2004年度 「特色ある教育」報告書

茨木市における太陽光発電および太陽熱の推計」

追手門学院大学 経済学部 西村 和志

1 はじめに

 追手門学院大学の2004年度「特色ある教育」プロジェクトに、「茨木市における太陽光発電および太陽熱の推計」というテーマで応募しました。ここ数年、演習において、環境問題を卒論レポートの課題にする学生も多く、また、私が、レポートの書き方を指導するとき,環境問題を例の1つとして共同研究してきました。その活動の途中、大阪ガスの泉北製造所を見学したとき、今世紀中に化石燃料の内、最も使いやすい原油の埋蔵量が希少資源になるという予想に出会いました。そのうち、イラク戦争が始まり、先物の原油価格は石油危機の水準をはるかに突破しました。

環境問題の内、地球温暖化対策を市民の立場から何ができるのかを考えました。温暖化ガスを発生しないエネルギー源として、太陽光および太陽熱を活用する機器を住宅に設置する政策は、石油危機以来、機器の開発に政府が補助金を出して推進してきた政策です。このエネルギー対策において、太陽熱の方が先行して全国の家庭でかなり普及しましたが、90年代あたりから減少傾向にあります。原油価格が歴史的に低下したため家庭は太陽熱より電気ガスを直接使っていたのだと推測されます。太陽光の場合は、90年代半導体の使用が飛躍的に増加し、太陽光のセルを製造するコストが下がったため、家庭が住宅に設置するコストが下がりました。同時に、国の「ニューサンシャイン計画」により、太陽光・太陽熱機器に補助金が給付されることになり、90年代から徐々に設置件数が増加していきました。

 地球温暖化対策は、フロンガスのオゾン層破壊を防止する国際取り決めが成立して以来次の課題として議論され、1997年京都議定書として取りまとめられました。条約が発効すれば、炭酸ガス発生量に目標値が設定され、それを達成する義務が生じます。2000年代に入りやはり年平均気温は上昇しているし、気候変動が自然災害を多発させ、温暖化傾向は確かになってきました。

 以上は、西村ゼミの演習において、毎年誰かが卒論レポートで書いてきた認識です。地球温暖化問題は、いろいろの立場から考えることができる、究めて学際的および市民的課題であると思います。しかし、私たちは、この問題に対して、経済学の立場から、京都議定書の義務を達成する、さらに、やがてくる原油資源等の枯渇に対応する市民の経済防衛手段は何かと考えると、日本は、長い時間をかけて、政策の原点である太陽光および太陽熱を活用する機器を住宅に設置する政策を維持することが、国益にかなうエネルギー政策の一部であると認識するようになりました。

私は、茨木市において、西村ゼミ演習Iの学生と家計部門の太陽光発電量を推計することにしました。実際、家計部門の太陽光発電量は、可能量をはるかに下回ると予想します。主な理由は、住宅によって、特に太陽光機器については設置可能な方向に建築されていないことと屋根が南向きでなく面積も小さいと考えます。そこで、茨木市内において、設置可能な住宅を実地調査しました。そのデータをもとに、もし、補助金の給付される3KWを使用すれば、年間発電量はいくらになるか算出し、太陽熱の場合補助金の給付される機器を使用すれば、年間ガス等節約量はいくらになるか算出することを目的に、実地調査とメーカーおよび電力会社を訪問し推計方法について教えを請うことにしました。最後に住宅の戸数から推計方法を決めた後、推計発電量を計算することにしました。

2.実地調査の実施経過

 4月、プロジェクトの趣旨を演習Iの新3回生21名に説明し、まず、太陽光発電のしくみと製品を文献によって、理解することを5月まで宿題を出し、レポートを提出させました。その間、学生に茨木市役所に行ってもらい、茨木市の都市計画図を購入し、茨木市の調査地域の選定を考えました。調査地域は第1種低層住居専用地域にしました。また、ゼミ生間に班を結成させ、連絡網を携帯電話でつくりました。

6月に入り、実地調査のための調査紙やボードなどの準備をし、第1種低層住居専用地域が本学の隣にあるので、テストしてみました。結果は、既設の太陽光発電実施住宅は1戸あり、太陽熱機器のある住宅は3戸ありました。しかし、太陽光発電可能かの判定は、かなりバラツキがありました。そこで、可能性が低い住宅の屋根の写真を撮り、判定基準を合わせることにしました。後は、夏休み中に、残りの第1種低層住居専用地域を各戸判定して、調査紙の地図にマークすることにしました。以下、2004年中に実施した実地調査の概要です。

1回 茨木サニータウン 729日 10時〜1330

 夏休みに入り、集合場所には、学生が16名集まりました。茨木サニータウンは、茨木市の北に位置し、計画的に開発された住居専用地域です。丘の上で涼しいと思いましたが、とにかく暑かった。実施要領にしたがって、写真をみて判断基準を決めていましたし、人数も多かったので、全地域調査できました。

2回 北春日町 91日 10時〜1330

 9月に入り、集合場所には、学生が11名集まりました。北春日町は、南北に谷がありその北斜面に細長く住宅が形成されていました。この日も残暑厳しく、坂道を行ったり来たりで体力を消耗しました。若干マークできない住宅が残りましたが、ほぼ調査できました。

3回 南春日町 920日 10時〜1330

 休日でしたが、集合場所には、学生が10名集まりました。北春日町の反対側の斜面が南春日町です。このころになると学生もなれてきて、谷の入り口の方が平地であり、その担当地域の調査終了が早く終わりました。

 10月は、太陽光発電の推計方法について研究することに取りかかり、京セラ株式会社のホームページから発電電力量の解説を皆で勉強しました。残りの地域は、学祭をはさんで学生の時間が取れませんでした。

4回 玉瀬町 1118日 12時〜17

 この日は、これまで調査をしたことがない学生で行うことにしました。5名が集合し、あいにくの雨で調査紙が濡れるのでカバーを調達し、傘をさして調査をしました。

あと、戸数の少ない地域が残っていますが、冬休みや秋学期の試験に入るので、2月の春休みに全ゼミ生で調査します。

この実地調査をしてみて、学生は気の合う学生を班にしたのが効率的で良かったと思います。また、各班との連絡は、携帯電話を全員がもって、私の指示を各班のリーダーに伝えるとメンバーに伝わり集合場所に時間的ロスなく集まれました。調査用の地図はゼンリン電子住宅地図『デジタウン大阪府茨木市』を使用しましたが、調査を効率的に行うことができました。

5回 稲葉町、大池2丁目、並木町 20053513時〜1530

まだ調査を体験したことのない学生を含め、4名が集合し、稲葉町、大池2丁目、並木町を調査しました。茨木市の南部で、調査地域の規模は大きくなく、平坦な市街地で時間的にははかどりましたが、幅の広い道路に面する住宅は商店等あり、1種低層住居専用地域の規制がはずされていました。 

3. 製品説明会および売電量の経過説明会

メーカーと関西電力株式会社を訪問し、製品の推計方法と売電契約戸数および売電量などを教えていただく準備を各班の1名に順番に担当させ、交渉を行いました。

まず、太陽光については上位2社にお願いしましたが、良い返事は得られませんでした。そこで、太陽熱の推計に切り替えて、太陽熱の日本電気硝子株式会社にプロジェクトの趣旨を説明し、製品の説明と推計方法について教えていただくことをお願いいたしました。

1回 9月13日 日本電気硝子株式会社建材事業部ソーラー室の担当主任さんが本学に来校され本学LL教室にて、太陽熱利用の温暖化対策としの効果を説明され、次に真空式ソーラー温水器の説明と集熱量の計算方法を教えていただきました。そのあと、ゼミ生16名が1問1答で、主任さんに答えていただきました。真空式ソーラー温水器の原理も始めて理解でき、推計に必要なデータの見当がつきました。

 太陽光の方もやはりメーカーの説明を聞かないと文献だけでは理論だけになると思い、京セラ株式会社に次の班に対応させましたら、本社で製品の説明と推計方法を教えていただけることになりました。今回から感想を学生から書いてもらいました。

 2回 10月28日 私とゼミ生5名が京セラ株式会社本社を訪問し、ソーラーエネルギー統括事業部マーケティング部企画課の責任者さんに、2時間にわたって経済学部のために作成された 資料で講義していただきました。そのあと、ゼミ生の1問1答に、責任者さんに答えていただきました。これで、屋根の向きおよび角度の問題と発電量の計算式も理解できました。また、この市場は離陸期を迎えているとのお話で、プロジェクトの意義はあると思いました。講義が終わり、京セラ製品の展示館を見学させていただき、太陽電池モジュールは半導体と原料が同じで半導体の製品製造が多い企業ほど太陽電池モジュールの生産量が多いのだろうと思いました。

 講義を聞いた学生の感想

太陽光発電について今まであまりわからなかったことが今回の京セラさんの用意して下さった資料と説明で結構理解できたと思います。文系なのであまり計算などはわかりませんがかなり参考になりました。こちらの質問にも丁寧に回答していただいて、他社の製品との比較も聞けたので大変感動しました。

 京セラ訪問で製品については、学生は現物も見て現実感がでてきましたが、残る課題は、茨木市内で、関西電力株式会社と太陽電池を設置して売電契約をしている家庭がどのくらいあるかであり、また、関西電力がどのくらい年間買い取っているかです。学生の質問も太陽光発電の経済性が多いので、その次の班に交渉を担当させました。12月で多忙な中、関西電力株式会社高槻営業所を訪問することができました。

 3回 12月16日 私とゼミ生7名が関西電力株式会社高槻営業所を訪問し、お客さまセンター リビング営業の主任さんに1時間、太陽光発電の契約と買取額の資料をもとに説明をしていただきました。毎年、契約数および買い取り量は増加していました。電力業界の競争についても教えていただきようやく私たちのプロジェクトも経済的評価に到達しました。

 説明を聞いた学生の感想

 今、勉強している太陽光発電についての契約件数の推移や電力の購入金額が分かり大変参考になりました。そして、貴社の取組状況、将来のことなどが分かってよかったです。

 実にためになりました。今の電力がどんなものかなんとなく分かりました。しかし途中の京都議定書の話とかはほとんどわからなかったのでもっと勉強すべきだと思いました。

  今まで聞いたことをふまえてレポートを頑張りたいと思います。 電力の買取量が年々増えていることに驚きました。また、ウラン再処理の話は前日に報道ステーションの特集を見ていたので、とても興味が増しました。そして、今回の話はとてもためになり再考したいと思います。             

 電力会社は、他の会社が考えないような環境問題に取り組んでいるし、電気料金が原価主義など難問に突き当たっていると思った。ただ環境を守る自尊心がでてきそうで憧れた。                               

 電力の買取など詳しく知ることができ、これからの参考にさせていただきます。電気は私たちにとってなくてはならないものになっているので、電気を無駄使いしないように気をつけたいと思います。                           

 最後に、120日に、太陽電池を搭載した住宅を販売するセキスイハイム大阪 本社訪問を訪問し、これでこのプロジェクトに関する基礎的な研究は終わりました。

 第4回 1月20日 私とゼミ生3名は、セキスイハイム大阪株式会社を訪問し、営業企画部係長さんから、太陽光電池を施行した住宅の工事費と普及率が上がると工事費は下がるかなどをお聞きしました。係長さんからは、セキスイハイムの実績は増加していて、1KW当りの工事費は下がっていること、設置後、顧客の売電効果によって節電するようになるというアンケート結果も教えていただきました。私は、電気を室内でどう利用するかは、建物の構造・材質に大きく依存する一方、空気循環も設計に考慮する必要があると思うようになりました。私たちは、補助金にしばられて3KWにこだわってきましたが、屋根を最大限利用する方向で工事すれば、工事費もそれほど増加しないし、パネル単価も大量生産で下がるだろうし、売電量が増加して、機器の減価償却がさらに早まるのではないかと思うようになりました。

 説明を聞いた学生の感想

 普及率や工事費など、込み入った内容もお話いただき、大変参考になりました。

 太陽光発電で光熱費がゼロになるだけでなく電気を売ることで収入が入ってくるので経済的な効果が大きいと感じました。そして、太陽パネルのコストも50万円に下げたことを聞いたとき授業というのも忘れて話に聞き入っていました。なぜなら、企業が成長を遂げるには努力の裏にリスクを背負っていると感じた瞬間だったからです。授業に関係なく自分自身がタメになる説明会だったなと感じています。

 セキスイハイム様が太陽光発電について住宅に普及させることに積極的に取り組んでいらっしゃることがよくわかり、とても勉強になりました。地球環境のことを考え、これからも太陽光発電がもっと普及できるように私たちも勉強をがんばります。

4. 調査結果と航空写真との比較

 調査地域に対しては、2003年の撮影の航空写真を購入しました。半数の学生に2005年の2月、学内会社説明会の期間にゼミ生に集合してもらい、調査結果と航空写真と比較してもらいました。目視では見逃すのは、傾斜のある地域と道路が狭く込み合っている地域です。貸しアパートも混在し、空き家もありました。私たちの評価基準では、正確ではないことがわかりました。一部地域では調査漏れがあり、航空写真のデータを調査結果に入れました。

5. おわりに

ほぼ1年間を振り返ると、ゼミ生20名とこのプロジェクトを通じて、工学的な分野に挑戦して経済学的な評価に到達できるところまで近づいたと思います。また、メーカーおよび関西電力の方々の親切な対応に、ゼミ生ともども感激しました。ゼミとしては、演習本来の指導はありますが、課外活動で以上のような体験を通じコミニュケイションが良くなり、お互いの時間のできる範囲で協力することができるようになりました。

注)本項は、2005114日に大学へ提出した報告書に、報告できなかった年度内の活動を加えて、個人情報をはずしました。


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