「茨木市の再生可能エネルギー推計」
西 村 和 志(経済学部経済学科)
以下は、西村和志「茨木市の再生可能エネルギー推計」『特色ある教育 2007年度 大学報告書』追手門学院大学 2008年3月31日,p.2−7 に発表した原稿に、見学2件を追加した。
1 はじめに
目的 茨木市における再生可能エネルギーを推計する。
2007年度の実施計画
・ 太陽光・太陽熱利用の推計のため実地調査をする。
・ バイオマス・水力・風力のエネルギー推計のための実地調査と導入している自治体等を見学す。・ 森林組合の活動と議定書に算入できる森林は、実際、どう手入れしなければならないか、見学す
る。
・ 再生可能エネルギー推計について研究報告書を作成する。
・ 太陽光・太陽熱利用の工作物を各班で制作、創意工夫で発展させる。
教育的意義
・ テーマについて実地調査、企業・自治体訪問、文献研究活動を通じて、研究報告書にまとめ公表 することで学生に研究活動の方法を学ばせる。
・ 教員と頻繁に各班と連絡を取るので、教員と学生のコミュニケーション、班内の結束と班間の協 力が強まる。
2 調査報告書
第2集の発行
調査報告書第2集は2007年7月に発行した。私が執筆した原稿もあり、各原稿が引用した文献等のチェックをすると予定より時間がかかった。参加したゼミ生および関係者に送付することができた。2007年度の演習Tおよび演習Uの学生に、配布した。
第3集作成
調査報告書第3集は、昨年度の各班の見学で不十分な点があったので、各班は秋学期ふたたび、見学し、写真や資料を集めた。そのため、本報告の段階で見学が済んでいない班もある。第3集は、写真等を貼り付けるので、より明確になる。2008年5月には発行できるようにしたい。
3 実地調査の実施経過
2007年12月、演習Iの学生が作った各班に、調査用紙を渡し、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域および準住居地域の5地域に分かれ、例年通り調査した。この結果は、調査報告書第3集に載せる。演習Uの学生に、商業地域の電力・ガス・その他の使用状況調査を依頼したが、まとめられなかった。次の課題である。
4.再生可能エネルギーの調査
1) サッポロビール株式会社大阪工場 2007年6月19日(火)13時より14時30分
ゼミの時間を見学に当てた。午前中、授業がある学生が多いので、集まりを心配したが時間どおり正門前に17名到着した。あいにくの小雨で、目的の施設は、工場の外側にあるので、担当の職員の方とともに、傘を差しつつ、処理工程を説明していただき、最後に、メタンガスのボイラーのある施設を見学した。2008年3月で工場は閉鎖されるそうで残念な気がした。そのあと、サッポロビールの製品紹介と環境対策について、パワーポイントで説明していただいた。大阪には、食品業界が多いが、廃棄物処理を工場内で、固形物、メタンガス、排水を一貫して行い、廃棄物処理費を、堆肥販売、メタンガス利用で軽減している事例は多く報告されていない。特に、中小企業では、下水道のない一般家庭ように、簡易浄化槽で1次処理をし、処理業者に処理費を支払っているのだろうか。サッポロビールでは、最終処理した排水は下水に流している。
学生の感想
今回バイオマス利用の施設を実際にみて、とてもよい経験になりましたし、社員さんが丁寧に説明してくださったのでとてもわかりやすかったです。食品の廃液から微生物を利用し、水素ガスやメタンガスを発生させて燃料電池及びボイラーの燃料として利用しているということで、すばらしい取り組みをされているなと思いました。他にも地球温暖化防止に対するCO2排出量削減のために業界他社に先駆け(コージェネレエーション、高効率ボイラー、嫌気性廃水処理設備などを積極的に導入してこられたということで、サッポロビールさんの環境意識の高さがうかがえて、素晴しい企業だと思いました。他にも容器リサイクルの推進や自動車向けバイオエタノールの共同開発を行われるということで、ますますそれらの環境に対する取り組みを続けてほしいと思いました。
(山本 康隆)
2) 京都市京北町周山森林組合 2007年9月4日(火)10時より12時
9月4日9時京北森林組合を目指したが、事務で教えられた場所が間違っていて、10時森林組合に到着した。組合の方に会って、学生7名に1時間、林業の活動と現状・課題を話していただいた。京北町はかつて、椎茸栽培のほた木や薪炭の燃料を作っていたが、高度成長期、石油にエネルギー転換が生じ、植林に切り替えたそうだ。人は出て行き、零細林業家ではなかなか下草刈り、間伐も思うようにいかないらしい。京都議定書では手入れをしなければ、CO2削減に算入できない。京都市は京北町を平成の合併で市に編入したが、ねらいは、森林の算入にあるということだ。しかし、組合の方は「森林は手入れしないといけない」ということをしきりに強調されていた。隣の滋賀県の森林公社は1000億円以上の債務がある。切り出しから製材販売まで流通経路が伝統的であるし、状況は同じだろう。西日本の森林は、将来、温暖化で広葉樹化するし、杉、檜は全山植林してもうまく育たない。杉、檜の根が深く入って、山を早く破壊してしまう。むしろ、山稜から100bは広葉樹にした方が、腐葉の肥料効果が出て、木もよく育つし、手入れもしやすく出荷しやすい、田にも梅雨期の雨水に肥料効果が出るという話をしたら、組合の方も同様なことを考えておられるということだった。最後に、私は、ボランティア活動か中国・東南アジアの臨時林業労働者を村ごと提携し、定期的に手入れするのはどうかといった。その後、最近、森林研究の団体が間伐の効果比較林をつくったということで、車で現場に行き、実地に説明していただいた。午後、南丹市美山町のかやぶきの里に行くバスを待っていると、私と同じぐらいの人がセンターのそばの病院帰りで、なんとなく話していると、かつて森林の作業をしていて、森林のことは何でも分かるとのことだった。木の伐採・搬出はかなり経験がいるそうだ。この人も植林後、町へ出て退職後帰られたのだろうか。かやぶきの里の帰り、2時間以上バスの便がなかったので、別のバスがある国道まで歩いた。すると、途中の峠の休憩所前に、美山町の間伐展示林があった。夕暮れだったが、日が入り、地面はこけむして、すがすがしかった。次の日学生に美山町に行ってみたらと勧めた。
3) 油藤商事・あいとうエコプラザ菜の花館 2007年11月15日(木)13時より17時
12時JR近江八幡の改札口に学生4名と教員が集合した。レンタカーを借りた。かなりあちこち探したが、豊郷町の油藤商事を見つけることができた。店の人に天ぷら油をディーゼル油にして販売していることを説明してもらった。予約すれば、話を伺えるということであった。環境関係の団体がよく見学にこられるそうだ。次に、あいとうエコプラザ菜の花館にいった。前回では準備が不十分であり、到着まで2時間かかったが、今回は車なので十分時間があった。他の団体が10人以上施設の説明を受けておられ、その後、われわれと一緒に、事務所の方が、天ぷら油から製造されたディーゼル油を視察バスに給油しているのを見学した。精製装置はそれほど複雑なものではない。油藤商事の場合も倉庫の一部で精製されていた。学生は事務所で資料をもらい、展示されている資料も学生が記録した。関連図書コーナーがあり、学生に報告書を作成するとき、参考にできる本を書かせた。大学で、これらの本はすぐ手に入って学生に勉強させることができた。
4) 滋賀県大津市志賀町木戸 2007年11月17日(土)13時より15時
11月17日13時、JR大津駅で学生2名と集合した。レンタカーを借り、志賀町のびわこバレーリフト乗り場跡に行った。びわこ成蹊スポーツ大学と志賀の自然を活かす会が建てられた小屋には、発電のデータが解説してあった。小屋の中には、扇風機があった。リクリエーションの電源に使うという話であったが、リフト乗り場の照明に使われたのだろうか。小屋の中に、水車がありパイプで接続され、自動車用の発電機で発電できるように完成していた。黒い塩ビパイプが小屋からくねってさらに上流にむかっていた。予想以上に、高いところから受水していた。
5) 豊中市水道局寺内配水池 2007年12月12日(水)13時30分より14時30分
地図で探しても、寺内配水池がどこにあるかわからなかったが、高台にあった。13時30分、学生が3名来ていて、また、水道局の2人の職員の方がちょうど来られて、配水池の戸を開けられるところだった。他の自治体からも導入可能か見学に来られるそうだ。配電盤に発電中の電力が表示されていた。貯水池の電力をまかない、残りの電気は、設備の償却に当てられるとのことであった。システムの管理は関西電力の子会社がしているそうである。ここの配水池の位置と水量が安定しているので、発電も効率的に安定発電できるそうだ。この電力は再生可能エネルギーに算入されるので、議定書の目標に対して関西電力にもメリットがある。そのあと、実際の配水管を利用した小水力発電の見学とそれに関する話をうかがった。学生も質問した。
6) 真庭市2007年12月19日(水)11時より16時30分
12月19日新大阪にて学生2名と合流、岡山・津山経由で中国勝山に10時57分についた。真庭観光協会のお世話で、「勝山木材ふれあい会館」にて、市役所職員から、バイオマスタウン構想の取り組みを1時間、説明を受けた。はじめは、過疎化していくので、伝統産業である、檜を中心とした林業の資源を利用して、エコ製品を作り出し、それで、過疎化を止め、観光にも力を入れ、地域を活性化しようと民間が立ち上がったそうだ。昼食後、町並み保存地域をとおって市役所に13時20分についた。そのあと、銘建工業(株)本社工場のペレット製造、ペレットボイラーと発電、温水プール「水夢」のペレットボイラー、ランデス(株)の木材チップスの建材利用、三井造船(株)「エタノール製造設備」の順で見学し、16時20分JR中国勝山駅についた。岡山県の電気事業の団体さんといっしょにまわった。この町を訪ねてくる人が多く、それぞれの会社が対応するのは大変なので、観光協会でツアーを用意したそうである。まず、銘建工業は職員の方がペレット製造、ペレットボイラーと発電を説明しつつ見せてくださった。ランニング・コストを上回り利益が出ているということである。スウェーデンやオーストリアの材木を合成材にするのが本業で、その際でる木くずを利用している。地元の間伐材などではないのが変なところである。市役所の方は未利用の間伐材資源を利用したいということだった。林業家の規模は大きくないといわれた。森林組合の方向性が一致して、計画集荷・製品化・木くず利用の経営計画が出来にくいのかもしれない。
観光協会の人がランデス(株)の製品展示室と展示園を説明してくださった。これも間伐材をチップ化してコンクリートで固めブロックをつくるそうだ。ブロックで護岸ののり面にはり、動植物が生存できる環境を作るそうである。歩行者用道路のブロックもあった。最後に、三井造船(株)の実験設備のある工業団地にいった。職員は3ヶ月に一回来て、普段は締めてあるそうだ。主に2段階あり、木材チップを糖化するのが第1段階で、第2段階はそれを発酵させてエタノールを製造するそうだ。職員は3ヶ月に一回なのは、第1段階にかなり時間がかかっているのかと思った。第2段階は、たいした技術でもないだろう。昨年来、アメリカやブラジルでトウモロコシやサトウキビをエタノールにすぐ製造しているのは酒造メーカーならローテクなのだろう。大阪の廃木材をエタノールにする工場は見学できなかったので来たのであるが、その規模と企業秘密が何なのかも同行2人に研究させよう。この見学会でもう一つの団体は始終質問されていた。私もよくするが、それはふつうのことなのだと思った。私も、学生ももっと研究していかないといけない。
7) 高槻市森林資源加工センター 2008年1月22日(火)14時30分より15時30分
演習Uの学生3名と演習Tの学生3名が高槻市大字中畑の森林資源加工センターに14時10分に到着した。14時25分、職員の方に来意を告げると、そのあと、大阪府森林組合の沿革と植林、間伐材の利用の取り組みから、ペレット製造に至った経緯を説明してもらった。そのあとペレット製造工程を説明してもらった。最後に、我々の質問に答えてもらった。茨木市の森も管轄内であり、高槻市と違って植林をせず、昔のままであるということも教えていただいた。ボランティで下草刈りをする場合のやり方は教えていただけるそうであった。これを演習でやれるものか相談しなければならない。15時30分、視察は終った。
8)兵庫パルプ工業株式会社 2008年1月28日(月) 13時より15時
13時JR久下村から歩いて3分の兵庫パルプ工業株式会社に学生2名と到着した。総務部の方にこちらの活動と見学の趣旨を説明して、そのあと、会社設立とその後の発展を説明していただいた。内陸部に工場があるため、設立当時は、廃水処理などで、下流の農業関係者と紛争があったそうだ。そういう公害問題を真摯に解決しつつ、クラフトパルプを生産してこられた。パルプの原料として、廃材も処理されるそうである。とくに、阪神大震災のとき、廃材がでたが、ここで、パルプ原料として使用し震災復旧に貢献された注1)。パルプにできない廃材チップを燃焼注2)して発電に使うというのが、今回見学したい施設である。残念なことに、設備の点検中で、見学できなかった。しかし、平成16年完成のバイオマス発電設備の仕組みと売電について、質問を交えながら、説明していただいた。そばに加古川線が走っているので、原料は貨物で運んで来て、製品は貨車で発送するのが将来、省エネ的であるし、間伐材の資源は枯渇しないので、エコ・サイクルを実現できる会社だと感銘を受けた。
注1)調査報告書第3集発行後、2009年4月兵庫パルプ工業株式会社様から、私の聞き取り間違いを連絡いただきました。「焼却されたそうである」を「パルプ原料として使用し、震災復旧に貢献された」に訂正いたしました。
注2)「焼却」を「燃焼」と訂正しました。
9)京都市廃食用油燃料化施設 2008年2月12日(火)14時より15時30分
14時、学生3名と施設内の3階において、職員の方に、まず、こちらの目的を説明した。その後、ビデオを見せていただき、1997年の京都議定書以前の京都市の環境対策と以後の取り組みからこの施設ができたことを知ることができた。その後、15時まで、職員の方が施設の概要とバイオ・ディーゼル油の精製工程について、技術的なことを含め説明していただいた。こちらも、疑問点を質問し、工程から出るグリセリンなども、ゴミ焼却施設で焼却処分されるそうだ。テレビでてんぷら油の自治会回収拠点が1000箇所を超え、回収量が増加しているそうだ。廃食用油を他の部門から回収するのは、他の回収業者と競合するそうである。バイオ・ディーゼル油は、市内を走るゴミ収集車と周辺を走る市バスに使用されている。あいとうエコプラザ菜の花館まで、走っている民間のバスより、乗り心地はよい。施設を通るゴミ収集車はてんぷら油のにおいがする。
15時から外に出て、30分間、ドラム缶にもちこまれたてんぷら油がバイオ・ディーゼル油に施設でどのように出来るか順に教えていただいた。精油装置は、コンパクトで、配管がかなり複雑であった。ランニングコストは市職員の人件費が高いのと操業時間が市役所の勤務時間に設定されているので、民営化すれば下がるのは想像がつく。今回は、演習Tの学生だけだったが、この分野の取組みがよく理解できた。
5.工作の作成
今年度は、オルゴールをつくって、3年生と4年生に聞かせた。基板に回路をつくってモデル例を少し改良した。しかし、スピーカーから聞こえるボリュームが小さかった。次はソーラーカーの模型を各班ではしらせ、レースをすることだ。これも準備は終わったので春学期やってみる。最後に、昨年度の卒業生が作った太陽熱調理器である。改良型で競わせて、いろいろ、提案実行させることをやってみる。
6.おわりに
今年度は、森林資源・水と廃食用油のエネルギーを利用し、炭酸ガス削減に貢献することを学習した。あと2箇所見学することになっているが、第4集で報告するだろう。今年度をもって、大学からの支援をいただいて、演習の学生と課題に取り組んできた。特色ある教育の理念にあうような活動が出来たことを感謝したい。これまでの成果を元に、今後もゼミでもっと統合モデルを考えていくように、発展させていきたい。さて、茨木市でも実行可能なことはたくさんある。また、市民の支援があればそれらの事業も円滑に進み、議定書の今後の目標に寄与するだろう。学生に書いてもらう調査報告書第3集は、2008年5月には発行の目途をつけたい。
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