式に代入すると、σR2=A22σg2=(σg2/ r2) μR2である。投資家がポートフォリオから、期待する期待収益率μRを決めると、割分A2=μR/ rが決まり、そのときの分散は(σg2/ r2) μR2となる。
テキスト図4.8の期待収益率と標準偏差の平面上に、描くと、直線μR=(r/σg) σRとなる。この直線の右側では、各期待収益率μRに対する標準偏差σRがより大きいことが見て取れる。この直線上がリスク(分散σR2)を最小にする債券の割合A2が描く直線であり、有効フロンティアという。
投資家の期待効用
投資家が、有効フロンティアのどの期待収益率を選ぶかは、von Neumann-Morgensternの「期待効用最大化の仮説」にしたがう。
期待効用最大化の仮説
「各投資家は、期待収益率の実現値R=rに対して、効用関数U(R)をもち、効用関数の期待値E[U(R)]が最大となる確率分布を選ぶ。」
投資家の分類
投資家は、効用関数U(R)によって、主に、3つのタイプに分類される。すなわち、危険回避者、危険中立者、危険愛好者である。テキストpp. 51-52に、それぞれの効用関数を特定化し、その期待効用を計算している。危険中立者はリスクに無関心であるので、効用関数の期待値を取るとリスクの指標である分散が入らない。他の2者は、分散が入っている。
図4.10に示しているように、危険回避者、危険愛好者はともに円の方程式であり、危険回避者は北西方向に同心円が行くにつれて、期待効用が高くなる。危険愛好者は北東方向である。危険中立者は、水平線となり、上に行くほど期待効用が高い。経済学では、危険回避者を想定することが多い。危険愛好者は、投機者である。分散あるいは標準偏差を経済行動の最適化にもちいるのが、資産選択理論である。
有効フロンティアのもとで、期待効用最大化
投資家は、有効フロンティアμR=(r/σg) σRのもとで、期待効用関数を最大にする最適な投資割分A2=2r/(r2+σg2)を選択する。この計算は、テキストp52にある.図4.11に示しているように、危険回避者の場合、北西方向の円と有効フロンティアの接点を求めればよい。
危険愛好者の場合は、点(r, σg)が利付債にすべて投資する場合であるから、この点を選択する。危険中立者は、E[U(R)]=E[R]=μR=A2 rであるから、μR= r、A2 =1のとき、期待効用は最大になる。ゆえに、危険愛好者と同じく、利付債にすべて投資する。
2危険資産モデル
・2危険資産の有効フロンティアを求める。
・有効フロンティア上で、期待効用を最大にするポートフォリオを求める。
2危険資産を仮定し、株式の収益率をS、債券の収益率をBとする。収益率R=A1S +(1-A1)B と定義する。収益率の分散σR2 は、
σR2=E[R-E [R]]=(σS2+σB2-2 ρSB σSσB )A12+ 2 (ρSB σSσB -σB2)A1+σB2
=(σS2+σB2-2 ρSB σSσB ){A1+(ρSB σSσB -σB2)/Δ}2
+σB2-(ρSB σSσB -σB2)2/Δ 4.14
と表わされる。ここで、Δ=σS2+σB2-2ρSBσSσBである。この分散は、A1の値を変化させることにより、最小値σR2 *が求まる。
σR2*= σS2σB2 (1- ρSB2)
Δ
また、そのときのA1の値は、A1*=(σB2 -ρSB σSσB )/Δである。最小値σR2 *のときの平均値μR*は、μR*=μB+A1*(μS-μB)で表されるから、4.14式は、双曲線の方程式に変形する。
σR2=Δ{A1-A1*}2+σR2*=Δ(μR-μR*)2/(μS-μB)2+σR2*。
(μR-μR*)2=(σR2 -σR2*)(μS-μB)2 4.15
Δ
となる。双曲線の形(金融数学2)に、4.15式を変形すると、次の式になる。
σR2 -
(μR-μR*)2 =
1 。
σR2* σR2*(μS-μB)2 /Δ
最適ポートフォリオを求める図解
横軸にリスクを表す、標準偏差σRをとり、縦軸に期待収益率μRをとる。図4.12のように、有効フロンティア4.15は、双曲線である。危険回避者の期待効用曲線は,4.10式より、中心(0,2)の同心円である。有効フロンティアと期待効用の無差別曲線は、点(σR**,μR**)において接する。この点が、最適なポートフォリオである。接点の求め方は、4.15式を全微分して、双曲線上の接線の傾きを求め、4.11式の傾きと一致させて、σRを消去する。
解 4.15式を全微分する。
2(μR-μR*)dμR=2σR (μS-μB)2 dσR
Δ
dμR= σR (μS-μB)2
dσR (μR-μR*)Δ 。
4.11式の傾きは、
dμR= - σR
dσR μR-2 。
ゆえに、σR (μS-μB)2 = - σR
(μR-μR*)Δ μR-2 。
(μR-2)(μS-μB)2=-(μR-μR*)Δ
{(μS-μB)2+Δ}μR= 2(μS-μB)2+μR*Δ
μR**= {2(μS-μB)2+μR*Δ}/{(μS-μB)2+Δ}。
4.15式にμR**を代入する。
(μR**-μR*)2=(σR2 -σR2*)(μS-μB)2
Δ
σR2=(μR**-μR*)2Δ+σR2*(μS-μB)2
σR**=√{(μR**-μR*)2Δ+σR2*(μS-μB)2}。
収益率R=A1S+(1-A1)Bであるから、μR**=A1μS+(1-A1)μBより、
A1**=(μR**-μB)/(μS-μB)が最適ポートフォリオである。
3資産モデル
・2危険資産の有効フロンティアを求める。
・3資産の場合、安全資産があれば、分離定理が成立し、 (貨幣、債券)モデルと同様に、有効フロンティアを直線にできる。
貨幣、債券、株式の3種類のポートフォリオを投資家が選択する。以下は、ポートフォリオの収益率Rを定義し、その期待値(平均値)μRと分散σR2(標準偏差σR)を求める。
利付債の収益率BをB=r +Gbとする。新たに、株式を追加する。Dは株式配当率、株式のcapital gain or loss率Gsとし、ともに、確率変数である。株式収益率をS=D+Gsとする。利付債収益率Bは、期待値μB、分散σB2であり、株式収益率をSは、期待値μS、分散σS2である。共分散はσSB=ρSBσSσBである。計算の簡単化のため、2つの確率変数の相関係数ρSBは、統計的独立性を仮定するので、ρSB=0である。
株式と債券のポートフォリオの収益率をRとする。2資産に投資した割合を、それぞれ、A1、A2≧0とする。A1+A2=1である。ポートフォリオ収益率R=A1×S+A2×Bの期待値と分散を計算する。σSB=ρSBσSσB =0を使うと簡単になる。
期待値:μR=E[R]=A1 E[B]+(1-A1)E[B]=A1μS+(1-A1)μB
分散:σR2=E[R-E[R]]2=E[A1S+A2B -(A1μS+(1-A1)μB)]2
=E[A1(S-μS) +(1-A1) (B-μB)]2
=A12σS2+2 A1(1-A1) σSB+(1-A1) 2σB2
=(σS2+σB2)A12 -2σB 2A1+σB2
有効フロンティアの作成
有効フロンティアは、各期待収益率μRに対し、リスク(分散σR2)を最小にする債券の割合A1を求める。
分散:σR2=(σS2+σB2)A12 -2σB 2A1+σB2の最小値は、完全平方化して、
σR2=(σS2+σB2){A1-σB2/(σS2+σB2)}2+σS2σB2/(σS2+σB2) 4.16
となる。
A1*=σB2/(σS2+σB2)のとき、分散の最小値σR2*=σS2σB2/(σS2+σB2)をとる。そのときの平均値は、
μR*=A1*μS+(1-A1*)μB=μB+A1*(μS-μB)である。
4.16式は、(μR*,σR2*)を使って、変形するならば、双曲線の方程式になる。点Bと点Sを通る曲線が有効フロンティアになる。すなわち、
σR2=(σS2+σB2)(A1-A1*)2+σR2* (1)
μR-μR*=A1μS+(1-A1)μB -{A1*μS+(1-A1*)μB}=(A1-A1*)(μS-μB)より
A1-A1*=(μR-μR*)/(μS-μB)
(1)式に代入し、整理すると
σR2 - (μR-μR*) 2 = 1
σR2*(σS2+σB2) σR2*(μS-μB) 2
この曲線は、図4.12に描いている。危険回避者の最適ポートフォリオは、円の期待効用曲線との接点になる。テキストでは、数値例で、双曲線の方程式を求めている。
次に、投資家が貨幣、債券、株式の3種類のポートフォリオを選択する場合を考える。3資産の場合、安全資産があれば、安全資産と危険資産の分離定理が成立し、2資産モデルと同様に、有効フロンティアを直線にできる。
貨幣、株式と債券のポートフォリオの収益率をRとする。3資産に投資した割合を、それぞれ、A1、A2、A3≧0とする。A1+A2+A3=1である。貨幣を安全資産とすると、危険資産である債券と株式の最小分散は、貨幣の保有割合に影響されないという「安全資産と危険資産の分離定理」が成立する。
テキストp.55にしたがうと、貨幣、債券、株式の3種類のポートフォリオの収益率RはR=A2S+A3B=(1-A1){αS+(1-α)B}、ここで、α=A2/(A1+A2)とおく。その平均と分散は
μR=(1-A1){αμS +(1-α) μB}。
σR2=(1-A1) 2 E[Rα(S-μS )+(1-α)(B-μB)]2
=(1-A1) 2{(σS2+σB2) α2-2σB 2α+σB2}。
A1とαが変数分離されているため、分散を最小化するとき、危険資産間の割合αを決定し、危険資産だけの有効ポートフォリオの軌跡が描ける。
次に、危険資産有効ポートフォリオ上の点Aをとるとき、原点と点Aを通る直線0Aが有効フロンティアになる。
μA=αμS +(1-α) μB、σA2=(σS2+σB2) α2-2σB 2α+σB2とおく。μR=(1-A1) μA、σR2=(1-A1) 2σA2より、原点と点Aを通る直線は、μR=(μA/σA)σR と表せる。
危険資産有効ポートフォリオ双曲線と点Aを通る直線0Aは、2点で交点をもつが、直線の傾きが上がるにつれ、2点は直線と双曲線の接点Mに達する。
接点Mにおいて、αは一意に決まり、A1も一意に決まる。投資家は、直線0M上で、期待効用曲線と接する点を最適ポートフォリオとする。テキストpp.55-56に計算している。グラフの点座標(σR,μR)で、第一座標は、横軸で、標準偏差、第二座標は、縦軸で、期待収益率を表す。
合成資産Mは、点(σRM,γ*/σRM)である。ここで、
γ*=√{(ΔμR*)2+ΔσR2*(μS-μB)2}/ΔσR2* 。
σRM=Δγ*μR*/{Δγ*2-(μS-μB)2}。
A1*=σB2/(σS2+σB2)を代入して、
μR*=A1*μS+(1-A1*)μB=μB+A1*(μS-μB)
=μB+ (μS-μB) σB2/(σS2+σB2)。
σR2*==σS2σB2/(σS2+σB2)。
線分0M上に、危険回避者が期待効用の無差別曲線との接点で、最適ポートフォリオが決まる。危険愛好者および危険中立者は、点Mが最適ポートフォリオである。
以上の3資産モデルを実践する場合を考えた。銀行・証券会社が、投資家のリスク性向を判定する場合も、応用できる。
線分0Mを、五等分して、機械的に、リスク・ランクをつくり、投資家はその分点を選択する。選択後、投資家は、手持ち投資資金によって、貨幣、債券、株式を市場価格で購入する。次回、この方法で、各種投資信託を購入することを示す。
まとめ
資産選択理論は、経営学部、商学部において、証券論の一部に、必ず、その章がある。
経済学部の金融論では、ミクロ経済理論から、消費者の貯蓄を資産配分する場合、資産選択理論で説明する。他方、金融論は、金融政策の有効性を問題にすることが多く、日本銀行が政策判断をする経済モデルは、マクロ計量経済モデルが主流である。マクロ経済モデルで、貨幣以外の資産を取り込んだ理論には、Tobinの資産市場一般均衡論(J.Tobin, “A
General Equilibrium Approach to Monetary Theory,” Journal of Monetary, Credit,
and Banking, Vol. 1, No. 1, 1969, pp. 15-29)、Sargentのマクロ経済モデル(T.J.Sargent, Macroeconomic Theory Second
Edition, 1989, ChⅠ, pp.7-49)がある。ふたりのマクロモデルを合体した、金融システムのある開放マクロ貨幣経済モデル(追手門学院大学追手門経済・経営研究第18号2011年3月)を構成し、均衡方程式を導いている。このモデルでは、国内3資産、海外3資産市場を明示化している。
従来のマクロ金融理論では、IS=ML・AS=AD分析が教科書になっている。この程度のマクロ理論の認識で、資産は貨幣のみで、中央銀行は貨幣供給を増加させる拡張政策手段と、公定歩合を引き上げる緊縮政策手段を使って、最終政策目標は、GDP成長率、失業率、物価上昇率、為替レートの数値を取ることが、アナウンスメント効果になっているだけで、目標を達成する理論的根拠はないことが、リーマン・ショック以来、市場関係者に理解されて来た。
2019年から、私の金融論教室では、IS=ML・AS=AD分析を開放マクロモデルに拡張したマンデル=フレミングモデルに、債券市場および為替市場を陽表化したM=F・EXモデルを示している。
しかし、マクロ貨幣経済モデルに、リスク(分散)を考慮する資産選択理論を導入する試みは、意外にない。債券・株式市場のマクロモデルがないためである。この方向は、現在、SNAまたは資金循環表にもとづく、制度部門別主体がリスクを考慮する資産市場均衡モデルを研究している。つまり、IS=ML・AS=AD分析では、経済主体は、国民と政策主体の政府・中央銀行であり、資産は貨幣のみ陽表化されているが、国民を制度部門に分割し、ストック資産市場を国内多資産、海外多資産市場市場で開放モデルに構成し、資産均衡を求める。この立場に立つと、国民と政策主体の政府・中央銀行のマクロ理論は、主体別のミクロ理論で説明することになる。つまり、ミクロ一般均衡理論で、主体別のフロー・ストック市場均衡の存在が証明されれば、マクロ理論は存在しない。このモデルを、動学モデルにすると、この経済で、政策主体がその政策手段をもちいて、政策目標を達成できるかどうか、計算できることになる。
さて、国民と政策主体の政府・中央銀行のマクロ理論で価格予想を導入するのは、外生的で困難であた。ミクロ一般均衡理論においても、平均分散の最適化をした消費者が、資産市場において、最適比率にもとづいて、資産を交換するミクロの一般均衡の存在は定式化されてこなかった。これは、私の『多期間一般均衡モデルの確率的動学』晃洋書房、2018年3月、第11章で、示している。すなわち、投資家が最適平均分散投資比率を決めたら、その比率で、資産商品の売買の個別需要関数を求めることができる。その応用が、今回のリスク・ランクの計算である。
今週(2020年6月14日~6月18日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、8日に国際オリンピック委員会理事会が開かれ、北朝鮮の不参加が確定されました。欧州中央銀行理事会が開かれ、大規模金融緩和策を維持、7月~9月期資産購入を継続、政策金利を据え置きました。11日に主要7カ国首脳会議が開かれ、10億回分のワクチンを途上国に提供、インフラ投資支援の枠組みを創設することなどを合意しました。
今週のイベントは、15日から16日まで米連邦公開市場委員会が、15日米EU首脳会議が開かれます。16日米ロ首脳会談が開かれます。17日から18日まで、日銀政策委・金融政策決定会合が開かれます。18日骨太方針・成長戦略の閣議決定があります。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
6月7日 日景気一致指数
95.6 95.5
景気先行指数 102.9 103.0
中5月中国貿易統計 2,765億元 2,960億元
6月8日 日1~3月期GDP改定値 -4.9% -3.9%
5月の景気ウォチャー調査
4月国際収支 3,427億円 2,895億円
米4月貿易収支 -685億ドル -689億ドル
6月8日 EUGDP(前年比)
-1.8% -1.3%
6月9日 中消費者物価指数 1.6% 1.3%
6月10日 米消費者物価指数 4.6% 5%
経済統計は、次の発表があります。
予測値 実績値
6月15日 米小売売上高 -0.4%
鉱工業生産指数 0.6%
6月16日 日5月の貿易統計 2,418億円
中社会消費品小売総額 14% (前年比)
鉱工業生産 9.8% (前年比)
6月18日 日5月の消費者物価指数 -0.2%
第11回目 2021年6月21日
資産選択理論の実践法
・資産選択理論の実践
・4章のまとめ
資産選択理論によって得られた利子率や資産の収益率とその標準偏差の選択によって、資産交換が成立するのではなく投資家は選択した平均と標準偏差による割分を、2危険資産の市場価格に変換し、完全競争市場で売買する。本ノートでは、安全資産を国債投資信託、危険資産をバランス型投資信託と株式投資信託とする。A2を選択した場合、2/5が債券であり、3/5が危険資産である。投資額を1万円とするとバランスに2/3、株式に1/3投資する。結果、債券4,000円、バランス4,000円、株式2,000円投資する。基準価格をそれぞれ、P1、P2、P3とする。実際は、市場では呼び値に当たるので、それぞれの銘柄に対して、価格に対して、売り高と買い高の気配値が表示されるイメージである。債券は、口数は4,000/P1(口)と計算される。市場において、営業日、価格は変動するから、この割合で、1万円を毎月投資し続けると危険回避者としての平均・標準偏差の戦略設定通りになるか、再計算する必要がある。5章において、実践法を取り上げる。
資産選択理論を現実の投資信託市場において、応用する方法は、他にもあるであろうが、資産選択理論は直接、応用できない。
4章のまとめ
確定拠出企業年金の投資信託を購入に、資産選択理論を応用し、最適ポートフォリオを決定したい。実践への利用として、その方法を示している。資産選択理論を現実の資産市場において、平均・分散戦略による資産売買を実践することは、解説書には、書いていない。
CAPM理論も、3資産最適化の応用であるが、平均と分散の平面で、M点で市場均衡が決まるように説明されている。4章の3資産モデルでは、個人投資家の場合、危険資産のみのM点を選択するとは限らない。市場均衡を標準偏差・平均平面で、表すことは、むつかしい。実践法で示すように、価格・口数で表すのが、市場均衡の伝統である。市場均衡価格を逆変換して、M点に一致するのであれば、CAPM理論は、意義がある。この点について、次年度は、再考したい。
資産市場において、参加者は様々な戦略をもち、期待収益を最大化するように、売買を繰り返しているので、その戦略で投資収益が獲得できなければ、戦略の失敗である。
危険回避者は、許容価格変動幅(標準偏差)のもとで、期待収益率を稼ぐことを戦略としている。その戦略のもとで投資信託を売買している点が、強調されることがない。経済学では、生産者は利潤最大化、企業価値最大化が行動規範であるように、投資家は、資産選択理論を取るならば、許容価格変動幅(標準偏差)のもとで、期待収益率を稼ぐことが行動規範である。
テキストのように、データを収集し、標本分布の平均と分散を計算し、3資産ポートフォリオを求め、収益率から資産価格に変換すれば、実際、最適ポートフォリオの割合で、購入できる。ただし、市場参加者は、資金力の豊富な機関投資家が、資産価格支配力を持つので、危険回避者だけでなく、危険中立者および危険愛好者がいる。当然、価格変動は、大口投資家の予想価格変動を織り込んでいるから、クーポンや配当より、capital gain or lossは、大幅に変動する。過去のデータが有用な情報であるとは限らない。
5.資産形成計画と運用・管理
5.1 イベント分析の枠組み
・イベント分析の枠組み
・世代開始年齢と所得
これまで、第2章制度金融、第3章金融市場と金融商品の特性、評価方法、第4章で、金融商品の選択と決定を学んできた。第5章では、それらの知識を応用して、具体的に、計画を立て、資産を売買し、管理する方法を学ぶ。
資産形成計画は、開始年齢で、終了期間までの期間が大きく異なる。本ノートでは、若年世代、壮年世代、老年世代の3世代を想定している。若年世代は、20歳~32歳、壮年世代は、33歳~65歳、老年世代は66歳~85歳である。20歳は自己の責任において金融取引ができる年齢である。
世代開始年齢と所得
33歳は、本文にある山川家のイベント表の開始年齢である。日本銀行の関連会社から、毎年、最も廉価な『明るい暮らしの家計簿』が発行されている。山川家の生活設計プランが142ページに2006年まで、掲載されていた。年功序列制度では、入社10年で、ミスをしなければ、最初の係長という管理職になれる。しかし、1年間の評価で格下げになることもある。33歳は、その年齢であると理解していた。後は、課長、部長で、それぞれ、5~10年で、昇格する。これが年功序列制度の昇格波乗り3段階といい、その波ごとに、モデル賃金カーブが上昇する。
2006年まで、日本銀行関連会社では、山川家を標準家計としていたのだが、資産形成計画は、預貯金だけであり、先行きの物価上昇率は年1.0%、預金金利は、年0.2%、住宅金利は年3%を想定してあった。しかし、2007年から、このページはなくなった。リーマン・ショックもあり、日経は1万円を割り、預金金利は0.01%であり、貯蓄は現金を残すに等しい。日本は、安倍政権の誕生以来、日経平均は戻し、日銀の過剰緩和から、預金利子率、債券利回りは低下したままであるが、米国は、FRBの利上げとともに、資産市場が正常化しだした。コロナ禍で、FRBは、金融緩和し、再び、米株式市場は上昇した。現在、債券価格および株式価格は高騰している。2021年6月現在、日本の預貯金利子率はほどんど0.00%であり、日本国債市場は、新発10年国債の利回りは0.08%である。日本株式市場は、2万9千円台という異常さがある。為替市場は109円台で推移している。この資産市場の状態で、山川家の主なイベントである、教育、子供の結婚、老後の安心、住宅ローンの返済を計画的に、達成する資産購入、運用、管理をすることを考える。
最後に、65歳は、退職年齢であるが、山川さんは60歳退職であった。年金開始は65歳だから、つなぎの5年間、働かないと退職金を食いつぶしてしまう。団塊世代から、この空白期間が始まった。政府も退職者の雇用について、65歳定年は掛け声だけで、強制性がないので、だらだらと空白期間が続いている。地方都市では、中堅企業以上が、東京本社になっている例が多く、山川さんのようなサラリーマンはそれほど多くはいない。
令和時代が始まり、昨年の山川さんは、現役のサラリーマンである。退職後の85歳まで、資産形成計画を立てるのであるが、退職後の住宅と住む市によって、現在、社会保障のサービスが行き届かない格差は、存在するだろう。現在、市の財政基盤が、潤沢であり、社会保障制度の施設が完備し、医者も多く、介護の人材も十分あれば、問題ないが、経済的活力が湯水のように湧き出し、市の財政基盤が潤沢でありつづけるかどうかは、しっかり、考慮する必要がある。
まとめ
京都市は、伝統産業という零細企業や個人商店が多く、厚生年金ではなく、国民年金だけの市民が多い。零細企業や個人商店、それらの従業員は、国民基礎年金だけであり、老齢者の年金形態は、国民基礎年金家計が多いはずだ。京都市は、教育機関が多く、社会主義、共産主義思想の支持者は多い。その理想では、完全雇用、国民皆年金、社会保障制度の充実を謳う。右肩上がりの経済成長時代であれば、パイが大きくなるので、分配率を固定しても、給料は上がった。土地神話があり、不動産価格も上昇した。
しかし、平成時代は、伝統産業の受難の時代であり、バブルの崩壊で、戦後高所得者が、不動産価値の下落で、伝統産業の高額品を購入できなくなった。着物産業は衰退した。茶道、華道、仏壇、神棚、床の間の和室文化は、崩壊した。京都市では、朝食はパンにコーヒー、夕食はおばんざいのてんこ盛りとなり、会席型個人盛ではなくなった。日本料理の形は、京都にあるのだが、これも受難の時代である。食器の数が減って、後片付けが簡単になった。信楽焼、備前焼など芸術化を目指していたが、買い手がいない。輪島塗は、会席型個人盛に合うように、漆器が生産されているのであるが、盛り合わせ時代では、漆器を手入れして、収納する手がない。
令和となる前日に、輪島市を訪ね、輪島塗の会館で、箸は食器乾燥機に入れられるか訊ねたら、目をむいて、「だめです。」と言われた。塗りもさえ、現代生活向きでは、なくなった。木地に透明な塗りをして、口取りの部分だけ、塗っている椀を買って帰り、今も、食器乾燥機に入れない。箸もいれない。乾燥機に、塗り物設定をすると、入れられないことはないが。次の日、有名な和倉温泉に泊まり、大伴家持の歌碑を見た。家持時代は、島は、縄文木が生えていたのかと思った。帰りの列車で、「令和」と決まったことをスマホで知った。何か、縁があるのか、不思議な気持ちになった。
京都市の場合、京都大学を中心に、戦後の関西社会経済設計に対して、社会主義理念を、経済発展より優位においてきた節がある。九州では、九州大学を中心に、マルクス主義経済学が経済学の主流であり、東北地方は東北大学、北海道は北海道大学と、近代経済学は負けていた。労使協調路線を労働者が選択しているとき、紛争時代までの学生は、マルクス主義を選択していた。高度経済成長は1970年に終了し、緩やかな低成長時代が続き、バブル後、関西経済は、関東経済に吸い寄せられ、長期衰退期に入ってしまった。
特に、京都市の経済発展は、高度成長時代がなく、江戸時代の町構造に延長し、周辺田畑をつぶし、個人住宅地用に碁盤の目状を作って行った。これでは、株式会社の居場所がない。しかたなく、医者、税理士、弁護士等の個人業主が、人間関係がない、面白くもない新興住宅地に住んでいる。残念ながら、市民の大半に、現代日本の厚生年金、企業年金、健康保険制度は立ち上がらなかったようだ。
株式会社のない、オール公務員の社会主義世界では、公共サービスは無料だが、京都市地下鉄は、初乗りが210円である。理由は、路面電車を廃止し、京都市地下鉄はバブル期に完成し、経済発展のない碁盤の目都市に、需要がなかった。建設費2兆円の債務は、永久に返済できないだろうし、毎年の税収で、社会保障制度や施設を他都市並みに、充実させることはできないだろう。地下鉄自体が、資本主義社会の活動のためにあるのである。愚痴を言ってもしょうがないが、近鉄、京阪に地下鉄、市バスを売却、富山市のように、東西、南北を電車の環状線で、補完すれば、利便性、効率が増すかもしれない。しかし、公営にすると、京都市公務員の賃金水準は、大勢を占める零細企業や個人商店の賃金水準より、上であるから、赤字になる。
少子高齢社会に日本は入ってきたので、全国の自治体で、戦後の発展が、各自治体の努力にもかかわらず、うまくいっていない場合も明らかになるだろう。山川さんが、どの地域に住んでも、ライフ・プランは、影響されないとはいえない。
私は、関西で学生、そして、教員をやってきて、関西経済を観察してきた結果、地方から来た学生には、必ず、Uターンを勧めた。奈良県、和歌山県、兵庫県の学生も同じだ。理由は、サラリーマンの土地が狭い。交通網は燃費が高くつく。そこで、生涯所得の6千万円を住宅に投資するのは、 地方都市の方が広く、安く手に入る。また、両親も帰ってくれることを願っていると思っていた。ゼミ旅行で地方の上場企業を訪問すると、仕事はある。学生時代、または関西に就職しても、関西の企業活動を、しっかり勉強しなさいと言っていた。
今週(2021年6月21日~6月25日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、15日から16日まで米連邦公開市場委員会が、15日米EU首脳会議が開かれました。16日米ロ首脳会談が開かれました。17日から18日まで、日銀政策委・金融政策決定会合が開かれました。18日骨太方針・成長戦略の閣議決定がありました。
今週のイベントは、20日に沖縄以外の緊急事態宣言が解除されました。7都道府県がまん延防止等重点措置に移行します。25日1~3月資金循環統計速報、20年国勢調査人口速報が公表されます。
経済統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
6月14日 日鉱工業生産指数 15.8% (前年比)
6月15日 米小売売上高 -0.4% -1.3%
鉱工業生産指数
0.7% 0.8% (前月比)
6月16日 日5月の貿易統計 -770億円 -1,871億円
中社会消費品小売総額 14% 12.4% (前年比)
鉱工業生産 9.2% 8.8% (前年比)
6月18日 日5月の消費者物価指数 -0.2% -0.1% (前年比)
経済統計は、次の発表があります。
6月23日 米経常収支 -2,070億ドル
6月25日 日全国スーパー売上高
PCEコアデフレータ 3.5% (前年比)
第12回目 2020年6月28日
5.2 イベントに基づく資産形成計画
1) 世帯のイベント表の作成
2) 各世代のイベント表の特徴
① 若年世代23歳~32歳の金融行動の目的
② 壮年世代33歳~65歳の金融行動の目的
③ 老年世代66歳~85歳の金融行動の目的
若年世代、壮年世代、老年世代の金融行動の目的を設定し、山川家と高原家それぞれの場合、イベント表の仮定と推計法を例示します。収支差額を、制度金融を利用した貯蓄配分表に投資し、運用結果を評価する期末貸借対照表を作成しました。
1) 若年世代23歳~32歳の金融行動の目的
若年世代の10年間は、仕事に習熟することと、家族をもつかどうかが主な目的になになります。すなわち、この世代は、年間の所得水準が低く、10年間で、毎年の昇給額が年齢と同じかそれ以下でしょう。生活を切り詰める貯蓄は寂しいので、社会性を広げるために、短期1年間の消費生活を充実する、たとえば、車、旅行、趣味、スポーツ等のために、半年で使い切る貯蓄、および住宅購入の頭金を貯蓄する財形住宅貯蓄をし、残金があれば、結婚資金にします。30歳で結婚すると仮定します。
イベント分析の枠組み
海原家イベント表
年齢 23 24 25 26 27 28 29
30 31 32
28 29 30
イベント表の仮定と推計
収入の推計
海原さんの初任給は年収300万円(ボーナス込み)とします。基本給22万×12=264万、ボーナス基本給×4(ヵ月)=88万円を想定しました。諸税を52万円としています。毎年、12万円昇給があるとしています。
支出の推計
消費支出は、年収の8割とし、短期の消費生活充実に使います。
住宅取得計画
住宅頭金は、年50万円貯蓄します。33歳、期首財形住宅貯蓄500万円が目標です。
収支差額表 期末貸借対照表
年齢 収支差額 資産 (財形 iDeCo 預金) 負債 純資産
23
10 50 10 0
0 60
24 12.4 100 22 0.4 0
122.4
25 14.8 150 34 3.2 0
187.2
26 17.2 200 46 8.4 0 254.4
27 19.6 250 58 16
0 324
28 22 300 70 26
0 396
29 24.4 350 82 38.4
0 470.4
30 26.8 400 94 53.2
0 547.2
31 29.2 450 106 70.4
0 626.4
32 31.6 500 118 90
0 708
合計 208
500 118 90 0 708
運用計画と非課税制度
就職を期に、企業年金iDeCoに加入し、毎月1万円、会社から1万円で、指図運用します。残金が発生しますが、預金か、NISAで運用することを想定します。
第2章の非課税制度を運用計画に適用すると次のようになります。
住宅資産形成 財形持家融資制度低利融資(財形住宅貯蓄550万円)夏冬ボーナス月天引
老後の安心 企業年金iDeCo 毎月給与から天引
その他 NISA5年間1名年120万円まで非課税 (120万円) 差額の自己運用
2)壮年世代33歳~65歳の金融行動の目的
壮年世代33歳から65歳までの金融行動の目的を説明します。33歳から48歳まで2人子供の教育資金と36才まで住宅取得の頭金・建設資金が貯蓄の主な目的です。前者は、子供の入学時に順次、取り崩します。
2000年に入って、日本経済は、金融システムの再編があり、大手金融機関、中小金融機関は統合され、企業も再編されました。そのため、非正規雇用が増加し、正社員の賃金カーブも40歳以上ではフラット化してきました。
大学に、キャリア教育が導入され、企業は、企業の採用後、社員教育をしてきたコストを大学教育に求めるようになってきたと理解していました。まさに、学生は、正真正味の即戦力となる厳選採用でした。2008年の世界的なリーマン・ショックも発生し、壮年世代は、年収のダウンで教育資金どころではなく、大学進学の塾費用まで減らした家庭も多かったでしょうか。子ども手当、授業料無料化を公約する民主党政権が誕生した背景は、教育費の負担ができず、学生は、奨学金で授業料を支払い、生活費はアルバイトだったことも、大きく選挙結果に表れています。現在、教育資金は、貯蓄できるほど、30歳代の所得は、回復しているとも思えません。政権を転覆した自公が、教育負担の公費政策で、教育負担が減る仕組みを作りました。したがって、教育資金は、低所得者、子だくさん家庭ほど、貯蓄して、準備する必要が軽減されています。
住宅取得の頭金・建設資金は、主要な貯蓄目的になりますが、その目標額と取得時期は、各家庭で目標が違うでしょう。住宅ローンの返済に入った世代では、余分の貯蓄差額は、老後の安心になります。しかし、中小企業では、高齢少子時代で、需要が減少、市場が縮小し、廃業していく事業継承リスクが目立ち始めた昨今、退職金が出せない企業が増えています。廃業する見込みの企業にとっては、退職金制度は、負債でしかありません。また、転職すれば、退職金は算定が勤続年数0年に戻るので、あてにできず、自己積立にできる確定拠出年金iDeCoに加入するのが、老後の安心になります。
イベント分析の枠組み
山川家イベント表
年齢 33 35 36 44 46 48 56 60 61 65 66 68
30 32
33 41 43 45 53 57 58 62
63 65
イベント表の仮定と推計
収入の推計
モデル賃金カーブを次のように想定する。33才で、手取り年収500万円とする。42才まで、年10万円増加する。43才から55才まで年5万円増加する。56才から。60才定年まで500万円であり、61才から65才まで350万円で再雇用される。物価上昇率は想定しない。モデル賃金から、計算したわけではないが、66才から、企業年金70万円と基礎年金+厚生年金160万円を受給する。68才から。妻の基礎年金78万円が支給される。
基礎年金の受取額は、厚生労働省のHPから毎年分かる。厚生年金は、モデル賃金カーブからシミュレーションするが、簡単ではない。賞与からも保険料を支払うようになっている。各業界で、各年齢の所得を計算したサイトがあるので、モデル賃金カーブを作成、利用する。
支出の推計
消費支出
山川家では、現役時代は、収入の6割を消費支出にあてる。61才から65才まで収入の8割、66才、67才は、年金を全額消費する。夫婦で基礎年金を受給する68才から年金の9割を消費する。
財務計画
収支差額は、その他とする。山川家のローン契約前は、教育資金と住宅準備金の貯蓄が主な使い道であるが、ローン返済が始まると、貯蓄と返済が使い道になる。テキストには、資金運用をしない年間教育資金を計算している。住宅取得計画は、住宅を選定する時間を多くとり、山川家では36歳から60歳まで、年3%、25年ローンを元利均等払いで組んでいる。
住宅取得計画 どこに住宅を求めるか。最近は、減反農政も終了し、都市農家の廃業に伴い、農地売却が増加、供給増になる現象が目立っている。親子2世帯同居ではなく、子供は賃貸で、親は住宅地に住んでいる過渡期の状況である。親の住宅は、手放す例がぽつぽつ、新興地で見られるし、地方でも見られ、建て替えも増加している。高齢・少子時代から、本格的な人口減少時代に、入っているので、町を観察していると、新規開業しても、続かず、廃業してしまう。地元農家資本の店もほとんど廃業した。客がいなくなっているのだ。住宅取得者は住宅用地の超過供給の状況があるので、宅地であれば、既成の住宅地は、候補の一つになる。
さらに、百年に一度、二百年に一度、五百年に一度とか、災害の強度が大きくなっている昨今、地域災害史とハザードマップは、しっかり、検討することが大事である。
例えば、崖っぷちで、沢水がちょろちょろ流れていて、防災施設がない場所に、住宅供給公社でない、地元の建設会社が開発した小規模住宅地がある。裏山は、戦後、集落に分配された丘があり、かつて、政府の植林事業で配給を受けた苗で、捨て植林の1メートル間隔の間伐待ち杉が両側に這えている。(これは、北摂の山林を環境調査で気づいたことであり、当時、ドロンは無かったが、そういう無線操縦の模型ヘリコプタがあれば、空撮できると思い、おもちゃのヘリコプターを買った。衛星写真で植林地を調べれば、1メートル間隔に写るだろうと衛星写真を買った。かつて、山口県の友人の農家で、農地解放・植林のいきさつを聞いた。苗は配布された。しかし、短冊に分割,山分けされた山林所有者は、植林とその育成の知識はない。現在、全国にある里山が、生産山林にならず、山林集約ができず、林道がつけられない悲劇的な事態になっている。耕作放棄田畑と同じ状態である。(江戸時代から言えば、里山は、昭和35年まで、薪炭、山野菜・果樹・松茸等のキノコ生産林であり、手入れされて、調和のとれた美しい日本の風景が、全国各地にあり、生産物を生産していた。しかし、高度成長期に薪炭から石油・ガスにエネルギー転換された結果、不細工なダボ山とセイタカアワダチソウの田畑なってしまった。)
住宅需要の増加から、たとえば、平野部が少ない広島県では、真砂土質の斜面が住宅地開発に活用された。しかし、温暖化が進行し、九州を経由し、東北東方向から、筋状低気圧が発生し、この開発宅地に被害が多発した。気象情報の動画をよく観察すると、山口県と広島県境に羅漢山1109mおよび冠山1339mが、立ちはだかり、地形の構造上、筋状低気圧が東北東の衝立山地に向かい、南南東から湿気の供給を受けた低気圧は衝立山地に、しっかり、集中豪雨をもたらしていることがわかる。地形の構造問題と低気圧の流れがこの方向へ、自然法則的に、ぶつかっている。確か、岩徳線はまだ不通区間がある。
神戸市も、同様な東北東に、六甲山地が連なり、同様なメカニズムで、災害が発生している。神戸大学工学部の先生方は、この地形構造と低気圧のもたらす集中豪雨を排流する住宅開発を研究して来た実績がある。神戸大出身で広島大学工学部の先生が、広島市安佐地域災害の後、テレビで真砂土山地の住宅開発について、説明されていた。耐久性のある工事は、石垣だけでも、かなり費用がかかる。神戸では、戦前から、資産家がその費用を負担して住宅を建設したから、問題はない。
広島県で例えれば、尾道の頂上付近の住宅は、眺望と引き換えに、上がり下りの不便を負担している。神戸・芦屋・西宮・伊丹の住民は、眺望と引き換えに、頑丈なガレージまで建設して、資産家のステータスを買っているのである。しかし、広島市としては、今後も、災害は繰り返されから、六甲山系の並みの本格防災工事をして、宅地の防災工事をすれば、宅地保有者は防災費用をおそらく、負担できないだろう。
地震についていうと、断層調査がハザードマップに反映されてはいない。住宅を購入するとき、断層が走っているかどうかである。阪神大震災では、高級住宅地において、例えば、阪急六甲から神戸大学への道沿いや阪急御影から山側の御屋敷には、地震の被害は、断層がなく、頑丈な地盤、防災工事完備のため、ほとんどない。当時、被災地を見た新聞記者は、それらの高級住宅地と海岸沿いの断層帯に建設された、米国杉・モルタル外壁のペンペラ・ハウス倒壊を見て、金持ちの家が無傷で、一般家庭の家はは倒壊し、資本主義の矛盾が露呈した災害だという感想をもったそうだ。追手門学院大学の先生も、すくなからず、住まいが被害にあった。
私の借りた明石の借家は、明石台地の上にあったのが被害を全く受けなかった理由だ。東京で言えば、ひばりが丘とかの「丘」の上は地震に強い。さらに、ペンペラハウスではなく、地元大工の建売住宅で、伝統土壁、高野槙(神戸から来た大工が言っていた)の柱だった。耐震壁は被害を少なくする。高野槙は水に強く、明石港は和歌山の漁港と取引があり、漁船造船用材に高野槙を運んでいたのか、と想像するが、水害に強いかもしれない。
(山の上と宗教施設に関連して、つねづね考えていたことがある。全国の墓地も、町、集落が見渡せるところが多い。私の明石の借家近くに、真言宗の寺があり、私の定宿高野山清浄心院で修行された住職とか聞いた。その小さな寺は、台地の端で、「山の上」にあり、明石城下町が見える。高山右近の山上の教会は、この寺かもしれないとも想った。キリスト教禁教後は、真言宗の寺に代わった教会があったというのを読んだことがある。空海は、中国留学中に、他の宗教、キリスト教、回教には、関心があったと思う。それら一神教と仏教との宗教論争に、勝たねばならないから、大日如来を中心に据えているのだろう。事実、宣教師との論争では、浄土宗では無理だが、真言宗は対抗できた。熱心なキリシタン大名高山右近が、明石からマニラに移った後は、キリスト教は禁教となり、真言宗の寺があってもおかしくない。追手門学院大学は、藤原鎌足系統の山上古墳がある。1988年韓国旅行で、同様な山上古墳を見学したから、朝鮮系だろう。時代は変わって、その隣に、真言宗の寺があり、ザビエルの絵があった隠れキリシタンの家も近くにある。宣教師が山上の教会にこだわるのは、エルサレムの最後の晩餐が新教団の設立とキリストと弟子への遺訓を意味するからだろう。実際、1986年、ガイドがエルサレムの最後の晩餐があったと言われる山の丘の上から、小さな砦のようなエルサレム城壁が囲み、その下に、墓があるのが見渡せる。イエスの最後は、処刑の丘近くにある墳墓に入ると、赤い石があり、その上に遺体が置かれた。ガイドは、新訳聖書において、最後の晩餐から処刑されることで終わるからか、東エルサレムの誕生教会に連れて行ってくれ、暗い馬小屋があった。そこで、ひげを生やした中年の顔が暗闇に浮かびあがったように見えた。)
要するに、住宅購入は、死後の世界はどうするのかも考えて、配慮すると安全・安心である。
地震の断層は、各地方大学の地質学者が調べているが、ハザードマップに反映はされていない。今後の地震防災の基礎調査予算は、国土庁につくだろうか?地盤が強固であること、歴史的建造物が残っている周辺は、比較的、安全かもしれない。東北大震災で、津波ハザードマップは、太平洋岸の各自治体で整備されているので、海からの水害に安全か、素人で判断できる。あれこれ、自然現象に翻弄されることなく、時空を超えた知識を学び、現在、進行中の地球の物理的沿運動メカニズムを理解し、一家のつかの間の人生の時間を安全・安心に、過ごすために、住宅を選ぶなら、楽しいと思うけど、どうでしょうか。
さて、地球温暖化によって、その強度が、二百年の一度レベルに上昇している。その回数は、毎年起きてもおかしくない。もし、災害により住宅が被害にあうと、保険でカバーできなければ、二重ローンは、老後の安心をつぎ込むことになる。(住宅供給公社が開発したなら、被害後、再建費用は軽減される。)また、保険会社も、想定できる災害の種類と実際のデータ増加に伴い、住宅の被災確率を計算しているから、新築住宅に保険をかけると、災害確率の高い住宅地は、保険料を高くするだろう。
貯蓄配分表
教育資金計画
16年間目標積立額700万円、毎年の積立額43.75万円とする。最近は、出生率低下を阻止する国・自治体の少子対策で、子供手当、授業料無料化等による、生活費・教育費公費扶助・補助がつき、自己負担が軽減されている。年収と子供の能力・将来を勘案して、教育資金計画を立てることになる。年収不足で、さらに無計画だと、子供の成長期に、教育資金を政府金融機関で借り入れることになる。しかし、大学進学は、少子対策による、奨学金等の支給条件の多様化で、低所得者層の教育費を支給するようになってきた。
住宅取得計画
33歳、期首財形住宅貯蓄350万円、残り3年間頭金年間50万円、25年間借入額2,500万円、年間返済額143.6円元利均等払い(利息43.6万円、元金100万円)とする。
老後の安心
残額を老後の安心とする。
以下の貯蓄配分表は、イベント表の抜粋である。期末貸借対照表は、33歳から48歳までである。
貯蓄配分表 期末貸借対照表
年齢 教育資金 差額
年齢 財形 積立 預金
固定資産 負債 純資産
33 43.75 106.25 33 400 43.75 106.25 550
35 114.25 34 450 87.5
216.5 754
36 24.65 35 500 131.25
330.75 962
48 43.75 62.65 36
175 355.4
3000 2500 1030.4
49 118.4 37 218.75 384.05 3000 2400
1202.8
55 120.4 38 262.5 416.7
3000 2300 1379.2
56 56.4 39
306.25 453.35 3000 2200
1559.6
60 56.4 40
350 494
3000 2100 1744
61 70 41 393.75 538.65 3000 2000
1932.4
62 70 42 437.5 587.3
3000 1900 2124.9
65 70 43 481.25 639.95 3000 1800
2321.2
66 0 44 525 694.6
3000 1700 2519.6
67 0 45
568.75 751.25 3000 1600
2720
68 30 46
612.25 809.9 3000
1500 2922.15
47 656.25 870.55 3000 1400
3126.8
48 699.5 933.2
3000 1300 3332.7
運用計画と非課税制度
第2章の非課税制度を運用計画に適用すると次のようになる。
1子の教育費 ジュニアNISA(18歳まで)子1名年80万円
(400万円)
2住宅資産形成 財形持家融資制度低利融資 (財形住宅貯蓄550万円)
3老後の安心 財形年金貯蓄元利合計550万円まで、非課税 550万円
NISA5年間1名年120万円まで非課税 合計1,200万円
つみたてNISA1名年40万円60歳まで非課税
夫婦で(20年間拠出額1600万円)
1 山川家イベント表から,毎年,教育資金を43.75万円,16年間,貯蓄する.教育資金は,ジュニアNISAが,最も適している.
2 住宅ローンは,頭金が3年残っているので,その間,住宅の選択に入り,36才から,住宅ローンを開始し,25年間返済し,60才で返済を終える.
3
収支差額が毎年発生するが,その総額は,非課税枠内に入る.まず,老後の安心のために,iDeCo,残りは,つみたてNISAにする.
3)老年世代65歳~85歳の金融行動の目的
老年世代65歳から85歳までの金融行動の目的を説明する。老年世代になると、公的年金を受給できるが、公的保険を支払う義務が生じる。公的年金から公的保険を天引きする。生活に不足する分は、資産形成と退職金から、取り崩すことになる。
資産形成と退職金は、目減りしないように、制度枠を利用しつつ、運用を続けることになる。山川氏と代わって、退職した高原氏のイベント表を作成する。
イベント分析の枠組み
高原家イベント表
年齢 66 67 68 69 70 71 72 73
85
64 65 66 67 68 69 70 71 82
83 84 85
イベント表の仮定と推計枠組み
公的年金および厚生年金は、算出方法が公開されているので、正確であるが、将来予測はできない。現在給付高をそのまま使う。企業年金も拠出額は、算出可能だが、運用額は、資産管理会社の通知で分かる。老後の安心も、銀行・証券会社で拠出額と運用額が分かる。
収入の推計
公的年金(-控除)公的保険(国保,介護)=公的年金収入
実例
公的年金収入=基礎年金(779,300円×2)-公的保険(国保270,309円総所得200万円2人簡易計算,介護126,720円第8段階)=1,161,571
厚生年金(779,300円基礎年金と同額とする)
年金手取り額1,940,871円=公的年金収入+厚生年金=1,161,571円+779,300円
企業年金(確定拠出年金):23歳から60歳まで、拠出月数=12カ月×38年=456カ月、企業拠出総額=2万円×456=912万円、企業年金(確定拠出年金)運用額=拠出総額×1.2倍=912万円×1.2=1094.4万円
老後の安心拠出総額=2,285万円 運用額(平均2%)=2,285万円×1.02=2330.7万円
退職時資産:金融資産=企業年金1094.4万円(退職金に相当)+自己資産2330.7万円
=3425.1万円
支出の推計
消費支出
高原氏は、平均寿命85歳で終わるように、見込んでいるから、支出を年270万円とすると、2,700,000-1,940,871=759,129 となり、年約76万円不足する。高原氏の資産は、運用額で、3425.1万円であるから、3425.1万円÷20=171.255万円であり、十分、賄える。
収支差額表 期首貸借対照表
年齢 取り崩し 資産 現預金 投資信託 固定資産 負債 純資産
66 154 2234 0
3000 0
5238
67 154 2084 0
3000 0 5084
以下の表は、テキスト本文pp.67‐68にある。
運用計画と非課税制度
金融資産取り崩しで、年間76万円取り崩すので、その額を年金化する方が、運用のわずらわしさから、開放されるだろう。この問題は、次回、以降で、取り扱う。実物資産である自宅については、その資産価値は、日本の住宅では、通常、建物は耐用年数30年で、0になる。個人住宅では、減価償却引当金を積み立てていないためそうなる。固定資産の内、建物の価値は0円である。退職後、20年間、さらに、住むわけであるから、リフォームが必要になるかもしれない。
第2章の非課税制度を運用計画に適用すると次のようになる。
高原家イベント表から、NISAが、最も適している。NISA5年間1名年120万円まで非課税、夫婦で、合計1,200万円可能である。収支差額が毎年取り崩し76万円である。
今週(2021年6月28日~7月2日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、20日に沖縄以外の緊急事態宣言が解除されました。7都道府県がまん延防止等重点措置に移行しました。25日1~3月資金循環統計速報、20年国勢調査人口速報が公表されました。
今週のイベントは、29日にイタリアで、20カ国地域外相会合が開かれます。7月1日6月の短観が発表されます。OPEC総会が開かれます。
先週の統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
6月23日 米経常収支 -2,062億ドル -1,957億ドル
6月25日 日全国スーパー売上高 2.9%(前年比)
米個人支出 0.4%
0.0%(前月比)
PCEコアデフレータ 3.4% 3.4%(前年比)
今週の統計は、次の発表があります。
予測値 実績値
6月29日 日5月の有効求人倍率 1.05倍
5月の完全失業率 2.9%
全国百貨店・スーパー売上高 7%
6月30日 日6月の消費動向調査
5月の鉱工業生産指数 27%
7月1日 日6月の日銀短観
路線価格公表(国税庁)
7月2日 米6月の失業率 5.7%
貿易収支 -709億ドル
第13回目 2021年7月5日
5.3ドルコスト平均法
・制度金融の利用枠のもとでのドルコスト平均法
・1)海原氏の場合
制度金融の利用枠のもとでのドルコスト平均法
会社員の制度金融利用枠は、企業に制度がある場合、財形住宅、財形年金、確定拠出年金DC、個人加入できるiDeCoの制度がある。個人貯蓄では、ジュニアNISA、つみたてNISA、NISAの制度がある。
これまでの各節で、段階的に計算してきたイベント目標額を企業加入制度、個人加入制度によって、利用枠を決める。新入社員は月別、山川家、退職者は年別で、貯蓄・投資額が決まる。制度別は、拠出額がさらに決っている。実践では、月別の貯蓄・投資額を金融商品に割り当てる。企業加入制度では、資産管理・運用会社が指定され、金融商品も指定されている。個人加入制度では、任意に契約できるが、資産管理・運用会社を替えることは、コストがかかる。
したがって、これらの制度枠利用は、月別、資産管理・運用会社が決まっていることが前提である。その上で、投資者は、その会社の提供する商品を選択することになる。資産選択理論を利用すれば、自分の期待収益率とその分散の傾向を自覚し、提供商品リストから、傾向に適合する割合が決まる。毎月、第11回目の実践の式を使い、市場で購入する。ただし、有効フロンティア計算のためのデータ取得は、月1回、月次データをデータ表に記録するだけでも、根気がいる。
ドルコスト平均法:ドルコスト平均法は、毎月、決まった商品を定額資金で購入する投資方法である。
10年以上の少額投資では、換金の心配がない。契約期間の満期が近づけば、一時金受け取りか年金受け取りかを考慮すればよいだけである。10年以上の少額投資の基本戦略は、ドルコスト平均法である。商品の選択は、変更は可能であるが、頻繁の変更はドルコスト平均法ではなくなる。
1)海原氏の場合
第12回目に戻ると、新入社員は、貯蓄配分表を作成した。企業加入制度は、および個人加入制度は、例として、SBI証券とインターネット銀行を契約したとする。インターネット証券・銀行の場合、スマホ取引が可能であり、売買の指示が即時的である。取引手数料も安い。
新入社員の場合、企業の拠出額は、月1万円とする。SBI証券のサイトにおいて、iDeCoの商品リストを見る。投資信託受託証券は、すでに、分散投資になっているので、個人でさらに資産選択をする必要はない。商品は、主に、日本債券、日本株式、外国債券、外国株式に分類される。後は、それらのミックスである、バランス型になる。
海原氏の年齢により、スタートする収支差額と期末貸借対照表は、次の通りである。運用は考慮していない。
現在、海原氏は、現在、27歳だとする。結婚を30歳に控えている。
収支差額表 期末貸借対照表
年齢 収支差額 資産 (財形 iDeCo 預金) 負債 純資産
23
10 50 10 0
0 60
24 12.4 100 22 0.4 0
122.4
25 14.8 150 34 3.2 0
187.2
26 17.2 200 46 8.4 0 254.4
27 19.6
250 58
16 0 324
28 22 300 70 26
0 396
29 24.4 350 82 38.4
0 470.4
30 26.8 400 94 53.2
0 547.2
31 29.2 450 106 70.4
0 626.4
32 31.6 500 118 90
0 708
合計 208
500 118
90 0
708
海原氏の戦略結果(2020年版資産形成論)
運用計画
計画は夏冬ボーナスそれぞれ25万円を積立て、財形は、250万円ある。iDecoは、月1万円で、これらは、天引き貯蓄だから、運用計画が残る。財形および取り崩しはできない。預金は、予備的動機にもとづく。
海原氏が27歳の場合、2019年7月から、2020年3月まで、財形に、日興-DCインデックスバランス(株式60)を当てる。iDecoは、SBI-EXE-iグローバルREITファンドにする。預金は、16万円あるので、NISAで運用すると、総合食品スーパーなどで、株主優待制度と配当が1~2%を超える株式を購入できる。その期間中、商品割引の特典がつく最小の株数以上を購入する。今回、チャンスは、コロナ暴落で、16万円で買える。
投資信託の選択
SBI証券のホームページの[iDeco 確定拠出年金]に、軽くポインターを当てると、商品リストが出るので。クリックすると、投資信託のデータを調べられる。お気に入りに登録する。証券会社のサイトは、宣伝が多いので、どこに、データがあるのかわかりにくいので、いつでも、確認できるようにしておく。海原氏、山川氏および高原氏の選択する投資信託は、以下の投資信託しとし、債券、インデックスバランス(株式20、40、60)、グローバルREITおよびJ-REITである。
SBI-EXE-i先進国債券ファンド
日興-DCインデックスバランス(株式20)
日興-DCインデックスバランス(株式40)
日興-DCインデックスバランス(株式60)
SBI-EXE-iグローバルREITファンド
ニッセイ-DCニッセイJ-REITインデックスファンドA
基準価格データ
2019年1月~2021年6月まで,半年の基準価格データを毎月27日(土日は翌営業日)に記録する。
投資信託EXCE表 期間2019/1/27~2021/6/27(30コ)
投信名 |
||||||
日付 |
SBI外債 |
日興20 |
日興40 |
日興60 |
SBIGREIT |
日生JREIT |
190128 |
11258 |
15501 |
18364 |
20949 |
13557 |
11153 |
190227 |
11446 |
15654 |
18758 |
21582 |
14170 |
11351 |
190327 |
11584 |
15767 |
18843 |
21683 |
14535 |
11839 |
190426 |
11629 |
15811 |
18956 |
21884 |
14576 |
11800 |
190527 |
11518 |
15684 |
19623 |
21291 |
14415 |
11905 |
190627 |
11593 |
15801 |
18763 |
21454 |
14092 |
11951 |
190729 |
11642 |
15874 |
18905 |
21677 |
14432 |
12399 |
190827 |
11623 |
15832 |
18595 |
21021 |
14082 |
12815 |
190927 |
11743 |
16025 |
19144 |
22004 |
14822 |
13556 |
191028 |
11816 |
16049 |
19307 |
22348 |
15195 |
13932 |
191127 |
11962 |
16168 |
19596 |
22850 |
15149 |
13908 |
191227 |
11903 |
16167 |
19699 |
23090 |
15129 |
13470 |
200127 |
11931 |
16188 |
19665 |
22980 |
15403 |
13653 |
200227 |
12167 |
16037 |
19193 |
22094 |
15034 |
13487 |
200327 |
11858 |
15627 |
18375 |
20763 |
10917 |
9782 |
200426 |
11927 |
15684 |
18485 |
20939 |
10918 |
10084 |
200527 |
11997 |
15884 |
18980 |
21796 |
11490 |
10377 |
200629 |
12146 |
15889 |
19112 |
21891 |
11470 |
10635 |
200727 |
12224 |
15992 |
19261 |
22269 |
11533 |
10760 |
200827 |
12232 |
16095 |
19531 |
22754 |
12011 |
11219 |
200928 |
12096 |
16113 |
19576 |
22833 |
11531 |
11292 |
201027 |
12099 |
16094 |
19519 |
22729 |
11657 |
10765 |
201127 |
12127 |
16400 |
20255 |
24041 |
12586 |
11052 |
201228 |
12169 |
16439 |
20344 |
24156 |
12500 |
11452 |
210127 |
12122 |
16545 |
20646 |
24653 |
12829 |
11885 |
210301 |
12156 |
16531 |
20754 |
24996 |
13260 |
12984 |
210329 |
12369 |
16871 |
21292 |
25865 |
14324 |
13135 |
210427 |
12337 |
16754 |
21147 |
25600 |
14794 |
13512 |
210527 |
12474 |
16798 |
21236 |
25746 |
15128 |
13734 |
210628 |
12569 |
16908 |
21501 |
26221 |
15800 |
14306 |
口数の計算法
10,000(円)投資額:(対) 基準価格(円)=x(口数):(対) 10,000(口数)
x口数={10,000(円)投資額÷基準価格}×10,000(口数) (1)
実際のデータを使い、10,000円の投資額で、SBI-EXE-iグローバルREITファンドの基準価格13,536では何口買えるのか、(1)式に代入して計算すると
SBI 2017/10/27 7,387=10,000÷13,536×10,000
7,387口買える。
半年、計算すると、次のようになり、期末合計は45,515口になる。
2017/10/27 11/27 12/27
1/29 2/27 3/27 口数合計
SBI 13,536 13,665 13,816 13,498 12,544 12,202
口数 7,387 7,317
7,237 7,408 7,971 8,195 45,515
期末評価額は
3月総評価額=口数合計÷10,000×基準価格
=45,515÷10,000×3月末基準価格(12,202円)
=4.5515×12,202円=55,537円(評価損4,463円)
となる。このファンドは、基準価格が下落していったので、評価額は損失がでているが、反比例して、口数が増加する。
2019年、この教室の始まる前、SBI証券のサイトにおいて、選んだのが、次の2本である。選択理由は、信託報酬率が1%以下、投資総額が多い、長期間の実績がある。
日興-DCインデックスバランス(株式60)
SBI-EXE-iグローバルREITファンド
コロナの影響が出たのは、2020/3/27からであり、特に、SBI-EXE-iグローバルREITファンドは、下落が大きい。この場合、売却できないから、ドルコスト平均法では、そのまま、買うか、SBI-EXE-i先進国債券ファンドに、相場が反転するまで、切り替える。
しかし、リートの特徴は、株式より、急激に落ちるが、賃料は2年間固定されているので、下限に到達すると、反転は、株式より大きい特徴がある。実証でも、確かめられている。2020/5/27には、反転しているから、ドルコスト平均法の通り、そのまま、SBI-EXE-iグローバルREITファンドを買ってもよい。
同様に、財形の日興-DCインデックスバランス(株式60)も。戦略の変更をしなくても、コロナは乗り切れている。
2021年7月以降の戦略
年2回、20万円を財形住宅貯金とする。海原氏は27歳なので、財形は、DCインデックスバランス(株式60)に、ボーナス月、7月および12月に、それぞれ、20万円投資する。。iDeCoは、月1万円である。半年ごと、ドルコスト平均法で、DCインデックスバランス(株式60)またはSBI-EXE-iグローバルREITファンドのいずれかを選び、毎月1万円投資する。月1万円NISAの日本株式を購入する。日本経済は正常化途上にあるので、コロナ以前の株価水準に到達していない。成長性のある株式で、正常化すれば、上昇が期待できる銘柄を1社選ぶ。年間12万円の投資額であるから、5年以内に、20%以上、値上がりすれば、売却し、利益を確定、同じ銘柄か、成長性ある銘柄に全額投資する。
今週(2021年7月5日~7月9日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、29日にイタリアで、20カ国地域外相会合が開かれました。中露はリモート出席で、会議の成果はありません。7月1日6月の日銀短観が発表されました。OPEC総会は、2日に延期後、5日に、協調減産延長で再協議することになり、NY原油先物価格が8月限月72ドルから、75ドルに上昇しました。
今週のイベントは、5日OPEC総会の協調減産延長の再協議があります。9日20カ国地域財務相・中央銀行総裁会議があります。
先週の統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
6月29日 日5月の有効求人倍率 1.05倍 1.09倍
5月の完全失業率 2.9% 3.0%
全国百貨店・スーパー売上高 7% 5.7%
6月30日 日6月の消費動向調査
5月の鉱工業生産指数 27% 22.0%
7月1日 日6月の日銀短観
路線価格公表(国税庁)
7月2日 米6月の失業率 5.7% 5.9%
貿易収支 -713億ドル-712億ドル
今週の統計は、次の発表があります。
予測値 実績値
7月6日 日5月の家計調査 11.1%
7日 日5月の景気動向一致指数 92.3%
先行指数 102.7%
8日 日6月の景気ウオッチャー調査
5月の国際収支経常収支
18,204億円
貿易収支 2,479億円
9日 中6月の消費者物価指数 1.4%
第14回目 2021年7月12日
5.3ドルコスト平均法
・2)山川氏の場合
・3)高原氏の場合
5.4リバランス法
第13回のつづきで、2)山川氏、3)高原氏の場合、毎年の資金余力を、非課税制度利用の資金運用する計画を決定した。
2)山川氏の場合
以下の貯蓄配分表は、イベント表の抜粋である。期末貸借対照表は、33歳から48歳までである。
貯蓄配分表 期末貸借対照表
年齢 教育資金 差額
年齢 財形 積立 預金
固定資産 負債 純資産
33 43.75 106.25 33 400 43.75 106.25 550
35 114.25 34 450 87.5
216.5 754
36 24.65 35 500 131.25
330.75 962
48 43.75 62.65 36
175 355.4 3000
2500 1030.4
49 118.4 37 218.75 384.05 3000 2400
1202.8
55 120.4 38 262.5 416.7
3000 2300 1379.2
56 56.4 39 306.25 453.35 3000 2200
1559.6
60 56.4 40
350 494
3000 2100 1744
61 70 41 393.75 538.65 3000 2000
1932.4
62 70 42 437.5 587.3
3000 1900 2124.9
65 70 43 481.25 639.95 3000 1800
2321.2
66 0 44 525 694.6
3000 1700 2519.6
67 0 45 568.75 751.25 3000 1600
2720
68 30 46
612.25 809.9 3000
1500 2922.15
47 656.25 870.55 3000 1400
3126.8
48 699.5 933.2
3000 1300 3332.7
運用計画と非課税制度
非課税制度
第2章の非課税制度を運用計画に適用すると次のようになる。
1子の教育費 ジュニアNISA(18歳まで)子1名年80万円
(400万円)
2住宅資産形成 財形持家融資制度低利融資 (財形住宅貯蓄550万円)
3老後の安心 財形年金貯蓄元利合計550万円まで、非課税 550万円
NISA5年間1名年120万円まで非課税 合計1,200万円
つみたてNISA1名年40万円60歳まで非課税
夫婦で(20年間拠出額1600万円)
教育資金計画
山川家イベント表から、16年間目標積立額700万円、毎年の積立額43.75万円である。教育資金は、ジュニアNISAが、最も適している。
住宅取得計画
33歳期首財形住宅貯蓄350万円、残り3年間頭金年間50万円を貯蓄し、36歳から、25年間借入額2,500万円、年間返済額143.6円元利均等払い(利息43.6万円、元金100万円)とする。
住宅ローンは、頭金が3年残っているので、その間、住宅の選択に入り、36才から、住宅ローンを開始し、25年間返済し、60才で返済を終える。
老後の安心
収支差額が毎年発生するが、その総額は、非課税枠内に入る。まず、老後の安心のために、iDeCo、残りは、つみたてNISAにする。
企業加入制度iDeCoは、企業の拠出額を2万円とする。標準月収が増加すれば、拠出額は増加する。新入社員が月1万円としたよりは、山川氏は、商品選択は少なくとも2本可能である。
山川氏の戦略
投資信託の選択
教育資金運用
ジュニアNISAおよびつみたてNISAは、日興-DCインデックスバランス(株式40)およびニッセイ-DCニッセイJ-REITインデックスファンドAをそれぞれ、3.6万円および1万円で毎月購入する。引出期に近づく場合、そのときの株式市場相場で、利益が減少するから、利益を確定し、変動の少ないSBI-EXE-i先進国債券ファンドを購入する。
老後の安心
DCおよびiDeCoは、それぞれ、2万円、日興-DCインデックスバランス(株式60)または日興-DCインデックスバランス(株式40)を毎月購入する。退職期が近づくと、一時金にするか、個人年金化するか、選択する。
3)高原氏の場合
高原氏の安心運用資金は、運用無しで、2,285万円である。上述のドルコスト平均法で、元本が減少しない投資信託を半分以上、10年間、75歳まで、変動の少ない、バランス型(株式20)とまたはSBI-EXE-i先進国債券ファンドの投資信託で運用する。残りは、10年間、元本維持型の定期預金またはSBI-EXE-i先進国債券ファンドの投資信託で、取り崩し資金にする。
妻が100歳まで長生きしても、資産の取り崩しは15年間で32×15=480であるから、資金は枯渇しない。
高原家イベント表
年齢 66 67 68 69 70 71 ・ ・ ・ 85
64 65 66 67 68 69 ・ ・ ・ 83 84
85
収入
270 270 270
270 270 270 ・ ・ ・ 270 135 135
年金
116 116
194 194 194 103 103
取り崩し 154 154
76 76
76 32
32
支出 270 270 270 270 270 135 135
貯蓄配分表 期首貸借対照表
年齢 預金引出 残額 資産 投資信託 固定資産 負債 純資産
66 154 0 3425.1 1500 0 4925.1
67 154 0
3271.1
1500
0 4771.1
68 76 0
3195.1 1500 0
4695.1
69 76 0
3119.1
1500 0 4619.1
70 76 0 3043.1 1500 0
4543.
71 76 0 2967.1 1500
0 4467.1
. 76 0
. 76 0
. 76 0
85 76 0 1979.1 1500
0 3479.1
運用計画
金融資産取り崩しで、年間76万円取り崩すので、その額を年金化する方が、運用のわずらわしさから、開放されるだろう。実物資産である自宅については、その資産価値は、日本の住宅では、通常、耐用年数30年で、0になる。山川邸は、減価償却引当金を積み立てていないためそうなる。退職後、20年間、さらに、住むわけであるから、リフォームが必要になる。実際、実行した例でいうと、リフォームの内容は、エアコン、台所とくにIH調理機、洗面所・浴室、エコキュウト、トイレ、介護用手すり、バリアフリー、外回りは、PV設置、蓄電池、外装、外周りの手摺(介護認定されると、レンタル介護用品、介護設備費に市からの補助金がある。温暖化対策で、二重ガラス窓、外装等の断熱工事、PV設置に補助金が出る場合がある。)などである。高齢者住宅は、特に、火災のリスクのため、オール電化、熱中症対策に空調、停電のための蓄電池装備が望ましい。
退職金は、期首貸借対照表に、計上していないが、リフォーム資金に充てることが望ましい。高原氏は、20年間、妻は100歳までなので、住宅設備の更新等の予備費として、退職金の残りは、生活費に回さないことが望ましい。
高原邸は、退職金でリフォームを済ませているとする。
高原氏の戦略
投資信託の選択
投資資金の半分以上は、10年間、引出がないので、日興-DCインデックスバランスは株式40か20で、収益を確保する。残りは、10年以内に、引き出すので、定期預金またはSBI-EXE-i先進国債券ファンドを購入する。
5.4リバランス法
・リバランス法
ドルコスト平均法継続中、何をすべきか
契約証券会社サイトにおいて、若年世代および壮年世代は、毎月の拠出額は、少額定額設定である。投資戦略は、ドルコスト平均法で購入し、iDeCoでは、60歳まで、引出はできない。ある商品の全額を売却、他の商品にスイッチする戦略は、売却に手数料がかかり、購入も手数料がかかるので、ドルコスト平均法に反する。
個人貯蓄の制度利用の場合は、NISAか、またはつみたてNISAを契約する。投資信託の場合、株式の割合が高くても、平均分散化されているので、基準価格の変動は、激しくない。NISAは売却益の非課税が5年以内なので、目標上昇率が15%であれば、目標上昇率を達成すれば、売却し、利益を確定する。その後、再購入するか、別の商品を購入するのが、非課税制度利用の方法である。
購入した商品は、それぞれ、証券会社のサイトに登録できる。実際に、毎月、ドルコスト平均法で購入していれば、登録リストに、投資信託の評価額が表示される。個別の投資信託の日々の変動も見ることができる。
リバランス法
著しく運用成績が変化すると、選択した資産構成比率に戻すために、成績のよい商品の一部を売却し、他の商品に再配分し、固定比率を回復することをリバランスという。ドルコスト平均法で作成した場合、 売却、別の商品を購入すると取引コストが高い。購入を中断し、別の商品を購入するスイッチの方が、コストは低い。
リバランスの時期
リバランスをする時期は、運用期間が短期~5年、中期5年~10年、長期10年以上で、違う。短期~5年ほど、商品の入れ替えは、回数が多くなる。
13回のデータ表から、投資信託の債券1、株式3、リート2の収益率を(P2-P1)/P1 とし、計算し、その平均値と標準偏差を計算した。
投信月次収益率 | ||||||
日付 | SBI外債 | 日興20 | 日興40 | 日興60 | SBIGREIT | 日生JREIT |
190128 | 0.016699236 | 0.00977386 | 0.021455021 | 0.030216239 | 0.045216493 | 0.017753071 |
190227 | 0.012056614 | 0.007166868 | 0.0045314 | 0.004679826 | 0.025758645 | 0.042991807 |
190327 | 0.003884669 | 0.002782873 | 0.005996922 | 0.009269935 | 0.002820777 | -0.003294197 |
190426 | -0.009545103 | -0.008097424 | 0.035186748 | -0.027097423 | -0.011045554 | 0.008898305 |
190527 | 0.006511547 | 0.007404595 | -0.043826122 | 0.007655817 | -0.022407215 | 0.003863923 |
190627 | 0.004226689 | 0.004598715 | 0.007568086 | 0.010394332 | 0.024127164 | 0.037486403 |
190729 | -0.001632022 | -0.002652855 | -0.016397778 | -0.03026249 | -0.024251663 | 0.033551093 |
190827 | 0.010324357 | 0.012043682 | 0.029524066 | 0.046762761 | 0.052549354 | 0.057822864 |
190927 | 0.006216469 | 0.00149542 | 0.008514417 | 0.015633521 | 0.025165295 | 0.027736796 |
191028 | 0.012356127 | 0.007360218 | 0.014968664 | 0.02246286 | -0.003027312 | -0.001722653 |
191127 | -0.004932286 | -6.18544E-05 | 0.005256175 | 0.010503282 | -0.001320219 | -0.031492666 |
191227 | 0.002352348 | 0.001297257 | -0.001725976 | -0.004763967 | 0.018110913 | 0.013585746 |
200127 | 0.019780404 | -0.009415726 | -0.024002034 | -0.038555265 | -0.023956372 | -0.0121585 |
200227 | -0.025396564 | -0.026236642 | -0.042619705 | -0.0602426 | -0.273845949 | -0.274708979 |
200327 | 0.005818856 | 0.003634277 | 0.005986395 | 0.008476617 | 9.16003E-05 | 0.030873032 |
200426 | 0.005869037 | 0.012591287 | 0.026778469 | 0.040928411 | 0.052390548 | 0.02905593 |
200527 | 0.012419772 | 0.000314683 | 0.006954689 | 0.004358598 | -0.001740644 | 0.024862677 |
200629 | 0.006421867 | 0.00644072 | 0.007796149 | 0.01726737 | 0.005492589 | 0.011753644 |
200727 | 0.00065445 | 0.006399503 | 0.014017964 | 0.021779155 | 0.041446285 | 0.042657993 |
200827 | -0.011118378 | 0.00111711 | 0.002304029 | 0.003471917 | -0.039963367 | 0.006506819 |
200928 | 0.000248016 | -0.001180564 | -0.002911729 | -0.004554811 | 0.010927066 | -0.046670209 |
201027 | 0.002314241 | 0.018658537 | 0.03770685 | 0.057723613 | 0.079694604 | 0.026660474 |
201127 | 0.003463346 | 0.002372407 | 0.004393977 | 0.004783495 | -0.006832989 | 0.036192544 |
201228 | -0.003862273 | 0.006406769 | 0.014844672 | 0.020574598 | 0.02632 | 0.03780999 |
210127 | 0.002804818 | -0.000846894 | 0.005231037 | 0.013913114 | 0.03359576 | 0.092469499 |
210301 | 0.017522211 | 0.020152925 | 0.025922714 | 0.034765562 | 0.080241327 | 0.011629698 |
210329 | -0.002587113 | -0.006983407 | -0.00681007 | -0.010245506 | 0.032812064 | 0.028701941 |
210427 | 0.011104807 | 0.002619359 | 0.004208635 | 0.005703125 | 0.02257672 | 0.01642984 |
210527 | 0.007615841 | 0.006505796 | 0.01247881 | 0.018449468 | 0.044420941 | 0.041648464 |
平均 | 0.003847999 | 0.002953845 | 0.005632154 | 0.008070743 | 0.007426444 | 0.010720529 |
標準偏差 | 0.009356143 | 0.008837633 | 0.019204045 | 0.0249017 |
縦軸平均収益率横軸標準偏差の散布図を見ると、バランスは直線的に等間隔で並んでいる。債券はバランス20より収益率が良い。リートはバランス60より収益率が良いが標準偏差は3倍ある。バランスが資産選択理論に従っていることが見て取れる。リートは標準偏差変動(ボラティリティ)が大きいので、バランスタイプではない。総合収益率にすると、平均収益率はさらに上がる。回復力は株式100より、早い。
ドルコスト平均法のもとで、リバランスは、制度を利用している場合、引出は出来ないが、売却した収益で購入することができる。また、一方の資産を中断し、他の資産を買うスイッチはできる。
・2以上の資産で、高い資産価格から、低い資産価格にスイッチする。
・長期的には、目標5年前で、リスクが低い資産に、シフトする。
・5年前まで、口数の増加を目標にするから、低い価格の資産にスイッチする。
本教室では、投資家は、各商品の平均収益率だけでなく、リスクを考慮する。資産選択理論では、平均分散の有効フロンティアと確定型証券の収益率からの直線との交点で、リスク資産の合成資産が決まる。投資家がその直線の最適点を選択するというのが、教科書的な投資戦略である。
その戦略にしたがえば、バランス型投資信託を選択することになる。そして、時系列的には、ドルコスト平均法で、定額購入を半年継続する。
リバランスの状況が生じるかは、バランス型投資信託以外の投資信託を選択している場合になる。本教室では、2本あれば、変動が少ない方を買い続ける。半年たって、見直すと、それがリバランスに自動的になるのではないか。
海原氏、山川氏、高原氏、の運用計画を見ると、それぞれの目的で、1本に絞っているので、選択肢が2本以上ないと、ドルコスト平均法でのリバランスは、あまり効果はない。
今週(2021年7月12日~7月16日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、5日OPECプラスの閣僚協議再協議があり、需要国の経済回復が予想され、産油国も同様に、財政を原油生産に依存しているため、協調減産の縮小幅が決められず、協議は決裂しました。9日20カ国地域財務相・中央銀行総裁会議がありました。
今週のイベントは、12日東京都緊急事態宣言が発令されます。14日米FRBパウエル議長、議会証言があります。15日日銀政策委員会・金融政策決定会合が16日まで開かれます。
先週の統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
7月6日 日5月の家計調査 11.1% 11.6%
7日 日5月の景気動向一致指数 92.3% 92.3%
先行指数 102.7% 102.6%
8日 日6月景気ウオッチャー調査現状 47.6
先行 52.4
5月の国際収支経常収支
18,204億円 19,179億円
貿易収支 2,479億円 20億円
9日 中6月の消費者物価指数 1.4% 1.1%
今週の統計は、次の発表があります。
13日 米6月米消費者物価 4.9%
中6月貿易統計 2,700億元
15日 中4~6月期中国国内生産 8.0%
6月小売売上高 22.8%
鉱工業生産 16.0%
16日 米6月小売高 (前月比) -0.5%
第15回目 2021年7月19日
14回の続き リバランス法の応用
1)海原氏の2021年7月~2022年3月の戦略
2)山川氏の2021年7月~2022年3月の戦略
3)高原氏の2021年7月~2022年3月の戦略
1)海原氏の戦略結果と次期の戦略
2020年7月~2021年3月の戦略結果
海原氏の戦略は、次の通りだった。
ボーナス月、7月および12月、財形貯蓄として、日興-DCインデックスバランス(株式60)の購入戦略を変更しない。
iDeCoは、月1万円。ドルコスト平均法では、そのまま、買うか、SBI-EXE-i先進国債券ファンドに、相場が反転するまで、切り替える。
月1万円NISAを選択する。
戦略の結果 コロナ禍であったが、13回の基準価格表、14回の収益率表から分かるように、2020年10月から、金融市場は回復し出したので、ドルコスト平均法は、効果があった。
2021年7月~2022年3月の戦略
経済正常化に入るので、米国では、ゼロ金利から、金利を上げる金融政策が早いかもしれない。株式市場は、下落し、債券市場は債券利回りが上昇するかもしれないが、コロナ禍のような外生的ショックではないから、FRBの政策変更であり、金融市場にショックを与えるのが目的ではないので、調整的政策の実施になる。リバランスするほどでもないだろう。ただし、NISAの株式購入は、調整局面で、下げ相場反転で買う方がよいかもしれない。
ボーナス月、7月および12月、財形貯蓄として、日興-DCインデックスバランス(株式60)の購入戦略を変更しない。
iDeCoは、月1万円、SBI-EXE-iグローバルREITファンドか、ニッセイを買う。
月1万円NISAを選択する。個別株式を買うか、好配当投信信託、先進国成長投資信託を選び買う。
2)山川氏の戦略結果と次期の戦略
2020年7月~2021年3月の戦略結果
山川氏の教育資金437,500円は、7月と12月のボーナスをあてる。収支差額合計626,500円は、老後の安心360,000円と予備費226,500円にあてる。
・企業年金のiDeCoは、月2万円で、投資信託で運用する。日興-DCインデックスバランスは株式40を買う。
・教育資金437,500円は、7月と12月のボーナスをあてる。ジュニアNISAで、NISAの投資信託から選択し、運用する。SBI-EXE-i先進国債券ファンドを買う。
・老後の安心は、月3万円を、つみたてNISAとして、ニッセイ-DCニッセイJ-REITインデックスファンドAを購入し、予備費は預金にする。
戦略結果 iDeCoは、問題はない。教育資金は、日興-DCインデックスバランス(株式20)より、SBI-EXE-i先進国債券ファンドの平均収益率がよかった。老後の安心は、J-REITインデックスファンドAでよかった。
2021年7月~2022年3月の戦略
経済正常化に入るので、米国では、ゼロ金利から、金利を上げる金融政策が早いかもしれないが、FRBの政策変更であり、金融市場にショックを与えるのが政策目的ではないので、調整的政策の実施になる。リスクが高い投資信託をリバランスするほどでもないだろう。ただし、NISAによる日本株式相場は、日本人投資家に余力が少なく、外人投資家に影響を受けやすい。12月FRBが政策調整局面に入れば、一時的に、米市場の連れ下げ相場になるので、反転で買う方がよいかもしれない。
投資信託選択は、ドルコスト平均法で、変更しない。
3)高原氏の戦略結果と次期の戦略
高原氏は、68歳とする。高原氏夫妻は85歳でなくなるとする。テキストp.67の収支差額表から、高原氏の預金からの取り崩しは76万円である。高橋氏が亡くなると3年間、取り崩しは、年32万円である。高原氏が85歳の期末に現預金が716万円ある。高原氏の妻は、遺族年金と自身の老齢基礎年金が収入であり、不足分が毎年32万円の取り崩しになる。
元本が減少しない投資信託を半分以上、17年間、SBI-EXE-i先進国債券ファンドの投資信託で運用する。取り崩しが必要な前年、売却し、定期預金で保有する。残りは遺産になるが、バランス型(株式20)で運用する。死亡予定年より、2年早く、売却し、預金する方が、入院する場合もあるので、注意が必要である。高齢者の入院した場合、死亡まで4年は覚悟しないといけない。
高原氏は、69歳から85歳まで17年間、毎年、76万円取り崩しだから、現預金1292万円を引き出すことになる。1292万円は、SBI-EXE-i先進国債券ファンドで運用し、76万円は前年、その分売却し、預金する。遺産716万円は、15年間、日興-DCインデックスバランスは株式20を買い、2年前から、売却するタイミングを計り、SBI-EXE-i先進国債券ファンドの投資信託にスイッチする。
2020年7月~2021年3月の戦略結果
コロナ禍、SBI-EXE-i先進国債券ファンドは、ヘコみが少なかった。日興-DCインデックスバランスは株式20は、SBI-EXE-i先進国債券ファンドと差別できないから、株式40にした方がよいだろう。
2021年7月~2022年3月の戦略
高原氏85歳以降の資金716万円は、日興-DCインデックスバランス(株式40)にスイッチする。引出分1292万円は、SBI-EXE-i先進国債券ファンドで運用する。
5.5 次の半年の変動要因予想
・半年の変動予想方法
・本教室のまとめ
長期予測は、2021年、4月6日IMF世界経済見通し(World Economic Outlook)が公表された。2021年世界経済の見通しは、世界経済6.0%、米国5.1%、ユーロ圏4.4%、日本3.3%、中国8.6%、ASEAN6カ国4.4%であり、2022年は世界経済4.4%、米国3.5%、ユーロ圏3.8%、日本2.5%、中国5.6%、ASEAN6カ国6.1%である。
2021年5月31日OECDの見通しは、2021年の見通しは、世界経済5.8%、米国6.9%、ユーロ圏4.3%、日本2.6%、中国8.5%であり、2022年は世界経済4.4%、米国3.6%、ユーロ圏4.4%、日本2.5%、中国5.8%である。
2021年4月20日、アジア開発銀行の経済成長率予測では、2021年東南アジア4.4%、2022年東南アジア5.1%である。
日本政府は、2021年1月18日、令和3年度政府経済見通しにおいて、令和3年度はGDP実質成長率4.0%を見込んでいる。日本政府は、IMFおよびOECDより、過大評価している。
2021年6月8日発表、日1~3月期GDPは、年率換算-3.9%、5月27日米1~3月期GDPは、6.4%であった。IMFおよびOECD推計は、米国では、近似しているが、日本は、第一四半期で、乖離が大きい。今年後半開く、金融論教室では、日本政府推計とIMFおよびOECD推計とを比較して、予測精度を判定しする。
次の半年の変動要因を予想
若年世代および壮年世代は、所属する業界に対する景気,政策,海外の景気,各国の政策等の変動は、毎日の仕事に反映されているはずである。変動要因が変化すると、仕事量が変化する。それは、夏、冬のボーナスに成果として、反映されるので、まったく無関心な勤労者はいない。ゆえに、半年ごと、その間の成果と、次期の予想は、おぼろげながらでも、商品を変更、売却、新規購入の判断は、立てなくてはならない。
選択した商品に影響する、景気,政策,海外の景気,政策等の変動要因の重要度を考える。今年度は、日本経済新聞の日曜版「今週の市場」において、今週の予定を検討し、金融市場への影響を推論した。経済指標の発表の場合、マネックス証券の「投資情報・レポート一覧」から「経済指標カレンダー」をクリック、さらに、予想・結果をクリックすると時系列が表示される。予想より結果が下回ると失望売りで市場は反応する。
商品リスト 変動要因
海外
債券 日銀の政策会合 日銀短観 米国準備制度理事会 EU中央銀行
消費者物価 為替レート 消費者物価指数 失業率
株式 政府予算 政策の変更 政府予算
政策の変更
四半期 GDP 四半期 GDP
リート 長期金利 都市の地価発表 長期金利 都市の地価発表
バランス 株式 30 50 70 の構成要素に対して、上記の変動要因按分
インデックス 債券の構成要素、株式の構成要素に対して、上記の変動要因
ETF 債券の構成要素、株式の構成要素に対して、上記の変動要因
変動要因の発表は、各証券会社の HP に、スケジュールが公表されている。重大発表は、情報が必ず漏れ伝わってくるので、市場の商品は、発表前に、反応し、価格が上昇するか、下落してくる。変動許容範囲上下 20%以内ならば、再び、平均回帰する見込みが強い。20%を超えると、短期で回帰するのは、無理がある。
MFEXモデルによる簡易予想
マンデル・フレミング開放マクロ経済モデル(MFEXモデル)の枠組み
『金融論2018年テキスト 説明ノート』第13回2019年12月9日から、マンデル・フレミング・モデル(MFEXモデル)において、不完全雇用CASE Iのとき、ドーンブッシュ・フィッシャー『マクロ経済学上・下改訂第4版日本版』1989にしたがった線形化をしている。投資関数、流動性選好関数は、債券価格表示の方法もあるが、一次関数で線形化している。2021年版資本形成論テキストで、4市場均衡図を載せているが、為替市場の均衡線EEを資本流出が減少する場合の曲線は原点を通ることに気が付いた。したがって、比較静学による結論は、逆になった。完全雇用CASE Ⅱは、計算中である。金融政策を実施すれば、図10.12おいて、点線のQQ線のように、右へ移行すれば、為替レートは減価し、物価は上昇するから、金融政策は有効である。
各市場均衡式
貿易収支NXをNX=Ex-Im=mwYw-e Pw(mY ) /P、資本収支CFをCF=ΔB/i-e ΔBw/iwとおく。資本流入はΔB/i、資本流出はe ΔBw/iwである。国際収支BPはBP=NX+CF/Pとする。4市場の均衡式は次のようになる。
財市場 Y =C0 +c(Y-T0) +I0-bi +G0+mwYw-e Pw(mY ) /P
貨幣市場 M/P =kY-hi
労働市場 w0=P (1-α)Y/N (CASE I不完全雇用ケインズの場合)
自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔB/i=e Pw(mY ) +e ΔBw/iw
(1)i <iwの場合、資本流入はΔB/i=0、
(2) i >iwの場合、資本流出はe ΔBw/iw=0とする。
各関数の定義
消費関数 C =C0 +c(Y-T0)
投資関数 I =I0-bi
貿易・サービス収支関数 NX=mwYw-e Pw(mY ) /P
労働供給関数 NS=w0 (CASE Iケインズの場合)
労働需要関数 ND=P (1-α)Y/N (CASE
Iケインズの場合)
実質貨幣供給関数 MS =M/P
実質貨幣需要関数 LD =kY⁻-hi
投機的貨幣需要関数 L2 =-h i
自国通貨建為替供給関数 S¥ =P(mwYw)+ΔB/i
自国通貨建為替需要関数 D¥ =e Pw(mY )+e ΔBw/iw
w0:貨幣賃金率 P:物価水準、i:国内利子率、iw:世界利子率、e:為替レート、
Y:国民所得、Yw:世界国民所得
均衡の決定
財市場均衡式はY=C0 +c(Y-T0) +I0-bi +G0+mwYw-e Pw(mY ) /Pであり、IS曲線という。
貨幣市場均衡式はM/P=kY-hi であり、LM曲線という。
IS曲線に、LM曲線の利子率i=1/h(-M/P+kY )を代入すると、次の総需要曲線ADが求められる。
(1-c+e Pwm /P)Y= C0 -cT0+I0+G0+mwYw-b/h(-M/P+kY )
労働市場均衡式からP={w 0/ (1-α)K0}Yとなる。総供給曲線ASという。
ASから、Y =A P
、A=(1-α)K0/w 0 をADに代入すると3市場が均衡する価格と為替レートの組み合わせであるQQ線が導かれる。
(1-c+e Pwm/P) A P
= C0 -cT0+I0+G0+mwYw-b/h(-M/P+k A P )
(1-c) A P+e Pwm=U-b/h(-M/P+k A P )、ここで、U= C0 -cT0+I0+G0+mwYwとする。
e Pwm= U -(1-c+kb/h) A P+(b/h)M/P。これをQQ線という。 (1)
最後に、為替市場からi <iwの場合、P(mwYw)=ePw(mY )+eΔBw/iw
Y =A Pを代入すると、P(mwYw)=ePw(m A P)+eΔBw/iw
e=P(mwYw)/{ Pw(m A P)+ΔBw/iw }。これをEE線という。 (2)
QQ線を図示する。(1)より、
e ={ U -(1-c+kb/h) A P+(b/h)M/P }/Pwm
=-{(1-c+kb/h) A /Pwm }P+U/Pwm+(b/h)M/Pwm P
となり、直線e =U/Pwm-{(1-c+kb/h) A /Pwm }Pと双曲線e =(b/h)M/Pwm Pとの合成した図になる。
EE線を図示する。(2)より、
e=P(mwYw)/{ Pw(m A P)+ΔBw/iw }=mwYw/Pwm A-{(ΔBw/iw )・(mwYw/Pwm A)}/{ Pw(m A P)+ΔBw/iw }
と変形でき、双曲線になる。
EE線は、必ず、原点を通る。価格P=0は、経済学では、除外される。i <iwの場合、資本流出eΔBw/iwがつづくと、流出量が減少し、やがて、0になる。為替レートは、購買力平価説になり、e=mwYw/Pwm Aとなる。
4市場均衡は、QQ線とEE線の交点である。図では、点A(P1,e1)である。資本流出が生じると、EE線は、必ず、原点を通りつつ、左へ回転する。その結果、均衡点では、価格が減少、為替レートは、減価するという、結果になる。2020年版では、EE線が右に平行移動させたから、マンデル・フレミングの結果になった。平行移動しないから、誤りである。
反対の結果、1)国民所得は低下する、
2)利子率は世界利子率になる、
3)物価は減少する、
4)為替レートは減価する。資本流出が終了すると、為替レートはe=mwYw/Pwm Aとなる。物価は一定である。
CASE Iは、ケインズ不完全雇用モデルであり、労働市場が改善されない限り、金利差で資本流出が生じるとき、デフレにおちいる。
金融政策を実施すると、QQ線が右にシフトし、点B(P2,e2)で均衡する。
その結果、1)国民所得は増加する、
2)利子率は世界利子率になる、
3)物価は上昇する、
4)為替レートは減価する。資本流出が終了すると、為替レートはe=mwYw/Pwm Aとなる。物価は一定である。
マンデル・フレミング・モデルにおける金融政策の有効性は、支持される。財政政策の無効性は、図示は確認中である。
QQ-EE均衡図
2021年7月~2022年3月の見通し
コロナワクチン接種効果で、コロナ規制緩和が進み、高齢者から順次、消費者需要が復調し、経済正常化するから、総需要は増加する。経済正常化のために、日米の金融・財政政策は継続される。さらに、先端技術関連の中国サプライチェーン分断化のため、サプライチェーン自国・同盟国回帰に政府が投資支援する需要が増加する。気候変動対策の金融投融資も進展するだろう。エネルギー関連業界の気候変動対策も並行して、進むだろう。
日本 米国
財政政策
公共事業 補正 あり
新事業投融資 あり あり
企業売上等補てん あり ΔY あり ΔY
金融政策
資金繰り融資 あり LD =kY あり LD =kY
気候変動投資促進融資2030年まで
債券購入 あり あり
利下げ 現状維持 現状維持から利上げ
本教室のまとめ
資産形成論は、昨年度に引き続き、考え残した課題を整理した。15回の説明で、平均分散法を、ドルコスト平均法にもちいて、2つの制度利用の投資する戦略を考えた。商品は、投資信託から選ぶので、もともと、多数商品をなんらかの平均分散で、投資割合を決めているから、その上で、平均分散にしたがって、投資信託の割合を決めるのは、二重計算である。今年度は、投資信託の平均分散のデータを集計表に収集してみた。異なった性質をもつ投資信託の実績を比較することができる。
9月から、『金融論2021年』を開講する。マンデル・フレミング・為替モデルにおいて、線形モデルに加えて、連続モデルCASE I およびCASEⅡの均衡値を計算する。
開放マクロ貨幣経済モデルは、短期、中期、長期計量経済学推定を確定し、短期・中期・長期排出量推計モデルに応用する。
筆者は、科研費で、大阪府の短期排出量計算のために、大阪府マクロ計量モデルVer.H14R(2005.1.17)、産開研論集第17号平成17年3月の方程式体系で、データを更新し、推計した。当時、大阪府マクロ計量モデル方程式体系については、無批判であり、今回、その方程式体系を検討すると、マンデル・フレミング・為替・モデル(MFEX・モデル)と理論的な整合性が保てない方程式がある。特に、CASEⅡは、最適化モデルあるため、ケインズ不完全雇用CASE Iとは、方程式が異なる。また、大阪府マクロ計量モデルでは、均衡解が求められない。ただし、4半期のGDE=C+Iv+I+G+EX-IMは計算できる。
2020年秋、環境政策を転換した日本政府は、実質ゼロを国際公約した。2021年、米国は、バイデン大統領になって、パリ協定に復帰した。中国も実質ゼロを国際公約している。途上国も同様な実質ゼロの公約を求められるだろう。コロナ禍は、世界経済を下押ししているが、ワクチン接種と、後を追うの治療薬開発・設備の普及で、2022年春から、世界経済・社会活動が正常化すれば、各国は、実質ゼロの目標に経済・社会システムを適合させる、政策の流れに協調するようになる。そのために、国の開放マクロ貨幣経済モデルを推計して、短期・中期・長期排出量を推計できるようにする。府県モデルより国モデルの方が、時間的に、データを取りやすいこともある。
今回のMFEX線形モデルCASE IまたはCASEⅡを日本のSNA(国民経済計算)4半期データで推計し、公表された変数を代入し、均衡値を求め、各変数の推計式に代入すれば、4半期の国内総支出GDE=C+Iv+I+G+EX-IMを計算できる。連続モデルの推計法は、中期、長期推定を可能にするが、時系列分析になるから、計量経済学的には、方法に飛躍があり、ハードルは高いが、実用化のための研究は続ける。当面、今回の計算による短期モデルの理論分析と4半期モデルの計量経済学推定に整合性を確認したい。
今週(2021年7月19日~7月23日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、12日東京都緊急事態宣言が発令されました。14日米FRBパウエル議長、議会証言がありました。物価上昇率は、「一時的」に、今後数カ月上昇、その後穏やかに推移するに通しをもち、金利は上げないようです。14日OPECプラスは、UAEは基準生産量を引上げ、他は減産を22年3月末まで継続することに合意しました。NY原油先物市場は下落しました。14日ECBは、デジタルユーロの議論を始めることを発表、2年間調査し、2026年以降、発行する見通しです。
15日日銀政策委員会・金融政策決定会合が16日まで開かれました。金融機関に気候変動対応投融資を促進する新制度を設け、金利0%で、その融資に貸出し、2030年まで実施ます。
今週のイベントは、20日ジェフ・べゾフ氏がブルーオリジン・ロケットで、宇宙旅行をします。22日ECB理事会が開かれます。23日東京オリンピック開会式があります。
先週の統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
13日 米6月米消費者物価 4.9% 5.4%
中6月貿易統計
2,700億元 3,328億元
15日 中4~6月期中国国内生産
8.0% 7.9%
6月小売売上高(前年比) 10.8% 12.1%
鉱工業生産(前年比) 7.9% 8.3%
16日 米6月小売高 (前月比) -0.3% 0.6%
今週は、次の発表があります。
予測値 実績値
19日 日7月の月例経済報告
20日 日6月CPI 0.2%
6月全国コンビニ売上高
21日 日6月貿易統計 4,844億円
6月全国スーパー売上高
ホームへもどる